ギルドなスクールのヤツら 3
6月、天竜王の月。雨季。
明日、冒険者スクールの入校式だ。俺は、とっくに特待生研修を終えてプロとして活躍しているナスカと、装備品の買い取り対応店が並ぶ通りに来ていた。
小雨の中、お互い私服の上に革のレインコートを着ている。
「最後のサポーター活動でも使い込んだから、あんまいい値で売れなかったなぁ」
「その内、金が貯まったら弟と母親に借りた金は返さないとダメだぞ? ジュウエモン」
「うへぇ。あ、あそこの路地の先にモツ入りのウドンヌードルの美味い店があるらしいぜ?」
「行こうか」
「おう」
「・・いつもの3人とは仲良くするといい、同期は格別らしいからな」
「特待生の同期はいなかったのか?」
「今期は私の他に2人だけだ。変わったヤツらでな、少なからず困惑している」
「ナスカに言われるんなら相当だ」
「どういう意味だっ?」
「へへっ」
最近は先にプロになったナスカが出払っていたし、俺もイツメン達と入校前の訓練と本格的に稼ぐ為に(ルペサリタとテオはそこそこ金欠)サポーターレベルのクエストをこなしていたから顔を合わす機会も減っていたが、俺達は今朝、銀貨3枚の部屋を引き払っていた。
数ヶ月前に森で『俺の城』を陥落されて以来のコンビも正式に解散だ。
だが、今はレベル差あるがその内、また一緒に冒険しようぜ? ドSのナスカ姐さん!
モツ入りウドンヌードルは冷たい小雨に打たれた後だったから、沁みる味だった。
・・ヨバーンの町のギルド支部の近くにある冒険者スクールは、スエリア領肝いりの学校だ。通常年に1度4ヶ月間だけ開校する。
有料だが適性と身辺に問題がなければ定員の範囲で誰でも入れる。
今年は俺達を含め、41名が入校した。ほぼ例年通り。
審査は鑑定オーブの結果でサクッと篩に掛けてから、サポーターならキャリア確認。一般人なら身辺照会もする。その後、軽く面談だ。
俺はサポーターだったから早かった。『廃嫡』も理由が理由だけに、眼帯の受付の人に爆笑されただけだったぜ・・
あっさり手続きできたが、入校希望者は三百と数十名はいたらしいから実は簡単ではなかったんだろな。
ちなみに去年、スエリアの冒険者ギルドを辞めたり休職、転籍、除名、サポーターや運営スタッフへの転属、『蘇生不能判定』や『無期失踪判定』された者は40名なので、とんとんだ。
入校してから約2週間は大雑把にコース分けした上で基礎訓練や基礎座学をして、どのジョブが相応しいか? 決めてゆく。
男女別の寮で寝起きしてひたすら訓練訓練、座学座学。時折鑑定オーブによるステータス変化のチェックと面談・・繰り返しだ。自主的になんらかの刑に服している感もちょっとあるっ。
例えば、典型的な基礎訓練だと、
「ふっ、ふっ!」
窓は開けっ放しの訓練施設に並んで、重しの付いた柄のある金属棒をひたすら素振りっ!!
「オラーッ! お前ら姿勢、ヘタってきてんぞっ?! 棒きれさえ振れないで、どうやって竜や巨人とやり合うんだぁっ? 仲良くダンスは踊ってくれねぇぞっ?! しっかりやれよっ、このビチ〇ソどもがぁーっ!!」
指導官はムキムキの、金棒担いだ犀人族のオッサン。語彙がまぁ酷い。
この訓練で付ける重しはステータス相応だから一応前衛職志望になるルペサリタだけでなく、テオやラクスミもいた。
ラクスミなんて俺より重い棒を軽々振り回して僧侶志望なのか?? といった具合だがテオは重し無しの棒だけの素振りでも、
「はふぅ~っ、はふぅ~~っっ!」
ヘロヘロになっていた。
「なんだぁっ? お前ぇっ、年取った驢馬の方がまだ動けんぞぅ?! このモヤシ金髪がよぉっ!!」
「はふぅーっ! はふぅーーっっ!!」
散々ワーライノ教官に至近距離でどやされて、さめざめ泣きながら素振りさせられる魔法使い志望のテオだった・・
大抵の座学は普通に講堂で講義を聞く。試験はあまり無いが、短いレポート提出は結構多い感じだ。ついてこれてない、と判定されると即、別教室で補習を受けさせられる。
共通教養なんかは今期全員で受けた。
「・・死亡、灰化、消失。3段階の『死』の内、肉体消失状態から別の器を使っての蘇生は禁忌とされています。一般的には」
眼鏡の掛けた鬼族の指導官が淡々と講義している。
ふむふむ、死亡の時点で死体の状態によって蘇生率やコスト、後遺症に差が大きいが、アッシュまでイッちまうとコストだけでも家何軒って話だな。
記憶障害もほぼデフォらしいし、最悪、『なるべくフレッシュな死体が残る立ち回り』は重要だな、と。
「ねぇ」
隣の席のルペサリタが小声で話し掛けてきた。ん?
「アンデッドモンスターを蘇生させまくったらビジネスになんないかな?」
「・・ええ?」
いやでも、イケそうな感じもする、か?
「ゾンビくらいなら死体が残ってるし、レベルも低いしっ。お金の当てがなくても働いてもらうんだよっ、イヒヒ」
急に悪い顔をするルペサリタ!
「初期投資べらぼうに掛かるし、悪さしてっと、その内ギルドの調査部にバレんじゃねーの?」
「悪さじゃないしっ。はぁ、いいアイディアだと思ったんだけどなぁ。あ、じゃあ蘇生させずにゾンビを労働力として活用できないかな? こう、なんか、風車とかの原理でさ・・」
主旨変わってきてるぞ? ま、しらんけど。
ナスカじゃないが、ギルド関連は癖強いのが多いから『あれ? 俺、平凡じゃん??』みたいな気がしてくるぜ。
6月の中頃になると、それぞれが就くジョブが決まる!
俺のジョブは結局、魔法戦士! テオは錬金術師! ルペサリタは忍者! ラクスミは神官戦士! となった。
全員、微妙に斜めにズレたジョブに就いたな・・
こうなると合同実習と寮以外ではバラバラだが、食堂なんかでも上手いこと全員顔を合わすことはあった。
「俺、魔法得意じゃないのに『支部に若手の魔法戦士が少な過ぎる』とかいう理由で魔法戦士にされたんだがっ」
「忍者、覚えること多過ぎ。『忍具』もさ、こんな種類いらないでしょうに?」
「俺も『お前、実家が魔法道具屋だろ? 錬金術師は潰しが利くぞ?』みたいな流れで錬金術師だよ・・魔法使い職で首席のつもりがっっ」
「僧侶になりたかったですぅ。私、前衛で『鈍器を二刀流』で振り回すスタイルはちょっと・・」
不満タラタラで俺達は、ナチュラルに栄養剤が『副菜』として付いているランチセットを食べていた。
『志望と適性が合ってないよ?』とスッと修正された感も無いではない。俺に関しちゃ志望自体が『前衛職』だったからへったくれもないんだが。
「つーか、月末の合同実習。野外らしいぜ?」
「うわ~」
「雨季明けてからやったらいいじゃんかっ」
「私は植物系種族だから雨、好きですけどねぇ」
「あんたね、ラクスミ。濡れるの前提なんだから訓練着のサイズとか重ね着とか、工夫しないとまたエッチぃ感じになっちゃうよ?」
「え~?」
「俺は『自然』でいいと思うよっ?」
「テオは『存在がエッチぃ』から黙ってなっ」
「いやいやいや」
さすがに照れる、って感じのテオ。オイオイ。
「まぁ4人全員で組むの久し振りだし、いっちょ高評価ゲットしちゃうか?」
「いーねー」
「いいじゃ~ん」
「うふふ」
食堂で呑気な調子だった俺達だったが、月末の『野外実習』は俺達の想像を越えたモノだったんだ・・・