0128・街道のコボルト
朝になって起動したミクは、身支度を済ませてから白耳族の男性を起こす。男性と少し話した後、ミクは宿の部屋を出て食堂へと向かった。男性に聞いたのは体調の事だ。どうやら昨夜搾り取ったが問題無いらしい。
つまり搾り取ってから精力剤を投与すれば、次の日には問題の無い体調まで回復しているとなる。ならば搾っても問題無さそうだと判断するミク。そういう問題なのか? と困惑するヴァル。搾り取ったうえで放置されるよりはマシであろう。
食事を終えたミクは町を出て出発する。次に目指すのは北だ。ヨミテ町からは北に進む事が出来るようになっており、今日は三つ先のバットウ町まで行く。間にエンロ村とセテロ村があるが、そこはいつも通り無視だ。盗賊もいないっぽいし。
帝国は剣術や槍術などが盛んだからか、盗賊業をやっても殺されるらしく、帝国は盗賊が少ないんだそうだ。何でも帝国の自慢の一つらしいんだが、確かに強い奴が多ければ盗賊は減る。単なるカモにしかならないのだから当然だろう。
そんな事を考えながらヴァルの背中で揺られていると、魔物と戦う一人の冒険者が居た。ミクのように強いならソロなのは分かるが、その女性は追い込まれているような印象を受けた。ミクは助けるか悩むが、とりあえず聞く事にした。
「おーい。手助けいるー? 要らないなら返事しなくてもいいよー」
「すまないが、助力を頼む!」
女性が戦っているのはコボルトのようだが、体が大きく手足が長い。そのうえ腕や足は筋肉で隆起している。間違い無くハイクラス、もしかしたらグレータークラスまで到達しているかもしれない程だ。
仕方なくミクは竜鉄のメイスを取り出して【深衝強撃】を使用する。出来得る限り”手を抜いた”結果、何とか脳がグチャグチャになる程度で済んだ。内側から爆散したら目も当てられないところである。
「ハァ、ハァ、ハァ………。申し訳ない、助かった。私の名はナナ。冒険者ギルドのランク7なのだが、ここまで強いコボルトには会った事が無くて困っていたんだ。あのままでは体力が無くなって殺されるところだった」
「私の名はミク。冒険者ギルドのランクは10で、コレが鉄のプレートね。さっきのコボルトは最低でもハイクラス、もしかしたらグレータークラスに入っていたかも……ってところかな? 良かったね、盾を持ってて」
「確かにな……。とはいえボコボコだ。せっかく鉄の盾を買ったというのに、三日でコレとは……。ハァ、仕方ないか」
「そのコボルト売ったらそれなりの金額になるんじゃないの? 言っておくけどそのコボルト、私は要らないよ。ドラゴン狩りまで出来る私には、必要の無いものだからね」
「何と!? ドラゴンスレイヤーだったのか!? どうりで簡単に倒す筈だ。要らないというなら受け取るが、荷車も壊されてしまって弁償せねばならんし……どうしたものか?」
「………しょうがないなぁ。血抜きして持って行ってあげるよ。どうせバットウ町に泊まってるんでしょ? 私もバットウ町に移動中だから良いけど、今回だけね」
「すまない。本当に助かる!」
適当に引っ繰り返して血抜きをし、アイテムバッグにコボルトを詰めたら、ナナという女性もヴァルに乗せてバットウ町まで移動する。ナナはヴァルの背で揺られているが、驚くほど速く移動するのではしゃいでいる。
子供かと思いながらも口には出さないミクと、五月蝿いなと思うヴァルだった。はしゃぐナナを乗せているものの、バットウ町に近かったからかすぐに到着する。
町の手前で降り、ヴァルが小さくなってから門に近付く。門番も最初は警戒していたが、小さくなった事でとりあえず警戒を解いた。ミクが鉄のプレートを見せると納得していたが、ナナのプレートを見る時には何故か緊張している。
多少その事に疑問を覚えたミクとヴァルだったが、気にせず町中に入り冒険者ギルドへ行く。裏に回ってコボルトを出すと解体所の者達は仰天し、じっくりと観察し始めた。通常のコボルトじゃないと一目で分かったのだろう。
「うむむむ……。多分だが、お前さんの言う通りグレータークラスだろうと思う。よくもまあ倒せたもんだと言うべきか、それともこんなのが町の近くにおったのかと驚けばいいのか……困るところだな」
「そうですね。親っさんの言う通り、コレが町の近くに居たってなったら肝が冷えます。流石にちょっとシャレになってませんよ。この筋肉! 触ってみても、生きてる時はガッチガチだったのが分かるってもんです」
解体所の連中の騒ぎを無視し、木板を貰ったらギルドの方へ繋がるドアを開ける。受付に行き精算してもらうのだが、流石に物が物なだけに簡単には支払われないらしい。ミクはナナを残して出ようと思ったのだが、何故か引き止められた。
その所為で残っているものの、正直に言って早く出たいのが本音だ。関係が無いミクが居る必要は無いだろうと思っているものの、今は大人しく待つのだった。
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ある程度の時間が経つと、解体所の方から先ほどの受付嬢と爺さんが出てきた。多分ここのギルドマスターなのだろうが、そこまでする事か? ともミクは思っている。普通の冒険者と違うミクには、事の重大性が認識出来ていなかった。
「すまぬが、あのコボルトを倒したのはお主じゃな? ナナド……ゴホンッ! ナナ殿はランク7じゃ。ソロで倒すような実力は残念ながら無い。となると、お主が倒したという事にしかならん」
「まあ、そうだけど……私は権利を放棄したから、ここに居るナナの獲物で問題無いよ? そもそも倒した本人が権利を放棄すれば、他の者が売っても問題無い筈だよね?」
「まあ、ギルドの規定ではそう決まっとるし問題無いのだがのう……どれほどの強さであったかとか聞かねばならんのじゃよ。アレはワシでも見た事が無いほどの魔物じゃからな、流石に詳しく聞く必要がある」
あからさまにミクは面倒臭そうな顔をするものの、ここで逃げる訳にもいかない為、仕方なくギルドマスターの部屋についていく。ナナも一緒に部屋に行き、今はソファーに座って紅茶を飲んでいる。
「さて、アレはグレータークラスでほぼ間違いないだろうと思われるのだが、いったい何処におったのか分かるかの? どちらに聞けば良いのか分からんが……」
「会ったのは私で、盾をボコボコにされながらも何とか街道の方に後退していった。あまり褒められた事ではないのは分かっているが、あの時はそうするしか方法が無かったんだ。私では勝てない事はすぐに分かったから」
「で、街道を移動していた私が声を掛けて助けた。それで終わる話なんだけど、ギルドマスターの部屋まで来てする話かな?」
「いやいやいやいや。アレほどの魔物との戦いを、そんな簡単な話で終わらされても困るわ。どのように戦いが推移したかをキチンと話せ。こちらは記録にとらねばならんのだ」
「いや、ギルドマスター。見ていた私も同じだ。ミク殿がスキル? を叩きつけたら一撃で死んだぞ。それで戦闘は終わりだ。後は血抜きをして、ミク殿のアイテムバッグに入れてもらったんだが……」
「………お主、グレータークラスの魔物を一撃で倒したのか?」
「そうだけど? 別に対して強くもないんだからさ、何でいちいち大袈裟にするのかな?」
「「いや、それはおかしい!」」
普通の冒険者はグレータークラスの魔物とソロで戦ったりなどしない。戦う場合は入念に準備をし、何パーティーもで徒党を組んで戦うのだ。
というより、ゼルダからそう教えて貰っただろう。と、溜息を吐きながらボンヤリ考えるヴァルだった。




