0106・オークの集落で暴れる三人
「むう、まさか転送された先が地面とは……。おかげで顔面から地面にダイブする羽目になったぞ。おっと、すまんな。私の名はローネレリア・エッサドシア・クムリスティアル・デック・アールヴだ」
「えっ、……うん。私の名はネルディリア・アトモスト・ヴァイヘルム・ドヴェルク。…………えっ!? 闇半神族!?」
「うむ、そうだ。初めましてだな、創半神族! 私も永く生きてきたが、自分の目で創半神族を見るのは初めてだ。まあ光半神族も見た事は無いがな」
「私も無い。そもそも私は東の大陸で永く生きてきた。こっちの大陸に来たのは100年くらい前。それまでは向こうの大陸中を転々と移動していただけ。あまり一つの所に留まると怪しまれる。特に創半神族は物作りに強いから……」
「成る程、囲われる訳か……。闇半神族である我々が得意なのは暗殺だからな。囲ったりなど、そこまでおかしい手出しは少なかった。とはいえ人間種の欲など際限が無いが」
「それよりも右腕がおかしくなって中から出てきた。いったいどういう事?」
「とりあえずローネも乗って、道中で話をしよう。ネルに見せても問題無いようだし、私はオークが食べたい」
「了解だ。それにしても、久しぶりのこちらは解放感があっていいな。ここ最近は地獄だった………」
気持ちは分かるが、聞かれたら闇の神から修行を追加されそうな気がするが……言わずにはいられなかったのだろう。ヴァルの背に乗って移動しながらネルは話を聞いていく。ミクがアンノウンである事、神の居る空間に肉を通して転移できる事。
聞けば聞くほど意味不明だが、それでも肉を通してローネが出てきたのは間違いの無い事実なので、ネルは受け入れるしかなかった。それでも訳の分からなさは感じているようだが……。三人はそのうち慣れるとしか思っていないようだ。
そうしているとオークの集落近くまで来ていたらしい。数はざっと150ほど。オッゴ村が絶望的になる筈だし、<嵐の剣>が荒れている筈である。あまりにも数が多すぎて、死ぬ可能性があまりにも高い。普通は周囲に応援を頼むレベルだ。
とはいえ、その応援が間に合うかどうか分からなかったんだろう。そう言うと、ネルがおかしいと言い出した。自分が朝方に調べた時には40体ぐらいだったと。どうして急に増えているのか理解できないそうだ。
少しパニックになっているので落ち着かせたが、ネルはこの数では対処不能だし逃げるべきだと言いだす。しかし他の三人はそんな事は考えていない。当たり前だろう。そもそもミクの実力を知っていれば、オークが1000いても問題無いのだ。
そしてミクはここまで来て喰わないなどあり得ないと言い。ヴァルは食べるチャンスだと言い。ローネは久しぶりに暴れられる良い機会だと言う。三者三様なれど、オークを殺すという点では完全に一致している三人。
ミクはネルに自分の武器を見せ、どれがいいか選ぶように言った。その武器を見て唖然とするネル。目の前に出されたのは尋常ならざる武器ばかりである。その中でも一際異常なナイフは、ネルでさえ持つこと自体が怖ろしいと感じる程であった。
ネルはミクからメイスを借りる事にした。一目で分かる竜鉄の鈍い輝き。圧倒的なまでの安心感と、間違いの無い破壊力。自分が作った武器を遥かに凌ぐ一品なのは間違い無い。持ってみると尚更それが良く分かった。
そんな中、戦いたい三人は作戦を立てる。正面からはローネが、西からはヴァルが女性の姿で、そして東側からミクが突撃する。最初に出るのはミクで、最後に突撃するのはローネ。それを決めて所定の位置へ急ぐ二人。
ヴァルが女性の姿という意味不明な言葉が聞こえてきたが、緊張とオークの数に圧倒されスルーしてしまうネル。そんな中、東からミクが突撃を開始する。目の前でオーク150体に本当に突撃しているのだがら唖然とするしかない。
そうしていると、今度は西から見た事が無い女性が大きな長柄斧を持って現れた。すぐにバルディッシュだと分かったネルだが、女性はまったく見た事が無い。そして少し経った後、目の前のローネが突撃していった。
ネルはその場で見続けるも、三人は意味不明な強さをしていて、あまり理解できないようだ。
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アレはいったいなんだろう? 東ではミクが踊るように敵を倒している。右手に持った白い鉈でオークの頭をカチ割り、左手に持った怖いナイフで何も無いかのようにオークを切り裂いている。
あれだけオークに群がられているのに、ミクの体に触れられたオークは一体もいない。当たり前のように倒し続けている。
西側では見た事も無い女性がバルディッシュを振り回している。水平に振り抜くだけで、オーク四体が臓物をブチ撒けて死んでいく。縦に振り下ろされれば、頭頂から股間まで真っ二つ。どんな膂力をしていればオークがああなるのか……。
そして正面では闇半神族のローネという女性が、相手の攻撃を回避すると同時にスルリと動いて、オークの首を薙いでいく。それだけで血が噴出し、死んでいくオーク。ローネは速く動いている訳でもないのに捉えきれない。
この三人は間違いなく滅茶苦茶だ。自分が永き生で見てきた者達とは違いすぎる。ミクの事をアンノウンと言っていたローネでさえ、実力が色々とおかしいのだから、もう考えても無駄だし無意味だ。彼女達を調べるのは諦めよう。
そうと決まれば、私も少しは役に立たないと。
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突然ネルが木の影になっている草むらから出ると、オークを強襲していく。新しい女が現れて喜ぶオークだが、右手のメイスでカチ割られ、左手の短槍で突き刺される。どうやら槍をメインに使っているらしい。
左手一本でも上手く使っており、十分な技量を持っている事が窺える。明らかに後方担当ではなく実戦が出来る動きだ。どうやら<嵐の剣>にはワザと後方担当と言っていたのだろう。目立たない為に。
ネルが参戦したのは戦闘が終わりかけだったので、そこまで倒せてはいない。それでもオーク150体を超える集落が、30分も掛からず殲滅されるとは誰も思わないだろう。ネルも自分の目でみながら呆然としている。
とにかく殺し尽くしたのでオークの死体を回収していると、とある場所から数人出てきた。コイツらが見ていた所為でミクは戦闘中に食べなかったのだ。とにかく余計な事しかしない連中である。
「お前ら凄いじゃねえか! これだけのオークをマジで殲滅するなんてよ!! いや、本当に倒せるなんてスゲーぜ。ところでなんか手伝う事はあるか? せめて何か役に立っとかないとな!」
「そうよ。私達だって戦闘以外で役に立つ事もあるし! 色々な事を手伝えるわよ!」
「そう。なら回れ右して、とっとと失せろ。それ以上近付いてきたら、獲物の横取りと見做して殺す」
「「「「「「………」」」」」」
流石にランク10は甘くない。手伝いをした後、一体か二体ほど御礼に貰おうかなどと安易に考えていたようだが、”獲物の横取り”と聞いて自分達の行動を理解したらしい。
獲物の横取りは不法行為であり、悪質な場合は殺されても文句は言えない。そして自分達は戦いすらしていない以上、間違いなく悪質な部類に入る。その事を理解した<嵐の剣>は走って逃げて行った。
あんな物達が何故ランク6なのか、疑問に思うミクとヴァルだった。




