0153・善人への道 (洗脳)
食事後、村長の家に戻り宛がわれた部屋へと入る。ローネもネルも気付いているが、高校生四人は気付いていない。あからさまに敵意を向けられているのに気付かないとは……危険に対し鈍感だと生きていけないのだが。
すぐには難しいかもしれないが、そういう事も覚えさせていかなきゃいけない。そんな話をしつつ、偶には無い日でもいいかとローネもネルも寝転がる。光魔法の【灯光】を使って明かりを確保していたが、さっさと消して寝る。
流石に悪意を向けていた連中も村長の家にまでは何もしない。その程度のヘタレでしかないのだが、ミクは後顧の憂いを絶つ為に外に出る。もちろん百足の姿でだ。悪意や敵意を向けていた連中はマーキングしていたので問題無い。
そいつらの家に侵入し、寝ている奴等の脳に<幸福薬>をブチ込んで善人の洗脳を施す。居なくなれば怪しまれるが、善人になっているだけなら怪しまれる事も無い。喰ってない以上は神に文句を言われる筋合いも無いし。
そう思っていたら商人とクズどもを思い出したので宿屋に行く。そのまま侵入するとクズどもの部屋だけ起きているようだった。先に商人を洗脳し、その後にクズどもの部屋に行くと、どうも一人の女性を犯しているらしい。ただ、様子が変だ。
薄暗い部屋に入って体を確認して分かった、犯されていた女は<蛇女族>の女だった。しかもそれだけではないようで、男どもはどうやら【魅了】を使われているらしく、次々に精を吐き出しては気絶していっている。
最後の一人が気絶した後、女は笑いながら男を見下していた。
「ここの人間どもも変わらないねぇ。私達<蛇女族>に精を献上する程度の存在だ。ついでにヤらせるだけで金まで手に入るんだから、実に都合の良いバカどもさ。おまけに【魅了】の力が強まっているのか、今までより遥かに楽だし。フフフフ……」
どうやら余程嬉しいらしいが、眠ってくれなければ面倒なので睡眠薬を散布する。すぐにヤり疲れたと勘違いしたのか<蛇女族>の女はベッドで寝始めた。ミクは床で倒れている男達に近寄り、<幸福薬>で洗脳していく。
女の方は微妙なので何もせず、部屋から出て行くのだった。余計な手出しをしてくるなら媚薬で壊すのだが、今は何もしてきていないのでスルーする。男達が良い思いをしている形なのも事実なので、【魅了】が一方的に悪いとは言えないのだ。
村長の家の部屋に戻ったミクは、ヴァルと交代して肉体を停止した。ヴァルも高校生達の安全を担保する為だと分かっているので、特に文句も無いようだ。どちらかと言うと、食べていないのでストレスになっていないか心配している。
ヴァルの心配は杞憂で終わったらしく、やれやれと思いつつヴァルも肉体を停止した。
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翌日、村長の家を後にした一行は、食堂でクズどもと会ったが何故か丁寧に挨拶されるだけだった。高校生四人は奇妙に思ったものの、ローネとネルは即座に理解しミクを見る。ミクはスルーして我関せずと、綺麗な所作で食事をとっていく。
二人は「まあ、いいか」と諦め、食事を再開した。高校生四人は分からないままに食事をとりつつ、でも納得できないと首を捻っていた。
朝食後に村を出発し、ある程度離れてから昨夜の真相を話し始める。ローネとネルには予想通りだったが、高校生四人は仰天した。
「ローネとネルは予想がついてるだろうけど、昨日食堂で悪意を向けてきた奴等は洗脳してきたから。奴等を食べると私が犯人だとバレる可能性があるからさ、<幸福薬>をブチ込んでの洗脳で終わらせたよ」
「まあ、そうだろうと思っていた。あからさまに態度がおかしかったからな。そのうえ無理矢理やらされてる訳でもないなら、ミクの関与を疑うのは当然だろう。それにしても神聖国が使って問題だった<幸福薬>が、こうも利用されるとはな……」
「<善の神>などの神様が認めているから、ミクに文句を言っても意味が無い。少なくとも善人に洗脳するのは神様が指示した行為だから神命とも言える。滅茶苦茶だけど、そこまでしないと変わらない」
「さっきから洗脳っていう嫌な言葉がバンバン聞こえてくるんですけど? 後、<幸福薬>とかいう怖い言葉も聞こえてるんですけど!? 説明してもらってもいいですか!?」
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「うわー、マジかー。洗脳する為の薬があるとかシャレにならねえ! 挙句、使われたら幸福を感じる行動しかとらなくなるってさ! すっげぇ怖いんだけど!? そのうえ脳内麻薬バンバンとか、完全に狂ってるじゃん! マジで!」
「問題はそこじゃなくて、神が認めているというか推奨しているところでしょう? そこまでしなきゃ善人が生まれないという事実が……ね? 私達の元の星も変わらないけど、本当に救いようが無い」
「そうだね。流石に冗談でもシャレにならないんだけど、神様が認めてるってところが一番ヤバい。確かに碌でもない奴等だけど、洗脳しなきゃまともにならないっていうのも……。でも美輝が言う通り、元の星にもそんな奴等は沢山いたしなぁ」
「それは横に置いといて、蛇さんは大丈夫だったんですかー。何かチンピラっぽい人達に犯されてたんですよねー? 幾ら【魅了】というスキルを使っていても駄目だと思うんですー」
「そう? 精を集めてたって事は、サキュバスと同じく精を使って位階を上げるタイプなんだと思うよ。自分が強くなるついでにお金も儲けてるって感じかな? 偉そうな喋り方してたけど、精々ノーマルクラス上位かハイクラス下位ぐらいの実力しかないよ」
「何だ、その程度か。ならばどうでもいいな。そのうち【魅了】の力も明るみに出て、他人を操った罪で処刑されるだろう。気持ちよければ許される訳では無いし、他人を操作するスキルの悪用は重罪だ。処刑されても文句は言えん」
「「「「………」」」」
「貴方達に悪用できるスキルは無いからいいけど、悪用できるスキルを持っていた場合、相当注意しなきゃいけない。でないと悪用したとして処刑される。難癖を付けられる事もあるので危険」
「「「「えー………」」」」
「仕方あるまい。そういったスキルを持たない者からすれば、自分が操られたかどうかも分からんのだ。いつの間にか魅了され、犯罪を無理矢理させられているかもしれん。だからこそ、悪用できるスキルを持つ者は慎重でなければ生きられんのだ」
「他人の悪意よりも怖いのは、他人の恐怖。人間種は恐怖から他人をあっさり殺す。それは覚えておいた方がいい。でないと、突然襲われて殺されるかもしれない」
「「「「………」」」」
「ま、悪用できるスキルが無い以上は、そこまで気に病む事も無いけどね。それより魔法の練習をちゃんとしなよ。【灯光】もそうだけど、生活にあれば便利な魔法は、まだまだあるんだからさ」
「後は、魔法を使いながらも周囲を気にしろ。魔物に襲われても知らんぞ。私達が居るからといって安全とは限らんのだからな。周囲に気を配りながらも魔法を使え」
「それが出来たら苦労しませんよ~」
「だからこそ練習させてる。ほら、頑張れ」
高校生達の練習に付き合いながらも、一切油断せずに周囲を警戒しているミク達。特にミクとヴァルの警戒を超えられる者は多くない。なので、実は物凄く安全だったりする。
もちろんローネもネルも口には出さない。そんな一行は次の村へと歩いて行く。




