0113・魔導国のダンジョン攻略
そのまま呪いのナイフを仕舞ってフラフラするのを続ける。色々な場所を見て行ったものの、あまり成果は無かった。今日の一番の成果が呪われたナイフというのもどうかと思うし、ミクだからこそ成果だと言える。
普通の人なら激怒するところではあるが、ミクにとっては喰い物でしかない。昼食をとらずに色々歩いた結果、王都の大部分を見て回る事は出来たので、明日はダンジョン攻略に行く事を決めて宿に戻る二人。
既に夕日が出ているので急いで部屋に戻ったが、ローネもネルも未だに寝ていた。二人を起こしたミクは、寝惚けている二人を連れて酒場へと行き夕食を注文する。二人も今日は酒を飲まないらしい。
「酒を飲んだ後で練習しても身につかない。どうせ今日もやらされるなら、明日の朝に飲むべき。今お酒を飲んでも楽しめない」
「全くだ。この後の事を考えると酔いが醒める。そのうえ酔った状態では動けないからと、酒精を一気に抜かれるのだ。飲んだところで一気に冷や水を浴びせられるようなものだ」
ネルも「うんうん」と頷いているので、一気に酒精が無くなるというのは酒飲みにとって辛いのだろう。ミクにはよく分からない事なので適当にスルーしつつ、食事を楽しんでいく。ヴァルは我関せずだ。
夕食後、部屋に戻ったミクは、ローネとネルを本体空間に送るついでにアイテムバッグも送る。本体が向こうで呪いのナイフを取り出したものの、相変わらず呪いは本体を襲わない。結局あっさりと喰らったが、また武器にこびりついたらしい。
よほど呪いにとって本体は怖いのだろう。本体は呪いを喰らった後のナイフをアイテムバッグに入れて返してきた。本日は外に出る予定も無いので、ベッドで肉体を停止して意識を本体に戻すのだった。
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朝になって二人を外に出したミクは、三日連続ボロボロの二人を連れて朝食に行く。酒場に行き朝食を注文するも、ボロボロの二人はとにかく酒を飲む。そうしないと、やってられないくらいに酷い顔になっている。
「今日は休みならしいが、代わりに昨日は地獄だったぞ。今までの地獄が生温く感じる程に酷かった。そもそも完璧な動きなど人間種に出来る訳が無いのだ。無茶を言わないでいただきたい」
「本当に、そう。完璧な物を作れと言われても困る。何度も打つしかないのは分かるけど、求められている領域が高すぎる。あんなものは下界では必要とされない。ほんの僅かな事で変わるんだから、もっと柔軟な物にすべき」
どうやら二人とも愚痴が零れて止まらないレベルで色々あったようだ。ミクからすれば本体空間を騒がしくしている二人も邪魔なのだが、流石にそれを言ってもしょうがないので黙っている。
そもそも二人を本体空間に連れてくるように言ったのは神だし、拒否すると面倒な事にしかならないので、ミクにとってもスルーするしかない。何よりミクにとっても愚痴が零れる相手なのだ。気持ちはよく分かるのだろう。
朝食後、昨日と同じく二人を宿の部屋に連れて行って寝かせ、その後に冒険者ギルドに行き地図を買う。購入後はダンジョンへと移動。朝も早くから列に並んでいる者が居るので、ミクも後ろに並んで待つ。
ゆっくりと並んで待っていると、後ろにニヤついた連中が並ぶ。同じバカは何処にでも居るなと思いつつスルーしていると、横から女性の一団が話し掛けてきた。何かと思ったら、碌でもない男どもが居るので一緒に行かないかとの事だった。
ミクは断り、自分一人で問題無いと言う。周りの男どもが囃し立てるも、女性は自分達と居た方がいいと主張する。
「私達は女性を守る活動もしてるのよ。私はランク7でリーダーを務めているフィラム。<勇女隊>というパーティーなの。貴女も中で何かあるといけないから、一緒に行きましょう!」
「いや、私は別に一人で大丈夫だから」
「そうだぜ! この女ぁ一人でいいって言ってるじゃねえか! あんまり邪魔すんなよ、部外者だろうが」
「コイツら……! 本当に大丈夫なの? こんな奴等が沢山居るのよ!?」
「心配しなくても私ランク10だし。こういう奴等は今までにも大量にブチ殺してきてるから問題ないよ。雑魚がどれだけ集まっても相手にならないしね」
「……て、鉄のプレートだったのね。それなら問題ないわ。流石にランク10より上は<魔窟>だもの。ごめんなさいね、そこまでの実力者だとは知らなかったのよ」
「別にいいよ。知ってても知らなくても、襲ってきた奴等は殺すだけ」
「「「「「「「………」」」」」」」
ミクの後ろに並んでいた三つのパーティーは横にズレて離れて行った。下らない事をする気だったのかもしれないが、あまりにも相手が悪過ぎる。冗談抜きで一騎当千が存在する<魔窟>に手を出すバカは殆どいない。
殆どであって、決していない訳ではないのが救いようのないところだ。ミクは自分の番が来たのでダンジョンへと入った。
1層は起伏のある平原だったが、ヴァルに乗ってすぐに移動を開始する。ギルドで買った地図を見つつヴァルに指示を出し、どんどんと進んで行く。魔導国のダンジョンは10層ごとにボスが出てくるスタンダードなものだ。
まずは一気に進み、10層のボスへとやってきた。出てきたのはコボルト十体とハイコボルト。魔導国のダンジョンの方が魔物は強いらしい。とはいえ、ミクとヴァルの相手にはならないが。
さっさと倒した二人は更に先へと進んで行く。11層は草の丈が長く、足がとられる草原だった。草がビッシリと繁茂していて厄介極まりないだろう。普通なら。
ヴァルは何の問題も無くスイスイ移動し、ミクは背に乗って指示を出すだけだ。そうして素早く進んで行き、20層のボスへ。ボスはオーク十体とハイオークが三体出てきた。二人にとっては弱いが、普通なら苦戦は確実だ。
特にハイオーク三体がキッチリ連携してくる。槍が2体と剣と盾がおり、盾が囮となっている間に槍で突き刺すという戦法をとってきた。特にオークが攻めて来ている最中に隙を見て襲い掛かってくるのが厄介だろう。
二人にとってはカモが接近してくるので楽に勝っていたし、盾は最初に真っ二つにされていた。非常識が相手だと、強みも何も見せられないまま殺されるしかないらしい。
21層へと進むも、今度は洞窟のような地形だった。ここからは地図が無い為、虱潰しに探していくしかない。とはいえ本体がマッピングしているので、攻略は難しくないだろう。
それなりにウロウロする羽目になったものの、30層のボスまで到達。出現したのはハイオーガ五体とグレーターオーガだった。流石にここまで来ると、かなりの強敵のようだ。普通なら。
足を潰されていき、まともに動けなくされていくオーガ。グレータークラスだろうが、肉塊の膂力で振るわれる竜鉄のメイスには耐えられない。膝や太腿が破壊され、動けなくなった奴からヴァルに食い千切られて死んでいく。
ハイオーガの一体は両腕両足が破壊された後で放置され、先にそれ以外が喰い荒らされた。最後に頭を潰されて殺されると、31層へと転移していく。
そこは沼地となっており、非常に足がとられる層なのが見て分かる。その代わりに周囲が見える為、洞窟よりは転移の魔法陣を見つけやすい。おそらく沼地の方がミク達にとっては楽だろう。
二人はヒッポグリフになって飛んでいくのだった。




