まだらトカゲ退治
ツギノの郷を出た俺達は、なんだかんだで山地にあるスーリー郷へ向かう乗り合い馬車に乗っていた。
俺達以外の客は護衛らしい酒焼けしたドワーフ族の中年戦士、行商、踊り子と吟遊詩人のコンビ、あとは親子らしい2人。
兎人族の吟遊詩人は唄わずにリュート(小型の弦楽器)を静かに弾いて、物憂げだ。
「・・ジュウエモン。スーリー郷に着いたら『ギルドの分室』にサポーター登録だけでもして、何か依頼をこなしてみるか?」
弓の手入れをしていたナスカが不意に言ってきた。ん? 護衛の酔っ払いドワーフも横目でチラっと見てきた。
「旅費ならあるぜ?」
「そうではない。冒険者と言っても、実際に仕事となると大変だ。人間族は寿命が短く時間も貴重だろう? 体験くらいはしておくといい」
「まぁ、それもそっか。よし、やってやろうじゃんか!」
サバイバル体験や戦闘経験自体は既に結構あるんだが、仕事という形でやってみるのは確かに必要な経験かもしれねーな。
スーリー郷はツギノ郷とそう変わらない人口だったが、低山といっても山地の郷というのを考えると繁栄してる方なんだろう。
ギルド支部のあるヨバーンの町に近いからか、ギルドの分室もあるくらいだし。
その分室は、郷の役場の端っこに併設されていた。
「はい、この書類ね。通信石で支部に送っておくからね」
2つしかない受付の担当者はわりと珍しい鬱金香人族の女性だった。め~っちゃ事務的。
「簡易鑑定オーブでステータスも確認してね。そっちの方は?」
待機用の長椅子でスーリー郷名物の甘葛汁饅頭を食べていたナスカにも、話を振る受付担当。
「私は付き添いだ。ふふん」
「付き添い??」
受付担当を困惑させるナスカ!
ともかく、
鑑定の結果レベル7だった俺は(一般人のレベルは3前後だからそこそこ)特に職種指定の無い『汎用型サポーター』としてギルドに登録されることになったのだ!!
翌朝、俺達はスーリー郷のすぐ近くの魔除けの山道を歩いていた。
「ジュウエモン! 低山でもいい景色だぞっ。あ! あれはイーストブロッサムじゃないか?! 山の上は花もまだ見頃じゃないか~」
やたらはしゃぎだすナスカ。
「・・?? なんだ? 急に観光モードになんなよナスカ。『新しいドS表現』なら、ちょっと高等過ぎて俺じゃわからないな」
「別にドS表現ではないっ。私は森暮らしだったから山地の高所から見晴らしが良い、というのが珍しいのだ!」
「はぁん? キャラがブレブレだぞ? もっとこう、『山めっ、山道めっ、踏み締めてやるわ! オホホホッ!!』とかやれよ?」
「情緒オカシイだろうがっ?! 私をなんだと思っているのだっ!」
等と言い合いつつ、依頼主がいる山小屋に来た。
「山葵畑の近くの作業小屋の魔除けが劣化しておって壊れてしまっての」
依頼人は初老くらいの狸人族だった。
「一週間程、山道の作業の采配をしていて、小屋に行ってみたら食料庫が荒らされるやら小屋も壊されるやらっ。近くに最近巣くってる『まだらトカゲ』達の仕業じゃ! 許せんっ」
怒り心頭な依頼人さん。
「まだらトカゲって肉食ですよね? 山葵食うんですかい?」
「食われたのは、ワシが知り合いと作業小屋で酒盛りする為の食料じゃっ!」
「ええ?」
「ふん? 酒盛り?」
なんで山葵畑近くの作業小屋なんかで酒盛り??
と思った俺達だったが、教わった山を少し下った現地に行ってみると理由がわかった。
「ほう~っ、これはまた」
「風流、ってヤツだ!」
ブッ壊された作業小屋はちょっとした崖の上にあって、崖の下の沢に山葵の畑があった。水温は低いらしく、周りの木々の陰もあって肌寒いくらいだ。
作業小屋には山葵畑を見晴らせるウッドデッキの跡があった。
「そりゃ酒盛りするし、壊されて怒るわ」
「無理からん」
納得した俺達は、悪さしたまだらトカゲのねぐらに向かった。そして・・
「だぁーーーっっ?! やり辛ぇっ! ナスカっ。ホントに俺のレベルでイケんのかコレっ??」
俺はそこそこパニくってたっ。まだらトカゲはその名の通り、豚くらいの大きさの(豚は大型犬よりデカいぞっ?)まだら模様のトカゲ型モンスター!
再生し、伸縮する尻尾を鞭みたいに使うのも厄介だが、一番鬱陶しいのは『迷彩化』の力だっ。景色に溶け込む能力!!
「メローっ!!」
「レーロレロっ!!」
奇声を上げつつ、尻尾攻撃に加えて、爪、噛み付きっ、体当たり! 4体のまだらトカゲに俺は大苦戦だっ!
「落ち着け。野生を体験した君はレベルのわりにステータスが高いし、反応もいい。相手は姿を消しても気配、臭い、物音、体温は消えない! 察して戦うのだっ、ジュウエモンよ」
ナスカは近くの木の上で『師匠ポジ』なスタンスで見てるだけ!
「ナスカめっ、微妙にニヤニヤしてるのがバレバレなんだよぉ!」
「ククク・・」
やっぱドSじゃねーかっ。ちょいちょいしらばっくれやがって! それでも、要点はわかったっ。俺は気を落ち着けて一番わかり易い『音』に集中した。
尻尾の音! 駆けて跳ぶ音! 鳴いて爪振り回す音! ここまでで相手の形状や動きは大体把握済みだっ、俺を甘く見るなよ!
「・・っ! そこ!!」
尻尾の鞭と爪と体当たりを掻い潜って、重なった仲間の身体が邪魔でまごついてた最後尾の1体に迫るっ。相手は慌てて姿を消したが、紅葉みたいな足の形に地面が凹んでるぜっ!
ズバっ!!!
銅のナイフでまだらトカゲに会心の当たり! 一撃で仕止めたっ。あとはフォーメーションも崩れた3体中2体をテキパキ仕止め、最後の1体は姿を消して逃げたが、
「近場過ぎる、施設を襲うことを覚えた。見逃せないな。砕けろ!」
ナスカがドSを発揮しっ、砲筒の一撃並みの魔力が炸裂する矢を1発放って仕止めた。
依頼『まだらトカゲ討伐』完遂だっ!!
・・その後、流れで作業小屋の魔除けの再設置とウッドデッキの補修だけは手伝うことになり、きっちりこなした。デッキの仕上げ剤もナスカのドライの魔法ですぐ乾く。
勿論、俺達はただのボランティアじゃなかった! 目当ては、
「お待ちどうじゃ」
補修が済んだウッドデッキ席に依頼主様が山葵料理を持ってきてくれたっ。特別報酬だ!!
山葵鶏ヤキソバ、山葵自然薯汁、川魚の山葵焼き、山葵と木苺ジャムのケーキ!!!
「キッチンが使えないから簡単なキャンプ料理だがのう」
「いやいや想像を越えてましたよっ?」
「もうこういうお店を始めた方がいいっ!」
食べてみると、
「美味ぁーっ、爽やか!!」
「なんと豊潤な山葵が・・爽やか!!」
いい景色を見下ろしながら、語彙がオカシクなる激ウマな沢山葵グルメを堪能する俺達っ。
一応『俺の職業体験』とか訓練で来たんだが、やらせたナスカも山葵に夢中だからこれでよしっ、だ!