【第二話】ステータスみたんですけど、ありですか?
あの日、私は少年をかばって、車に轢かれた。やっと家族に会えると思ったんだけど、なぜか異世界転生してしまった。しかも、大成功って何か特典でもついたのかな。何も感じないけど。
『それは貴方がこの世界の救世主だからです。』
「うわ!びっくりした!」
『…申し訳ありません。』
別に謝るほどじゃないけど。なんか不思議なナビゲーターだなぁ。
私はどうやらヴァーデン博士がつくった人造人間の中に転生してしまったようで、このナビゲーターも博士がプログラムしたらしい。森と草原しかないような自然ある場所にポツンと彼のでかい研究所兼四階建ての家を前にして、ふと疑問がわいた。
「そういえば、名前はないの?」
『私はプログラムですので、そのようなものはありません。』
「…じゃあつけてあげる。名前。」
静香は少し考え込む。
ん~、大人びいた女性の声で聞いて落ち着くのはあるなぁ。これから共に行動していくパートナーって博士言ってたしなぁ。そういえば生前、瞳と一緒に行動してたなぁ。元気かな。私が死んで泣いてくれてるのかな。
『…新アビリティ:【懐かしむ想い出】を獲得しました。獲得率は24.2%です。おめでとうございます。』
「はぁ?なにそれ、どういう能力なの?」
『…冷静判断力+40です。』
確率24%にしてはしょぼいなぁ…
「んん~、決めた!ヒトミにしよう。」
『親しい後輩のお名前でよろしいのですか。』
「いいのいいの。よろしくね。ヒトミちゃん。」
『…よろしくおねがいします。』
「おーい!」
金髪のガタイのいい男性が声を出して近づいてくる。彼の名はストロングワールドという。
どうやら博士が名付けたと聞いて、呆れたのを覚えている。名前を変えようかと提案したが、本人はとても気に入っているそうなのでやめた。
「どうしたの?」
「あぁ、いやもう昼ご飯にしようかと…」
彼は見た目は浮ついていて、家事もできなさそうだが、実際は正反対だった。転生して数日間経ったが彼の料理は絶品で店を出しても繁盛しそうなくらいだ。私は人造人間だから基本食事はいらないって博士が言ってたけど、日本でも美味しい物あんまり食べたことなかったし…
それに余り欲を出すと、変な女って勘違いされるかもしれないから自然に…
「今日のご飯は何ぃ!?」
「うぉ!?そんな近づくなよ。えぇと、今日はオムライスとかだし巻きとか卵料理中心だが、、」
「たまごぉぉ!」
私、工藤静香の好物の一つは卵なのだ。
『…性格に【てんねん】を獲得しました。バカ+4、悪運+2です。おめでとうございます。』
「…おめでたくないわよぉ!」
「静香よ。もうここには慣れたかの?」
三人で食卓を囲んで、博士は食べ物を口に頬張りながら言う。
「全然慣れてないわよ。実験用の兵器だのなんだのガラクタのせいで散々な目に遭ったわ。」
博士と同じように頬張りながらがんを飛ばす。
「なんじゃとぉ!?わしの愛する究極兵器をガラクタじゃとぉぉ!?」
「スペシャリストぉ?ゴミよゴミ……まさか、それ私にもつけてないでしょうねぇ!?」
「…くひひひひっ!その…まさかじゃぁ!」
「…このくそ博士がぁぁ!」
ヴィーガン博士と静香が食事中に喧嘩し始める。
数日間しか経ってないのに何故だろうかと静香は考える。
そうだ、生前は叔母さんとよく口喧嘩していたんだった。
博士と叔母の性格がよく似ていた。私をいつも笑わそうとしたり、口癖は「疑問があるなら人に聞く前に実験しろ!」だった。この博士に同じ事を言われた時は驚いた。
「…黙って食えやぁ!」
ストロングワールドが両手で博士と私の頭を机に押し付けた。
「…ず、ずびまぜん…」
「ふぅ、腹も落ち着いたわぃ。」
怒られた後、何事もなかったように食事をし、呑気にコーヒーを飲んでいる。
私はストの顔色をうかがいながら食事をした。今、彼はキッチンで食器を洗っている。
「…それで、ステータスは確認しとんのか?」
「ステータス?そんなんあるんだ?」
「あるに決まっとろうが。プログラムに確認してみろ。」
「ヒトミちゃん、どう?」
そういった途端、博士はコーヒーを吹き出した。
「ヒ、ヒトミちゃん!?お、お前がつけたんかぁ?」
「あぁん?そうだけどぉ?」
博士が笑い転げる。
「あひゃひゃひゃひゃっ!プ、プログラムに名前を付ける奴は初めてじゃわい。」
殴り殺そうかと思ったが、ぐっとこらえる。
「…んん、それで、どう?」
『…ステータス確認。ステータスを表示します。』
私の前に四角い紫色の画面が表示される。
「んーとぉ?名前がそのまま[工藤静香]になってるんだけど、変えれるの?」
不安になりながら博士に聞く。私はあまりゲームの名前の部分で自分の名前はつけないし、ましてや本名なんてごめんだ。
「...変えるんじゃないかのぅ?」
「ホント!?ヒ、ヒトミちゃん!?どう?」
『...プロフィールの変更は可能です。ステータスはレベルアップやシズカさんの経験による能力次第なのでその変更は不可能です。』
「よし!」
私はちょっとガッツポーズをして、工藤静香の名前を消して、新しいネームを考える。
「んー、どうしよっかなぁ。やっぱりシズカにしておこうかなぁ。」
「わしが良い名前を...」
「博士はいい。」
博士の言葉を遮って断る。彼のネーミングセンスは本人には言えないけど、、、ね?
「えぇぇ、、、ちぇっ、つまらんのぉ。」
博士はむすっとして食卓を離れる。
私は腕組みして考える。
「リン?ジャック?ヒカリ?ハルカ?ディオでもいいかな」
生前、ゲームキャラのつけた名前を思い出しながら考える。
「...シズカのままがいい。俺はな。」
食器の片付けが終えたストはそう言った。
「そっか。まぁ、別にいっか。」
私は漢字をカタカナに変えただけでプロフィール登録は終わった。
「よし。それでぇ、ステータスはどうかなぁ?」
画面を下にスクロールしてステータスは見る。
大体、攻撃力と守備力と素早さと賢さくらいだと思うけどなぁ。
攻撃力:カンスト完了
守備力:カンスト完了
素早さ:カンスト完了
賢さ:451
冷静判断力:542
魔然:カンスト完了
〈新アビリティによりステータスが追加されました〉
・バカ:4
・悪運2
「....なんなのよこれぇぇぇ!」
「...ま、まじか!?い、いやバグだろ!バグ!」
シズカとストが大騒ぎしていると作業中なのか博士が少し汚れた姿で出てきた。
「ケホ、お主ら。そんなに騒いで何があったんじゃ?」
「博士!なんなの?このステータス!」
私が今までやってきたゲームでも最初からこんなのはなかったんだけど。
博士はそのステータスをみて驚いた顔をするが、すぐ冷静な顔つきに戻る。
「お、おい博士。おれの渾身のステータスは無駄なんか?やっとカンスト1つだってのによぉ。」
少し泣きそうな顔をしてストが言う。苦しい思いをして頑張ったステータスが人造人間に抜けられたのだ。
「まぁまぁ。スト君も頑張ってんだからいいじゃん。ふふふふっ。」
ニヤニヤしながらシズカはストの背中をツンツンする。
「っ!このぉ、おちょくりやがってぇ!」
昼の食卓のように今度はシズカとストが喧嘩し始める。
「…四つカンスト。生前からの記憶。そして、救世主。成功、いや大成功といっても過言じゃないかもしれんのぉ。」
博士は2人の喧嘩を眺めながら小さく呟いた。