0138・悪魔オルディフィル
ミクはよく分からない悪魔三人に連れて行かれたが、その先はどうやら大きな建物だった。見る人が見れば大きな聖堂だと思うのだろうが、ミクには聖堂というものの知識が無い。なので大きな建物としか思わなかった。
その中に連れて行かれたのだが、中で大きな音が鳴っている。どうやら戦闘音のようだが……。
「これは……マズい。何者かが閣下と争っているぞ?」
「どういう事だ? 閣下と争える者がこの星に居たか? かつて閣下よりも強かったという吸血鬼は倒した筈だ」
「それよりも、この女は置いて閣下の助力へと行くぞ!」
そう言ってミクを置いて行こうとした為、ミクは触手を出して三人の心臓を貫く。いきなりの事で何が起きたか分からない悪魔を貪り喰う肉塊。そこには悪魔以上のナニカが居るが、誰も見て居ないので問題にはならなかった。
素早く喰ったミクは、大きな音が鳴っている場所へと近付いていく。そこは大きな祭壇のある場所で、今は長椅子などが破壊され粉々になっていた。そんな中、小さい子供みたいなのとヴァルドラースが争っている。
その向こうではカレン達が倒れているようだが、いったい何があったのだろうか? ミクはこの状況が分からなかったが、丁度止まったので聞く事にした。
「チッ! 思っている以上に厄介だね。だからこそ昔バカを煽って始末させたというのに、その時以上に力を付けて帰ってくるなんてさ。そろそろ本気を出さなきゃいけないかな?」
「ほう、コソコソと逃げ回るしか能の無い者の本気ですか? それはそれは楽しみですねぇ……早くしてください?」
「ふんっ! 高々吸血鬼風情が随分いい度胸をしているじゃないか。魔界の領主というものを随分舐めているようだな」
「魔界の領主って……。少年みたいな姿をしているのに?」
少し前に本体の所に神が来て、今回の事情というか顛末的な事を教えてもらったミク。それ故に知っているのだが、そんな事とは関わり無く、少年のような奴が喜色満面の顔をしている。
「あははは! また都合の良い事に女が来たなぁ!! しかもとんでもない魔力と闘気だ。結局、世の中とはこうなるように出来てるんだよ! ……女ぁ! オレに従え!!」
その時、少年の両目がピンク色に輝く。おそらく何がしかの【スキル】なのだろう。ミクは操られるように少年の近くへとフラフラと寄って行ってしまう。そのミクに一瞥をくれる事も無く、少年は指示を出す。
「はははは! この女を使えば、幾らアーククラス中位といえども勝てる。元々の本体がアーククラス中位だったというのに、神どもの所為で力を奪われたからなぁ。女、ソイツをブッ殺すぞ!!」
「【螺旋崩壊撃】!!」
「グボォッ!!!」
ミクはそもそも操られたりなどしない。そんな事は万が一にもあり得ないし、【念話】でヴァルドラースには言葉を出すなと伝えてあった。知り合いだと勘付かれても困るからだ。そして都合良く状況を利用したのはミクである。
「ガブッ! ゲホッ! カハッ! な、何がどうなって……」
「お前は異性か性欲を操れる? どのみち肉塊である私には性欲は無いし、そもそも女性でもない。私は唯の肉の塊であり、そしてアンノウン。神どもの命でお前を滅ぼしにきた。そう言えば、分かる?」
そう言うと同時にミクはドリル状にしていた右腕を引き抜く。完全に心臓を破壊しており、普通の人間種では既に死ぬしかない筈だ。とはいえ悪魔がこれで死ぬという保証は無い。なのでミクは予定通り、貪り喰う事にした。
「ガァッ! ガハ! ゴホッ! クソォ、神どもめ! オレの力を妬んで刺客を送りやがったのか!! こん……ナンダ? オマエハ?」
「私は肉塊。星を滅ぼす為に生み出された、全てを<喰らう者>。先ほども言った通り、私はアンノウンだ。そしてその私でさえ、神どもには滅ぼされるしかない。高がお前如きが調子に乗るな」
「………」
ミクの<暴食形態>を見た瞬間、<神聖教>の教皇こと悪魔オルディフィルは悟った。自分はこれから目の前の怪物に喰われるのだと。何故こうなったのかは分からない。分かる事は、自分という存在が喰い荒らされ滅ぶという事のみ。
「や、やめ……たす……※Y!>※M※!!¥?※※T>S!W※※!!」
ミクは一切の容赦無く本質を解放して貪り喰う。可能な限り苦しめつつ喰い荒らせと命じられている以上は、それに従うしかない。流石は悪魔だと言えるかもしれないが、肉体も魂もなかなかに食い応えがあり美味しかった。
そういう意味では美味なる食事を楽しんでいると思えるし、相手を苦しめながら喰うのも悪くない。どのみち大罪人であり極悪な悪魔だ。こいつがどれだけ苦しもうが誰も庇う事は無いのだから……。
いつの間にかヴァルドラースはカレン達を起こしていたが、カレン達はミクの本質を見て完全に怯えている。<喰らう者>という存在の本質は、あまりにも残酷で無残で情け容赦が無かった。彼女達は真の意味を知ってしまったのだ。
悪魔の精神も魂も貪り喰ったミクは女性形態へと戻る。そして服を着ていると、呆れたヴァルドラースと怯えるカレン達が見えた。どういう事? と首を傾げていると、ヴァルドラースが説明する。
「流石に先ほどのミク殿の本質を見て怯えてしまっているのですよ。それでも自分に向けられていませんから余波を受けた程度ですけどね。それでもグレータークラスでは怯えてしまうでしょう」
「えー……グレータークラスってそんなに弱かったっけ? 流石にカレン達に向けたりはしないのにねえ、そんなに怖かった? 帝国では私の料理を床にブチ撒けた奴等がいて解放しちゃったけど、この星では二回目だし、箍が緩んだりはしないよ」
「まあ、そんな事があれば神々が許さないでしょうし、それをミク殿もご存知でしょうからね。流石にアレが解放されっぱなしという事は無いでしょう。私でさえ直接向けられたら耐えられる自信はありませんよ」
「それは良いんだけど、何でヴァルドラース達は悪魔と争ってたの? 私はハワジ町の宿屋に泊まってたら、三体の悪魔が来て連れ去られたんだけど……」
「ああ、うん。やっとマシになってきたわ。私達はヴァルドラース様と共に、南の山を越えて強襲しにきたのよ。さっきの悪魔オルディフィルは私達が神聖国に入ってきてたのは知ってたけど、その監視者を殺して相手の目を欺く為にね」
「そして強襲したまでは良かったんだけどね、あの悪魔は<魅了の魔眼>を持っていた。それでカレン達が操られてしまい、已む無く気絶させたんです。そうしないと味方同士での殺し合いになってしまいますからね」
「本当に情けない姿を晒してしまったわ、まさか自分が足手纏いになってしまうなんて思ってもいなかった。まあ、そんな私達の後にミクが来たから、もっと強い者を操れると思ったんでしょうね」
「私としては悪魔の強さが正確には分からなかったので、牽制に終始していたところにミク殿が現れたからね。見た瞬間、終わったと思ったよ。あの悪魔は喜んでたけど、何も分かっていない事に呆れるしかなかった」
「ふーん、そういう感じで推移してたんだ。ま、とりあえず何処かに移動しよう。アレだけ派手に騒いでたんだし、兵士か騎士が集まってきてもおかしくない。ターゲットは喰らったから、ここにはもう用は無いしね」
吸血鬼主従も頷いたので、ミク達は聖堂から出る事にした。戦いの時は邪魔しないように出てこなかったが、移動となったのでヴァルも出てきて全員で脱出していく。
あそこまで派手に暴れておいて、平穏無事に脱出出来るのだろうか?。




