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30話 各地域のグランドクエスト

 「ハニカ、回していいぞ!」


 農場にやってきた俺達は、集めた日本蜜蜂の巣板を絞り器に入れ、初めての収穫に取り掛かっていた。記念すべき初採集は発案者のハニカにお願いしてある。一緒に作成したステンレス製の絞り器から黄金色の蜂蜜が、様々な香りを伴ってとろりと木桶に流れだす。粘度も然ることながら透明度が高くキラキラと輝いて見える。


「おじさん、つまみ食いは禁止だからね」


 設置した内の3箱だけを収穫することにした。ジャポニカからレイドで助けたお礼に分蜂してもらった女王蜂の巣は、ラーテルとの味勝負の為に取ってある。巣箱ごとに絞り器を変更しているので、後で微妙な違いも楽しめるはずだ。ハニカは搾りたてを指先ですくうと、匂いを嗅いで口に入れ、満面の笑みを浮かべノートに何やら書き込んでいる。二番手のアンナが今か今かとハニカの合図を待っているので、代わりに俺が合図を出した。


「うわ、結構力が必要なんだ。でも楽しいな」


「アンナちゃん、ゆっくりと一定の速度で絞ってあげてね」


 3箱目に俺が取り掛かると、ハニカとアンナは搾りかすを目の細かい布袋に入れて70°に熱したお湯に投げ込んだ。蜜蠟みつろうを作るためだ。最後に残渣ざんさは農場にまくための肥料にする。自己消費する限りは、NPCによる蜂蜜卸売組合と競合しないので作り放題だ。俺達は片付けの作業を終えると、各地域のグランドクエストを確認するために別のエリアに移動した。




 色々なスタジアムから歓声が聞こえる。ミングルワールドにログインしてから初めてスポーツエリアにやってきた。すれ違うプレイヤーを参考にしたのか、ハニカは野球キャップにサッカーユニフォーム、メガホンとブブゼラというカオスな恰好になり、楽しそうに叫び出した。


「打って打って打ちまくれ!かっ飛ばせ!オレ!ウォーウォー!」


 野球とサッカーのチャントが混ざっているが、それとなく聞こえるのが不思議だ。俺はグランドクエスト達成要件を確認することにした。


 スポーツエリアのグランドクエスト:年間1位を獲得する

 ・各リーグに所属しチーム単位で獲得する。

 ・個人技の競技で年間チャンピオンを防衛する。

 ・特例:VR国体で金メダルを獲得する。


 スポーツエリアのレイド:月間1位を獲得する

 ・スポーツエリアで月間1位を獲得する。

 ・特例:・VR国体で8位入賞する。


「俺達はグランドクエスト挑戦権があるから、他エリアでのレイドはスキップ出来るな。アンナはやってみたいスポーツある?」


「私は馬術に興味がある。飼育している親戚が岩手にいて、夏休みに遊びに行くから馴染みがあるし、可愛いよ」


「乗馬と違うの?」


「乗馬はレジャーで楽しむことが主目的だけど、馬術は競技なの」


「ルールに則って点数を競い合うってことか」


 システム内検索するとVR国体の競技種目、賭ける側か騎手として参加するのか不明だが一般エリアの競馬もヒットした。検索結果の中ほどに流鏑馬を発見して俺も興味が湧いてきた。ハニカはブブゼラを鳴らしながら質問してくる。地味にうるさい。ブブゼラの代わりに岐阜で獲得した山彦の笛を渡した。法螺貝の音の方が随分と耳に優しい。


「スポーツって何をするの?お馬さんに乗れるの?わたしも農場で飼いたいな」


「決まったルールの中で点数を競い合うんだ。個人戦だったり皆で力を合わせるチーム戦もある。それで、馬術というのは馬に乗るスポーツみたいだけど。アンナ、続きの説明をお願い出来る?」


「わかった。ハニカちゃん。レイドの時にドローンに乗って戦ったよね?うまく操縦できた?」


「うんとね・・・動かし方が分かったらそんなに難しくなかったよ」


「凄いね。でもお馬さんは機械と違って違う動物だから言葉が通じないから難しいの」


「えっと仲間じゃないから通じないの?」


 アンナは、しまった、と少し顔をしかめて俺を見つめる。ハニカが環境生物や敵モンスターをどのように認識しているのか確認するにもいい機会なので、質問してみた。


「ハニカは敵モンスターと会話できたと思うけど、他の動物とは喋れる?」


「イタチ科の同族とはお話しできるけど、異種族だと話せないよ。あれ、おじさんとは最初からできたよね。おかしいな?」


「異種族でも会話が出来る場合もあるんじゃないかな?さっきハニカも言った通り仲間なら」


「異種族のお馬さんと私は話せないけど、一緒に障害物を飛んだり決まったコースをどれだけの時間で通過できるか競い合うのが馬術なの。だから話せなくても仲良くなるのが一番大事だよ」


「ハニカも蜂さんとはお話できないけど仲良くなれたから、私もやってみたいな」


「俺もやってみたいし、流鏑馬と言って馬に乗って弓矢を放つ競技もある。球技もやってみたいけど、グランドクエスト達成には記録競技の方が都合良いから、今回は馬術と流鏑馬に挑戦してみるか?」


 ハニカとアンナは同意してくれたので、VR国体のスケジュールをダウンロードして次の一般エリアに向かうことにした。どのエリアでもいいので3つの内、2つを達成する必要がある。因みにアドベンチャーエリアのグランドクエストへの参加は既に決定事項だ。




「アンナ様、ごきげんよう」


 一般エリアに移動してから直ぐに人だかりが出来てしまった。かといって一定の距離を保ってプレイヤーもNPCもアンナを見かけると品の良い挨拶をしてくる。前回一緒に来た時、アンナはお面で顔を隠していたが、どうしようもなくなって開き直った感がある。


「座長、連絡くださいよ。ハニカちゃん、こんにちは!あ、ウランも。アンナ座長もみずくさいな。はい、そこ。必要以上に近づかない」


 いつの間にかアビゲイルと数人のプレイヤーが方円陣のようなフォーメーションを取って、俺達というかアンナを警護する体制を敷いている。アンナは赤面して状況を説明してくれた。


「実は私ね、一般エリアのグランドクエストは達成しちゃったんだ。特例だけど」


「ええ!?」


 俺は慌てて達成条件を確認した。


 一般エリアのグランドクエスト:月間1位を獲得する

 ・エン、E(感情値)、I(影響力)の各部門での月間獲得値。

 ・特例:NPCに与えた影響力。


 一般エリアのレイド:週間1位を獲得する


「先月までは2位だったけど、今月になって1位のFさんがボディダブルになってどこかに行ったみたい」


「ボディダブル?セカンドキャラとは違うの?」


 アンナが言葉に困っている様子を引き継いでアビゲイルが説明してくれた。同一キャラだけど、プレイヤーの過去ログと設定された行動指針を参考にAIが自動操作してくれるようだ。希望すれば何時でも本人が再操作できるので、アバター自体が違うセカンドキャラとは別概念のようだ。


「アンナ座長は凄いんだから!2位と言っても本当に僅差で実質優勝よ!優勝!」


「ちょっと、アビゲイル!恥ずかしいからそれ以上は止めて」


「そういえば、俺は戦闘中にバフの為にお願いしてきたけど、舞台公演は初めてだな。ハニカも見たいよな?」


「アンナちゃんの踊り?わたし、好きだよ」


「丁度良かった。あと少しで神楽公演と2.5次元舞台があるからウラン達も見に来なよ。特別に舞台と橋掛かりが見渡せる正面の特等席に案内するよ」


「アビゲイル支配人。神楽公演はまだしも2.5次元舞台は演者として協力を仰いでみてはどうかな?」


「それはいいね」


 二人とも何だか悪い顔になっている。俺は逃げるようにハニカの手を引いて開始時間まで他の一般エリアを見て回ることにした。E値、I値は無理そうだが、ハニカ農場の工場で作る工作品や自宅温泉の稼ぎ次第では、エン合計値でのグランドクエスト達成が可能か探ってみたくなったからだ。


「これも美味しいね。ハニカはおじさんの作ったお菓子の方がもっと好きだけど」


「ありがとな。でも、この組み合わせは俺じゃ思いつかないから勉強になるよ」


 フルーツサンドにタップリのホイップクリーム、バナナとブラックペッパーを挟んだ大人向けの味に驚いた。隣にはお馴染みの牛乳パンやあんこにバターを加えた小倉サンドも置いてある。価格帯は200~300エンで、現実ならお得感もあり重宝するが、勝負するなら大量に販売しないといけないので、お菓子や食料品で1位を狙うのは厳しそうだ。


「そろそろ開始時間だからアンナのところに向かおうか?」




 どうしてこうなった?神楽舞ではあんなに神々しかったアンナが、目の前でゆるゆるに緩んだ笑顔で俺を見つめる。厳密には俺の被ったお面のキャラクターにデレデレである。台詞をやや棒気味に読み上げても、座席を埋め尽くした観客の嬌声が響き渡る。


「沼」と言う文字が頭に浮かんだ。別キャラに扮したハニカからの告白に、アンナと観客のボルテージは最高潮に達し、何時しか嗚咽も聞こえ始めた。白馬の王子様症候群なのか分からないし、理解を拒む俺をよそにハニカが楽しそうなので、俺は役になり切った。今回だけだ。言い聞かせてアビゲイルから次々と送られてくるテキストを確認する。まだ、3部構成の2部の途中のようだ。俺は絶望した。


いつも応援ありがとうございます。

大変申し訳ありませんが、暫くの間、投稿を休ませていただきます。

再開は未定です。


寒くなりましたので、体調にはお気を付けください。よいお年!(12/25)


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