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再・旅立ち

森の中を魔法や道具類も使わずに、ドSハーフエルフは結構な速さで進んでく。


「野生に帰ってるだけに、よく付いてこれてるな」


「だろ? すげぇんだわ、俺!」


「図に乗ってる」


俺は猿かなんかみたいに、素早くドSハーフエルフに続いてた。

どんどん魔力の強い、ハジメ郷の連中は近付かない領域に入っていってんな。

俺が縄張りにしてたエリアより強いモンスターも見掛けたが、俺達が速いのと、ドSハーフエルフが強ぇから手は出してこない感じだ。


「そういやあんた、名前、なんてぇんだ? こっちは名乗ったぜ? ドS界隈の作法はわからねぇが、そっちも名乗れよ」


「ドS界隈の作法なぞ、私も知らん! 私はナスカ・モンスーンブックだ」


「ドSのナスカか」


「普通のナスカだっ! ほんとに射るからな?!」


「うへぇ」


ナスカに目を剥いて怒られつつ、俺はハーフエルフの隠れ里に到着したんだ。



素朴だか結界の強い城壁の中はハジメ郷より小じんまりとした里で、平屋と高床式の平屋で構成されてた。

パッと見は文明遅れてるけど魔法は行き渡ってて、あらゆる作業を道具を独りでに動かさせたり、力仕事は小型の土の魔法傀儡(ゴーレム)に手伝わせてる。


「ハジメ郷でもよく話は聞いてたけど、こんなんなってんだな」


「君達の郷だと、狩人と薬師、一部の魔法使い等以外は付き合いはない。必要無いからな」


「言い方」


「ふん!」


ナスカが軽めにドSを発揮しつつ、里長の所に行ったワケだが、


め~~~~っっっちゃっ!! 説教されたわ!!! 理詰めでっ、


「はぁ・・危うく半泣きするところだったぜ。大体俺が悪いからって、べらぼうに怒っちゃってさっ!」


怒られまくった後で、俺は歯を磨いてから来客用の宿舎みたいにも使われてるらしい自警団の詰所の風呂に入っていた。

薬草風呂だ。結構強いハーブ臭だが、身体の芯まで沁みて、俺は完全に回復した。


風呂、最高っ!!!


用意された着替えは『布の服+1』だった。魔除け掛かってる感じ。


「ジュウエモン。夕飯の前にコレを飲め」


風呂上がりに詰所の食堂に行くとナスカがいて、素焼きのカップに入ったキッツイ臭いの薬湯らしいのを差し出してきた。

ナスカもどこかで風呂に入ったらしく、俺と似たような格好をしている。


「何の薬だよ?」


「『虫下し』だ。野生の暮らしを甘く見るなよ?」


「・・・」


まぁな。



翌朝、今日から俺はどうなんだろな? ハジメ郷に送り帰される可能性とサーカスに売られる可能性は同じくらいか?

なんて思いながら、出されたスクランブルエッグとサラダと粥と茶の朝食をもそもそと1人で食べていると、


「兄さん」


詰所の出入口に、ナスカと実家の粉屋で下働きしているゴンジさんとセットで、弟が来ていた!


「なんだ? 俺は帰らないぞ?」


まぁ都市部の冒険者の養成学校に入校させてくれるというのであれば、シルバーモルト家の敷居を跨がないではないがなっ! ふふふっ。

長男だしな! ふははははっ!!


「兄さん、これ。戸籍証明書と、僕が相場や自由市で雑貨なんかをゴンジさんに売ってもらって稼いだお金から、旅費の足しにしてよ・・」


「ふぇ?」


テーブルに置かれたズッシリした小袋と1枚の紙切れ。俺の、戸籍証明書だ・・ん?


「シルバーモルト家から廃嫡されてるっ?!」


こっちから申請してもダメなヤツだぁああっっ!!!!


「お父さんだいぶ怒ってるから、当分は無理だよ。なんでもいいから都会で人並みに暮らせるようになったらまた違うと思うから、頑張ってよ」


「頑張っ・・・いやいやいやっっ、ゴンジさん! 俺は冒険者学校に入れてくれりゃ」


「坊っちゃま、お達者でっ、ううっっ」


泣くゴンジさん!


「ハーフエルフの隠れ里でお世話になったお金は、お母さんが用意してくれたから。後は」


マントの襟を直して、シビアな顔で出入口の方に向き直る弟っ!


「自分のことは自分でしてね」


弟とゴンジさんはハジメ郷に帰っちまった・・



昼過ぎ、餞別なのか? 母からもらった迷惑料の範囲なのか? 俺は布の服+1の他にも用意された、


収納ポーチ、フード付きマント、銅のナイフ


を身に付け、ハーフエルフの隠れ里の城門から出ていた。

門番の自警団のハーフエルフの男が気まずそうに目を反らしている。

俺は、呆然と歩きだした。そのまま魔除けの利いた林道を進んだんだが、


「・・ふふっ、ふふふっ!」


なんか、笑えてきた。


「むしろ計画通りだぁーーーっっ!!! 金も有るしっ、装備も有るしっ、わりと動けるようになったしっっ!!! 流れは俺に来てるぞぉおーーーっっっ!!!! 未来の英雄っ! いやっ、未来の勇者にもなれそう! 超冒険者候補生っ! 出遅れた天才児!! ジュウエモン・シルバーモルトとは俺のことだぁああーーーーっっっ!!!!」


「うるさい」


「のっ?」


いきなり横から膝裏を軽く蹴られてカクンっとされた!

振り向くと旅装のナスカだった。


「ナスカ? んだよ、泣いてねーぞっ」


完全に半泣きしてたがっ、『泣いてねーぞっ』で押し切る!!


「魔除けの林道とはいえ、隙だらけだ」


「っさいなぁっっ」


「思春期感出すのよせ。・・はぁ」


深々溜め息つくナスカ。なんだ? 出てくんだからもう用無いだろ、俺なんかにさ!


「里長が、放っておくとほぼ100パーセント野垂れ死にして寝覚めが悪いから大きな都市まで送ってやれ、と言われた。まぁ私も10年くらい? この森から出ていないから暇潰しだ、付き合ってやる。あまりおかしな事をするなよ?」


「・・・」


俺は涙を拭って、鼻もすすり、さっさと歩きだした。


「なんだその反応はっ?? 礼なり、なんなりあるだろう?」


「・・別にっ。俺、1人で行くつもりだったしっ。頼んでねーしっ!」


「めんどくさ! 君なぁっ」


小言を言われつつ、どうやら旅の仲間になったナスカと共に俺は今度こそ旅立ったワケだ。

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