0105・オッゴ村
ヴァルが走り出してある程度の時間が経つとオッゴ村に辿り着いた。この村には特に何も特色など無く普通の村だった筈だが、何処かというか何かがおかしい。そんな感覚を受けつつ村の門番に話しかけようとすると、槍を突き付けられた。
いきなり何なんだと思うも、「ちょっと待った!」と村の中から声を掛けてきた者が走ってくる。その男が来る事で槍を立てる門番。いったい何が起きているのか? 少し面倒な予感を感じつつもミクは男が来るのを待った。
「ハァ…ハァ……ハァ。す、すまねえな。今、この村の中は立て込んでてさ、ちょっとピリピリしてんだ。それよりアンタは村に何の用なんだ? それと、もしかしなくても同業だろう? ちょっとこっちに来てくれ」
一瞬、立ち去ろうかと思ったが、妙に真剣に見てくるので仕方なく村に入るミク。すると、ヴァルに対して門番が槍を突き付けようとするのを慌てて止める男。ミクはヴァルから降りて体を小さくするように言う。
すると体を小さくしたヴァルと、それに驚く男と門番。どうやら<使い魔>を知らなかったらしい。ヴァルを消して再び出現させると、ようやく<使い魔>というものを理解した。魔導国では魔女が有名ではないのだろうか?。
「聞いた事はあるけど、魔女の使い魔なんて見たことねえよ。アンタ……ああいや、魔女様が来られてるなんて知らなかったもんで。申し訳ございません」
「私は魔女じゃないよ。魔女から<使い魔創造>を習って、<使い魔>を創れるようになっただけ。それ以外は、まあ普通の冒険者かな」
足下でヴァルがそっと溜息を吐いているが、ミクは一切気にしない。当然ながら普通ではないが、そんな事は言っても意味が無いし知らせる意味も無い事だ。ミクは案内されるままに村の中の村長の家へと行く。
中に入ると村の多くの者と冒険者らしき男女が居て、こちらを一斉に見てくる。そんな中を案内されて、一つの椅子へと座るよう促された。ミクはとりあえず座り、ヴァルは足下で丸くなる。
「デルトア殿、そちらの美しいお嬢さんはいったい……?」
「俺が運良く外に出ている時に、偶然村に来ていた冒険者だ。言葉は悪いが女性である以上は手伝ってもらおうかと思ってな。それに彼女は魔女ではないが<使い魔>を持っている。最悪は<使い魔>を囮に出来る筈だ」
「そうは言っても結構な数が居るのよ。正直言って私達でさえ自信が無いっていうのに大丈夫なの? <使い魔>を持ってるなんて凄いけど、魔女じゃないなら対した実力も無いでしょうし、護衛なんて乱戦になるから出来ないけど?」
「そうだぞ。俺達のパーティーは男3の女4だ。唯でさえ女性が多いのに、これ以上負担を増やされても困るぜ。<使い魔>に護衛させて冒険者の真似事してるようなの連れて来られてもな」
周りで聞いていた村人も落胆した溜息を吐く。何だかよく分からないが、ミクは面倒臭いと思い、さっさと出て行っていいか聞く。そもそもこの村には王都に行く為の情報を聞きに来ただけで、それ以上の理由なんてない。
「あー、そうだったのか。すまない、悪い雰囲気のところに無理矢理連に連れてきちまって。俺達は冒険者パーティー<嵐の剣>っていうんだ。もし何かあったら頼ってくれ。今回の事は本当に悪かった!」
「ちょっと待って。私はランク9の冒険者でネル、宜しく。私は臨時にこのパーティーに加入しただけだし主に後方担当だけど、この女性の強さも何も聞かずに勝手に決めつけるのはおかしい。まずは聞くべき」
身長が150に届かないぐらいの、ネルと名乗る女性が他の冒険者に反論する。小さいが体は太く山髭族だと思えるのだが、女性の顔に髭は無い。なので山髭族ではないのだろう。
冒険者も周囲も「聞いてどうするんだ?」という顔をしているし、ミクも出来れば話したくないのだが、ネルと名乗る女性はもう一度聞いてきた。仕方なく、溜息を吐きながらも正直に話す事にしたミク。
「ハァ……めんどくさ。私の名前はミク。これを見たら分かる通り、冒険者ランクは10。これでいい?」
「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」
周りの冒険者も村人も一斉に驚いた。まさか鉄のプレートの冒険者が来ているとは思わなかったのだろう。驚き顔をした後、何とも言えなくなったようだ。特にミクを扱き下ろしていた二人は視線を外している。
「で、正直に言ったから出て行かせてもらうよ。助けてやる義理も無いし」
そう行ってミクは村長の家を出ようとするが、慌てて村人が土下座して頼み込んできた。何でも近くの森でオークが多数目撃されたらしく、<嵐の剣>が調べたところ集落が出来ていたらしい。
そのオークの集落をどうするかで困っていたそうだ。では何故あれほど門番が警戒していたのか聞くと、おそらく村人が村長の家に集まっているので余所者を警戒していたのだろうとの事。
呆れてしまうものの、最初から印象の悪い村を助けようとする者など居る訳が無い。そんな事を話して出て行こうとすると、何故かネルという女性に服を掴まれ止められる。
「あー……んー……面倒だけど、この村を助けろって事? 私に得が有るように契約出来るの? 出来るんだったら受けてもいいけどさー」
「えっと、具体的にはどのような………」
「それは簡単。私は足手纏いを必要としない。つまり、<嵐の剣>とかいう奴等は邪魔。私一人であれば請ける。正直に言って、足手纏いがいてもオークが分散して邪魔にしかならないの。で、どうする?」
「「「「「「………」」」」」」
「それでいいと思う。私は<嵐の剣>を抜けてこの人と行く。戦いには参加しないけど、見届ける者が必要」
「へっ! どうせ逃げるんじゃねえの。このおぶぉっ!?」
「五月蝿い、ザコが囀るな」
コップを放り投げた後、ミクは普通に喋っているだけだ。しかし怖ろしいまでのプレッシャーが周囲に圧となって広がる。その瞬間、誰も口を出せなくなった。ネルという女性を除いて。
ミクもヴァルも理解しているが、この女性は何処かおかしい。ランク9と言っているが、果たして本当なのか? その事に疑問を持っており、<嵐の剣>とかいう連中よりも遥かに警戒度を上げる二人。
村の外に出ながらネルに聞くと、オークの集落の位置は彼女が見つけたらしい。なので村を出た後、二人でヴァルに乗ってオークの集落まで進む。
『主、気付いているだろう? この女は明らかにおかしい。主の圧を受けても動揺一つしないのは明らかに不自然だ。相当の経験をしてきているのか、もしくは山髭族じゃない何かだろう』
『流石に分かってるよ。ただ、同時に私達を滅ぼす事は不可能だと分かる。そこまでの力は持っていない。だから警戒度をそこまで上げる必要は無いと思う』
『成る程。【念話】まで使えて自意識があるという事は、間違いなく使い魔』
『『!!!』』
『でも、それはおかしい。何故<使い魔創造>を知ってる? あれは<魔女の秘法>の一部の筈。そして魔女は魔女以外にそれを教える事は無いと言われている。そして私が生み出されてから一度も聞いた事は無い』
『お前はいったい何者だ!? 事と次第によっては容赦をせんぞ!』
「私はネルディリア・アトモスト・ヴァイヘルム・ドヴェルク。創造神の子であり、種族は創半神族」
「あっ、そうなの? ……ん? ローネが出てくるってさ。ちょっと止まって、ヴァル」
ヴァルがその場で止まると、ミクは右腕を肉塊にしてローネを出す。突然ミクの腕が肉塊になった事も驚いたが、中から人が出てきた事にも驚いたネル。
妙な形で邂逅する神の子二人であった。




