0119・巨大な鑑定板
ローネとネルを大満足させたミクは、二人を宿の部屋に置いて外を歩き回る。そういえば巨大な鑑定板を見に行くのを忘れていたなと思い、現在そちらの方に向かって移動中だ。ヴァルも一緒にゆっくりと歩いていく。
魔導国が知識に傾倒する国になったのは、この巨大な鑑定板があったからだと言われている。古代の人はこれで様々な物を調べていき、この巨大な鑑定板がとてつもない道具だと理解した。
その後は鑑定板を巡る戦争が度々起きては持ち主が代わり、今現在は魔導国が持っているという事になる。魔導国は無料で使わせているが、使った物の記録は書き記されて提出される決まりだ。つまり、魔導国にとっては鑑定結果の方が重要だと言える。
ミクとヴァルはその巨大な鑑定板の前に居るが、鑑定板というより巨大な鑑定装置だ。板というより台座のようになっていて、そこに置いた物の鑑定結果が大きく表示され、周りにも見えるようになっている。
鑑定板と違い周囲に見られると、場合によっては襲われる事もあるだろう。実際、鑑定結果を見て襲撃というのは過去に何度もあった事らしい。今でもあるというのだから怖ろしい事だ。
とはいえ、大した物でなければ問題無いのだから、色々な物を持って来ては遊ぶ者も居る。中には子供もおり、適当に拾った物を持ってきているらしい。それでも鑑定させてくれるのだから面白い話である。
ここに来ると何か一つは鑑定してもらうのが礼儀だと言われたので、仕方なく金のピアスを外す。これなら変な鑑定結果は出ないだろう。そう考えて一番後ろに並ぶ。一つ一つの鑑定結果を見ながらミクも楽しんでいるようだ。
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<石>
何の変哲もない石。ただの石であり、投げるとそれなりの威力が出せる。上に投げて落ちてきた際の威力は馬鹿に出来ず。その一撃で人間種は死ぬ事もある。だが、ただの石でしかない。
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先ほどの子供が悲しそうに去って行くが、そもそも石以外の何を期待していたのか教えてほしいぐらいである。それぐらい何の変哲もない石にしか見えない。鑑定結果にも二度、ただの石だと言われている。
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<鋼の剣>
持ち主は鋼の剣と思っているが、ほぼ鉄の剣である。鋼の量が少なすぎる為、これでは鋼の剣とは呼べない。鍛冶師の腕が悪いのか品質も悪く、粗悪な物と言わざるを得ない品。持ち主は目利きが出来ない模様。
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これは酷い。意気揚々と自分の剣を調べたら騙されていた事が判明するとは……。赤っ恥なうえ騙されていた怒りもあって、とんでもない表情になっている。御愁傷様としか言えないほどだ。
ただ、何故か鑑定結果が思っている以上に辛辣ではある。持ち主にまで言及する必要があるのか? 何か鑑定板とは違う気がする。巨大なだけに違いがあっても納得はするが……。
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<魔鉄の盾>
魔力金属となった鉄が表面に被覆された盾。他は木で出来ている為、軽量ながら魔力を流すと高い防御力を誇る。魔鉄の品質も良く、非常に優秀な品。ダンジョン産。
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周囲から「おぉーーっ!!」という声が聞こえる。鑑定結果にもある通り、ダンジョンで手に入れたらしい。とはいえ、こんな場所で見せても大丈夫なんだろうか? そうミクが思っていたら、どうやら鑑定したパーティーには盾を使う人物がいないらしい。
なので高値で売る為にアピールついでに鑑定したそうだ。そのぐらいしなければ普通の冒険者は儲からないのだろう。さて、次はミクの番だ。
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<金のピアス>
元は貴族令嬢に無理矢理着けられていた、強力な呪いの指輪。とある存在が呪いを喰らい尽くしたうえ、とある方法でピアスに変えた。持ち主は気付いていないが呪いが反転し、善なる心へ導く効果がある<魔装>となっている。
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………どうやら唯のピアスではなかったらしい。確かに元は持ち主の悪意を増幅する指環ではあった。あったが、それが反転して善なる心へ導くとは……。もしかしてミクはこのピアスの効果を、今まで多少なりとも受けていたのだろうか?。
受けていて喰い荒らすのか? とも思わなくは無いが、それでもマシになっていたのならこれからも着けるべきである。ヴァルがそう言うと、ミクも納得して着けた。ヴァルが言うから納得したのか、自分でも着けておくべきだと思ったから納得したのか。
どちらかは分からないが、怒りのままに暴走する確率が減るなら良い事と言える。アンノウンの暴走などシャレにならない。そう思うヴァルと歩いていると、笑顔の怪しい人物が近付いてきた。
「いやー、先ほどの鑑定結果を見させていただきましたが、なにやら珍しい物をお持ちのようで。実は私、ゼニカムド商会の商会長をやっておりましてな、何か貴重な品とかがあれば「無い」わた……」
「悪いけど、誰かに売る様な物は持っていない。じゃ」
そう言ってミクはさっさと話を止める。周りでは「スゲー! しつこいゼニカムドが一蹴された!」と驚いている人が多い。その声から、どうやら相当しつこい人物だという事が分かる。
そのゼニカムドは怒るでもなく睨むでもなく、ジッとミクが去っていく後姿を見続けていた。ミクもヴァルもその事に気付いているが、口に出す事も相手に教える事もしない。襲ってきたら……である。
その後もウロウロしながら買い食いをしたりして過ごし、夕方になったので宿に戻っていく。後ろから数人が尾行してくるが、二人にとっては極めてどうでもいい事でしかない。
宿の部屋に戻ったミクは二人を起こし、酒場に行って夕食を注文する。運ばれてきた料理を食べていると、ネルから呆れたような溜息を吐かれた。
「確かにミクは凄い、それは認める。でもミクは行為を楽しめないのだから無理にさせる必要も無い。確かに凄いけど、そこまで無理をさせるのは何故?」
「いや、アレほど凄いのだぞ? ハマっても仕方ないだろう。何故ならアレほどの事が出来るのはミクだけなのだ、他の誰にも出来る訳がない」
「だったらアレに似た道具を作ればいい。おそらくだけど可能な筈。そもそもミクに迷惑を掛けるのは正しくない」
「そんな玩具では意味が無いのだ。人肌というのがあってだな……温かさの事ではないぞ。相手とシているというのが大事なのだ」
「ミクは……じゃないけど? そこはいいの?」
「自分の意思があるのだから、本能に忠実なだけの者どもとは違うだろう。ローパーにハマる女も世の中には居るそうだが、私はアレにハマる事はなかったし、同じだとは思わん」
「そもそもローパーにヤられた事がある事に驚き。あんなのワザとヤられない限り、簡単に倒せる筈」
「私の不満を舐めてもらっては困る。1000年以上に渡って一度も満足した事などなかったのだ。当然、ローパーくらい試している。あんな物にハマる女の気が知れん」
「そこは同意するけど、意味が全く違うのが何とも言えない。そもそも不満が溜まっていたのは分かるけど、解消出来ないのが理解できない。ローネは色々歪みきっている」
「何だと!? 例えどれだけ私が「お客さん!!」歪んで………」
「そういう話は酒場じゃなくて、宿の部屋ででもしてもらえませんかね?」
「す、すまん」
「申し訳ない」
ミクとヴァルはスルーして食事をしていた為、声を掛ける事すら無かった。二人からすれば、自分で気付けという話でしかない。




