0134・帝国のダンジョン攻略
明けて次の日。大満足したナナは気分良く起きると、既にミクは起きて椅子に座っていた。相変わらず抜群のプロポーションをしており、その美しさは女性の自分でも欲情するほど。そんな思いを抱きながら朝の挨拶をする。
「おはようございます、お姉様。今日はいった……? それは、盾とメイスですか?」
ミクの目の前にあるテーブルに載っているのは、円形の盾とメイスだった。よくある鉄を貼り付けた盾に、柄まで鉄で出来たメイス。そういえばミクも総鉄製のメイスを持っていたなと思い出す。
「それはお姉様のメイスですか? でも、確かお姉様の持っていらっしゃったのは、もっと柄が太かったような……。お姉様の物より細くて短いですね」
「テーブルの上のはナナにあげる為に作った物だよ。情報を得る為に色々したとはいえ、死なれると納得いかない程度には思い入れもあるしね。だからそれを作ったの。盾は知り合いが作ってくれたから」
「え? ……ええ。よく分かりませんけど、分かりました。ありがたく、お受け取りいたします」
「とりあえず、一度鑑定してからね。私も鑑定してないから、どうなってるか分からないし」
ミクはアイテムバッグから<鑑定板>を出し、メイスから鑑定していく。その鑑定結果に目を剥くナナ。そこには当然とも言うべき、規格外の結果が映っていた。
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<竜鉄のメイス>
とある存在が、フィランオルド帝国の第一皇女ナナドーアの為に作ったメイス。非常に高品質の竜鉄が惜しげもなく使われており、とても頑丈な物となっている。珠玉の一品。
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<竜鉄のラウンドシールド>
とある存在が、フィランオルド帝国の第一皇女ナナドーアの為に作った盾。竜鉄をとある存在が作り、残りの部分は<※※の神>が助言をし、創半神族が作製して完成させた品。珠玉の一品。
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「………」
確かに<鍛冶の神>が助言をしていたが、またもや神どものアピールがある。この微妙にアピールしてくるのが気に入らないミク。アピールするなら隠すなと、どうしても思ってしまうのだった。
その二つを渡し、代わりに元々持っていたメイスはミクが貰っておいた。ネルが鋳潰して使うだろうとしか思っておらず。ちょうど良い物を貰ったという認識しかしていない。ナナからすれば、とんでもない物との交換だが。
「そういえば私、今日はダンジョンに行くからナナは好きにしてていいよ。流石に私とヴァルのダンジョン攻略には連れていけないからね。ダンジョンは一定の層を超えると、神どもの殺意が高過ぎて死んじゃうからさ」
「………えっと、神様の殺意ですか?」
『ああ。暑すぎて人間種には耐えられない砂漠とか、寒すぎて人間種には耐えられない氷原とかな。後は大量のアンデッドが出没したりだ。とてもじゃないが普通の人間種では突破できん』
「………えーっと、そこにお姉様もヴァル殿も行かれるのですよね? ……ああ、肉塊? だから暑さも寒さも通じないと。そういえば人間種じゃ無かったんでしたっけ?」
「何故疑問系なのか分からないけど、私は元々星を滅ぼす為に生み出された肉塊だよ。それを神どもが自分達に叛逆するものを滅ぼす為に改良したの、それが私。私としては喰えるならどっちでも良いからね」
「まあ、分かりました。急に休みになりましたけど……どうしましょうか? 何かやる事ってありましたっけ?」
「適当に狩りにでも行けば? もしくはゆっくり寝ておくとか。私は寝る必要も無いけど、普通の人間種なら要るでしょ? ま、とりあえず喋ってても仕方ないから、食堂に行こうか?」
その一言で部屋を出る三人。宿の延長をした後に食堂へ行き、朝食を食べたら別れる。ミクとヴァルは冒険者ギルドに行き、地図を買ってから帝都を出た。
帝都近くのダンジョンへ行き、列に並んで順番を待つ。ここでは下らない事に巻き込まれる事もなく、ダンジョンへと進入。
1層は平原で所々に魔物がいる。植物の魔物が多いが、どうやら食べられるらしい。見た目は巨大な野菜の収穫にしか見えないのが何とも……。微妙な気分になりながらも走って行くヴァル。
帝国は3層毎にボスが出てくるという、ボスラッシュのようなダンジョンだ。それなりに厳しいが、ボスの内容は大したものではない。最初のボスはゴブリン十体。サクサク殺して先へと進む。
4~6層も平原で一気に進む。7層のボスはコボルト十体なので、これもあっさり倒して先へと進む。8~10層は草原で、11層のボスはフォレストウルフ十頭。連携は上手いがそれだけだ。さっさと倒して次へ。
12~14層も草原なのでパターンは確定だろう。15層のボスはフォレストベア十頭。ここからはそれなりに厄介になってくるようだ。普通ならば人数を使って倒すのがセオリーとなるが、二人でサクサク倒して次へ進む。
16~18層は石壁迷宮に変わり、19層のボスはハイゾンビが十体。これも楽々倒して次へ。20~22層も石壁迷宮で、23層のボスはハイレイスが十体だった。ミクにとっては楽勝だが、ここにきて殺意が急激に上がる。
24層は火山であり、砂漠とは違う灼熱となっていた。
『ここもか……。俺と主ならば何の問題も無いが、明らかに殺意が急上昇したな。相変わらずだが本当に容赦が無い。全てを使って殺しに掛かっているとしか思えないぞ』
「まあ、神どもからしたら実力のある奴ほど危険だからじゃない? そういう奴が善からぬ事を考えたら……と思うのも分からなくは無いけどねえ」
そんな暢気な会話をしながらも、火山地帯を一気に走って行き、魔法陣を見つけては先へと進む。地図自体は20層から既に無いが、そこまでで十分でもある。後は自力で攻略すればいいだけだ。
27層のボス部屋前に来たものの、<空間の神>が来ないならば最奥ではないのだろう。とはいえ、しっかりと準備してからボス部屋の中へと入る。扉が閉まりつつ出現したのは、大きな赤い亀だった。
ソイツはミクとヴァルを見つけるなり、唾を吐くように赤いものを飛ばしてきた。ミクとヴァルは素早く回避するが、地面に落ちた赤いものは「ジュージュー」と地面を溶かしている。
『主、気を付けろ! アレはかなりの高温だぞ! 主は無事でも、また防具が壊されかねん』
「私の心配よりも、防具の心配をしなきゃいけないんだよねえ。まったく面倒臭い!」
ミクもヴァルも素早く左右から近づいて行く。しかしそこは亀、素早い噛み付きで攻撃してきた。しかしそれより速く動けるミクは、伸びてきた顔面にメイスを叩きつける。「ガァンッ!」とやられた亀は怒り、更に噛み付く。
とはいえそれは、後ろに回ったヴァルが後ろ足を切り裂くまでだった。バルディッシュで攻撃したヴァルは、右後ろ足を半ば以上切り裂き、その痛みで絶叫する亀。慌てて甲羅の中に潜りこむ。それが悪手だと知らず。
ミクとヴァルは亀の甲羅の上に登り、ミクはメイスで、ヴァルはウォーハンマーで【深衝強撃】を放つ。中まで浸透する攻撃に亀は再び絶叫するも、背中の甲羅の上は攻撃出来ない。
結局、中身が潰されるまで攻撃され続けて終わった。甲羅の中になど逃げるから最悪の結末に陥るのだが、どのみち動きがトロい時点で終わりは見えていたとも言える。
悲しい結末ではあるが、最奥でもない以上は二人もこんな扱いしかしないだろう。食べる気も無かったようなので。




