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0132・屋台で呪い付き (二回目)




 帝都に到着した次の日。朝起きたミクは準備を整えつつナナを起こす。ナナも直ぐに朝だと理解したのか素直に起きた後、身だしなみを整えて準備する。部屋の延長を行ってから食堂に行き、朝食を注文して待つ。



 「そうなのですか? ……まさか侯爵家出身の皇妃様がお母様にコンプレックスを抱いておられるとは。人の心の中など分からないものですね。単に皇太子殿下よりも良い成績を出したから目の敵にされているとばかり……」


 「まあ、それも間違ってないみたいだけどね。とはいえ重病になっているみたいだし、こっちに関わっている暇なんて無いと思うけど、関わってきたら逃げるだけだよ。治してやる義理も無いし興味も無い」


 「えっと……そのおっしゃりようだと、治せるという風に聞こえるのですが……」


 「多分だけど治せると思うよ? 私、<紅の万能薬>を持ってるし。でも、いちいち面倒な奴に使ってやる義理も無いから、使わないし渡さないけどね。そもそも貴族に関わりたくないのに、皇族なんてふざけるなって思うよ」


 「………おっしゃられる事も分からなくはないので、私としては何とも言えません。正直に言って外に出なければ分からなかった事でしょうが、出てしまうと色々知る事になりますから……」


 「そりゃあねえ。横暴な連中なんて嫌われて当然なんだよ。勿論まともな奴も居るけどさ、それが少なすぎるんだよね。幾らなんでも顔をしかめるくらい少ないってどうなの? って思うのは当然でしょ」


 「………」



 ナナもミクの言いたい事は分かるのか、黙る事によって肯定している。そんな朝食も終わり、せっかくなので町中を色々見て回る事に。ナナに案内されながらフラフラ平民街を見て回っているのだが、昨日と同じ奴が尾行している。


 近衛の連中だし、手を出すと面倒にしかならないので意図的に放っているが、ミクは鬱陶しさを感じてもいる。とはいえ、ここで大きな揉め事を起こしても得は無いので、意識から外す事にした。最低限の警戒で良いと判断したらしい。


 帝都の武具を見て回ったり、ここにもある道場などを見て回る。帝都にあまり道場が無いのは、有名所は地方に分散させたからだ。元々帝都にあった古い流派を地方に招聘しょうへいしたのがキッカケで、今は地方に根付いている。


 帝都は近衛の流派があるので、そこまで必要でもないのだろう。そうナナは説明してくれたが、何となく近衛の流派が他を排除しようと働きかけたんじゃないか? ヴァルはそう考えているようだ。


 適当にフラリと入った食堂で昼食をとり、再び帝都内をフラフラと観光する。遊びの屋台などもあったが、圧倒的に武に寄っているのは流石帝国と言わざるを得ないだろう。そこに一つ目を引く物があった。


 それは立てられた木を切る事が出来るかというものだった。細い物から太い物まで。一振りで切る事が出来れば商品か賞金がもらえるそうだ。最も太い木を、最も質の悪い剣で切れれば最高賞品か最高賞金が貰える。


 多くの者が挑戦していて失敗しているが、先ほど<普通>を成功させた人がいて盛り上がっている。質の良い剣で細い木を切るのは難しくはないものの、素人では当然上手くいかない。そんな中、綺麗に切った人物が現れた訳だ。


 盛り上がって「俺も、私も」と挑戦しているが、それは盛り上げる為に見せたパフォーマンスだろう。そう思いながらも切れるのかどうか見るミクとナナ。どっちでもいいヴァルは興味無しで丸まっている。



 「やっぱり一振りで切るって難しいんですね。一番細いのは枝みたいですけど、一番太いのは丸太ぐらいありますよ。挑戦する人が居ますけど、あんなの切れる訳が無いですよね?」


 「いや、切ろうと思えば切れるけど? あの一番質の悪い刃毀はこぼれしてる剣ででしょ? 余裕、余裕」


 「ほう! そちらの美人な方が、この丸太を切る事が出来るとの事です。是非チャレンジしていただきましょう!! こちらへどうぞ!」



 どうぞと言いつつ、出来る訳が無いだろうと腹の中で笑っているのが分かる。そんな表情をしながら言ってくるので、ミクは参加料の大銅貨5枚を渡してチャレンジを始める。持ったのは刃毀はこぼれしてボロボロの剣だ。


 そして一番太い丸太の前に立ち、八双の構えをとって静止する。辺りに静寂が広がるものの、目を開いたミクは袈裟に振り下ろす。それは誰にも見えない程に速き斬撃だった。



 「カァァァァーーーーッ!!!」



 裂帛れっぱくの気合いと共に振り下ろされた剣は、丸太を素通りするように振り抜かれる。その後、構えを戻したミクが地面を足で「ドンッ!」踏むと、丸太は斜めにズレて落ちた。



 「「「「「「「「「「おぉーーーーっ!!!」」」」」」」」」」



 見事に丸太は切り裂かれ、斜めに両断されていた。まるで漫画やアニメのように切り裂いたのだから、観衆が騒ぐのも無理は無い。そんな中、信じられず呆然としているのが店の店主だ。


 それでも結果は結果、ミクは店主に最高商品を要求する。店主は狼狽うろたえるものの、今さら用意していませんとか、渡せませんは通用しない。苦渋の顔をしたものの、用意してあったらしい剣を持ってきた。


 事前の商品欄には魔剣だとしか書かれていなかったのだが、店主に聞くも何故か喋らない。ミクが再度問いただすと、ついに折れたのか話し始める。実は魔剣と言われて買ったが、本当かどうかは分からないし調べていないと。


 これには観衆も大ブーイングだが、ミクは屋台だし仕方ないとして魔剣という剣だけ受け取って去る。慌ててナナは追いかけるものの、何故ミクが納得したか分からなかった。とはいえ本人が納得しているならと、思考を切り替える。


 ナナには話せないが、ミクは持つ前から呪いの剣だと理解していた。またもや露店で呪いの品だが、ミクにとっては悪くない。むしろ良かったとさえ言えるものだ。だからこそ店をさっさと後にした。どうせ後で魔剣に変わるし。


 それなりに時間が過ぎていたので、ミクとナナは少し早い夕食を食べに行く。昨日と同じ酒場に行き、夕食を注文したらミクはトイレへ。そこでアイテムバッグを本体に渡し、本体は呪いを喰らってからアイテムバッグに入れて戻す。


 それを終わらせてからトイレを出る。ちょっと時間が掛かったものの、ナナには不審がられていない。その後は適当に雑談しながら待っていると、先ほどの店主が兵士を連れて店に来た。


 何だアレはと思っていると、店主がミクを指差して兵士が一気に走ってくる。いったい何だと思うも、兵士は訳の分からない事を言い出した。



 「お前が呪われた武器を持っていると通報があった。アイテムバッグの中にあるそうだが出してもらおう!」


 「は? 呪われた武器? ……いったい何の事?」


 「しらばっくれるな! 私は見たんだぞ! 綺麗な装飾の付いた怪しい剣をお前が持っているのをな!!」


 「……仮に私がその剣を持っているとして、何故それが呪いの付いた剣だと分かるの? あと、その剣はコイツが店主をしている店で賞品として貰ったんだけど?」



 そのミクの言葉を聞いて、呪いと聞かされ焦っていた兵士も落ち着きを取り戻す。何故呪いの剣だと分かったのか? 確かにこの男の言っている事はおかしい。見ただけで呪い付きと判断するのは難しいからだ。



 「この女性が言っている事が事実ならキサマ、呪い付きだと知っていて渡した事になるぞ? そうなると処刑まで行くんだが……本当の事を話せ。お前が言っている事は怪しい」


 「い、いえ! わ、私はみ、見たんですよ! 呪いが付いているのを! で、ですから……」


 「とりあえず兵舎まで来てもらおうか、あまりにもお前の言っている事はおかし、おい!? キサマ! 待てっ!!!」



 問い詰められて態度が急変した男は、ついに脱兎の如く逃げ出した。そもそも呪い付きの剣など既に無いのだが、そんな事は教えてやる必要は無い。


 そう思っていると夕食が来たので、先ほどの出来事を放り投げるミクだった。


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