0120・愚かな商会と次なる国へ
食事を終えた後、宿に帰る道でも後ろから尾行してくる。余程の愚か者なのだろうが、ローネもネルも気付いているようだ。それでもミクが何もしない為、放っておくらしい。何かあっても自分達に被害はないだろうという安心感があるのだろう。
ミクは宿の部屋に戻った後でローネとネルに説明する。「二人は本体空間だから、被害を受ける事は無い」と。そのミクの言葉にゲンナリする二人。これから始まる修行の事を考えると、とてもではないが喜べるものではない。神の子も大変である。
そんな雰囲気の二人をさっさと肉塊で包んで転送し、ミクはベッドに横になって分体を停止する。ヴァルも床で停止させ、後は愚か者が侵入してくるのを待つだけだ。最低限の監視は続けているミクに死角は無い。
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夜も深くなり、やっと侵入してきた犯罪者ども。既にローネの戦闘音と、ネルの槌を振り下ろす音が聞こえるようになって随分経っている。念には念を入れたのか、それともヘタレな所為で時間がかかったのか知らないが、閂を開けて侵入してきた。
部屋に入ってきた連中はローネとネルが居ない事を訝しんだようだが、時既に遅く麻痺毒を喰らって動けない。ミクはベッドから起き上がり扉の閂を閉じる。そして頭の上に掌を置き、脳を操って尋問していくのだった。
内容は実に下らないもので、ゼニカムドという奴が舐められたと思い、一泡噴かしてこいというものだった。ようするにミク達を売り払うという事ではなく、舐められたら負けという理由で襲ってきたようだ。これには流石のミクも呆れた。
商人というよりも完全にヤクザやマフィアの発想なのだから、呆れても仕方がないだろう。もちろんだが、この星はそういう時代でもある。その理屈が罷り通るのも事実だ。とはいえ商国ではなく魔導国でコレなのだから、笑われても文句は言えない。
全て喰らった後でミクは窓から出発する。もちろんヴァルに後を任せて。
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小鳥の姿で飛び、目的の屋敷の屋根に下りたら百足の姿に変わる。小鳥の気配としては感じられても、特に危険視する気配ではない。仮に気になったにしても、百足になっているので気配は追えなくなっている。
【生命探知】なら追えるだろうが、そもそも虫の生命を危険視する奴などいない。良い意味でも悪い意味でも虫の姿というのは便利である。そもそもミクとヴァル以外は生まれ落ちた姿を変える事など出来ないのだが……。
それはともかくとして窓から侵入したミクは、適当に寝ている連中から話を聞いていく。屋敷で働いているだけの者は当然何も悪事を働いていないのでスルーし、とっととゼニカムドの寝室まで移動。
大きなベッドに二人寝ているが、一人は何だか妙に細い優男だった。部屋に麻痺毒を散布してから話を聞いてみると、ゼニカムドのお尻の愛人で、対立する商会のスパイだと判明。これを聞いたゼニカムドは愕然としているようだ。
その事には興味が無いのでスルーし、優男には<幸福薬>と洗脳を施しておく。ゼニカムドからも話を聞くが、やはり<舐められたら負け>をやったに過ぎず、本人には罪の意識すら無かった。よってこちらも<幸福薬>と洗脳を行っておく。
下らない事に巻き込まれたと思いながらも、報復をしておかないと面倒な絡まれ方を続けられるのでしょうがない。いちいち面倒な奴等だと心の中で悪態を吐きつつ、他に悪事を働いている連中も洗脳してから宿の部屋に戻った。
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次の日の朝。ミクは本体空間でローネとネルに帝国へと移動する事を伝えると、<闘いの神>と<鍛冶の神>がこのまま修行を続けると言い出した。どうやら集中して鍛えたいらしい。なので、どうぞ御自由にと言っておく。ミクも散々させられた事である。
二人は愕然としていたが、そもそもミクが止めろと言って止める神ではない。なので言っても無駄な事でしかないのだ。その事を説明するとローネとネルは深い溜息を吐いて諦めた。それが賢明だと二人を慰めるヴァル。
朝になってヴァルドラース達の部屋をノックし、中に入って話をする。といってもミクが帝国に移動する事を伝えるだけだ。ヴァルドラース達はもう少し魔導国内を探索し、色々と悪を潰したら神聖国に行くらしい。
なので向こうでの合流を約束してヴァルドラース達の部屋を後にした。今日の朝は食堂に行き、朝食を注文してゆっくりする。二人が居なくても、食堂なら不審がられないだろう。
朝食を終えて食堂を出ると、色々な店を回って食料と酒を買っていく。特に酒はネルが五月蝿いので多めに買っておいた。諸々の準備を終えて王都デウスを出発する。とりあえずはセモノ町まで戻ろう。
セモノ町から東にレノ村、ウェオ村、ホンデ町、ヨッド村、ポルト村、アスキ町。そして、その東に国境がある。とりあえずアスキ町まで来たものの今日はこれで限界な為、町に入って休む。
普通に考えればとんでもなく速いが、これ以上速いと怪しまれてしまう。<使い魔>を持つ魔女以上の速さを出すと、どう足掻いても不自然になってしまうので仕方ない。宿をとって食堂に向かうミク。
帝国との国境近くの町なだけはあり、鉄を輸入する為の馬車が多く見られる。魔導国は帝国から鉄を輸入しているが、そこまで不足している訳ではない。なのに鉄を輸入する理由は、道具などに使うからだ。
魔導国は魔道具を作っているものの、魔道具に適しているのは魔力を通し易い素材となる。金属でいえば銀か金、もしくは魔力金属がそれに当たるのだが、だからといって魔道具しか作らないという事もない。
魔導国は知識を求める国なだけはあり、悪い面では子供の人体実験だが、良い面では生活を便利にする道具も研究している。そういった研究に鉄は広く使われているのだ。決して怪しい実験しかしていない訳ではない。
とはいえ非道な事はどうしたって目立つので、余計に目に付くのだが……。そういう意味で言えば、次の帝国は正統派の国と言える。帝国というと侵略国家を想像しがちだが、東の帝国は戦闘国家と言われる国だ。
騎士や兵士を鍛え上げ、様々な剣術流派や槍術流派などに魔法の流派。とにかく戦闘に関する事を追求している国であり、強い者が評価されやすい国でもある。
帝国の領地は険しい山地が多く、強くなければ国を守れないとも言えるので当然だろう。ミクとしては自分より強い奴は居ないだろうと最初から諦めているので、観光気分で行くつもりのようだ。
仕方がないのだろうが、強過ぎるというのも大変なのだろう。食事を終えて宿の部屋に戻り、ミクはさっさと寝る事にしたらしい。ヴァルも丸くなって大元へと戻った。
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明けて翌日。宿の部屋を出て食堂で朝食をとったミクは、一路東の帝国を目指す。まだ朝早いので国境に並んでいる人は殆どおらず、スムーズに行けるかと思ったが随分調べられた。
王国から魔導国へは殆ど調べられなかったが、あれでも建前上は友好国だからだろうか? ここではキッチリ調べられたが、疚しい事はされなかったので厳しかっただけのようだ。
東に真っ直ぐ行くとグラッタの町がある事を教えてもらい、ミクは国境を後にする。王国、商国、魔導国で暗躍していた奴等を潰したが、ここ帝国にも手を伸ばしているだろう。
そいつらを見つけ出して肉を喰らう事を楽しみにしつつ、ミクとヴァルは帝国内を進んで行くのだった。




