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0014・サキラ村とギテルモ商会




 普通の人間と同じ様に歩くしかないミクは、面倒くさそうにしながらも疑われない速度で歩いていた。それでも常人より速いのは御愛敬というところであろうか。


 常人よりも速いものの本人がギリギリ納得できる速さで歩く事二時間、それでも目の前には道が続く。道の上を歩いているだけだからか魔物も出てくる事が無く、それ故にミクは暇を持て余していた。本体でやる事も今は無い。



 「あ~~暇だねえ~っと。何か出てきてくれないかな? そしたら戦うなり何なりして遊べるんだけど、魔物すら出てこないから遊ぶ事も出来やしない。帰りは夜に走り続けようかな? そうすれば誰にも見られないでしょ」



 そんな物騒というか、常識外れな事まで言い出す始末である。そんな暇すぎる旅路をテクテク歩く事しか出来ないミクの前に、ようやく魔物ひまつぶしが現れた。出てきたのはゴブリン三体であり、先ほどまでアースモールを追いかけていた連中だ。


 今はゴブリンがミクにターゲットを変えたのでアースモールは逃げたが、先ほどまでは持っている木の棒を振り回していた。アースモールも出てきたところを強襲されたのか、地面の上で必死に逃げ惑っていた。


 そんなターゲットを変えたゴブリン達は、現在ミクを半包囲する構えで寄ってきている。そのミクは既にガントレットを嵌めた両手を上げて構えていた。右手と左手を顎の前ぐらいに持ってくる、ボクシングでよく見る構えである。


 そうやって構えているミクに、向かって右のゴブリンが木の棒を振り下ろしてきた。当然ミクはバックステップで後ろに下がるが、そのミクを左のゴブリンが追撃する。更に正面のゴブリンも遅れて振り下ろしてきた。


 左のゴブリンの攻撃を左手のガントレットで弾き、正面の攻撃は右足を引いて半回転する事でかわす。そして、そこから人外パワーのストレートが発射された。


 ドパァンッ!! という音と共に、正面のゴブリンの頭は弾け飛んだ。なお、これが怪物の素の筋力である。そのうえ全力ですらない。そんな滅茶苦茶な光景を見たゴブリンが硬直するのは、至極しごくもっともな事であろう。


 そんな隙を見逃すミクではなく、立て続けに2つの頭は弾け飛んだ。ただ、そこまでやってからミクは気付く。ガントレットをしているから腕を変形させられない……と。



 「………うん。ガントレットをするの止めよう。これじゃあ腕を変形して食べられない。武器は有るんだし、もっと別の使い勝手の良い物にしよう。実戦で使ってみるって大事だね」



 そんな風にポジティブなのは良いのだが、先に気付かなかった事を何とも思っていないミクだった。


 ガントレットを本体に転送して手ぶらになったミクは、両手を熊の上半身に変えて貪り喰っていく。この形が一番安定するようだ。喰い終わったミクは再び村に向けて歩き出す。多少の暇が潰れた事を喜びながら。


 そこから二時間、遂にサキラ村に辿り着いた。思っている以上に大きい村であり、ここまで大きいとはミクも思っていなかった程である。町と言っても良いんじゃないかと思うくらい大きいが、その殆どは農地なので村なのだろう。


 そのサキラ村に入る事も無く、村の外側にある柵をぐるっと迂回して、ミクは領都の方へと向かって歩いて行く。普通なら休憩をするところだが、ミクには疲れなどないので関係無い。普通を装うという考えは何処に行ったのか……。


 そんなことは忘れたのか頭に浮かばないのか、ミクはどんどんと領都に向かう道を歩いて行く。どれぐらいの時間で領都に着くのかも分かっていないのにだ。まるで無計画で、子供みたいな行動である。


 それでも領都に向かって歩き続け、昼を回っても歩き続けるミク。普通の人なら何がしかの食事をしたり、水分を摂る筈なのだが……この肉塊ミクは忘れているようだ。トラブルを自ら作り出そうとしているようにしか思えない。


 淡々とミクが歩いていると、前方から大きな音が聞こえる。目を凝らして確認すると、どうやら馬車が魔物に襲われているようだ。ミクはとりあえず近付くものの、助けようか迷ったので、まずは声を掛ける事にした。



 「おーい! 助けいるー? 要らないなら素通りするからねー」


 「すまねえ! 誰でもいいから、助けてくれ!!」


 「りょーかーい」



 馬車を襲っているのはフォレストウルフらしく、残りは四頭おり一頭は倒されていた。馬車の護衛は4人で御者の一人も戦っているらしい。右手にメイスを持ち、左手にダガーを持ったミクは、素早くフォレストウルフに吶喊していく。


 頭を殴りつけて昏倒させ、すれ違い様にダガーで目を切る。あっと言う間に優勢だったフォレストウルフは狩られるだけの存在になった。とはいえ、明らか過ぎる程にミクは手を抜いている。


 その理由は、戦闘の最中にも関わらず、下卑た視線が纏わりついてくるからだ。カレン達との行為を経て、ミクは何となくではあるが視線の意味が分かるようになっていた。こういう部分は進歩したらしい。常識さんが息をしていない気はするが……。



 「ヒュウ! こりゃあ凄い美人さんだな! 俺達は領都を拠点にしている<荒地の鷹>ってパーティーだ。まあ、美人さんに助けてもらったくらいだから名前負けしてるけどな」


 「違ぇねえ、情けない限りだぜ。俺達はこのまま馬車を護衛しなきゃなんねえんだが、美人さんはどうするんだ? 商会の奴は何か用があるみたいだがな」


 「申し訳ありません、助かりました。私はギテルモ商会のベイスと申します。貴女様の腕を見込んで馬車の護衛をお願いしたいのですが、宜しいでしょうか? 金貨1枚で如何でしょう」


 「護衛なんて請けた事が無いけど、報酬が多くない?」


 「私どもの積荷は、確実に早く届けなければいけない物なのです。それゆえ多少の出費は目を瞑らなければいけません。ですのでお願いします。請けていただけるならば、今すぐお支払いします」


 「んー……分かった。請ける。これもまた経験だろうし」


 「おお! ありがとうございます。それではこちらを、お納め下さい」



 そう言って渡された金貨を受け取るミク。カレンに聞いていたクソ豚と繋がっている商会なのに、何故請けたのか。それは……。



 (こいつら私を襲う気だよね? 都合が良いから襲われたフリをして情報を仕入れよう。どのみち私に掛かれば全て喋るしかなくなるしね)



 馬車の外を歩いてついていくミク。護衛達も外を歩いているが、どう考えてもミクしか見ていない。


 更には御者の他にベイスともう一人が馬車の中に居るのだが、そちらもジロジロとミクを見ている。流石に視線があからさま過ぎるのだが、コイツらは隠そうともしないらしい。


 そんな奴等と共に歩いていると、途中で水を飲む護衛達。それを無視していたミクだが、水を飲まない事を聞かれたので持っていないと素直に答えた。


 実はミクの持ち物は、リュックの中に多少の貨幣と武器しか外には無い。それ以外は肉を通して本体の空間に転送している。なので、手紙を奪われる心配などは一切無い。


 そんなミクに対して、馬車でゴソゴソしていたベイスが水筒を渡してきた。あからさまに怪しいのだが、ミクは構わず受け取って飲んだ。ミクは口に入った物の成分を即座に分析。麻痺させるタイプの毒だと一瞬で理解する。


 ミクには毒どころか病気や呪いまで効かないのだが、コイツらがそれを知っている筈も無い。とはいえ状況的に都合が良いと判断したミクは、麻痺して痺れてきたフリをして地面に倒れる。


 それを見た護衛達や御者の連中は大喜びし、いそいそとミクを馬車の中に入れて出発していく。ミクは周囲を確認しながら体だけを停止させている。後は下らない目に遭ってからだ。肉を喰う嬉しさからか、本体の蠢きも活発になる。


 そのまま馬車は道を外れた。自分達が手を出そうとしているモノさえ知らず……。


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