0131・帝都フィーラ
食堂での食事を終え、宿の二人部屋に戻る二人。ナナは食堂での話を思い出したのか、部屋に入る前から顔が赤い。それはむしろ期待してるのか? と思うヴァルだが、ミクはスルーしている。言い出すまで無視するつもりのようだ。
この辺りの地理をナナから聞き、その後はベッドに入って寝転ぶミク。その横で丸まったヴァル。そのまま分体を停止しようかと思った矢先、ナナがベッドから起きて恥ずかしそうに頼んできた。
ミクも自分がやらかした事の後始末なので構わないかと思いつつ、ナナの相手をするのだった。今回は媚薬を使っていないのだが、始めるとスイッチが入ったのかミクを「お姉様」と呼ぶナナ。やはり何かしらの願望持ちらしい。
そんな事は気にせず満足させてやり、ナナを寝かせるミク。それを見て、順調に依存してないか? と思うヴァルであった。
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明けて翌日。今日はカント町から一気に進んで行くつもりなので、早めに起動してナナも起こす。ミクは準備を整えているが、ナナは朝からヤると思ったのか恥ずかしそうに断ってきた。
「お姉様、流石に朝からはイケナイと思います///。別にお姉様の事が嫌いとか、そういう事ではないんですよ? でも、朝から爛れた”性活”というのは流石に///」
「何か勘違いしてるみたいだけどさ。昨日言った通り、今日は帝都まで行くから早めに出発するよ。だから急いで準備してね?」
「//////」
盛大に勘違いした事を理解したらしく、赤面しながらも朝の準備を整えていくナナ。元々皇女だったのに色ボケしてどうする? と思うが、皇女だからこそ免疫が無かったのだろうか? 微妙に判断に困るヴァル。
そんな事は気にせず準備を終えさせると、さっさと朝の食堂に移動して食事を注文した。殆ど客が居ない朝早くに食事を済ませ、町を出たらヴァルに乗って移動する。このまま帝都まで一気に進む。
カント町から北西にリュイ村、イスグ村、ドルイム町。そしてその西に帝都フィーラ。徒歩の冒険者や商人の馬車の所為で進み辛かったが、何とか目的の帝都に到着する事が出来た。当たり前だが、驚くほど速い旅路である。
入り口の列に並び順番を待つものの、なかなか前に進まない。厳しい審査をしているのか、それともバカが揉め事を起こしているのか。そんな事を考えながら待ち、ようやく順番が回ってきたので登録証を見せる。
あっさりと通過できたが、何故あんなに待たされたのか疑問が尽きないミクだった。
帝都の中に入り、ナナお勧めの宿に行く。それなりに値段が張るらしいが、二人部屋だとそこまでではない。ミクとしてはお金を大量に持っていても困るので、ある程度は散財したいという気持ちもあり丁度良かった。
いい値段の部屋を確保し、酒場に食事をしに行く。既に夕方である為、早く行かないと満席の虞がある。表通りの酒場にしたが、普通の酒場とは違いお上品な感じの所だった。
気にせず入り夕食を注文すると、食事が運ばれてくるまでナナは酒を飲む。ミクは水を飲んでいるが、ナナはミクにアルコールが効かないことを知っているので何も言わない。ところが茶々を入れてくるバカが居た。
「おいおいおいおい、お嬢ちゃん。酒場に来たら酒を一杯は注文するのが礼儀ってもんだろう? 酒が飲めない子供は来ちゃ駄目だぜ?」
既に酔っ払っているらしく、ミクの美貌と酒を飲んでいない事に目を付けて絡んできたのだろう。だからこそ、こんな返しをされるとは思ってもみなかったに違いない。
「私は幾らお酒を飲んでも酔えないから飲んでもしょうがない。お酒で酔える人達が飲めばいいんだよ。私に飲ませても無駄になるだけだから」
「へぇ~……お嬢ちゃん、言うじゃないか! なら俺と勝負しようぜ! 俺と飲み比べをして勝ったなら信じてやるよ。ただし負けたら俺の相手を一晩してもらうぜ?」
「別にいいけど、アンタが負けたら全財産を貰うよ? その条件で良いなら受けてあげるけど……どうする?」
それを聞いていたナナはエゲツないなと思い、ヴァルは相手の男に同情するのだった。どう足掻いても絶対に勝てない相手に喧嘩を売るのは、唯の馬鹿でしかない。本人が気付いてないからこそ出来る事ではあろうが。
「ヘッ! 俺はこう見えてもランク8の冒険者だぜ。ここで逃げたら唯の恥にしかならねえ! この勝負、受けて立とうじゃねえか!!」
相手に体を要求しておきながら、何故この男は格好を付けているのだろうか? そんな愚かな男だからこそ、こうやってあっさり負けるのだろう。
「お……つよ………そくじ………zzz」
どうやら完全に眠ってしまったらしい。床で寝ている男の身包みを剥いでうつ伏せにしたミクは、店側に支払いを済ませて残りを貰った。ランク8の割には大して持ってないが、全て貰って酒場を後にする。
ナナも既に食事を終えていたので宿への道を歩くのだが、後ろを尾行している連中を発見した。その事を理解しながら宿に戻ると、酔っ払ったナナがお強請りしてくるので媚薬でキメて寝かせておく。
ヴァルに頼んで女性の姿になってもらい、ミクは百足の姿になって窓から外へ出る。宿の外まで尾行してきていた奴等は、感知系スキルでマーキングしているので位置は分かる。魂魄や存在を偽装していない限りは問題無い。
そこへと移動していくのだが、帝城の近くまで移動する事になった。どうやら相手は近衛か何かだったらしい。素早く建物に侵入して中を進んで行くと、奥の方の部屋に尾行者の三人が集結していた。
その部屋にドアの隙間から素早く入り、中に居る者の会話を聞いていく。
「間違いなく第一皇女殿下だったのだな?」
「はい、間違いありません。共に居た女はランク10だと帝都の門番が確認しておりました。門番も絶世の美女だったのでよく覚えておりましたから、すぐに判明致しました」
「ふーむ……。それにしても、何てタイミングで帰って来られるのだ。皇太子殿下が重病の折に戻られるとは、また皇妃様がヒステリーを起こされるぞ。何かある度に第一皇女殿下が呪いを掛けているとか言っているそうだからな」
「それはまた……。聞いていたよりも病状が悪化してますね。今までは、そこまで酷くはなかったと記憶しておりますが……」
「第二皇子殿下だよ。第一皇女殿下の弟君も優秀だからな。にも関わらず、自分の息子は大した事が無い。おそらく実家からもボロクソに叩かれてるんだろう。それで余計にヒステリックになっているみたいだ」
「まあ皇帝陛下の寵愛も、元々側室である側妃様にありますからね。愛されないうえに子供も駄目だとなると、正式に皇妃の交代もあり得るのでしょう。幽閉も視野に入ると思えばヒステリーも分からなくはないですけどね」
「そうかもしれんが、付き合わされる方は堪ったものではないぞ。第一皇女殿下を亡き者にしろと言ったりするのだ。そんな事が出来る訳ないだろうに。私の首が飛ぶわ」
「陛下からも遠ざけられかねないっていうのに、何であそこまで酷いんですかねえ?」
「そりゃ皇妃様の御実家が侯爵家だからだろ? 側妃様は男爵家だ。だから見下してたんだろうが、あそこは冒険者から成り上がった血筋だ。余計に見下してたんだろう。我が国はそういう国じゃないっていうのにな」
どうやら愚痴を溢しているだけらしく、特にコレといって敵対する連中ではないらしい。ミクはその部屋をそっと離れ、宿へと戻った。覚えておくべきはヒステリーを起こしている皇妃だけのようだ。
そんな得られた情報をヴァルと共有した後、ベッドで肉体を停止したミク。ヴァルも狐形態に戻り停止して、大元に戻っていった。




