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0159・国境の町ピータ




 国境の砦まで歩いてきた。こちらはトロッティア王国の砦であり、向こうには別の国の砦が見えている。お互いに監視できる距離に建てるのは見張れるようにだ。逆に言うと隠れて物事がやり難いという事でもある。


 本当に隠れて物事を進める事は可能なので、そこまでではないものの、それでも通例として見える場所にお互いの砦を建てる決まりがある。そんなトロッティア王国側の砦に近付くが、臨戦態勢で近付く。場合によっては押し通る為だ。


 兵士が居るので冒険者の登録証を見せると、あっさりと通過出来た。拍子抜けしたものの、どうやら連絡が来てないかミク達は通せと指示が出ているのだろう。でなければレアスキル持ちを逃がす理由は無い。


 残りのレアスキル保持者は、あの蛇女族ラミアーと黒狼族の男だ。とはいえ、両者共にそこまでのレアスキルではない。ミクが警戒しなければいけない程の相手でもないので、適当に放っていればいいだろう。


 後の連中も敵になるなら容赦無く喰らうだけである。そんな思いを抱きながらもトロッティア王国側の砦を越えて、向こう側の砦へと歩いて行く。その途中で道の左右にある森の中に複数人が潜んでいるのが分かった。


 これは都合が良いなと思い、高校生四人に【念話】を行い右側を担当させる。相手は殺しに来るから確実に殺せと、でなければ恋人が死ぬぞと脅しておく。四人は慌てるものも、バレるから騒ぐなと言って一喝する。


 そして一定の地点を越えると、いきなり強襲してきた。四人は慌てて右側に対し隊列を整え迎え撃つものの、相手は八人だ。単純にして倍の戦力となる。それに正規の軍人っぽいので、質も向こうの方が上だ。それでも作戦は既に伝えてある。


 一番前にエイジが出てカイトシールドを構える。それだけで相手は簡単に攻められない。盾を突破するのは簡単ではないからだ。たとえ持っているのが素人であっても、盾というのは厄介な代物なのである。彼らは軍人であるが故に、それを知らない筈が無いのだ。


 そして横からは剣を持ったミキが牽制するように構えている。盾で防がれたら横から切りかかってくるのが丸分かりだ。これは当然ワザとそうしており、意図的に見せる布陣に変えてある。そして時間が稼げたので【集中力】を十分に使えたシロウが魔法を放つ。



 「【閃光フラッシュ】!!」



 魔法名を言うのは味方の目を潰さない為だ。シロウの持つ【集中力】は魔力や闘気を集中させやすくなるというスキルでしかない。しかしその御蔭で結構な魔力を集中でき、完全に目を潰せるだけの光量を出せた。御蔭で七人は目が潰れたようだ。


 一番後ろにいたリーダー格の目は潰れてないが、即座にミキとエイジがそいつに走って行く。シロウは目が潰れている奴を殺すお仕事で、サエは目が潰れていない奴に矢を射っている。綺麗にミクの言った作戦が嵌まった形だ。


 リーダー格の男は剣の腕前も優秀だったが、攻めて来たところをエイジが防ぎ、その横から首に対して突き出された剣が見事に刺さる。後は放っておいて終了だ。無理に止めを刺す必要は無い。最後の抵抗とばかりに攻撃される事もある。


 ちなみに、もう片方は眼を覆いたくなる程に酷い惨状だ。巨人の剣に押し潰された死体があり、恐怖に引き攣った表情のまま死んでいる死体があり、黒コゲで煙を噴いている死体が地面に倒れている。


 恐怖に引き攣っている死体は、ローネの【闇神術】で恐怖に狂った結果だ。神術はどれも凄まじい効果を持つが、偶には使わないと忘れるとして使った結果がコレである。ローネもミクの事は言えない。そう、ネルは思うのだった。



 「そっちも倒せたようだね。この程度はやってくれないと困るし、人間種程度は殺せないと今後が大変だからさ。恨んでくれていいけど、背負わないようにしなよ。死体は死体。それ以上も、それ以下も無い」


 「ああ。それにこいつらは私達を襲ってきた。他人を殺そうとした以上は、当然自分も殺される。最初に襲ってきたのがこいつらである時点で言い訳などできん。死んで当たり前の連中が死んだだけだ」


 「えーっと、はい。思っている以上には冷静です。多分。本当に冷静なのかはちょっと分からないですね。何と言うか……すみません。やっぱり頭がまとまらないです」


 「無理にまとめなくていい。そもそもこういうのは二~三日後に来るもの。その時になって冷静でいられるかどうかだけど、多分大丈夫。そこまで弱そうには見えないし」



 そんな話をしながら、身包みを剥いで死体だけにして歩いて行く。そもそも襲ってきた奴等は盗賊として処理される。盗賊である以上は、身包みを剥いでも誰からも咎められない。所詮は盗賊でしかない為だ。


 たとえ身のこなしから軍人だと分かっていても、正規の手段ではない時点で盗賊でしかない。兵士として死ねた訳でもないので、弔慰金が出たりもおそらくしないだろう。恨むなら国を恨むべきであり、ミク達を恨むのは筋違いである。


 もう一つの国の砦に着いたので、冒険者の登録証を見せて通る。「盗賊に襲われて難儀だったな」と言われたので、曖昧な返事をした四人。ミク達が初めて人を殺したと説明したら、砦の兵士も納得していた。


 そのまま砦を越えて歩きつつ、町で買ってきたサンドイッチを食べる。高校生四人もゆっくりとだが食事をしているので大丈夫だろう。そもそも彼らは四人とも【精神耐性】を持っている。なのでミク達はそこまで気にしていない。


 すぐに立ち直る事は分かりきっているからだ。【精神耐性】というスキルは地味だが、実は当たりの部類に入る。というより【○○耐性】というスキルは基本的に当たりなのだ。その中でも【精神耐性】は大きい。


 何かの感情に溺れる事を防いでくれるし、精神系の異常も防いだり治りやすくなったりと、恩恵が非常に幅広いのだ。実際、ミキのドス黒いものの方向がマシになったのも【精神耐性】の影響があると思われる。


 エイジがそれなりに明るく喋れているのも、スキルの影響が大きい。シロウとサエはともかく、エイジとミキは召喚されなければ絶対に交わらない二人とも言える。そういう意味では、二人は既にオリジナルとは違う道を進んでいるだろう。


 そんな話をしながら歩いていると、ようやく国境の町に着いた。やれやれと思いつつ門番に登録証を出して聞くと、この国はゼノイセン王国と言い、ダンジョンが二つある事で有名なんだそうだ。


 ここは国境の町ピータという事も教えてもらい、中に入るとすぐに宿へと向かう。残念ながら一人部屋が2つと二人部屋が1つしか空いていなかったので、一人部屋をミク達とエイジ達。二人部屋をシロウ達で分けた。



 「良いんですか? オレ達も別に一人部屋で問題ありませんよ?」


 「私達は皮だったり毛布だったりを持っている。エイジ達はそもそも一つのベッドで問題無いし、ダメなら床で寝ると思う。だから二人が使えばいい」


 「そうだな。そもそも床どころか、外で寝る事も慣れているので問題は全くない。お前達に地面の振動で敵を感知して目を覚ませと言っても、まだ無理だろうしな」


 「「「「………」」」」



 四人は呆れた顔でローネを見ている。まるで精鋭とか歴戦の兵だと思っているのだろうが、千年を超えて生きているので実際にはそれ以上だ。わざわざローネも人前では言ったりしないものの、心の中では四人に呆れていたりする。


 お互いに呆れるという面白い構図のまま、一行は食堂に移動していくのだった。


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