0135・ダンジョン攻略終了と皇太子の死亡
ミクとヴァルは更に先へと進んで行く。28層と29層を越えたのだが、30層は何とボス部屋だった。今までと違って2層しかなかったが、ここが最奥だろうと準備を始める。すると本体空間に<空間の神>と<創造の神>が来て観戦し始めた。
今日は煎餅と緑茶を持って来ているらしい。何故渋いセットなのか知らないが、準備が出来たミクとヴァルは中に入る。すると、出てきたのは身長2メートル50センチほどの男性だ。腰布を巻いて髭モジャの人間種のような姿だった。
手には剣身2メートル程の剣を持ち、それ以外は何も持っていないし身につけてもいない。その男性は目を開くや、凄まじい速さで突っ込んできた。そして力任せに剣を振るう。ミクはメイスと鉈で受け止めるものの、大きく後ろへと吹き飛ばされた。
尋常ではないパワーとスピード。それでも飛ばされるだけで済んでいるミクを見ると、大柄の男性はニヤリとし、すぐに走りこんできた。その男性に横からヴァルがバルディッシュを振るうも、剣で防がれ弾き飛ばされてしまう。
ミクはヴァルに大元に戻るように言い、メイスと鉈を仕舞うとドラゴンバスターを取り出す。それを見た男性の口角は更に吊り上がる。後は怪物二人が力比べをするだけであった。どちらもが武器を叩き付け合いながら笑う。
ミクが相手の武器を弾き飛ばして収納すると、今度は二人が殴り合いを始める。一発殴られると、お返しに一発殴る。ひたすら全力で殴り合い、化け物同士の力比べはミクに軍配が上がって終わった。男性は楽しそうな笑顔のまま消えていく。
それを見て<空間の神>と<創造の神>が爆笑していたが、ネルが何とも言えない顔をしていた。自らの生みの親のだらけたアレな姿を見たのだから仕方がないとは思うが、文句を言う所も無いので諦めたようだ。
最奥の部屋の中央に魔法陣が出現し、金属の棒が出てきた。脱出の魔法陣はともかく金属の棒は意味が分からないので、脱出する前に<鑑定板>で調べてから出る事にする。ついでに剣も調べる為に出すのだった。
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<巨人の剣>
フィランオルド帝国のダンジョン、その最奥に居たジャイアントが持っていた剣。切れ味は普通だが、異常なまでの頑丈さを誇る。岩に叩きつけても傷付かない程であり、ジャイアントの膂力に耐えられる特別仕様。ダンジョン産。
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<雷撃棒>
見た目は唯の金属の棒だが、魔力を流すと先端から雷撃を放つ。相手を感電させる程度から、敵の肉を焦がす程にまで威力を調整できる。非常に優秀な武器だが、持ち手部分以外を持つと感電するので要注意。ダンジョン産。
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『どちらも優秀だな。特に巨人の剣は主にとって使いやすいんじゃないか? メイスも鉈も傷付いているみたいだしな。にも関わらず、何故かその剣は傷付いていないようだ。それほど頑丈なら主も使えるだろう』
「まあ、多分使えるだろうと思うし貰っておくけど……変なボスだったね。力比べに殴り合い。しかも、それを楽しんでいるフシまであった。最後は満足して倒れた気もするし、本当に変なボスだよ」
そう言いつつも、考えても分からない事は放り投げて脱出の魔法陣に乗るのだった。
外へ出たミクとヴァルは帝都へと戻り、夕食を食べに行く前に宿へと戻るのだった。しかし、ナナは部屋に居なかったので二人で食堂に行き夕食を食べる。食事も終わり、部屋に戻ったもののナナは帰っていなかった。
何か変だと思い、感知系の五つのスキルで調べると、どうやらナナは帝城に居るらしい。居場所が分かったのでとりあえず侵入しようと思っていると、この部屋を監視している者を発見した。
ミクはベッドに入り寝たふりを開始する。そのまま監視を続けていると、こちらを見張っていた者達は宿に侵入してきた。高級宿だが裏取引でもあったのか、何にも阻まれる事なくミクの部屋までやってくる。
そいつらは部屋の鍵を難なく開け、中に皿を入れると草を燃やし始めた。どうやら麻痺させる煙を発生させる物らしい。ある程度待ってから侵入してきた奴等は薬を飲んできているのだろう、問題無く動けている。
ミクは極めて濃縮した麻痺毒を侵入者に直接注入し、全員麻痺させたら扉を閉める。どうやら直接注入された麻痺毒を無効化する事は出来ないようだ。いつも通りに尋問すると、帝国に潜んでいる神聖国系の組織だと判明。
そいつらのアジトも聞きだし強襲する事に決める。ちなみにグレータークラスのコボルトをナナに嗾けたのもコイツらだと分かった。何処かから依頼があったらしいが、下っ端では依頼元は分からないようだ。
ヴァルに後を任せて、ミクは窓から外に出てスラムへと移動を開始する。帝国では商人などに成り済ます事はしなかったらしい。裏組織に扮した破壊工作員だが、何処の国でもやる事が変わらない連中だ。
スラムのアジトを強襲し、手当たり次第に食べて行くミク。乱雑に建物が建っていて密集しているが、ミクにとっては隠れる所と隙間が多くて都合が良い。そうやって手当たり次第に麻痺させて食っていき、ボスの所まで来た。
さっさと麻痺させて尋問したところ、依頼者は皇妃であり組織と繋がっているらしい。これは皇妃が皇帝に輿入れする前からであり、皇妃の実家と繋がっているそうだ。
ナナを始末する依頼が来た際に、<幸福薬>で魔物を操る実験をしたそうである。あのコボルトは元々普通のコボルトだったらしいのだが、<幸福薬>で従えた後に殺戮を繰り返させたらしい。その結果、グレータークラスにまで上ったようだ。
相変わらず滅茶苦茶な事をする奴等だが、だからこそ遠慮なく潰せるというものである。ミクはボスの脳を食べてから転送し、帝城へ向けて出発。すぐに入り込み、まずは皇妃の部屋を探してウロウロする。
おそらく高い所に居るだろうと思いつつ探しているのだが……未だに起きている者が居る部屋があった。なのでその部屋を調べたのだが、そこが皇妃の部屋であり驚く。何やら部屋で妙な儀式っぽい事をしているので、麻痺させてから尋問する。
すると、ナナを呪っていた事が判明。呪いを人間種が都合良く利用するなんて不可能なのだが、コイツはそんな事も知らないらしい。指向性を持たせる時点で理性がある訳で、そんなものがある以上呪いなんて生まれない。
呪いというものを生み出す為には、完全に意識を呪いで塗り潰す程の怨念が無ければ不可能だ。コイツにはそれが無い、何故なら欲から来ているからだ。呪いを生み出すというのは、ある意味で純粋でなければ無理である。
呪いの講釈は横に置いておくとして、相手は皇妃なので困ったミクは、媚薬を大量に注入して破壊する事にした。こうすれば四六時中”アレ”の事しか考えられない者が出来上がる。以降は変な儀式も、暗殺依頼もするまい。
ついでに皇太子の部屋も聞き出していたので移動し、部屋に入ったものの臭いがおかしい。甘ったるいような香の臭いがしているのだが、寝ている皇太子に近付いて確認すると既に死亡していた。
ミクは部屋を出て近くのメイドの部屋へ行き、そこのメイドの脳を操って事情を聞くと、どうやら今日の昼には死亡が確認されたらしい。その事で皇妃が半狂乱になっていたそうだ。それでナナが帝城に居るのかと理解する。
これ以上は城に居ても意味が無いので、ミクは宿に戻ってヴァルと交代し、肉体を停止した。とりあえず朝まで待とうと思いながら。




