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ラブコメ・恋愛

大きなぬいぐるみを背負って帰ると、幼馴染が近寄ってきった


 商店街の『福引き』で当たるものが、嬉しいものとは限らない。


 例えば、掃除機とか調理器具。いや学生だからだけど、主婦や一人暮らしには嬉しいかもだけど。コメとかあるけど、持ち帰るんですか。ゲーム機本体を持っていないカセットとか。

 まぁ、冷静に、中古屋に売るか、ネットで売ってしまえ、と返されそうでもあるけど。

 

 とにかく、商店街のガラガラ回すやつを、回したわけだ。

 ちょうど参考書とか本屋で買って、福引券が貯まったから。


 当たったのは、2m近いサメのぬいぐるみでした。

 男一匹、高校生、サメを担いで、帰宅。ゲーセンの大きめのぬいぐるみより、恥ずかしかった。


 家族に見られるのも、恥ずかしいお年頃なので、サメは部屋のクローゼットの中に隠されたのだった。





「ねえ、カズキ。ぬいぐるみ、どうしたの?」


「アヤネ、まさか、見ていたのか」


 学校で話しかけてくるなんて、珍しいと思ったら。

 思春期になって、少し疎遠だったし。義理チョコぐらいは、まだくれる優しい女の子。おかげで、ギリギリチョコ一個で、同級生にマウントができる。いや、まぁ、実際はしてないよ。心の中で、ほんの少し優越感に浸っているけど。


「いや、当たってたでしょ。カランカラン鳴って、サメを担いで」


「なんだ。欲しいのか。欲しいなら、やるぞ」


「ホント。ラッキー。持つべきものは、幼馴染だね」


 ほんとうに、そう思います。

 幼馴染がいれば、異性との関わりゼロの青春が、1になるから。0と1には、超えがたい差がある。

 ところで、そろそろ、女の子の紹介とかしてくれると嬉しいと、思ったり、思ってなかったり。




 学校から一緒に帰宅する。善は急げ。

 巨大なぬいぐるみは、早めに消しておかないと。母親が掃除とか言いながら、見つけるかもしれない。

 ドアを開けると、ちょうどーー。


「あれ、アヤネちゃん。どうしたの?うちに用」


「ちょっとね」


 母さんにバレるとは。今日の仕事の終わりは早かったか。


「なにか、お茶でも出す。ゆっくりしていくでしょう」


 おいおい、僕は別に、サメのぬいぐるみをプレゼントして、それと同時に、婉曲に、クラスの女子の知り合いを増やそうとか、考えているだけなんだ。

 いや、ほんの少しだけね。1ミリぐらい。


「いえいえ、すぐに終わるので、おかまいなく」


 待て。アヤネ。これは、危ない。

 サメのぬいぐるみを渡すという用事は、できれば母親にバレたくない。

 恥ずかしい。そんなこと、親に知られたくない。

 女子には分からないかもしれないけど、男子の繊細さは、女子に学校で、全く話しかけることができないレベルなんだ。


「いや、ゆっくりしていこう。宿題でも一緒に終わらせよう」


「えっと、それなら……。少し、いようかな」


 よし、さすがは、少し疎遠な幼馴染。

 まだ、こちらの気持ちを読んでくれる。


「母さん。コーヒー淹れるよ」

 

 突然、母親が突入してくるイベントは、絶対に防がないと。





「うわぁ、大きい」


 クローゼットのサメをモフモフする女の子。

 ああ、うらやましい。俺も同じぐらいの大きさだよ。モフモフしないけど。


「いいの。いいの。本当にもらっちゃうよ」


「どぞどぞー。男がぬいぐるみを抱いたら、事案なんで」


「えー、そんなこともないけど。というか、ぬいぐるみ置いてあるのに」


「これは、いつか、ゲーセンで女子に見せるテクを磨いた結果、増えただけだ。まぁ、最近は確率機で、取れないの多いから、やってないけど」


 あの頃の純粋なゲーセン少年は、もう帰ってこない。

 アームの力に左右される人生だった。ネットで、取り方が広まりすぎたせいだ。


「ということは、実は、この子たちもーー」


「ん、いるなら、いくつか持ってって、いいよ。何のキャラかもしらないし」


 まぁ、あんまり、ぬいぐるみは、取ってないから、本当はフィギュアが多い。趣味に走りました。ごめんなさい。絶対に女子は欲しがらないフィギュア類。

 そして、妹の部屋に行ってしまったぬいぐるみ多数。


「キモ可愛い」


 そうか、そのウーパールーパーかサンショウウオか、よく分からんのが、可愛いのか。感性のわからない世界。キモい、うざい、センスがない、は褒め言葉だよなぁ。


「なんなら、取りに行くか、ぬいぐるみ。ゲーセンに。まぁ、取れない物は取れないけど」


「いいよいいよ。この子とサメで。今度、何かお礼するね」


「あ、それなら、フリーの女子の連絡先を……」


 あのー、サメのヒレが、潰れていませんか。

 あ、露骨すぎましたか。いや、思春期なんで、そろそろツガイの一匹を探したくなる時期で。

 いや、何でもないです。


「いえ、なんでもないです。サメとウーパーもどきを幸せにしてやってください」


「そう。じゃあ、まぁ勉強しようか。バレたくないんでしょ」


 そうですね。

 宿題やって、こっそり、お送りいたします。

 ジーッと見てるけど、金魚みたいなお餅みたいなのも欲しければ回収していいからね。







「はい。お弁当」


「弁当?俺に」


「お礼に。何回か作ってあげる。大きなぬいぐるみって、そこそこの値段だし」


「別に福引と、昔のゲーセンだから。あんまり金額は気にしないでいいよ。何円かけたか、もう時の彼方だし。

 それより、クラス内で、弁当を受け取る俺が、周りからどう見られるか、考えたことある。俺の幸せな彼女との恋愛生活が、すでに彼女いるよね、に変わる可能性について」


 そうなると、ハードルが高くなる。彼女いるからと誤解されて、遠慮される可能性。幼馴染だけど、いずれは彼女だよね展開によって、何人の俺を慕う女子が遠慮することか。ゼロだったら、どうしよう。


「あー、そういえば、色気づいたようなことを言っていたね。ダメダメ、まだ早い。理性でコントロールできるようになるまでは、諦めておくように」


「まさか、アヤネ。俺の青春を」


 青春クラッシャーなのか。

 制服デートや浴衣デートや水着デートがない青春によって、どれほどの若者叩き勘違い青春コンプレックスおじさんが出現するか、分かっているのか。

 ゲーセンで、ぬいぐるみおじさんになるぞ。


「一石二鳥でしょ。幼馴染からお弁当をもらえて、さらに、女子へのこじらせたアタックを防げるんだから」


 良かれと思って、という言葉の攻撃性を、俺は理解しました。

 そんな気づかいは無用でお願いします。


 幼馴染と恋愛パートに入れないことは、ギャルゲーで学んだ。

 いや、入れるんだけど、俺たち、特に、幼馴染的な重要エピソードがないし。仲は良かったけど、キュンキュンするレトロな思い出が足りないから、トゥルーエンドが成り立たない。


 早急に、青春を立て直さなければ。

 せめて幼馴染とライバル関係になるような正ヒロインを。





 俺は学んでいる。

 一度あることは、二度ある。

 つまり、巨大なぬいぐるみを背負っていれば、もう一人、ヒロインが増える。

 そういう予感が、漠然とした、茫漠とした予感が、朧げながらあった。


 嘘です。

 母親が、商店街の『福引券』を回してきて、と受け取ったので、三回ガラガラと回してきただけです。


 結果が、カメの甲羅を背負う男子高校生、一名。

 まぁ、実際は、このウミガメは、甲羅だけでなく、ちゃんと肉体があるんだけど。


 どうしよう?

 母親には、ハズれたと言っておこう。

 こんなカメさん、持って帰っても、喜ぶ母親ではないだろうし、妹の部屋は、すでに、俺の取ってきたぬいぐるみで、密です。


「カズキは、ぬいぐるみに縁でもあるの」


 正面に、幼馴染の姿。カメの手足が伸びてるからなぁ。正面からも、間抜けな男子高校生です。


「アヤネ、俺を助けると思って、カメを引き取ってくれないか」


「ま、まぁ、わたしはいいんだけど。好きな子にあげるとかいう選択肢はないの」


 なにを言っているんだ。

 いきなり巨大なぬいぐるみをあげるなんて、ホラーだろう。俺は女子には縁がないんだぞ。少しは知り合いになっていないと成立しないムーブなんだから。高校生なのに、バラを百本送るメンタルぐらいないと不可能だ。


「好きな子なんていないからな。可愛い女子ならば、全面的にオッケー」


 正直に言った。そう幼馴染フラグは、回収しないようにしておかないと。ちょっと嫌われて距離を置かれているぐらいがいいんだ。

 ただ本気で嫌われるとやばい。もしかしたらバレンタインデーゼロの悲劇。


「幼馴染がゴミクズ男発言」


 ゴミクズは、JK用語でも擁護されなさそう。褒め言葉ではなさそう。

 目を細めて、ありえないと、言外に伝えてくる。

 それから、くるりと、背中を向けて同じ方向に歩き出す。


「じゃあ、わたしでもいいはずだよね」


「…………」


「な、なに。可愛くないの」


「いや、幼馴染とフラグを立てた記憶がなさすぎて。どこだ、どのイベントが、フラグに。思い出イベントはどれだっけ」


 幼い頃の鬼ごっこですか、それとも調理実習とか。バンソーコーですか。夏祭りですか。夏休みのプールとか。親に連れて行ってもらったキャンプとか。

 いや、でも、特段、思い出CGがないような。まだ若すぎて、思い出補正が足りないのか。SSレア加工されてないぞ。


「どうでもいいから。いまから、作っていけば、いいんじゃない。まずは、大きなぬいぐるみ」


 ウミガメの大きなヒレをモフモフするアヤネ。

 そこは、幼馴染の手でも、握ってくれると嬉しいんだけど。

 まぁ、少し、疎遠だったし、これぐらいで、いいか。

 ゆっくりと、また近づいていけば。


 で、俺は幼馴染と付き合うって、母さんに言うのか、思春期のメンタルを壊しかねない案件なんだが。

 ぬいぐるみレベルではない気恥ずかしさがぁぁああああっ!


 従妹とか義妹とかと付き合うラノベ主人公たちは、強メンタルすぎない。

 なんで、初めから、幼馴染と許嫁設定とかにしておかないんだよ。そうすれば、なにも恥ずかしくないのに。いや、それはそれで、恥ずかしいのか。

 あー、幼馴染との恋愛のハードルが上がったのは、全部、昔の幼馴染ラブコメのせいだ。これは幼馴染と恋愛させないための陰謀に違いない。だから、思春期で距離を取るようになるんだ。

 幼馴染あるあるエピソードのなさの前に、城門から逃げてしまうんだ。


「ということで、何か、カッコいいエピソードを捏造して、母親に話したいんだけど」


「幼馴染が、またクズ男のようなことを……」


「福引でぬいぐるみが2匹当たったのがキッカケです、は偶然すぎて……いや、逆にありか」



 お読みくださり、ありがとうございます。

 作者としては、初1000ptを超えました。

 ブクマ・評価・感想、ありがとうございます。


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― 新着の感想 ―
[一言] 幼馴染、なんだかんだで幸せにしてくれそうやな え?もちろんヒロイン役は主人公ですが?(?!)
[一言] 徒歩圏の商店街で良かったですね。 電車やバスを使う距離だと目立つ+恥ずかしいになりますから。 数年前に旦那が当時高校生だった娘に社員旅行の土産に某有名キャラクターの大きなぬいぐるみを買って…
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