0139・第一惑星ヴィルオスティア終了
ミク達は聖堂を脱出したものの、近くには兵士も騎士も見当たらない。今の内に逃げ出すに限るという意見で一致し、南の山へと一気に移動していく。聖都の中には外に出ている人が多少居たが、それだけで後は何も無かった。
南の山へと進んで行きつつ、ミク達は今まで何があったかを話していく。まずはヴァルドラース達からだ。
「私達の方は魔導国を見て回った後、神聖国の南にある国境から入ってきました。国境でもおかしな輩に絡まれたので始末し、そのまま進んできたのですが……その時の事が聖都とやらに伝わったのか、監視が随分と付きまして」
「そいつらは殺しても殺しても、次の日には新しいのが来るのよ。いい加減にしろと思ったけど、<幸福薬>で操ってるのを送り込んでくるだけだから、相手にとっては痛くも痒くもないの。幾らでも居るって感じかしら?」
「それが分かりましたので、私達は南から強襲する事を選択したのです。私がかつてやられた事を、そのままそっくり返してやろうという思いもありましたのでね。そこまでは良かったのですが、向こうは優秀な感知系スキルも持っていたようで戦闘になりました」
「そして私達は操られてしまい、ヴァルドラース様に気絶させてもらったという事よ。次に起きたらミクが居るし、何か根源から恐怖が来て止まらないしでパニックよ。ミクが悪魔を貪り喰ってたから落ち着いたけど」
山の魔物もミクとヴァルドラースの気配に怯えてしまい、全く出てこないし襲ってこない。何か拍子抜けしつつ、一行は山を進んで行く。
「私の方は特にどうこうは無いね。帝国内にあった神聖国系の裏組織を潰したり、ダンジョンを攻略したりとかしてたくらいかな? 後は私の料理を床に落とした奴等を壊したり、剣の道場でスキルを見せたりもしたね」
『槍術道場の事とナナの事が忘れられてるな。敢えて言わなかったのかもしれないが、槍術道場の話は主が絡まなくても上手くいった気はする。とはいえ、ナナの場合は依存させる寸前だったぞ』
「アレはねー。私が悪いんだけどさ、あそこまでハマるとは思わないじゃない? 別に”怪我”をさせた訳でもないし、最後まで傷を負わせてないよ。にも関わらず、ローネと同じぐらいハマるってどうなの?」
『アレはローネとは違うだろう。ローネの方は性欲のみだが、ナナは主に惚れていたような気がするがな。そういう意味での依存だと思うぞ。俺も何となくでしか分からないが』
「そうなの? まあ、どのみちそっちの依存も困るんだけどね。私は東の大陸に行くし、他にも色々と行………」
突然ミクが会話を停止したので何事かと思ったヴァルドラース達。ミクはすぐに話を再開したが、内容は一気に変わる。
「神どもが本体の所に来て、聞いた事を伝えろってさ。まず、あの悪魔は完全に滅んでるのと、あれは魔界でも滅茶苦茶な実験をやってた奴らしい。で、こっちでも滅茶苦茶な実験を繰り返してたんだってさ。あの魔眼も実験の産物らしいよ」
「あんなものを生み出す実験ですか……どれだけ非道な事をすれば手に入るのやら。そんな者がこの世に召喚されてしまい、かつての私の領地を狙っていたと」
「狙いはヴァルドラースの領地じゃなくて、ヴァルドラースと吸血鬼だったんだってさ。要するに実験の為の生贄みたいなもんだね。吸血鬼の特殊性に目を付けたらしい。魔界には吸血鬼が居ないそうだから」
「成る程ね。魔界では手に入らない力が手に入ると思って襲った訳か。徹頭徹尾、欲しかない悪魔ね。本当に何故そんなロクデナシを召喚したのかしら。召喚する悪魔って多少は選べる筈よね?」
「さあ? そこまでは神どもから聞いてないから分からない。ただ、神罰で魔界の本体が滅ぶ前に、その可能性に気付いて力を無理矢理こっちに送ったんだってさ。随分目減りしたらしいけど、その所為でアーククラスになったらしいよ」
山を登ったので今度は下りて行く。思っている以上に早いが、ここに居るのは吸血鬼と肉塊だ。夜でも目が見えるし体力も非常に多い。吸血鬼は疲労するが、他の種族よりは軽くて済む。
「神どもは他の星の奴を介入させると同時に、魔界の本体を神罰で潰すという二段構えだったらしいんだけど失敗。その所為で他の星の若者を利用される羽目になって、更に激怒した神は私の投入を決めた。これが事の顛末」
「何だか微妙な話だけど、神様も失敗する事はあるのね。私としてはミクが来た御蔭でヴァルドラース様と御会い出来たから感謝しかないけど」
「ヴァルドラースを宛てるのが最初の案だったらしいんだけど、かつてやられてるのと狡賢い奴だからね、それだけじゃ駄目だってなったみたい。で、私の血肉を与えれば絶対に負けないだろうと考えたんだってさ。それ以前に、そうなったら私が居るのにね」
「「「「「………」」」」」
「まあ、神どもは数多ある宇宙も管理しているし、仕方ないんだろうけども。この星自体、宇宙の片隅にあるちっぽけな星でしかない。そんな巨大な宇宙が無数にあるのが世界だからさ。ちっぽけな星にいちいち構っていられないという本音もあるみたい」
「成る程、何となくは分かります。神様方にとってみれば、私達が住む大地は数多ある砂粒の一つくらいでしかなく、他にも同じような大地が数多ある……という事ですね?」
「そうそう。よって星一つに割く力なんて、微々たるものになってしまうんだよ。それはどうしようも無いって事。神どもからすれば手を離していないだけマシって事だと思う。実際、見放された星も多いらしいし」
「「「「「うわぁ……」」」」」
「神々に見放されるって凄いわね。よほど腐りきってしまったんでしょうけど、自分達の生きている大地がそうじゃなくて良かったとしか言えないわね」
「それで………」
どうやらまた神々に話しかけられているんだろう。そう思った吸血鬼主従は黙々と走る。そして、ようやく山を下りて平地へと出たので少しペースを落とす。そうしていたところ、突然ミクが声を上げる。
「何か突然でゴメン! 神どもがさ、この星は終わりだから次の星へ飛ばすって。どうやら後はヴァルドラース達に託すからしっかりやれってさ! それあげるか」
言葉を言い切る事も出来ず、突然ミクとヴァルが消えて袋が残る。あまりにも突然の事に驚くヴァルドラース達。袋を開けてみると、ミクが持っていたであろう金銭が入っていた。
貰って良いのかと思うも、神々がした事なら考えても無駄だと思い溜息を吐いた後、袋を持って町へと走って行くのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「まだ喋ってる途中だったんだけど、強引に戻すのってどうなのかな?」
「終わったんだから気にしない、気にしない。そもそもミクに行ってもらう星は数多あるんだからさ、一つの星に長居されても困るんだよ。という事で次ね」
「別れの挨拶も無しか……私もヴァルドラース達に挨拶ぐらいはしたかったのだがな」
「ローネはまだマシ。私なんて東の大陸に戻る事すら出来ていない。向こうに知り合いとかも居るのに挨拶も何もないなんて、薄情者と思われるかも……」
「いや、それ以前に死んだと思われるだけだろう。そっちの方がまだマシだと思うぞ?」
「何か他人事みたいに構えてるみたいだけど、次は二人にも頑張ってもらわなきゃいけないんだよ? それに改造は終わってるの?」
「体に無理矢理ミクの肉を追加されるのを改造というならば、既に終わっています。御蔭で毒も呪いも何も通じない体になりましたけど!」
「うん、あのヴァルドラースと同じ。ただ、アルコールは普通に効くから助かる。酔えなくなったら、この世の終わりだった」
ミクとローネとネル。この三人が行かされる次なる惑星とは? 次の目的とは? 何も知らされていないものの、肉塊の旅はこれからも続いていく……。
▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
第一章 怪物の始まり編 <完>
▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼




