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夏休み最終日、幼馴染と限定ケーキを買いに行く

作者: 光井 雪平

 夏休み最後の一日。それが今日。


 今日の僕の予定は、明日の準備を終わらせ、あとは明日から再開する学校のことを若干憂鬱というかけだるさを感じながら、最後の一日をだらだらと過ごすものであった。


 それが当初の予定であった。


 だが、その僕の予定は崩れ去った。


 今僕の隣にいる、幼馴染である新藤亜希によって。


「ねえ、聡志。面白い話とかないの?」

「いきなり何?」


 僕はいきなりの亜希の問いかけに、困惑しながら問い返す。


「いや、暇だなと思って」と亜希の発言。

「そんなこと言われてもさ」


 と、僕はあきれながら返す。亜希は「それもそうね」というと、何か思案した様子を見せる。少しして、亜希は


「夏休みの宿題、どうだった?」


 と、問うてくる。


「どう?って。別に変わりはないでしょ。特別な課題とかないし」

「まあ、そうね」


 自分でもびっくりするほど会話が続かない。いつもはもう少し話が続く気がするのだが。まあ自分が若干この状況を嫌がっているというか、早く帰りたいという気持ちがあるからだろう。


「ねえ、開店まであとどれくらいなんだっけ?」

「30分ぐらい」


 僕の問いに亜希はすぐさま返した。そして、僕はそれを聞いて、あと30分以上かと若干というか結構辟易とする。


 僕は亜希に誘われ、いや強引に連れられて、あるケーキ屋に並んでいた。どうやらここで、本日限定のケーキが出るらしいのだ。一人一種類までで、二種類の限定ケーキが。で、両方食べたいといった亜希により、僕は強引に並ぶこととなっていた。


 並ぶ列のところは、日陰になっているため、ましではあるが、まだ暑さはある。ということで、僕は早く帰りたかった。しかもケーキも別に自分のものでもないのだ。一応亜希はあとでお礼はするといったが。しかしお礼の内容はわからない。


 そして、開店するまでの30分間は僕と亜希は時折会話をしながら待っていた。ほとんど黙ってスマホを見ていた気がする。


 開店してしまえば、列はさくっと進む。元々前のほうにいた僕たちは、10分後にはケーキを買うことができていた。


「ありがとね、聡志」


 ケーキ屋を出ると、亜希はすぐにそう言ってくれた。僕は「どういたしまして」というと、亜希にケーキを渡そうとする。亜希は僕のケーキを受け取らずに「帰ろ」というと、そのまま帰り道を進もうとする。


 僕はケーキ、僕が運ぶのか、まあ別に重いものでもないし、いいけどさ、と内心思いながら渋々とついていく。そもそも帰り道も一緒なのだ。


 しばらくして、亜希の家に着く。今度こそケーキを渡そうとするが、亜希から驚きの言葉が出てくる。


「上がって。一緒にケーキ食べるよ」

「えっ!?」


 僕が驚きの声を上げると、亜希はきょとんとした顔を見せる。


「ケーキは亜希のじゃないの?」

「お礼するって言ったでしょ。それにケーキ食べ比べはしたいけど、二つも全部食べたくはないの」


 亜希の発言に僕は、若干困惑を隠せなかった。


「ほら、さっさと上がって。暑いし」

「うん」


 僕は亜希の家に上がる。亜希にリビングの机に座るように促される。机に座ると、僕は買ってきたケーキを机に並べる。並べ終わるころに、亜希がお茶を入れたコップとフォークと小皿を持ってくる。


「どっちもおいしそうね」

「そうだね」


 亜希はすぐにケーキを半分ぐらいに分け、小皿に載せる。


「いただきます」


 亜希のその発言に続いて、「いただきます」と僕も言って、ケーキを食べる。どちらのケーキもおいしかった。


「どっちも美味しいわね」

「そうだね」


「ねえ、聡志はどっちが好み?」


 亜希のその質問に、僕はケーキをじっと見て考えこむ。二種類のケーキ、片方はチョコがベース、片方はフルーツ系と言った方がいいものだ。僕の好みで言えば、どちらだろう。


 しばらく考え込んだ後に、僕はチョコがベースのほうを選んだ。


「ふーん、そうなんだ」


 亜希はただそれだけ言った。僕は結構頑張って考えたんだけどなぁと思いながらも何も言わずにいた。


 その後、僕と亜希は黙って、ケーキを食べ終えた。亜希はすぐに小皿を片付ける。


「聡志、本当ありがとね、今日」

「別にいいよ。ケーキ美味しかったし」


 ケーキがかなり美味しかったこともあって、僕の機嫌は上機嫌になっていた。今日強引に連れていかれたことはほとんど気にならなくなっていた。


「ねえ、聡志。あのさ、またケーキ一緒に食べてくれる?」


 亜希はなんか、若干小声というか、おどおどしたような様子で聞いてくる。僕は珍しいな、と思いながら答える。


「別にいいよ」

「ほんと?」


 亜希は疑うような目線で見てくる。


「噓ここで言わないよ。また食べようね、亜希」


 亜希は小さく、「うん、またね」と言った。しかも、凄く嬉しそうであった。なんだかよくわからないが。


「じゃ、僕帰るね」

「えっ?あっ、うん」


 亜希は動揺したような様子を見せる。僕はいきなり亜希はどうしたのか?と思う。


「じゃあまた明日学校で」


 よくわからないが、別にもうこれ以上用はないので帰ろうとする。すると、亜希は「待って」と言ってくる。


「ケーキの感想、話したいんだけど」

「いいよ」


 僕は若干驚きながら、答えた。なんだかわからないが、亜希は僕に帰ってほしくなさそうであった。特に予定もないし、付き合ってやろうかと思う。


 ケーキの感想会は、ほとんど亜希の言うことに僕が相槌を打つ感じであった。僕が大してケーキに詳しくないし、こういう感想を言うのに慣れていないからであった。


 亜希は少しして、「ごめん、ヒートアップしすぎた」と言う。


「別にいいよ、聞いてて楽しいし」

「本当よねそれ」

「うん、あんま見ない亜希の様子だし」


 そう、亜希がこんな情熱をもって話す姿はあまり見ない。それを伝えたら亜希は凄く恥ずかしそうにした。小声で「馬鹿」とか言ってきた。


「ご、ごめん」

「謝らないでよ、なんかより恥ずかしいじゃん」


 また僕はごめんと言いそうになり、口をつむぐ。


「今度こそ帰ろうかな」と、僕は気まずい空気に耐えられなくなり、逃げるように言う。


 亜希は「えっ、あっそうね」としどろもどろというか動揺したような様子であった。


「また、亜希ケーキ一緒に食べようね。それと話しもしようね」

「うん、またね」


 亜希は少し小声で返す。僕は本当にどうしたのか?と思うが、まあさっきの一件が恥ずかしいのだろうと思い、帰ることにする。


 玄関について、扉を開ける。


「またね、亜希」

「うん、またね」


 そして、亜希の家を出る。


「聡志、絶対またケーキ一緒に食べようね」


 亜希の大きな声にびっくりしながら振り向く。しかも絶対となぜか強調してきた。僕は「うん、絶対食べようね」と動揺しながら返した。亜希は少し嬉しそうに「絶対だから」と言った。


 僕は頷く。そして、今度こそ別れの言葉を告げ、別れる。


 まったく今日の亜季はよくわからなかった。だけど、なぜかどこか嬉しさを感じる自分がいたのであった・・・


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