0152・ニコフ村到着
「まあここまで脅したんだけど、言っている事は間違ってないからね。他にも召喚者は居たけど、あれらも同じだよ。生き残ろうとしない限り死ぬ。有用なスキルや才能自体は開花してるけど、それだけで生きていけるほど甘くない」
「おっと、アレもレッサークラスだな。今度もゴブリン三体だ。殺してこい。ただし、さっきのような無様な事にはならんようにな」
「「「「はい!」」」」
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その後は順調に倒しながら進み、魔法の練習もさせながらニコフ村に到着した。途中で追い抜かしていった馬車が止まっていたので、この村で何か買い足しているのだろう。それを見て高校生四人が驚いている。
「あ、あの馬作り物なんですけど!? まさかゴーレムとかいう奴ですか? 魔力で動く乗り物。……スゲー! あんなのあるんだー!」
「維持費が大変でメンテナンスも大変。そのうえ影二は痩せなきゃ駄目。よって買えないし、買わない。そもそも影二の場合は走った方が速い。【超速回復】があるんだから、その方が絶対に良い」
「いや、事実そうなんでしょうけど、ああいうのは憧れますよ。どうやって動いてるか知りませんけど、凄い物なんでしょう?」
「この星では普及しているんじゃなかったかな? ゴーレムコアに馬の動きを転写して作ってるだけだから、そんなに難しいものじゃない筈。ゴーレムはむしろ素材選びが重要だしね」
「そう。なるべく軽く、なるべく丈夫で、出来るだけ魔力効率の良い素材。となると厳選しないと良い物は作れない。それ以前に普通はそこまでの素材は使えないから、魔力効率が悪く維持費が高くなる。その分は必死に稼ぐしかない」
「なんだろう。私もゴーレムなんて凄いと思っていたけど、急に世知辛い物にしか見えなくなったよ。何というか、無駄に維持費のかかる高級車って感じかな?」
「止めてよ美輝ちゃん、更に世知辛くなったよー? 見せびらかすぐらいしか価値の無い高級車にしか見えない。お兄ちゃんが買って自慢して、面倒になって売ってたのを思い出しちゃった……」
「面倒になったんだ……。ああ、維持するのも手間隙かかって大変なんだなー。ウチの車なんて維持費の安い、なるべく燃費の良いヤツだった気がする。車って興味無いから知らないし」
「俺も興味無いなー。ウチのも低燃費でお金の掛からないヤツだったと思う。環境の事も考えたら燃費の良い車の方が良いんだよな。金持ちって環境に五月蝿い癖に、環境に悪い車に乗るの何でだろう?」
「さあ? 私の家では環境に配慮する姿勢を見せなきゃいけなかったから、低燃費のハイブリッドだったと思う。私も車に興味が無いので何とも……両親も家族も、車は足としか考えてなかったし」
「とりあえず、宿に行って部屋を確保するよー」
そう言って宿に行くも既に商人と護衛達で満室だったらしく、仕方なく宿を出ようと後ろを振り返る。するとニヤニヤした男どもが立っていた。
「おうおう、宿に来たら満室で困ってんのか? 事と次第によっちゃ空けてやってもいいんだがなぁ……。言わなくても分かるだろ?」
「寝言は寝てから言え。もしくは鏡を見て出直してこい」
ミクはそう言って横を通ろうとする。すると殴りかかってきた為、そこに居た六人を一人で叩きのめした。それはもうボッコボコで、顔面の形が変わるんじゃないかというほどに殴られていた。後ろで高校生四人がドン引きしていたくらいだ。
その後に宿を出て歩いているが、高校生四人はどこか挙動不審になっている。ボコボコにされていて歯も何本か折れていたので引いているらしい。
「あの程度で怯えてどうする? 別に腕が切り落とされたわけでも、足が切り落とされた訳でもあるまい。盗賊であれば平然とやるぞ? それに比べたら殴られて歯が折られた程度、大した事ではない」
「勘違いしているかもしれないけど、あんな事を言ってきた奴が悪い。そもそも喧嘩にならないようにするのが当たり前。喧嘩を売ってきた以上は、ああされるのは当然の事。殺されなかっただけマシ」
『そういう事だ。お前達の星では違うのかもしれんが、この星では違う。勘違いされる行動はするなよ。喧嘩を売るような事をしておいて、そんなつもりじゃなかったと言っても、誰も聞く耳など持たんぞ』
「勘違いさせたヤツが悪いとなる。だから勘違いされないように行動する必要があるんだよ。バカは殺されても文句は言えない。よく覚えておく事だね。でないと、おかしな揉め事に巻き込まれるよ。特に貴族関係」
「あー、こういう時代だから横暴な貴族が多いんですね。俺達の星の歴史でも、古くはそんな感じの貴族が多かったって記録がありますよ」
「横暴というのは正しくないな。奴等はそれが当たり前だと思っている。実際、奴等は権力がある為、それが罷り通るのだ。そしてそれが普通なら横暴とは言わん。盗賊でさえ避けるのが貴族だからな」
「貴族の連中は盗賊狩りをする。実際には人間種狩りと変わらない。ただ奴隷にしないで殺すだけ。それを楽しんでいるのも貴族。死体を損壊して腸を引き摺り出して投げたり、死体を馬で引き摺って遊んだりもする」
「「「「………」」」」
顔が引き攣っているが、何処の星でも古い特権階級とはそんなものである。町の人を突然襲ったり犯したり、盗賊だと何をやってもいいと好き勝手にするのも変わらない。一般人にとっては怖ろしくとも、貴族や軍にとっては殺していい奴等でしかない。
憂さ晴らしで盗賊狩りをする事もあるぐらいである。だから盗賊が居なくならないのだが、貴族や兵からすれば殺せるオモチャが無くならないようなものだ。本当に碌でもないが、いつの時代でも盗賊が居なくならないのは事実である。
村長の家らしき屋敷についたので話を通し、銀貨二枚で泊めてもらう。割高だが仕方ない。高校生四人も家畜小屋よりはマシだと喜んでいる。とはいえ二部屋なので今日は無しとなり、四人はガッカリしているが。
食堂に行き食事を注文して待っていると、笑顔が胡散臭いのが話し掛けてきた。どうやら村に来ている商人らしいが、護衛の冒険者がボコられた事でミク達を雇いたいとの事だった。町まで護衛してくれたら金貨一枚だと言ってきたが、ミクは即座に断った。
「あの男どもに報復したいとでも言われた? それとも私達を奴隷にして売るつもり? ……まさか、その程度も分からないバカだと思ってないよねぇ?」
「………」
商人は冷や汗を流しながら、ゆっくりと後ずさりして去って行った。周りの村人は我関せずだ。高校生達はそちらの方に怒っているようだが、余所者に対する態度なんてあんなものだ。
「余所者にも親切な村があれば、こういう村だってあるよ。そしてこういう村は大事な時に助けが受けられない事もよくある。不親切な奴を助けたいヤツなんて多くないからね。結局、依頼料を多く渡すかゴロツキのような連中に頼むしかなくなる。自業自得だよ」
「「「「「「「「………」」」」」」」」
周りの村人が微妙な表情になっている。中には怒りを向けてくる者も居るが、ミクの言っている事が間違っていない為、怒鳴る事まではしない。何となくで、自分達が原因だと気付いていたんだろう。
冒険者だって心がある。善くしてくれた所には救援に行くが、余所者扱いが当たり前の所を助けに行く者は多くない。結局は人付き合いでしかないが、その結果を自分達が受けるだけだ。
ミクの言った通り、自業自得でしかない。




