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0117・怒りのミク




 <鑑定板>を使って遊んだ日の次の日。しっかりと寝たというより、寝すぎたローネとネルが眠たそうな顔で目を覚ます。寝すぎて疲れるという状況になっており、無理矢理に起きて体調を整える。


 そもそも夜に起きる生活が間違いなのだが、それを神に言っても考慮されないのだから意味が無い。どのみち昼間に二人が居ないのは不自然なので、神が教えるとしたら夜しかない訳だが……。


 そんな疲れが抜けていないような二人と酒場に行き、朝食を注文して席に座る。運ばれてくるのを待っていると、何故かヴァルドラース達が来て近くに座った。どうやら偶には酒場で食べる事になったらしい。



 「食堂ばかりも飽きるというか、偶には味の濃いものが食べたいのよ。朝だから大丈夫だろうし、酒場はお酒に合う物も多いし。何より朝から飲む女性は必ず居るしね」



 カレンが指差す先には、木のジョッキで乾杯しているワンピース姿の女性達がいた。そう、彼女達は娼婦だ。朝に酒を飲むのは夜の仕事をしている者達であり、その殆どは娼館に関わる者達である。何処の国でも、何処の町でもお約束だ。


 村などには居ない所もあるが、大抵の村や町には娼婦や男娼が居る。彼ら彼女らは朝から酒を飲んで寝るのだが、その姿を見た冒険者が朝から飲む事もある為、飲んでいても怒られたりはしない。売り上げへの貢献だ。


 尚、こういう時の彼ら彼女らに声を掛けるのはご法度はっとで、それをすると出入り禁止にされたりもする。仕事をしてほしければ夜であり、朝にそういった事を持ち込むなという暗黙の了解だ。守れない奴は排斥されても仕方がない。


 また、そういったルールをきちんと守るのは、むしろ荒くれ者の方だったりする。彼ら彼女らは定期的に買うので出禁にされると困るという事情があり、一見いちげんの者の方がやらかす事は多い。


 そんな事を話しつつ食事をしていると、ヴァルドラースに数人の男性が話し掛けてきた。何か話しているようだが、小声でありミク達には聞こえない。適当にスルーし、今日は何をしようかと考えていたらヴァルドラースに呼ばれた。



 「ミク殿。彼等が私に話を聞きたいようなんだけど、どうも私じゃなくてミク殿に話を聞きたいみたいなんだ。どうする……?」


 「私? 何で私に聞くのか知らないけど、いったい何の用?」



 そう話すと、ヴァルドラースに話し掛けていた者達がミクを不審気な目で見てくる。何か面倒事の予感がしたのでスルーしようと思ったのだが、それよりも速く後ろに居た者が魔法を使ってきた。


 その瞬間、ミクは視認できない速さでソイツを蹴り飛ばす。椅子に座っていた男は顎を蹴り飛ばされて一撃で失神、気を失った。慌てて男達が動こうとするも、そちらはヴァルドラースが殺気を撒き散らして止める。


 ミクは蹴り飛ばした男の下へ行き、腹を踏みつけて無理矢理起こす。



 「誰だか知らないけど、こんな所で魔法を使うという事は死にたいのだと見做す。じゃあ、さよなら」


 「ゴホッ、ガハッ! 待ってくれ、悪かった!! 俺の名はウリュウ。<影縛り>と呼ばれている! アンタに使おうとしたのは縛る魔法であり、攻撃魔法じゃない!!」


 「お前はいったい何を言っている? 攻撃魔法であろうが無かろうが、他人に対して魔法を使った時点で殺されても文句など言えない。まさか、自分の時だけ見逃せとでも?」


 「いや……それは………」



 ミクは掌底を鼻を潰すように打ち付け、男の鼻の骨を圧し折る。男は鼻を押さえて咳き込んでいるが、ミクは周囲に対して凄まじいプレッシャーを放ちつつ、ゆっくりと丁寧に話していく。



 「いい? お前がどう思うかなど関係無い。私が殺すと決めたら、殺す。理解した? ……理解したなら、今回は鼻の骨程度で許してやる。ただし、次は無い。分かったね?」


 「あ、ああ。分かってる! 俺が悪かった! アンタがここまでのバケモンだと知ってたら、絶対に手を出したりなんてしていない。二度とアンタと敵対しないと誓う!!」


 「そもそも私をアーククラスの吸血鬼であるヴァルドラースと知りながら、なぜ私に勝てるミク殿に喧嘩を売るのか理解出来ませんね? ミク殿はアーククラスでさえ難なく殺すというのに」


 「「「「!!!」」」」



 ようやく声を掛けてきたバカどもは、本当に敵に回してはいけない者を理解した。既に鼻は潰されており、鼻血が止め処なく出てきているが、この程度で済んだなら感謝するべきである。



 「鼻を潰された間抜けはともかく、お前達は何の用? 下らない事は言わないようにね」


 「あ、ああ。もちろん。我々はロールウェド伯爵様から命じられ、ここ王都デウスにおられたエドゥナウ様を殺した犯人を捜しているのだが……。その犯人を殺したのが、同じ吸血鬼の方ではないかと聞きにきたのだ」


 「ん? 同じ吸血鬼だと? ……ああ、【気配断絶】を持っていた奴が言っていた吸血鬼か。確か帝国でヴァンダムという吸血鬼を、魔導国の王都でエドゥナウという吸血鬼を殺したとか言っていたな」


 「それなのですが、やはりそちらの方が殺しておられたのですか……。ロールウェド伯爵様も、そこに居られるウリュウ様も、エドゥナウ様とは御親友の間柄でして」


 「それでミクに八つ当たり? ……下らない。ミクが間抜けと言ったのは正しい。そもそも復讐相手を殺せなかったのは自分の落ち度。それを関係の無い他人にぶつけるなど、情けないにも程がある」


 「ブグッ………」


 「そんな阿呆なら殺しておいた方が良かったかな? まあ、それは横に置いとくけどさ。【気配断絶】を殺したのは私だけど、それがどうかした?」


 「ロールウェド伯爵様が詳しい話を聞きたいとおっしゃられております。どうか御屋敷に来て話しては頂けないないでしょうか?」



 その途端ミクの美しい顔が歪む。明らかに面倒臭いと言わんばかりの表情である。最初の印象も悪すぎた。<影縛り>ことウリュウが余計な事をしなければ良かったのだが、してしまった事は変えられない。


 だからこそ、彼はこうするしかなかった。



 「お願いじまず! 友を殺した者の末路を教えてぐださい。お聞きじた後ならば殺ざれても構いません!! お願いじます!!!」



 鼻を摘まんで鼻血を止めながら、土下座をして必死に頼み込むウリュウ。それに対して呆れるミク。盛大な溜息を吐いた後、肉塊らしくハッキリと言った。



 「これで話さなきゃ私がクズみたいじゃない。本当に殺したいほどムカツク奴だね……! 話してやるから、代わりに二度と関わってくるな」


 「ば……ばい、申じ訳ありません」



 先ほどとは比較にならない程の殺気と殺意と圧力を撒き散らすミク。怒っているのがよく分かる。とはいえ一般人を失神させるのは良くない事である為、ヴァルはミクの足に体当たりをし、それをもってようやく霧散した。


 周りを見渡してやってしまった事を理解したものの、特に気にしないミク。食事も終わったのでさっさと連れて行くように言い、男達に先導させる。流石にストッパーが居ないとマズいと理解したのか、ついて行く吸血鬼主従。


 最初から普通に頼んでいれば良かっただけなのだが、人間種社会など往々にしてこんなものである。そんな事を思いながら、ミクが暴れなかった事で胸を撫で下ろしたヴァル。彼は肉塊の波動をモロに受けてしまうのだ。


 その自分まで暴れる訳にはいかないと、必死に抑え制御する事が出来た。自分まで暴走したら、周りの全てを喰らい尽くしかねないのだから……。


 人知れず、一番苦労しているヴァルだった。


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