0111・王都デウスの裏組織
ミクは百足姿で王都デウスを走り、まずはスラムの中にある一つ目の組織のアジトに行く。当然ながらミクが暴れた事は知られているのだろう、厳重な警戒網が敷かれていた。とはいえ百足など気に留める者もおらず、侵入はあっさり成功する。
中に入り色々探っていると、話し合っている連中がいる部屋があったので、ドアの隙間から中に入っていく。スラムの建物だからか、壊れていたり斜めになっているドアがある。おかげで大した苦労もなく侵入できた。
「あのバカの組織の連中がゲロったらしいが、その女はそんなに強いのか? 実際に俺達を襲いに来るのか知らねえけどよ、下っ端がビビっただけじゃねえの? 下らない相手なら、俺は戻らせてもらうぜ」
「おいおい、絶世の美女だっていうから来たんじゃねえのか? それなら今すぐ商売女の所へ戻れや。俺達だけで喰うからよ。なぁ! 皆!!」
「「「「「「おう!」」」」」」
「チッ! 誰も喰わねえなんて言ってねえだろうが! テメェ、あんまり抜かしてっと殺すぞ?」
「あん? このクソガキ、なかなかいい度胸してるじゃねえか。まだまだ青二才の分際で調子に乗りやがって、テメェにはまず礼儀ってのを叩き込んでやろうか?」
バカなチンピラに礼儀も何も無いのだが、コイツはいったい何を言っているのだろうか? 聞く価値が無いと判断したミクは部屋の中に麻痺毒を散布していく。一応情報を収集する為、生かして聞き出す必要がある。その為の麻痺毒だ。
にも関わらず、先ほど青二才と呼ばれていた奴はかろうじて動いていた。薬を持っていたのか耐性があるのかは分からないが、思っているよりは優秀な人物である。まずはソイツに近付き脳を操ったミクは話を聞いていく。
男は麻痺系の毒を何度か使われて尻を掘られた事があるらしく、その所為で多少の耐性があっただけだった。それはどうでもいいし、この場にいる他の連中に聞いても碌な情報は無かったので、さっさと全員を本体へ転送する。
入り口へと戻りつつ組織の連中の脳を喰らって転送し、外に出たミクは次の裏組織へと向かう。
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四つ目の裏組織へと来たのだが、少し様子が変である。ここは平民街の大きな商会を隠れ蓑に、色々な犯罪をやっているところだ。
店の裏に倉庫があり。その裏に商会長の屋敷がある。その倉庫の一つに人が集まっているらしい。近付いて話を聞いてみると、どうやら厄介な事になっているようだった。
「昼間捕まえた吸血鬼。まだ喋らねえんだってな。あれだけの人数に犯されてるっていうのに随分しぶとい奴等だ。まあ、そのうち耐えられねえだろ。あれだけ薬をブチ込まれりゃ、裏の奴でも喋るぜ」
「違ぇねえ。正直言って普通ならブッ壊れる量だからな。よく生きてるもんだ。吸血鬼ってのはゴキブリ並の生命力してんじゃねえの? ありゃブッ殺してもいい奴等だから滅茶苦茶してもいいのは助かる。商売女でもあの量は無理だ」
「本当にな。俺も片割れの女でスッキリさせてもらったぜ。なかなか具合が良かったが、所詮バケモンだからな。後は殺してどっかに埋めりゃあ終わりか。ちょっと勿体ねえ気はするけどよ」
「やめとけ、やめとけ。そうやって血肉を喰われて死ぬんだよ。ああいう奴等はマワしたら首チョンパって相場は決まってんだ。欲を掻くんじゃねえよ。碌な事にならねえぞ」
碌な事も何も、コイツらの死は決定している事である。ミクは麻痺毒を散布して麻痺させたら、問答無用で殺して転送した。自分は思っているより腹が立っているらしい。その事を自覚したものの、それとは関係なく行動していく。
倉庫内に入り麻痺毒を散布するも、特に人が居ない事が分かる。何人かが倉庫の一角に居たが、そいつらが麻痺して倒れたぐらいだ。ミクが倒れた奴等の脳を操り話を聞くと、この近くの荷物を動かすと地下への入り口があると分かった。
すぐに聞いた荷物を触手で動かすと、地下への穴と梯子が見えた。その梯子を無視して壁伝いに降りていくと、地下の空間に反響して女の嬌声が聞こえてくる。この声はマリロットとフェルメテだ。
ミクはすぐに移動し、通路の先の部屋の前に陣取る二人に、天井から接近して触手を打ち込み麻痺毒を注入する。流石に上は警戒していなかったのか、あっさり麻痺した二人の脳を喰って転送した。
そして扉をそっと開け、室内に麻痺毒を高速で散布していく。女二人の嬌声も止み、犯していた男達も呼吸しか出来なくなったので室内に入る。ミクはマリロット、フェルメテ、オルドラスの順に万能薬を注入して治していく。
即座に効いたのだろう、三人は起き上がり憤怒の表情でゴミどもを見ている。そんな三人の前に百足姿から女性形態になったミクが声を掛けた。
「いやー、三人とも大丈夫? 派手に犯されてたけど、<幸福薬>みたいな狂わせる薬までは使われていないようだね」
「ミク様。ありがとうございます。迂闊ではありましたが、まさか不覚をとるとは思いませんでした。魔導国の王都にはグレータークラスの吸血鬼が居た所為で、それを抑える為の<浄化魔法使い>がいたのです」
「私達は日光の下では弱体化してしまいます。そのうえ浄化魔法を使われたら抗いきれませんでした。本当にありがとうございます。幾ら薬を使われていたとはいえ、こんなクズどもに対して嬌声を上げてしまったなど、私の人生において最大の恥辱」
「それを雪ぐ為には、このゴミどもを須らく喰い殺さねばなりません。お許しを頂けますか?」
「それはいいけど、コイツらの話を聞いた後ね。それと麻痺毒を喰らってるから、食べると麻痺しそうだけど……その度に<紅の万能薬>を注入すればいいか。私、幾らでも生成できるし」
「「「………」」」
<紅の万能薬>を幾らでも生成できるという意味不明な言葉を聞いた三人は、スルーする事に決めて話を聞いていく。それが終わった者から殺して喰らい、それぞれの糧としていった。
喰われる者どもは恐怖に引き攣っているが、それでも敵が敵だ。容赦などされる筈も無い。そして最後の一人を食い終わった時、三人纏めて停止した。それを見て奇妙に思うも、何となく予想できたミクは待つ。
およそ五分ほどで戻ってきた三人は、全員がグレータークラスとなり<血の神>と邂逅したようだ。今は神と会った事に感動しているようだが、ミクとしては大量の血を奪っていった奴としか思っていない。
そんな奴に会って何が嬉しいのか分からないが、空気を読んで黙っておく事にしたミク。どうやら人の感情というものが分かるようになってきたらしい。順調に進歩しているようだ。
それを喜んでいるのが<善の神>ぐらいなのが、悲しい事実である。
「さて、そろそろ戻ろうか。コイツらが着ていた服でも適当に着ていけばいい。それより三人のアイテムバッグは?」
「それは……何処に行ったのやら。先ほどの者どもに奪われたのだと思いますが、何処に持っていかれたかまでは……」
「ふーん。もしかして屋敷の中かな? 適当に侵入して調べてくるから先に戻って休んでて。どのみち私は潰しに来てるから、このまま屋敷の方も調べるしね」
「分かりました。宜しくお願いします」
「「お願いします」」
三人は適当に服を着て梯子を登っていく。倉庫の中から出た所で別れ、ミクは再び百足姿になると商会長の屋敷へと移動する。中に入り色々と調べ、情報を得ていったものの、知っている情報しかなかった。
唯一良かったのは、研究などを主導していた人物の名が分かった事だ。シュテンハイム伯爵家が主導していたらしく、この商会も出資していた。これで潰すべき貴族も分かったので、再び移動していくミク。
尚、商会長の部屋に三人のアイテムバッグはあったので既に回収は終えている。




