競馬で1発当てる
というワケで森を抜けた俺達は、ハジメ郷よりちょっとだけ発達してるツギノ郷に到着した。ちょうど降ってた小雨が止んだタイミングだった。
ここに至るまでに5回ぐらい戦闘したり、魔除けの野営地に2ヵ所寄ったりしたが、特に変わったことはなかったかな?
戦闘でやたらとナスカが俺のことを鍛えようとするから、え? 師匠なの? 軍曹なの? ってなったり、
魔除け野営地で備え付けの衝立の向こうで湯浴みする時、毎回「覗いたら殺す」と脅されたりはしたが、まぁそれくらいだ。
安定のドSだな、と。ドSしてんな、と。ハーフ耳長ドS族なのかな? と。
ツギノ郷ではまずマントをナスカの『ドライ』の魔法で乾かしてもらってから、道中で倒したり採取したり、ナスカが隠れ里から持ってきた素材類を各専門店で売り捌いて旅費をチャージした。
「お~、ナスカ。結構、御大尽になってきたぞ?」
「君は弟に集った金があるからな」
「まぁ、長男だからな! ナハハっ」
「・・最低だ」
毛虫かなんかを見るような目で見られつつ、取り敢えずまともなメシと風呂とベッドを求めて、宿屋に向かったのだが、
「お?」
馬糞と土の臭い、歓声! ドドドドッ、って感じの多数が駆けてる音。
板塀で囲まれた郷の端にある敷地の広い施設からだ。
俺達は近くを通り掛かっていた。
「驢馬レースだ。ここの名物。まだやってたか」
競馬か・・今、余分な金がちょっとばっかしあんな。
「よし!」
「やめとけ」
「競馬で1発当てんぞっ?!」
「・・はぁ」
ナスカにため息をつかれたが、俺もハジメがでここのレースの噂は聞いていた! 俺は冒険者になる男だっ。この『冒険』の機会、逃さないぜっ?!
というワケで、ツギノ郷の中でも暇な連中に混じってパドックを見る俺達。今日はもう2レースしかない。
馬が驢馬だけに、引いてるのは人間族ではなく小柄なフェザーフット族の騎手達だ。
競馬新聞も買っていた。
「ほぉ~っ、なるほど、あの馬が、アレで、この馬が、コレか・・」
「程々にしとけよ、ジュウエモン」
レース場内で買った、名物らしい揚げた淡水魚と芋にソースをぶっかけたのを挟んだパン『貧乏貴族サンド』をワシワシかぶり付いて食べつつ、杏フレーバーのルートビアを麦の茎のストローで飲んだりしてるナスカ。
パッと見は『上級者感』出してるっ。
「いいか? ナスカ。ナスカ・モンスーンブックさんよ」
「なんだ、そういう感じでフルネームよせ」
「今日の残り2レースは特徴的な通好みのレースになってんだぜ?」
「ふん?」
「あの馬は『マツリアトノ』牝馬で、得意は先制からの独走での逃げきりだ。だが、もう年でパワーは落ちてる。ピークアウトだ!」
「歳を取れば仕方ない、か」
「あの馬は『ソコララピス』牝馬で、後半の差し込みからの競り合いが強かったが、やはり歳でパワーは落ちた。ピークアウトだ!」
「おお?」
「あの馬は『ノーマルマンデー』牝馬で、ピークアウトだ! あの馬は『カンサイヘイミン』牝馬で、ピークアウトだ! あの馬は『ハネダアゼミチ』牝馬で、ピークアウトだ!」
「皆、ピークアウトかっ?! なんだっ? 敬老レースかっ??」
「敢えてだ。速さではなく技巧を競う趣向のマッチングなのさっ! 全盛期のデータを元に衰えた現状も加味した高度な推測能力が客に求められるっ!! まさに『通』の為のレースだっ!!!」
「そ、そうか、何やら難しそうだが、無理ない程度に賭けるといい」
「しかし、俺は買えないんだ。とても、買えないのさ・・」
「なんでだ? 君は賭けに来たんじゃないのか??」
俺は競馬新聞を小脇に挟み、遠い目でピークアウトを迎えた牝馬達を見詰めた。
「俺はさ」
「ああ」
「未成年だしっ。テヘヘっ! つーワケで代わりにナスカが馬券買ってきてくれよっ? 分け前に1割払うからさ!!」
「・・・」
め~~っっちゃ、不機嫌になったが! 買ってきてはくれた。
まさに爆脚っっ!!! 最終コーナーで加速するマツリアトノっ! 全盛期には及ばないんだろうが、独走をしていた!
今日は昼過ぎまで小雨だったから、足場が荒れてる。こうなると他の衰えた驢馬達は露骨に勢いが落ちる中、元々先制逃げ切り型で地力と気持ちが強いマツリアトノの独壇場だ!! 予測的中ぅっ!
「押し込めっ、マツリアトノーっ!!!」
「これでピークアウトか? 大した物だ」
2位の予測も的中していたっ。カンサイヘイミンだ! 2馬身は離された後続集団から抜けてくるっ。カンサイヘイミンは気位が高い驢馬。勝ち目が無くて、団子になっても先頭に立とうとする!
「平民の底力っ、見せたれぇーっ!!!」
「おお~っっ、的中、なのか? 信じられん・・」
マツリアトノは2位に1馬身差で1着! カンサイヘイミンもド根性で2位に滑り込んでいたっ。
沸き立つ会場っ!!
「しゃーーーーっっっ!!! 来たぁっ、祭りじゃあっ!!」
「おおおおっっ!!」
一番人気の組み合わせだったから倍率は微妙だったが、そこそこ儲かった。
「やったぞ? ジュウエモン!」
換金してきたナスカが、金の袋を持って浮かれてる。
「最後のレースはどうする? 私も自分で賭けてみようかなっ? ふふっ」
「・・いや、もう帰るぜ?」
「ふぇ?」
「今、『うひょーっ』て顔でナスカが来たのを見て、『今日の運気は逃げた』と確信した。ギャンブルは引き際が肝心さ」
俺はスッと会場出口に歩きだした。
「ちょっ? なんだ?? 人を疫病神みたいに言うな!」
「宿代も奢ってやっから、とっとと引き上げるぜ? 全く『馬界隈』に関しちゃ、お嬢さん、てとこだな。へへっ」
「何をーーっっ?!! 不服だっ!!!」
わーわー文句を言っていたけど、賭けずに予測だけさせたら普通にコテンパンに全敗していて、それから2日くらい、すんげぇ無口だった。
なんにせよ、懐具合がぽっかぽかになった俺は、
なめし革の鎧、甲羅の額当て、甲羅の手甲、甲羅の脚甲を購入できた。
全てのピークアウト牝馬達に幸あれ! てとこさ。へへへっ