0129・冒険者ナナ
「つまり何か? お主はあの有名なスキルである【深衝強撃】が使えるのか。それをさっさと言わんか、それなら………いや、それでも強い事に変わりはないの。それにドラゴンスレイヤーだったとはな」
「私も聞いた時には驚いたが、ドラゴンを倒せる者ならばグレータークラスの魔物もソロ討伐出来るのだろう。それにハイクラスか、グレータークラスという言い方だった。グレータークラスといえども下位ギリギリであればな」
「まあ、そうかもしれんのう。とりあえず書く事があまりないが、それが事実なら仕方あるまい。何より<魔窟>であるランク10なんじゃ。中にはお主のような、名を知られていない怪物も居るじゃろう」
「王国のドラゴンスレイヤーは、<暴風><聖人><閃光><魔女><首狩>か。この五人は全員がランク14だと聞くし、王国にはランク15の<黄昏>が居る。帝国とはあまりにも違いすぎるな」
「ランクの高さは強さの指標にはなりませんからな。ランク10以降は、何処に強者が居るかも分かりませぬ。それ故に<魔窟>と呼ばれるのです。流石にそう呼ばれる者を軽んじる訳にもいきませぬしな」
あからさまにナナに対する喋り方が変というか、目上に対する喋り方になっているんだが、ワザとなのか気が抜けているのか。どちらにしてもツッコんでも得は無いのでスルーする二人だった。
「で、分かったんだったら、そろそろ帰っていい? 私まだ宿もとってないからさ、泊まれなくなったら困るんだよ。そっちが世話してくれる訳じゃないでしょ?」
「おお、すまんすまん。もう聞くべき事は聞けたから構わんよ。すまなかったな。報酬は本当にナナ殿に渡して構わんな?」
「構わないよ。金貨が100枚以上余ってるし、端金を貰ってもしょうがないしね。じゃあ、私はこれで」
そう言ってミクはギルドマスターの部屋を出て行く。足下ではヴァルも開いたドアから外へ出て扉を閉めた。ようやく解放されたという思いが強いようで、さっさと宿の部屋を確保しに行くのだった。
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ここはギルドマスターの部屋。ミクが出て行った扉をジッと見ていた二人は、溜息を吐いた後、どちらともなく話し始める。
「爺。あの方を如何思いましたか? 私には裏表の無い方に見えました。というよりも、裏表を作る必要の無い圧倒的な実力を持つ方だと。私にはそう思えるのですが……」
「姫、ワシもそう思います。あの者は何か……得体の知れないナニカとしか思えませぬ。確かにランク10の実力者なのでしょう。ですが……根本的な何かがズレているとしか思えませぬ。グレータークラスの魔物を、羽虫を潰した程度にしか思っておらぬなど……」
「明らかに余裕のある態度でした。正直に申せば、いちいち面倒臭いという程度にしか感じていないのでしょう。その程度で叩き潰しておられました。大して力の入っていない気の抜けた一撃で、グレータークラスのコボルトが死ぬのです」
「滅茶苦茶だとしか言えませぬな……それですが姫、よく御無事で。もう少しで、この爺めが首をもって詫びねばならぬところでございましたぞ」
「止めて下さい、爺。とはいえ、此度ばかりは生きた心地がしませんでした。まさかアレほどの怪物が、こんな町の近くにいるなど……何か作為的なものを感じなくもありませんが」
「それですがな、姫。暗躍している者の目星がついていない訳ではありませぬ。しかし、グレータークラスの魔物を連れてくる。または人為的にグレータークラスの魔物を作るなど、果たして出来る事なのか……」
「グレータークラスの魔物を連れてくるなど、あの方以上の力がなければ無理でしょう。となるとグレータークラスの魔物を作り上げるという方法ですが……そんなものは古今東西において、聞いた事がありません」
「ここ最近、神聖国に関わる者どもが暗躍しているという情報はあります。あの国は<幸福薬>を使うロクデナシの国ですからな……もしかしたら魔物に<幸福薬>を使ったのかもしれませぬ。しかし、あの者は……」
「ミク殿は関係ありませんよ。もしそうなら、あの方が私の命を奪うか誘拐した方が遥かに早いでしょう。わざわざグレータークラスのコボルトを用意する必要もありません」
「ですな。しかし、あれ程の強さの人物が今現れたというのも……」
「私が探ってみましょう。既に皇位継承権も返上しているのです、私が居なくなっても問題はありません」
「姫。左様な物言いはお止めくだされ。姫の希望と政治の事情でございます。政治はともかく姫の希望は姫の責任ですぞ? しっかり生きていただかねば困ります」
「分かっていますよ、爺」
こういった遣り取りも城に居る間は難しかった。今でも城を出て良かったと思える理由の一つです。………さて、ミク殿は我が国に何をもたらす方なのでしょう? 斜陽か破滅か、それとも栄光か。
あれ程の実力の方が何の運命も背負っていないなど、あり得ませんからね。私の力で計る事が出来れば良いのですが……。
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ミクは宿の部屋を確保した後、すぐに酒場に行き夕食を注文していた。少し早かったのか時間が掛かるようだが、ミクは気にしていない。そうして待っていると、酒場にナナが現れてミクとの相席を頼んできた。なので了承する。
「すまないな。ギルドマスターとの話に随分と引っ張ってしまって。私もようやく報酬を受け取って解放されたよ。とりあえず私も食事を注文しよう」
そう言ってナナは食事と酒を注文した後、こちらに話し掛けてくる。ミクは適当に聞きつつ相槌を打ちながら、運ばれてきた食事を食べていく。少し鬱陶しさを感じるも、やはり食べる事はミクにとって癒しである。
機嫌はそこまで悪くならず、気分も良いままだった。そのまま食事を終えて帰ろうとすると、ナナに宿を聞かれたので答えたのだが、どうやらナナも同じ宿だったようだ。なので二人一緒に帰る事にする。
『主。この女は少々あからさま過ぎないか? 確実にこっちを探ってきているぞ。それにギルドマスターの態度がおかしいし、門番の態度もおかしかった。主も気付いているだろうが……』
『ほぼ確実に貴族か皇族だろうねぇ。私にいったい何の用があるのか、それとも何かを探っているのか。ま、どっちでもいいけど、折角だからここ最近やっている事で化けの皮を剥いでみようかな?』
ミクは少々聞きたい事があると言ってナナを部屋へと招き、ナナも聞きたい事があるらしく了承した。アイテムバッグからお酒を出してコップも二つ出し、お互いに乾杯して飲み始める。当然ミクにアルコールは効かない。
今飲んでいるワインは商国のワインで、テオッソ町の質の良い物である。ナナも初めて飲んで美味しいのか、それなりに進んでいるようだ。チーズや干し肉も出しながらミクは聞いていく。
「ナナはさー、貴族か皇族だよね?」
「ブッ!?」
「いきなり聞くのは反則だったかな? でもね、門番からしてダメダメだよ。ランク10の私の登録証より緊張して確認してるし、ギルドマスターは途中で言い直すしさ。私からすれば、むしろバラそうとしている様にしか見えない」
「………ハァ、そこまで酷いものでしたか?」
「その喋り方が素というか元々なんだね。自分が楽な喋り方でいいよ。さっきまでの喋り方、必死に作っている感がアリアリだからさ」
「………そんなに駄目なのですか。頑張っているのですが」
アレで? と思い、呆れるミクとヴァルだった。




