0137・デリューファント神聖国
泣いていたナナには悪いがミクには何の感傷も無い。肉塊は未だ人間種の心を勉強中だし、元々無いものだから永遠に理解は出来ないだろう。宿の部屋に戻り、これからどうするかを考えたところ、さっさと先へと進む事に決めた。
そろそろヴァルドラース達も神聖国に入っているだろうし、流石にミクが遅れる訳にもいかない。魔導国からは真っ直ぐ北に向かえばいいが、帝国からは西に向かう事になる。更には入国する際の入り口も違うのだ、中で合流するには聖都へ行くしかない。
宿の入り口で今から出立する事を伝えて出たミクは、そのまま帝都も出てヴァルに乗る。そのまま次の目的地のある西へと進んで行く二人。帝都から西にオル村、デフ村、イオニ町があり、既に夜遅くだったので、ここの近くの森で一泊。
翌日はイオニ町から西へと進む。スス村、カアソ村、ウェッル町まで進み、町の宿で一拍。次の日はウェッル町から西へ進み、カドワ村、リーボ村、アドクイ町で宿をとる。ここから西に神聖国との国境があり、そこを越えれば遂に神聖国だ。
この辺りを騒がせているゴミを喰らえば、ゆっくりと東の大陸に行こうと考えるミク。向こうは戦国乱世らしいので多くの肉が喰えるだろう。そう思いながら分体を停止し、本体に戻るのだった。
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翌日。アドクイ町で朝食をとったミクは、町を出発して西へと進んで行く。国境はすぐに見つかったが、かなりピリピリとしているようだった。砦に近付き、門番の兵士に登録証を見せると警告される。
「神聖国には行かない方がいいと思うぞ? 向こうの砦では男だろうと女だろうと手篭めにすると聞く。行ったところで碌な事にはならないと思うがな……。まあ、止めたりはしないが、注意した方がいい」
「ありがと。本当にヤバかったら逃げてくるよ」
そう言ってミクは帝国側の砦を通る。そのまま進んでいると、木造の簡素な砦が見えてきた。どうやらアレが神聖国側の砦らしい。そこへと近付いていくと急に砦から兵が飛び出してきて、こちらを見ては大きな声を上げている。
近付いて兵士に登録証を示したら、見ようともせずに触れようとしてきたので殴り飛ばす。触ろうとした兵士はブッ飛んだものの、他の兵士は一気に殺気立つ。
「テメェ! 俺達は国境の兵士だぞ! 我等が神聖国に入りたければ体を捧げるのが当然だろうが!!」
「神聖国の入り口からクズが登場するって、流石に笑うしかないんだけど? いったいここは何処の山賊国家よ」
ミクの一言に武器を抜こうとするものの、既に麻痺毒は散布されている。当然それを吸い込んでいる愚か者どもは痺れて倒れるしかない。ミクはそいつらを無視し、砦内の残りの者も全員麻痺させ尋問を始める。
尋問の結果、強姦犯と殺人犯しか居なかった為、ヴァルと一緒に喰らって終わらせた。砦が無人になろうが気にしないミクは、このまま神聖国内へと進んで行く。大凡の地理は分かったので、聖都とかいう首都に向かう道は把握出来ている。
西へと進んで行き、ドウグ村、シジ村、ホウマ町まで行き宿で部屋をとる。ここは神聖国内では普通の町だと思うのだが、どんよりとした陰鬱な雰囲気の町だった。何処が神聖国なのかと言わんばかりの雰囲気に、思わず二人のテンションも下がる。
適当に入った食堂で夕食を注文し、運ばれてきた食事を口に入れた瞬間ミクは違和感を感じる。舌で解析した結果、遅効性の麻痺毒だと判明。さっそく攻撃をしてきたらしい。ミクは早めに宿の部屋へと戻る事を決める。
それはそうと、麻痺毒をスパイスにした食事も、それはそれで有りかと楽しむミクだった。毒入りの食事を楽しんだ後、ミクはふらつくフリをしながら宿に戻り、部屋のベッドに倒れ込むようにして肉体を停止する。
素早くアイテムバッグを転送し、武器なども全て本体空間に転送した。その状態で待っていると、部屋の中に数人が鍵を開けて入ってきてミクを抱えると運んでいく。何処に連れて行くのだろうか? 少し楽しみなミクであった。
尚、ヴァルはお留守番である。というより、ヴァルにも食べさせていたので痺れているフリをしてもらったのだ。
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ここはホウマ町の代官邸。この国の奴等は<幸福薬>で操られている筈だが、代官まで操られているかは分からない。村人や町人まで操られている感じは無かったが……。ミクがそんな事を考えている間も、代官はミクの体を犯している。
何処の犯罪者も似たような事しかしないなーと思いつつ、ミクは麻痺毒を散布していくのだった。部屋の中の者が全員麻痺したらミクは体を起こし、体を清潔にして服を着てから尋問を開始する。代官の脳に触手を突き刺して分かったが、<幸福薬>は使われていなかった。
やはり主要な者達に限っていて、下っ端の代官程度には使用していないのだろう。どうせこういう輩は己の欲しかないので、放っておいても腐っていく。その為、放置していても害は無いと思っているらしい。
十分に情報を聞き出したら、手当たり次第に洗脳していく。ミクの場合は脳を直接洗脳しているので、通常の暗示や洗脳すら上書きできる。流石は肉塊と言うしかないのだが、善の思想で汚染するというのも果たして良い事なのであろうか? 少し疑問も持つのだった。
全ての洗脳が終わったのでミクは宿に戻ろうと思ったのだが、生憎ともう真夜中だ。今の時間帯に戻ると明らかに不自然なので屋敷の屋上で肉体を停止する。幸い、特に見られるような場所でもないので問題無い。
ちなみに代官は欲だけでミクを拉致しており、他にも100件以上やっていて覚えていないそうだ。なので<幸福薬>で洗脳しても全く問題の無い人物だった。
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翌日。酒場で朝食を食べたら町を出て、北西へと移動していく。アサノ村、オキヤ村、ハワジ町で休むものの、その南が聖都デルファンだ。元々からそうなのだが、聖都の南側は山で塞がれていて攻められない。
デューベイ山と呼ばれる山だが、魔物が強力な事で有名な山らしく、昔はヴァルドラースが山の魔物を抑えていたそうだ。戦いついでに食料でもあったらしいが。
そこを越えて攻める事は難しく、周りにも森があるので非常に攻めにくい場所だと言える。だからこそ油断していたのだろう、ヴァルドラースを狂わせた連中は山を越えて来たそうだ。
そんな事を思い出しつつハワジ町で宿をとり、食堂で夕食を食べる。ここでは薬を入れられる事も無く宿の部屋へと戻った。ベッドに寝転んで肉体を停止しようかと思った矢先、何者かがミクの部屋の窓に近付いてくる。
ミクは慌ててアイテムバッグと武具を本体に転送し、服だけになってから肉体を停止。すると窓をゆっくり開けて、中の様子を窺ってきた。随分と大胆な奴だと思うも、そいつらはミクが寝ていると思ったのか堂々と侵入。
背中に翼を持っている事から悪魔だと分かるが、それが三人も居る。もしかして生贄を使って呼び出したのだろうか? その三人は入ってきてすぐ、ミクの鼻と口を布で塞ぐ。どうやら睡眠薬のようだ。
「この女か、異常なほど強い魔力と闘気を持っているのは。いったい何者だ? この女は」
「どんな奴でも構わん、我等の贄になるだけだ。薬を使ってから連れて行くぞ」
「早くしよう。大きな音を立てるわけにもいかん。最近は人間種にも反抗的な者が出てきているからな」
三人の悪魔は注射器を持ち、中に入っている黄色い液体をミクに注入した。すぐに一人が窓から外に出ると、外でホバリングしながらミクを受け取る。ミクは担がれたまま三人の悪魔に何処かへと連れ去られていく。
ヴァルは部屋の中に置いてけぼりだが、既に大元に戻っているので何時でも出せる。方角的には南に連れて行かれてるっぽいので、このまま寝たふりを続ける分体。
怪しまれずに侵入出来るので本体は喜んでいるが、おざなりになっているので怒るローネとネル。貴女達は本体とナニをヤっているんですか?。




