0156・ヨフレ町に到着
一行は国境に最も近いヨフレ町に着いた。中に入り、まずは冒険者ギルドに行く。オークを売ったものの全部で銀貨14枚にしかならず、一人2枚ずつに分けた。
その後、宿に行き部屋を確保する。三人部屋と二人部屋が二つ。無事に確保できたので武具をどうするか悩むも、影二と美輝の事を考えるとミクから渡すしかないと結論が出た。
「本当は早い段階から良い物を渡すのは良くないんだけどね。美輝は【覇気】が暴走すると剣が壊れるだろうし、影二の場合は相手によって簡単に盾が壊れる。よって、私から武器と盾を渡すけど、性能に胡坐を掻かないようにね」
「「はい」」
「今は部屋に居るんだし、今の内に鑑定しておいた方が良いんじゃないか? 四郎と紗枝が持っているのも鑑定して、どの程度の物を持っているか理解させた方が良いだろう」
ローネの言う事にも一理あると思ったミクは<鑑定板>を出して鑑定させる。まずは四郎の槍と、紗枝の弓だ。その結果は予想通りでしかなかった。
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<木の弓>
何の変哲もない木の弓。普通の品質であり、可も無く不可も無い。非常につまらない品。
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<青銅の槍>
何の変哲も無い、青銅の穂先の槍。普通の品質であり、可も無く不可も無い。非常につまらない品
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「「「「………」」」」
「影二が鑑定しているからかな? こんな文言なのは。それとも前の星じゃないから? 前の星だともっと硬い言い回しだったのに、何故かこの星で鑑定すると文言が緩いよね」
「まあ、とりあえず次の鑑定をしてみろ。それで大凡分かる筈だ。どういう結果になるかはな」
ローネの言う通りに、ミクが出した直剣とカイトシールドを鑑定していく影二。その文言は色々と悩む結果を孕んでいた。
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<竜鉄の直剣>
とある存在が作りだした竜鉄を創半神族が鍛えた品。非常に高品質な竜鉄が惜しげもなく使われており、高い切れ味と耐久力を両立している。意図的に装飾をしておらず、見る者が見ないと価値が分からないようになっている。珠玉の一品。
尚、この星で竜鉄を作りだした存在は居ない。
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<竜鉄のカイトシールド>
とある存在が作り出した竜鉄を創半神族が鍛えて作り出した盾。薄めではあるが総竜鉄製であり、抜群の耐久力を持つ。サイクロプスの攻撃すら防げるが、装備者が耐えられるかは別の問題である。珠玉の一品。
尚、この星で竜鉄を作りだした存在は居ない。
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「「「「「「「「………」」」」」」」」
『これは困ったぞ……。主、どうする? まさか、この星に竜鉄が存在しないとはな。もしかしたらドラゴンが居ないか、それともドラゴンを倒した者が居ないか。またはドラゴンの素材を鉄と一緒に溶かすという発想が無いかのどれかだな』
「ドラゴンの素材って貴重なんでしょう? だったら鉄と一緒に溶かすって発想にはならないと思いますよ。流石に無駄にしてしまう可能性があるんですから、そこまでの冒険はしないでしょう」
「私達が元居た星でもドラゴンの素材は貴重。この星の者には挑戦する気持ちが無いか、それとも素材の買い占めが起きてる? 王侯貴族が買い占めて出回らないなら、竜鉄が無いのも頷ける」
そんな話をしていると、ミクが魔剣を取り出して鑑定するように影二に言う。よく分からないが素直に従う影二。すると、そこにも面倒な文言が表示されていた。
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<魔剣ブレインホワイト>
とある存在が神聖国の<聖剣>と呼ばれた人物から奪った剣。かつては<ソルシャイル>という名であった。剣の性能は大した事がないが、専用スキルである【白光陽熱衝】が非常に強力な品。ダンジョン産。
尚、ここまで強力なスキルが付いた魔剣は、この星では滅多に存在しない。
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「いやいやいやいや、ブレインホワイトって何ですか。嫌な予感がしまくるんですけど!? 専用スキルの名前は格好良いのに、剣の名前が不穏過ぎる!! しかも奪ったって出てるんですけど!?」
「ああ、これはな。神聖国で<聖剣>と呼ばれている奴が、私達がドラゴンと戦っている最中に後ろから乱入して襲ってきたのだ。それをミクが返り討ちにして手に入れた物だからな。だから奪ったとなっている」
「ダンジョンのボス戦に乱入した場合、殺されても文句は言えない。正直に言って、それをするのは迷賊と言われるダンジョン内の盗賊か、それとも暗殺を行う裏組織ぐらい。だから殺しても罪には問われない」
「ちなみにだけど、この<聖剣>という人物は<幸福薬>で洗脳されていた人物。だから私達を殺そうと襲ってきたんだよ。で、私が殺して、名前をブレインホワイトに変えてやった。そういう曰くのある剣」
「そういう理由だったのなら仕方がないと思う。そもそも殺しに来ている時点で、殺されても文句は言えないのは当然。私達もそろそろ本格的に自覚するべきだ。これ以上、元の感覚に引き摺られていると危険だろう」
高校生四人が少し沈黙しているが、その間に<鑑定板>を含めて全て仕舞ったミクは、夕食に行こうと声を掛ける。あまり思い詰めてもしょうがないし、汗の臭いを喜んで嗅いでいた奴が格好を付けてもな。と思っていた。
美輝が笑顔でミクを見ているが、ミクはスルーして食堂へと移動していく。お金を払って注文し、席に座って待っていると、ドレス姿の女性が現れて歌い始めた。前に置いてある小樽にお金を入れているのは、この星も変わらないようだ。
ミクも大銅貨を入れて席に戻る。高校生達も入れに行くが「銀貨は入れるな」と言っておく。よく分かっていなかったが頷いて、大銅貨を入れたら戻ってきたようだ。ある程度経ち、食事を始めた辺りで説明する。
「ほら、あの歌っていた女性、あの冒険者の男の下に行ったでしょ。あれね、銀貨を入れると一晩相手をするって事になってるの。だから銀貨を入れるなって言ったわけ。大銅貨なら問題無いから、沢山入れてあげるといいよ」
「いや、1枚だけにしておきますけど、そういう意味があったんですね。銀貨が合図っていうのも、何か安い気がするんですが気のせいですか? 多分ですけど娼館ってもっと高いですよね?」
「そうだな。娼館だと最低でも銀貨3枚ぐらいは取る筈だ。とはいえ、娼館の場合は見た目が整っていたり、病気に気を付けていたりと色々違うがな。それに複数の者が銀貨を入れると取り合いになり、上乗せしていく事になる」
「それって、結局娼婦より高値になる事もあるんじゃ……?」
「そう。それに一度銀貨を入れたら取り返しはつかない。引く事も出来るけど、後で金を返せと言っても戻ってはこない。その辺りが難しいところ」
「色々あるんですね。暗黙の了解なんて知ってる人から学ばないと、どうにもならないですよ。やっぱり余計な事はしないのが一番なんでしょうね」
「そうだな。揉め事を警戒するなら何もしないのが一番良い。一歩か二歩引いて、まずは周りを確認して覚える。それが今のお前達に必要な事だ」
夕食も終わり、部屋に戻って休む。ミク達や高校生を見て悪意を持っている者も居なかったので大丈夫だろう。それに監視は怠っていないので、何かある前に分かる。
だから問題無いのだが、気配などでナニをしているかは丸分かりである。ミクとヴァルは完全に無視しているが、ローネとネルは「若いねー」と言いつつ準備中だ。
今日も”する”二人も若いんじゃないの? と思うミクとヴァルであった。




