第三章 失恋
放課後に美波が教室に入ろうとすると、ある光景を目にしてハッとした。秀樹と彩乃が一緒にいた。美波はつい廊下から二人の会話を聞いてしまった。
「秀樹、ずっと言いたかったことがあるの。」
「ん?」
「私、あなたのことが好きなの。私と付き合って!たくさん楽しいことを一緒にして、いい思い出をたくさん作っていこうよ!」
美波は目に涙を浮かべ、拳を握った。『あぁ、秀樹が取られちゃう…』ついに先に秀樹に告白されてしまった。
「ごめん。」
「え?」
「俺にはもう好きな幼馴染がいてさ。俺はどうしてもそいつのことが放っておけないんだ。」
『秀樹…』
「あ、あ、あの…」
今度は淳だった。
「み、み、美波さん、ぼ、ぼく、美波さんのことが、が、好きです!」
「ご、ごめん。わ、私にはも、もう好きな人がいるんで。」
なぜか美波までどもってしまった。
「山本先生、太田先生、あのちょっと聞きたいことがあるんですけど…」
美波は思い切って言った。
「どうしました、星野さん?」
「20年前の文化祭の事件について少し詳しく教えてもらえませんか。」
「そうね…」山本先生は目に涙を浮かべながら、静かに話し始めた。「吉村陽子さんという女子高生がいてね。彼女は伊藤輝彦くんというクラスメイトが好きだったの。でも、伊藤くんは飯田舞さんという別のクラスメイトと付き合い始めてしまった。それから吉村さんは落ち込み、食事も睡眠も取れず、ある日…」
「学校の屋上から飛び降りてしまったのだ。彼女の妹はこの高校を中退し、その妹のことが密かに好きだった広田陽一くんはこの学校に残り卒業した。」
太田先生も暗い表情で話した。
『吉村…』美波ははっとした。「先生、その吉村陽子っていう女子高生の写真ってありますか?」
「あるわよ。」山本先生は、文化祭前のクラスの写真を美波に見せた。「この子がそうよ。」
『やっぱり!』眼鏡をかけていたが、吉村栄子と顔立ちが似ていた。栄子は自殺した陽子の妹で、今回の全ての事件の犯人。ということは次に狙われるのはあの二人だ!
「佳奈子さん、僕ずっと伝えたかったことがあったのです。」山形哲郎は言った。哲郎と佳奈子は学校の校庭の木の下でベンチに座っていた。
「何ですか?」
「僕は高校の頃から君が好きだった。でも、君は魅力的だから、色んな男性から好かれてしまっていて…彼らがいなくなったところで、聞きたいんだけど。僕と付き合ってくれないかな?」
「ごめんなさい。私は本当に夫のことを愛してたの。だけど、最近光一さんが優しくしてくれるからつい私は…」
その時、銃声が2回鳴り、二人は頭から血を流して倒れた。
「佳奈子さん!哲郎さん!」美波は叫んだ。
美波は盗聴器らしきものが佳奈子の服についているのに気づいた。
その時、学校の校舎に入っていく黒い服の人物を見た。
「待て!」
今度こそ逃がすつもりはなかった。
美波は犯人の後ろを追い、屋上まで行った。すると、犯人は振り向き、「それ以上近づいたら飛び降りる!」と急に叫んだ。
「やっぱり犯人はあなただったのね、吉村陽子の妹の吉村栄子!」
「な、なぜ姉のことを知っているの?」
「担任の先生に聞いたのよ。あなたの姉が失恋して学校の屋上から飛び降りたってことをね!そしてあなたはこの学校を中退した。好きだった同級生の室井周さんが佳奈子さんと付き合い結婚し、更に佳奈子さんが光一さんと不倫を始めたのを知って、あなたは今回の殺人を計画したのでしょう!違いますか、吉村栄子さん?」
「あ、あなたに私の気持ちの何が分かるの!いいわ、今すぐ飛び降りて死んでみせるから!」
「ま、待って!お願いだから…」美波は近づこうとすると、栄子は更に屋上の端の方へと一歩下がった。『どうしよう…このままだとこの人自殺しちゃう…』美波は焦ってどうしたらいいか分からなかった。
そんな時、ある男性が現れた。それは広田陽一だった。
「待て!君が死んだら、僕もそこから飛び降りる!」
「ど、どうして…どうして、もっと早くそう言ってくれなかったの?」栄子は泣きながら聞いた。
「僕は臆病だった。20年間ずっと言えなかった。でも今なら言える。失う前に伝えたい。僕は君が好きだ!」
栄子はついに屋上の端から離れて陽一のそばに行き、「そうだったのね。ありがとう。」と彼の頬にキスをした。