0133・ナナとの話し合い
食事を終えてすっかり満足したミクは宿に戻ろうとし、周りを兵士に囲まれた。先ほどの男が全て白状したらしいが、それでも話を聞く必要があるらしい。食事を終えていたミクは、ナナも連れて兵舎へと行き話していく。
一番ボロの剣で一番太い丸太を切った事には驚いていたが、呪いの剣と言われて賞品を取り出す。<浄化魔法使い>が来ていたが、ソイツが呪いが無い事を告げている。兵士も疑問に思ったが、男が連れてこられて間違いが無い事が証明された。
呪いが無いのは奇妙だが、だからといって男の罪が無くなる訳ではない。呪いの剣なら没収する必要があったのだが、呪いが無いので剣はミクに返却された。それを持ってナナと一緒に宿へ戻るのだった。
部屋に入ったナナは、呪いが無くなっているなんて不思議だと言い出したので、本当の事を教えてやる。今さらだし、おそらく口を噤むだろうという予想もあった。
「呪い付きの剣を渡した筈なのに、その剣には呪いが無かった。不思議な事もあるものですね? 勝手に呪いが浄化されるなら、誰も困ったりしないのですが……」
「呪いが無いのは本体が食べたからだよ。私はそもそも人間種じゃないし、アンノウンである<喰らう者>だからね。私にとっては呪いだって食べ物でしかない」
「…………?」
あまりにも突拍子も無い事を言うので、ナナの脳細胞は理解を拒否したらしい。なので懇切丁寧に教えてやった。自分がアンノウンである事、全てを喰らう者である事、そして<暴食形態>を見せてやっとナナは理解した。
絶叫を上げそうになったので慌てて触手で口を塞ぎ、女性形態に戻る。何故か裸のミクにナナがまたしても驚くが、<暴食形態>になると服などを破壊してしまう為、収納してから変化している事を説明すると納得したようだ。
騒がなくなったので触手を外して下ろしてやると、ミクを見て溜息を吐いた後で色々な事に折り合いをつけたらしい。その後はベッドに座って話していく。
「何故、話してくださったのです? 黙っていても良かったと思うのですが……。話して下さった事は、一定の信頼を得られたからだとは思います。ですけど……」
「一つ目は呪いの事があって誤魔化せない事。二つ目は話したところでどうにも出来ない事。三つ目は誤魔化す際に協力させようという事。この三つを考えて話したんだよ」
「ああ、そういう事ですか。まあ、アンノウンの方が居て、我が国が敵になれば滅ぼされるだけですし。そしてヒステリーを起こしている方が居ると……。結構マズい状況ですね」
『そうだな。気を付けなければ、主が暴れ回っても知らんぞ? 一度ペイダ町で主は本質を解放したからな』
「!? ……これがヴァル殿の声ですか。まさか使い魔で、こちらを監視されていたとは……。それでも今まで何も無かったという事は、問題無しという事でしょうか?」
『問題が云々は関係無いな。そもそも俺は主のストッパー役のようなものだ。主の暴走を抑える役目というかな。その俺が居て、ペイダ町のアホどもは主を激怒させた訳だ』
「いったい何があったのでしょうか……。すっごく嫌な予感がするのですが?」
『主は<喰らう者>だ。食べる事は主の存在意義そのものと言っていい。あそこの馬鹿な兵士は、食事中の主の食べ物を全て床にブチ撒けやがった。それは<喰らう者>の否定に他ならない』
「何て事を……。いえ、それ以前に兵士がそのような事をやったのですか!? 何を考えているのですか、その町の兵士は!! 頭がおかしいとしか思えません! そもそもですが、その者どもは本当に兵士なのでしょうか?」
『さあな。そいつらは主の本質を見る事になり、完全に壊れた。だからそこで終わりだ。そもそも主の本質は星を滅ぼす者であり、たった一人で星に生きる者を全て喰い荒らせる。それを悪党潰しに変えたのが神々なんだよ』
「か、神々が左様な事を……? いったい何故?」
「簡単に言えば、神を信じないクソどもが悪辣な事ばっかりやってるからだってさ。ちょっと行ってゴミどもを喰ってこいって事。それに選ばれたのが私だね。神どもはゴミを滅ぼしたい、私は肉を喰いたい。神どもと私は利益が一致してる」
「………」
唖然とするしかないのだろうが、ミクの言っている事は唯の事実なので、幾ら考えても無駄である。神の決定事項を覆せるものは殆どいない。いる事にはいるのだが、それは【世界】だけである。
ミクは色々な事を考えているナナをスルーし、アイテムバッグから<鑑定板>と呪われていた剣を取り出した。それを<鑑定板>で鑑定する。
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<苦痛の魔剣>
とある存在が呪いを貪り、その苦痛と嘆きがこびり付いて生まれた魔剣。切りつけた相手に、喰われた呪いの痛みと苦しみを強制的に与える。尚、剣の切れ味は悪い。
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『また微妙な鑑定結果と言わざるを得ないな。苦痛を与えられるとなれば強力な魔剣と言えなくもないが、元が悪すぎて鈍器みたいな扱いしか出来なさそうだぞ?』
「それは仕方ないね。苦痛を与えつつ殺さない拷問道具と思えば使い道はあるんじゃないかな? その方が喰われた呪いも納得しそうな気はする。ある意味では便利な魔剣だよ」
「………いやいや。切れ味が悪いなら本当に拷問道具でしかありませんよ。あまりにも滅茶苦茶すぎます。そもそも呪いを食べたら魔剣になるって、意味がまったく分からないのですが?」
「それはねー、私にも分からない。何故か必死に自分を残そうとするらしくてさ、気付いたら効果がこびり付いて残ったりするんだよ。<恐怖の魔剣>とか<発情の魔剣>とか」
「………」
『そもそも主はアンノウンだ。それを常識で計るのは無理だぞ。非常識を常識で計ろうとしても、上手くいく事は絶対に無いからな』
「………ハァ。どうやらそのようですね。何か考えるのがバカバカしくなってきました。それに”お姉様”はずっと裸ですし、足を組みかえるとチラチラ見えますし……。私を誘ってるんですか?///」
「うん? 私はどっちでもいいよ。そもそも快楽とか感じないし、気持ち良さもよく分からないけどね。黙っててくれるなら御褒美あげてもいいかな」
ミクはナナの顎を人差し指でツツーっと撫でていく。それをされたナナは無言で服を脱いでいき、裸になるとミクを自分のベッドに誘う。どうにも我慢できないらしく、「早く早く」と言って急く。
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ナナは最初に生まれた皇帝の子であり、庶子でしかない為に頑張ってきた。皇帝の最初の子として母親に甘える事も無く、助けを求める事も無く頑張ってきたのだ。その反動が閨だと出てしまうのだろう。
ミクを「お姉様」と呼んでしまうのも、それに起因するらしい。誰かに甘える、誰かに頼るという事を、心の何処かで求めていたのだろう。それを行為の最中に語っていた。
ミクが秘密を教えてくれたので、自分も教えようと思ったらしい。とはいえ、大半の情報は聞いてもしょうがないナナのプライベート情報だった。ミクはそこまで踏み込む気は無い。
その本人は大満足して今は寝ている。ミクは折角なので、ナナにメイスと盾をプレゼントしておく事に決めた。最初に会った時に妙なのに狙われているし、気を付けておくに越した事は無い。
そう思い、竜鉄を被覆したラウンドシールドと、竜鉄のメイスを作っておいた。明日の朝に渡せばいいだろう。未だナナは新しい盾を買ってないし。




