0130・太らない肉塊
「………私は自分でも自負していますが優秀です。そうしなければ価値など無いと思っていましたので。私は皇帝陛下の最初の子なんです。ただし側妃との間の子であり庶子でしかありません」
「そういうのってちょこちょこ聞くけど、面倒臭いよね。それが駄目なら正妻だけでいいじゃんってならないのかな? 私には意味が分からないよ」
「まあ、仰りたい事は分かります。優秀な庶子など疎まれるという事を、当時の私は知らなかったのです。なので優秀であらねばと頑張りすぎた結果、皇妃様と皇太子殿下から酷く疎まれるようになりまして……」
「それで城を出たって事? よく出してくれたねー。そういうのって大抵八つ当たりの道具に使われたり、イジメの道具に使われたりするんじゃないの? 権力者のイジメって酷いって聞くし」
「他の国ではどうかは分かりませんが、我が国では見栄がありますので……。そんな事をすれば皇妃様の実家の名前まで落ちます。それに城の中は噂好きの者が沢山おりますので……」
「そういう奴等に噂されたら面倒な事になるって訳かー。城の中って本当に大変なんだねえ。そりゃ出ちゃうよ、そんな面倒臭い所は」
「まあ、そうですね。それに私が一番得意なのは戦闘だったのです。それで冒険者になろうと思い、そこからは精力的に戦闘を学びました。皇妃様には色々と言われましたが、内心喜んでいるのが丸分かりでしたし」
「はしたないだとか言われたんだ。お前のやっている事の方がはしたない、とは思わないんだよねぇ、ああいう連中は。何でそこまで頭が悪いのかは知らないけどさ。似たような話は色々知り合いから聞いた事があるよ」
「そうなんですね。私も珍しい経験をしてきていると思っていましたが、似たような事が民間でもあるとは……平民の方々も大変ですね」
「私が聞いた相手はゼルダとカレンかな? 二人は色々と経験してきているみたいだし。聞いた事ある? <魔女>とか<黄昏>とか言われてるけど」
二人の二つ名を聞いた瞬間ビックリしたナナ。それを見たミクは素早く触手を使ってナナのコップに媚薬を入れる。相変わらずの早業であり、人間種に認識できる速さでは無い。当然ながらナナは気付かずに飲む。
「……え、ええ。存じております。まさか、ミク殿がランク14と15の有名な方々とお知り合いとは思いませんでっ…したっ……な、に?」
「早速効いてきたみたいだね。喋っている事は本当の事だと思うけど、本当に正しいかは定かじゃない。ここから先は私の質問にキッチリ答えてもらうよ?」
その後、ナナは全ての事を話させられた。本名をナナドーア・ズィル・フィランオルドといい、本当に第一皇女であった事などを含め、ありとあらゆる事を喋ってしまう。
最初は抵抗していたものの、全く経験も無い者であろうが、神の作った媚薬まで使われてはどうにもならない。何度も何度も絶頂し、気付けばミクを「お姉様」と言っている始末である。そういう願望でもあったのだろうか?。
結果として全てを聞きだしたミクは、ナナをゆっくりと寝かせるのだった。その後、多少脳をイジったが危険な事はしていない。依存されても困るので、その対処をしただけである。
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ナナが徹底的にヤられた翌日。ミクは起動し身支度を整えた後でナナを起こした。ゆっくりと目を開けたナナは、ミクを見て昨夜なにがあったのかを思い出したが、そこまで取り乱す事は無かった。諦めている感じもするが……。
「おはようございます。幾ら私が本当の事を言っているか分からないと言っても、昨夜のアレは反則です。ダンジョン産の媚薬など何故持っておられるのか知りませんが、あんなに乱れるなんて……」
「まあ、諦めてよ。申し訳ないんだけど、あからさまに怪しかったからね。あそこまでだと本当の事を聞かないと落ち着かないよ。出来ればもっと綺麗に隠す事をお薦めするし、”怪我”をしてないんだから良いでしょう? ”傷”も付いてないし」
「ええ! 御蔭様で”傷物”にはなっておりません! 何か色々口走ったような記憶はありますが、何故か詳しくは覚えていないんです……。それが逆に怖い感じでしょうか?」
「別に覚えていなくても良いんじゃない? 昨夜使った媚薬は結構強力な物だから、前後不覚になってもしょうがないよ。興奮し過ぎて覚えてないんだろうね」
「だからこそ怖いんですが、まあいいです。悩んでも思い出せないものはしょうがないですし、諦めて忘れる事にしましょう。それで、ミク殿は何処に行かれるんです?」
「私? 私は色々旅をしてるから、この国の首都を目指して移動してるけど? 流石についてくるのはマズいんじゃないの? 妙なのが手を出してくるかもしれないし」
「いえ、そんな事はありませんよ。流石に帝都に近付くだけで手を出されるなどありません。単に帝城に入る事が出来ないだけです。既に皇籍からも抜かれているでしょうし」
「ふーん。よく分からないけど、とりあえず食事に行こっか?」
ナナも準備を整え、ミクとヴァルと共に食堂へと移動する。ちなみにギルドマスターを爺と呼んでいるようだが、色々お世話になった時から呼んでいるだけであり、元執事とかではないらしい。
食堂に行き二人分頼んで食事をし、出発前に店で買い物をしてから出発する。ローネとネルは未だに修行中らしく、ローネには<戦いの神>と<闘いの神>が、ネルには<鍛冶の神>と<衣の神>がついている。
どちらも絶叫しそうなほど苦労しているが、神が手を緩める事は無い。そんな本体空間はスルーして、町を出た三人はヴァルの背に乗って出発する。ナナを前に乗せてミクが後ろに乗る事で、アイテムバッグを見つからずに転送した。
本体が食べ物や酒を抜き取り、アイテムバッグを分体に返す。そんな事をしながら移動し、オプ村、ゼデ村を越えてカント町で休む。この辺りは野菜や穀物の生産地らしい。帝都に供給する為に大々的に開発されたそうだ。
宿の部屋をとった後、食堂に行って早めの夕食をとった。流石に昼食をとらなかったからか、結構な勢いで食べるナナ。いつもは少ない量を三食とるらしいが、今日は昼食が無かったのでお腹が空いたようだ。
ミクは気にせず食べているが、ナナよりもガッツリ食べている。それを見てナナが不思議に思い質問をした。
「ミク殿はそんなに食べて大丈夫なんですか? 確かに昼食は食べていませんでしたが、そこまで食べると太るような?」
それに対し、ミクは自覚せずに禁断の言葉を口にした。
「私? ……私は幾ら食べても太らないし、太った事とか無いから。どれだけ食べても問題無いよ」
肉塊なのだから当たり前だし、プロポーションが乱れるなどという事はあり得ない。だが、それを知らない者からすれば、血涙を流す勢いで殺意を滾らせてしまうのも仕方がない事である。
その殺意にミクは反応したものの、それを見てナナは呆れた顔をした。
「周りの女性がああなるのは当然です。皆がどれほど苦労して体型を維持しているか……。そんな中で、あれ程の美しい体型を何の努力も無く維持しているなど……」
「努力って言うか、戦う事はしてるけど? 私だって何もせずヴァルの背に乗ってばかりじゃないんだけどね」
「まあ、そうでしょうけど、それでも彫刻の如き美しい体型は反則ですよ? あれ程の美が現実に存在するという事自体、初めて知りました。あんな行為の時に知るとは思いませんでしたけど……」
「裸なんて、夜ぐらいしか見るタイミング無いと思うけどね?」
周りから妙な視線というか、一部の女性から熱視線を向けられているのだが、当の本人は理解していない。その事に呆れつつも、一時に比べて平和だなぁ……と思うヴァルだった。




