0110・ヴァルドラース達との話し合い (後半)
「山賊のボスを始末した後は、山賊どもを騙して利用してたレットン商会に侵入したんだけど、ここの商会長と副商会長がレアスキル持ちだった。商会長は【心情看破】、副商会長は【生命探知】」
『この二人が【剛力】と【魔力過剰】を殺害していたそうだ。なんでも商会長の女を過去に強姦した事があったらしく、副商会長の協力もあり毒殺したらしい。そして【高速回復】は何者かに暗殺されたようだ』
「山賊のボスは【危険予知】で、最後の一人である【気配断絶】は神聖国に利用されてた。研究所の跡地に居たところを麻痺させて尋問してから殺したよ。だから研究所が生んだレアスキル持ちは、全員いなくなった筈」
『そういえば、【気配断絶】が言っていたな。グレータークラスの吸血鬼を二人殺したと。たしか帝国にいるヴァンダムと、魔導国のエドゥナウだったか? カレンも狙っていたようだが、最後に回したみたいだな』
「呪具を使って殺したとか言っていたが、ヴァルドラースは知っている者達か?」
「いえ……聞いた事はありませんね。私の下に当時いたのはハイクラスの者達でして、グレータークラスともなれば日光での弱体化もありませんから。そこまでに到れば一人立ちさせる決まりでしたので」
「まあ、研究所の跡地は王都の近くだから、そこからここへ来たらヴァルドラース達と合流する事になったって事。これでこっちの話は終わりだけど、そっちからは何かある?」
「ミク達ほど大きな何かがあった訳じゃないわ。ついでに移動が速過ぎて、こちらと違い過ぎるのよ。私達は一日で次の村に移動する感じかしら? 更には気になったら止まって、村や町を色々調べたりしていたしね」
「その中で裏組織の者に襲われたり、欲に濁った村人に教われたりなどありましたが、明らかに問題のある何かはありませんでした。もしかしたら私達が見つけられなかっただけかもしれませんが……」
「流石にそこを疑ったりはせんが……ミクとは違って絶対に口を割らせるなど無理だしな、仕方があるまい。少なくとも、そちらも王都に来たばかりのようだ。お互いに色々調べるか」
「なら、そろそろ部屋に戻ろうか。それなりに時間も経過したし、皆は眠らないといけないしね。私は必要ないけど……」
そう言いながら部屋を後にする。ミク達が自分達の部屋に戻ると、本体の方に連絡があったので実行する。右腕でローネを包み、左腕でネルを包んで本体空間へ転送。そこには闇の神と創造の神が待っていた。
ローネは自由になったんじゃないのかと絶叫し、ネルは挙動不審になっている。本体空間が再び騒がしくなったので、ミクとヴァルは本体に意識を移さずに過ごすのだった。
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次の日の朝。ぐったりしたローネとネルを外に出し、朝食を食べに行く。宿のロビーでヴァルドラース達に出会ったものの、彼らも何も言わずに通り過ぎた。声を掛けてはいけない事を悟ったのだろう。危機回避能力の高い主従である。
食事後、ローネとネルを宿の部屋に送り、ミクとヴァルは王都を散策。色々な物を見て回るのだが、やはり相当目立つのか声を掛けてくる者が多い。商国では<闘鬼>をボコってからは無くなっていたのだが、適当にかわしつつ散策を続ける。
それでもしつこい者は居るので、さっさと逃げたりなどしているとスラムまで移動していた。いや、正しくはスラムまで誘導されたと言うべきだろう。その手腕は立派だが、何を誘導したか理解しているのだろうか?。
「随分と回りくどい手間を掛けさせやがって。だが、ここまで来たらコッチのもんだ!! てめえら出て来い! この女は散々楽しませもらってから売っ払うぞ!!!」
「「「「「「「「「「へへへ………」」」」」」」」」」
周囲から浮浪者やゴロツキが現れたが、ミクは馬鹿どもを見下しつつ鼻で笑う。当然、周囲の連中は怒り狂うのだが、待っているのは蹂躙劇だった。一方的に叩き潰されるゴロツキどもと、踊るように戦うミク。圧倒的なまでに実力が違うのだから当然である。
どんどんと周囲の連中が叩き潰されていき、ようやく自分達の襲った相手の実力を理解したゴロツキども。しかし、気が付くのが遅すぎた。必死に逃げようとするも、その隙をヴァルが見逃す筈もなく噛み付かれて振り回される。
散々に周りの連中に叩きつけられた後、壁に叩きつけられて意識を失うリーダー格。ミクも殺さない程度に叩き潰した後、無理矢理に起こして尋問していく。拷問も併用すれば真実を喋っても、疑問には思われないだろう。
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得た情報は多岐に渡るが、ほぼ全てが王都デウスの裏組織に関してだ。夜に襲いに行く連中を調べる手間が省けたとも言えるし、裏組織でなければ知らない事も知る事が出来た。二人は頭の中でターゲットを選別していく。
そのまま歩きながら上の空で考えていると、従者三人組が前から歩いてきた。どうも彼らも見回っているらしく、会釈した後に通り過ぎるようなので先ほどの事を話す。何とも言えない顔をされたものの、スラムの情報は感謝していた。
三人とも吸血鬼であり普通の人間種よりも強いが、スキルなどによって覆る程度の差しかない。何より、現在は日中なので弱っているのだ。吸血鬼がグレータークラスになるというのは簡単な事ではなく、三人はハイクラスのままだ。
それでもハイクラスに成り立てとは違い、そこまで弱体化する訳ではないのだが……。それでも弱体化は弱体化である。アーククラスのヴァルドラースが弱体化して暴走させられたように、過信する訳にはいかない。
とはいえ、彼らもその事は知っているので大丈夫だろう。そんな風に考えながら、先ほどの裏組織の情報を吟味していくミクとヴァル。肉を喰う為ならば、じっくりと緻密な計画を練る二人であった。
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夕方になってやっと起きたローネとネルを連れ、酒場に入って夕食をとっている二人。起き抜けに酒を飲んでいるが二人は大丈夫なのだろうか? 片方は戦闘の修行、もう片方は鍛冶の修行をさせられていたが。
「凄かった。流石は<創造の神>と<鍛冶の神>。私の知らない技術が沢山あったけど、それで喜べるほど単純じゃない。正直に言って、神が横に付きっきりで居るのは凄く怖い事。気が気じゃないし、怒られると本当に怖い」
「私はそれどころじゃないぞ。駄目ならボコボコにされるのだ。シャレにならん。物作りも大変だろうが、戦闘技術も大変だ。そのうえ今日もだぞ? 外に出ても良くなったが、修行はこれからも続く。………はぁ」
「それでもさ、外に出られるだけマシになったんじゃない? 前は倒れるまで修行させられてたんだし、それに比べれば楽だと思うけどね」
「それはな。ミクには悪いが、あの空間にずっと居たら精神が持たん。神々が普通に来られるのだ、それだけで神経が磨り減る」
「本当に。神様達は私が下界の者でしかないと理解していない。そんなに頻繁に来られたり、横で見ていられても緊張するだけ。それで上手くいく筈なんてない」
ネルも愚痴を言うようになったが、ミクを通して神々は見ているのだが……それでも出さずにはいられなかったのだろう。気持ちは分かるが今日の修行は厳しくなりそうである。
夕食後、部屋に戻ったら早速二人を送る。そして向こうで待っていた神々に口撃を喰らうローネとネル。ミクの本体は予想通りだなと呆れているが、分体はヴァルを残して百足姿で窓から出た。
どうやら裏組織を襲いに行くようだ。




