0114・魔導国のダンジョン攻略完了
流石に空から探すのは圧倒的に速く、ミクとヴァルは次々に先へと進んで行く。特に問題無く進み、40層のボス。十分な準備をして中に入ると、出てきたのは首の無い鎧騎士と馬だった。どちらも首が無い。
知っている者が見れば<デュラハン>だと分かるのだが、二人には分からないものの、少なくともグレータークラス上位である事だけは分かった。二人は二手に別れて左右から攻めるも、デュラハンは馬を駆って突進してくる。
デュラハンが持っているのは剣では無くランスであり、縦横無尽に駆け巡りながら一点突破で突き刺しに来る。当然だが疲れなど無く走り回るので、普通の人間種だと苦戦するか、場合によっては全滅するだろう。
それぐらいの速さであり突進の威力だ。とはいえミクの敵ではない。ヴァルを大元に戻して男性形態で呼び出したミクは、デュラハンの真正面に立ち両手で馬ごと受け止める。
馬の突進力を難なく受け止めたミク。そして横からチャンスとばかりにバルディッシュを振り下ろすヴァル。それは見事に直撃し、一撃でデュラハンを叩き壊した。それで勝利となったのか、魔法陣が出現し次の層へ飛ばされる二人。
イマイチしっくり来ないのか首を傾げているが、周りの気温は一気に下がる。この層は氷原となっているらしく、異常なまでに寒い。いきなりマイナスの冷気を受けるのだから、普通の人間種には攻略不能だろう。
「相変わらずだけど、神どもの殺意に満ち溢れた場所だねぇ。この気温は間違いなく耐えられないだろうに、脱出の魔法陣は近くに無しと……。冗談でも何でもなく、よほど殺したいんだろうね」
『そうとしか思えんな。前の砂漠もそうだったが、明らかに地形で殺しに来ている。事前情報が無ければどうにもならんだろう、こんなもの。極めて悪辣だと思うぞ』
そんな話をしながらもヒッポグリフになったヴァルに乗り、空中から転移の魔法陣を探す二人。沼地のように足をとられたり沈む地形ではないので乗っている。すぐに魔法陣は見つかり、それに乗って進んでいく。この地形も二人にとっては楽なものだ。
鳥系の魔物が出てきて襲ってくるものの、右腕や左腕に食べられていく。ただの鶏肉の踊り喰いにしかなっていない。そんな事を繰り返していたら50層に到達。ヴァルも男性形態になって準備していると、またしても<空間の神>が来た。
神はここが最奥だという事を言い、今回はポテチを片手に観戦するらしい。本当に唯の娯楽としか思っていないのがよく分かる。
十分に準備をして中に入ると、体高3メートルはあろうかという生き物が現れた。知っている者が居ればこう言うだろう<ペンギン>と。しかし、そんな生物など知らないミク達は、妙に愛嬌のある生物に戸惑ってしまった。
その瞬間、高速で射出される砲弾のように突進してきた生物に撥ね飛ばされた二人。ペンギンが高速で突進してきたのだが、その速度は水中のペンギンより速かった。少なく見積もっても時速200キロは超えている。
そんな速度で撥ね飛ばされたミクとヴァルは、ビックリしただけですぐに起き上がった。普通の人間種であれば先ほどの体当たりで死んでいる。もちろん普通の場合でしかないのだが、それにしても殺意が高過ぎると思えてならない。
愛嬌のあるペンギンかと思ったら、僅かな距離で最速を叩き出す意味不明なパワーを持っているのだ。そのうえ驚異的な肉体に撥ね飛ばされる。その威力たるや、竜鉄のプレートアーマーであっても耐えられない程だ。
実際、ヴァルの着ているプレートアーマーはグシャグシャに潰れていて、やむを得ず大元に一度戻ってしまった。次に出てきた時は服を着ているだけで、後はウォーハンマーしか持っていない。バルディッシュは先ほどの体当たりで壊されている。
ミクもメイスを壊されたが、それだけで済んだ。流石に目の前の相手をアーククラスと認定し、気合いを入れて戦う事に決めて様子を窺う。一気に最高速に到達する体当たりは、並の攻撃を遥かに凌ぐ危険度だ。
二人なら撥ね飛ばされるだけで済むが、逆に言うと二人しか助からないとも言える。そんな攻撃を待ち構えていたら、それなりにゆっくりの速度で体当たりをしてきた。二人は疑問に思うものの、とりあえず素直に攻撃を行う。
すると、ウォーハンマーの攻撃は弾力で跳ね返され、鉈の攻撃も弾力で跳ね返された。そのまま圧し掛かられ押し潰される二人。ペンギンの戦い方ではない気はするが、質量兵器と化している体の大きさを十二分に活かした攻撃だ。
押し潰されながらも触手を10本ほど出して、ペンギンの体を放り投げるミク。やはりアンノウンの耐久力も筋力も圧倒的ではある。あるが、大きさという一点ではペンギンの方が上だ。
そこをどうするかヴァルは考えているのだが、困った事に打開策は無い。いや、あるのだが、それをやればあっさりと終わってしまう。そしてそれでは負けた事にしかならないと二人は考えている。なので、必死に勝つ方法を考えている訳だ。
圧し掛かって押し潰す攻撃も効かなかった事により、ペンギンのボスは最高速での突進を連発してきた。いや、正しくはフィールドを滑り続けている。ボス部屋の中も氷原なのだが、滑り続けて体当たりをし続けてくる。
二人も回避は出来るのだが、有効な攻撃手段が無いのが困りものなのだ。それさえ解決すれば戦って勝てるのだが……。もう卑怯でも何でもいいかと思い始めた矢先、とある事に気付く。弾力があっても問題無いじゃないかと。
『私がアレを無理矢理に止めるから、ヴァルはアイツを思いっきり攻撃してくれる?』
『それは構わないが、攻撃したところで効かないぞ? まさか先端が円錐のウォーハンマーですら跳ね返すとは思わなかったからな』
『大丈夫、大丈夫。思い出したのよ、使えない認定したのを』
『………ああ! アレか!! 分かった、了解だ!!』
その【念話】の後、ヴァルは一旦大元に戻る。これはミクにのみ体当たりをさせる為だ。ミクはすぐにブーツを脱いで裸足になる。そして腰を落としてボスを待ち構えた。ボスは高速で滑っているが、ミクは必ず相手を正面に見据え続ける。
埒が明かないと感じたのか、ボスは一気に突っ込んできた。ミクは腰を落としボスの体当たりを受け止める。そして滑っていく足の裏から触手を出し、無理矢理に地面の氷に突き刺してブレーキを掛けていく。
かなりの距離を引き摺られたがボスを止める事に成功。そしてすぐにヴァルが出てきて攻撃を始める。
『止まっていれば簡単に攻撃出来るな!! 受けろ! 【深衝強撃】!!!』
そう、かつて使えない認定をされたこのスキルがあったのだ。それをすっかり忘れていた二人。相手の表面ではなく深層に打撃を加えるこのスキル、そもそもは”威力が高過ぎて”使えない判定をしたのだ。
ダンジョンのボス相手に威力が高過ぎて悪い事など何も無い。そしてヴァルのスキルを使った渾身の一撃は、その一撃でアーククラスのペンギンの脳を破壊。僅か一撃での勝利となった。
観賞していた<空間の神>は何だか納得したような顔をしているが、何が見たかったのかは分からない。一人で納得し、そのままどこかに消えていった。あの神は何がしたいのだろうか?。
ペンギンは消えて居なくなったが、代わりに魔法陣と白い板が出現した。幾何学模様の書かれたそれは<鑑定板>だ。まあ、それなりの物は手に入ったかと、アイテムバッグに収納しつつ喜ぶミクだった。




