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10話 宇宙よりも遠い場所

前半部分には虫、集合恐怖症に関しての記述がありますので苦手な方は後半の□以降の文章からご覧ください。

 「ぽいな」


 「ぽいですね」


 スポーン先は白駒の池エリアとは打って変わり洞窟の入り口だった。立て看板には注意事項と地名が明記されている。


 「三宝鉱山か。どこまで潜れば3つともコンプリートできるのかな」


 「俺も興味はありますがまずは純鉄です」


 ビーエスは着用していた防護眼鏡を頭にずらして文言を確認している。俺もそれに倣うことにした。火気厳禁となっているので近接戦闘を強いられるだろうからスキルスロットに寡戦の心得をセットしたフェイクドラゴンの鉤爪を装備する。


 「ビーエスさん、準備は整いましたか?もし対応スキルをお持ちなら大規模戦闘を考慮した組み合わせに変更した方が良いですよ」


 「スタンピードの真っ最中だったな。火気厳禁の縛りがあるし範囲攻撃が使えないのが痛いな」


 「俺も戦闘スタイルの変更を余儀なくされましたが、ナイトメアモードまでは問題ないでしょう」


 ビーエスと簡易パーティーを組んで鉱山へ入ると夜目スキルを発動する。霞んでいた視界が段々とハッキリしてこのエリアのモンスターに会敵した。


 「ひい。僕このエリア無理かも」


 「ビーエスさんは虫が苦手ですか?」


 「虫もそうだけど僕はマイクロフォビアだから、集合恐怖症。ああ、精神を削られる」


 軍隊アリが小隊規模である50匹の長蛇の陣で向かってくる。一陣を討伐しても経験値は100しか得られない。恐慌状態に陥ったビーエスをカバーしつつ緩やかに下る通路を進んでいくとバックパックに隠れていたハニカもいつの間にか俺と一緒に戦闘に参加していた。ハニカ的には食事のつもりのようで遭遇するアリたちを次々と平らげてゆく。ドロップアイテムであるアリの触覚が大量に手に入り、ここでも記憶の欠片(蟻)を入手した。


 「ごめん。僕は役に立てそうも無いから申し訳ないけど離脱させてもらうよ」


 「もうすぐ経験値が3000溜まるので俺のテイムモンスターを呼びます。耐えられそうならジュラの上で休憩して貰っても構いませんので、せめて鉱石の鑑定だけでもお願いします。俺では種類が分かっても純度まで分かりません」


 「同行を申し出ておいてここまま離脱じゃ余りに勝手だった。戦闘に参加できないけどそれでも良ければ」


 「戦闘は俺たちに任せて下さい。なあ、ハリカ」


 「わたし、まだまだ食べれるよ。フンフン、こっち良い匂いがする」


 ハニカは猛烈な勢いで横道を掘り始め俺も後に続く。俺は競争しているつもりだったが土属性が付与された鉤爪でもハニカには勝てなかった。終わりが近いのか壁が薄くなってきて、唐突に明るくなる。20メートル程の空間があり、地上への吹き抜け構造になっている。


 「甘い香りがするな、生っているのはブドウか」


 遅れてやってきたビーエスが周辺を確認して、神秘的な光景を切り取るように指でフレームを作った。巨大な一本のブドウの木にはたくさんの実がなっていて、天使のはしごのような光を受け艶やかな濃い紫色を反射する。幻想的だ。守護モンスターの大ミツバチを除いては。


 <隠しモンスターを発見しました。該当モンスターはレア級となりますが、深度が増すにつれて脅威度が上昇するのでご注意ください>


 大ミツバチを中心に方円の陣形でお尻を振っている。愛嬌があるが敵意を示すようにダイアは赤色に変色しているので戦闘開始だ。吹き抜け構造となっているのでメイン武器を交換した。


 「ブドウ、蜂の子、ブドウ、蜂の子」


 ハニカは好物の事で頭が一杯のようだ。万が一攻撃を受けてもレア級なら問題ないだろうから、俺は一人でアサルトライフルカスタムを構えて掃討する


<隠しモンスター大ミツバチを撃破しました。経験値とエン2千を獲得しました。ドロップアイテム:大ミツバチのハリとレアスキル:威嚇舞踏を入手しました>


ミツバチ達の威嚇舞踏に触発されたハニカは尻尾をリズミカルに振りながらぶどうと蜂の巣を両手に持って齧り付く。俺もブドウを3房取り、1房をビーエスに渡すと軽く悲鳴を上げた。目を閉じながらブドウを口に放り込む姿を見て、恐怖症は人それぞれだが食べ物にも感じてしまうなんて人生がハードモードだろうなと憐れに感じた。それにしてもこのブドウ旨いな。過去一かもしれない。


「ハニカ、少しは残しておきなさい。全て食べてしまったら次が育たないかもしれないよ」


顔を上げ俺の顔とハチの巣を交互に見つめると、半分になったハチの巣を元の位置に戻した。


「もっと食べたいけど、もっともっと食べるために今日は我慢する」


「偉い、あとでブドウを使ったおやつを一緒に食べよう」


「僕ももう1房食べたいから取ってください」




隠しエリアから出るとジュラを同行するために経験値をつぎ込み、訝しみながら4千まで投入するとジュラが姿を見せた。


「久しいな、ウランよ」


「ジュラ、レベルアップは順調のようだね。3千で呼び出せなかったから一瞬焦ったけど、どうにか経験値が足りて良かったよ」


「スタンピードを利用してレベル2になったが、敢えて留めておいて正解だったようだ。その気になればもう少し強化できそうではあるが、徐々に強くなっていくのも一興か。ところで新たな仲間が増えているみたいだな」


「初めまして、僕はビーエス。宜しく」


「お主ではない。ウランの背中に居るちっこい奴の・・・」


ハニカがバックパックから顔を出すとジュラは俺の顔を見て口をパクパクさせる。格上の相手とは思わなかったようだ。


「お爺さん、だれ?」


保護者:ウラン

フォスター契約枠:ハニカ(雷獣ラーテルの幼体)レジェレベル2

生命力:6万

攻撃手段:噛みつき/スタンボルト/帯電

最高時速:20km

精神年齢:成人18/現在3

保有経験値:3507

スキル:威嚇舞踏


 「儂はジュラ、です。ウランの契約モンスターじゃ、です」


 「ジュラ、ハニカはナイトメアモードで俺を守護してくださるラーテル様の分化した俺の家族だ。普段通りで大丈夫だ。なあ、ハニカ」


 「ジュラお爺さん、これからよろしくね」


 「ゴホン、ハニカ。宜しく頼む。さて、このエリアは初めてじゃが、取り敢えずは下に潜ってゆけばよいのか?」


 「俺は純鉄というアイテムを探している。見つかる迄は潜り続けるつもりだけど1つ頼みがある。戦闘には参加できないけどそこで固まっているビーエスさんを運んで欲しい」


 プレイヤーなのにモンスターに軽く扱われて落ち込んでいるビーエスを慰める為に肩を軽くたたいた。


 「事情があるのだろうから仕方がないとして後で飯を食わせろよ。ゴブリンもスライムもそろそろ食い飽きた」


 「レッツゴー」


 ハニカの合図で探索を再開する。深度が1キロ増した頃にハニカは横道に逸れ新たな隠しモンスターを発見した。


 <隠しモンスターオオスズメバチを発見しました。脅威度はレジェ級となりますのでご注意ください>


 ブーンと大きな羽音を奏でる集団が守るのはミントグリーン色のマスカットで、上のブドウよりも漂う香りが強く、思わず唾を飲み込む。一歩足を進めるとカチカチと耳障りな音を発しながら俺たちを取り囲み、狙いを定めているのかその場でホバリングしている。


 「ビーエスさん、解毒のアイテムとか持ってませんよね?」


 「持っているけど僕のは有毒ガスの解毒用だから多分効かないと思うよ」


 ここまでの道中で無限増殖pが3万程溜まっているので、残機5用に500p残して全て無敵化に投入した。6万ダメージ迄は防いでくれるはずだが、懸念点は毒の種類だ。麻痺毒で体が硬直したら一巻の終わりだろう。


 「ジュラ、周りを取り囲む兵隊ハチと戦えそうか?」


 「状況次第だが2匹迄は引き受けよう。しかし、前後と挟まれたら不味いだろう」


 「ビーエスさん、ジュラの背後は任せますよ。精々1匹か2匹なので恐怖症も我慢できるでしょ」


 ジュラの背中で小さくなっているビーエスにも戦闘に参加してもらわなければならないので突き放すように言った。


 「俺がボスの方へ突っ込んだら円陣が引っ張られて隙が出来る。ジュラは包囲から抜けて兵隊ハチと相対出来るポジションを取ってから戦闘開始してくれ。3の合図で動く。イチ、ニ」


 俺がサンと言う前にハニカはカンカンと甲高く歯を鳴らしながら威嚇舞踏を行った。兵隊ハチが一斉にハニカへと向かう。


 「危ない」


 無意識に体が動き鉤爪を地面に突き刺し地面を抉ると兵隊ハチにぶつけた。切断された鋭利な岩石交じりの土砂を浴びた兵隊ハチたちの体から気色の悪い体液が流し壁面で死んでいる。


 「ハニカ、無事か?」


 俺に向かってくるハチ達に土砂をぶつけまくり陣の4分の3を失った頃に漸く諦めたのか女王蜂の元へ逃げていった。ハニカが居た場所には穴が開いていて未だ姿を確認できずにいた。


 「生きているなら返事をしてくれ」


 「美味しいよ、ウランおじさん」


 声の聞こえる方を向くとハニカはマスカットを守る女王蜂を木の頂上から見下ろしている。両手には勿論、大好物のハチの子とマスカットで「半分、半分まで」と必死に我慢しているように聞こえる。我が子を食べられ激高した女王蜂は俺に背を向けて残っている兵隊ハチとハニカの元へ向かおうしたが絶好のチャンスを見逃す訳にはいかない。


 「ジュラ、俺をぶっ飛ばしてくれ!」


 「加減できぬぞ」


 ジュラは尻尾で薙ぎ払い、俺は2000ダメージ分無敵化pを消費したが期待通りに女王蜂に向かって一直線だ。鉤爪により胸に大穴を空けた女王蜂は墜落し、仕えるべき対象が居なくなったことを確認して従っていたスズメバチ達は上へと飛んで行ってしまった。


<隠しモンスターオオスズメバチを撃破しました。経験値とエン2万を獲得しました。ドロップアイテム:女王蜂の翅とレジェスキル:ホバリングを入手しました>


「ハニカ、怪我はないか?勝手に動いたら危ないじゃないか」


「ごめんなさい。カチカチするのを見ていたらマネしたくなったの」


「もういいじゃないですか?結果的にはハニカちゃんのお陰でスズメバチの隙を突くことが出来たんだし」


余りの美味しさに集合恐怖症を忘れたのか目を見開いてマスカットを頬張るビーエスが俺を窘めるように言った。


「ウランよ、無事であったか?驚いたが有効な戦法であることは間違いなさそうで作戦の幅が一つ広がったみたいだな。今後も儂は指示に従うから遠慮なく申し付けてくれ」


含みを持った言い方だがジュラと俺の合意形成により作戦を手に入れた。


<作戦:人間大砲を獲得しました。>


「休憩するにはいいスペースなので此処で少し休みましょう」


□□□□



小休憩のつもりがナイトモード開始直前までマスカットスペースで過ごしてしまった。理由は明白でホバリングの試運転をしていたからだ。


「ハニカだけ狡いではないか」


楽しそうに威嚇舞踏を繰り返す俺、ハニカ、ビーエスを見てジュラはやっかんだが仕方がない。先の戦闘で分かったことだが、フォスター契約を結んでいるハニカは俺と同じスキルを獲得でき、特殊なアイテムに限るが入手もできる。


「移動するなら歩いた方が遥かに早いけど、越えられない段差やダメージ床を回避できるのは物凄いことですね。レベルを上げれば滞空継続時間も伸ばせるでしょうし」


 「再使用迄3時間必要ですけどこれから楽しみですね」


 翅の動かし方が分からず苦戦していたビーエスが宙返りしながら答えた。肩甲骨の動かし方が肝ですよと俺が伝えると、何とかモノにしたので色々な態勢を試しているみたいだ。再使用の3時間を待ってマスカットスペースを出ようとすると警告を受ける。


 <ホバリング使用不可エリアに侵入します。地底や水中など一部エリアでは使用不可となりますのでご注意ください>

 

 渋々女王蜂の翅を外してナイトモードの探索を開始したが、これまでとは生態が変化していた。ダンゴムシやカタツムリと思わしき結晶体が蠢いている。動きが遅いので無視して先を急ぐことも出来るが試しに1体攻撃してみた。


 「レア級のはずだから俺の鉤爪で簡単に倒せるはずなのに中々硬い」


 「ウラン君、とうとう僕の出番のようだね。主人公は遅れてやってくるとはよく言ったもんだ」


 ビーエスはつるはしを振りかぶると狙いを定め一気に振り下ろす。急所を突かれたのかダンゴムシはガラスが砕けるように粉々になった。


 「俺でも3発が必要なのに凄いですね」


 「結晶には格子点があってね、結合の為の重心みたいなのでここを突くと一発だよ」


 「刺突属性のスキルでもあるみたいな言い方ですね」


 「武器とスキル、それに敵との相性が合致して初めて効果を発揮するから汎用性は低いけど、結晶体には抜群に効きます」


 俺たちは結晶体モンスターを時々撃破しながら緩やかな下り坂を進み続けて恐らく最深部に到着した。仮定なのは道を遮るように薄い靄が掛かり俺たちの行く手を阻んでいるからだ。無限増殖pから計算して深度は10kmほどで現実の人類は未踏のはず。


 「多分、ナイトモードのボスモンスターを撃破すると先に進めるパターンですね」


 「そうだね、僕もナイトモードのボス戦は2度目だから緊張するけどウラン君はナイトメアモード経験者みたいだから余裕でしょ?」


 「何とも言えませんが皆で協力すれば何とかなりますよ。未だに純鉄の手掛かりが無いのが気になりますがまずはボス戦です。バフの為に食事をして暫く様子を伺いましょう」


 アイテムリストから鶏の唐揚げを取り出し器に乗せ、デザートにはマスカットを食べることにした。


 「ジュラにはビーエスさんを運んでもらったからオマケ付きだ。火気厳禁だから黄身なしだけど特製ハンバーグも食べて」


 「ジュラお爺さんだけズルい。わたしもたべたい」


 「ハニカには蜂の子を半分で我慢したから牛乳アイスにブドウを付けてあげるから」


 「やったー」


 「ウラン君は準備周到ですね。僕も見習わないといけないな」


 暗闇の中の食事会はボスモンスター巨大クマムシの登場により終わりを告げるのであった。


次回は 三又分岐 です。

投稿予定は28日午前8時を予定しています。

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