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カニヴァな彼女  作者: 椎家 友妻
第一話 あは~ん♡
8/28

8 奈吾さんのピンチ

 奈吾さんは体育館裏の壁際に居て、それを取り囲むように、三人の不良娘達が居た。

俺と伊緒は、そこから十数メートル程離れた木陰にこっそりと隠れ、まずは様子を見る事にした。

 「ねぇ、あれって奈吾さん達だよね?あんな所で何してるんだろう?」

 奈吾さん達の様子を見て、伊緒が小声で言った。

 「すぐに分かるさ」

 俺も小声でそう言い、奈吾さん達の会話に耳を傾けた。

 最初に口を開いたのは奈吾さんだった。

奈吾さんは特におびえる風でもなくこう言った。

 「こんな所に呼び出して、一体何の用ですか?」

 すると、正面に立つ不良娘A子(本名は加藤というのだが、面倒なのでA子と呼ぶ)が、トゲのある口調でこう返した。

 「あんたが転校生のクセに随分と調子に乗ってるみたいだから、アタイらがちょいとこらしめてあげようと思ってね」

 「そんな、私調子になんか乗ってません」

 奈吾さんはそう言ったが、A子の右側に立つB子が、それを遮るように言った。

 「嘘をお言い!あんたがクラスのバカな男子達にチヤホヤされて、天狗(てんぐ)になってるのは分かってるんだからね!」

 「だから私は天狗になんかなってません!」

 奈吾さんは尚も否定するが、今度はA子の左側に立つC子が声を荒げた。

 「ムキョーッ!ちょっと可愛い顔してるからって何さその態度!一度痛い目見ないと分かんないようね!」

 「痛い目って、どうするつもりですか?」

 「こうするのさ」

 奈吾さんの問いかけに、A子はそう言ってスカートのポケットに手を入れ、ある物を取り出した。

ちなみにそのある物とは、カッターナイフだった!

そしてB子とC子も同様に、カッターナイフを右手に握っていた!

 「わ、わ、何か凄く大変な事になってるっ」

 その光景を見た伊緒は、そう言いながら俺の肩を揺さぶった。

 「ど、ど、どうしよう?先生呼びに行った方がいいかな?」

 「いや、そうすると余計に話がこじれる。ここは俺が何とかしよう」

 おろおろ取り乱す伊緒に、俺は冷静な口調でそう言うと、スッと立ち上がって不良娘達に叫んだ。

 「待てい!」

 すると不良娘達と奈吾さんが俺の方へ視線を向ける。

そんな中俺は叫んだ。

 「とうっ!」

 普通『とうっ!』と叫べば、その後に何処か高い所から颯爽(さっそう)と飛び降りてカッコよく着地をし、登場シーンにハクをつけるものだが、ただ単に『とうっ!』と叫んでみたかっただけの俺は、そのまま普通に歩いて奈吾さん達の元へと歩いて行った。

そして俺がすぐ近くに歩み寄ると、A子が俺にガンを飛ばしながら言った。

 「誰かと思えば、変態エロ大王の古賀(俺は一部の心無い女子達からそう呼ばれている。ちなみに、あまり嫌ではない)じゃねぇか。今取り込み中なんだよ。邪魔するんじゃねぇよ」

 「そんな物騒(ぶっそう)なものを奈吾さんに向けて、一体どうする気だ?」

 俺の問いかけに、B子がニヤニヤしながら答える。

 「こらしめるために、ちょっとこの子の制服を切り刻んでやるのよ」

 「そ、そんな、ひどい!」

 「あんたは黙ってな!」

 抗議の声を上げる奈吾さんを、C子がピシャリとはねつける。

 何と極悪非道な。

流石(さすが)は不良娘三人組。

考える事がとっても不良チックだ。

このままでは奈吾さんの制服がズタズタに切り刻まれてしまう。

これは何としても見届けなければ・・・・・

あ、いやいや、何としても阻止しなければ。

正義の炎を燃やす俺は不良娘達に対し、キッパリと言った。

 「そんな事は俺がさせない」

 「何ですってぇ⁉」

 「変態のクセして生意気な!」

 俺の言葉にヒステリックな声を上げるB子とC子。

そんな中A子は、至って冷静な口調で俺に言った。

 「あんた、アタイらに喧嘩売ろうってのかい?」

 「そうだな」

 「ムキーッ!」「ウキョーッ!」

 俺の言葉にまたもヒステリックな声を上げるB子とC子。

そんな二人に構わず、A子は余裕の笑みを浮かべて言った。

 「ならアタイがタイマンで喧嘩(けんか)してやるよ。勿論(もちろん)手加減はしないからな。骨の一本や二本折れても文句は言うなよ?まあ文句以前に、女のアタイにそんな目にあわされちゃあ、男のあんたは面目丸潰れだろうけどな」

 それに対して俺はこう返す。

 「それなら心配いらん。俺は君よりはるかに強い女性に、いつも鍛えられているからな」

 ちなみにそれは(かずら)姉ちゃんの事なんだが、そんな俺の言葉がプライドを傷つけたのか、A子は一転して(けわ)しい顔つきになり、

 「ナメた事言ってんじゃねぇよ!」

 と叫びながら、カッターナイフを投げ捨て、素手で俺に殴りかかって来た。

そしてA子は右のストレートパンチを、俺の顔面めがけて放った!

俺はそれを見事にかわし、A子の懐に飛び込んだ!──────

つもりだったが、よけたつもりでいたA子の右ストレートが見事に俺の左頬(ほお)炸裂(さくれつ)し、その衝撃が完全に(ひざ)にきた俺は、その場にガクンと(ひざまず)いた。

 「ハハッ!一撃じゃないの!」

 「清美(きよみ)(A子の本名)に喧嘩を売るからこうなるのよ!」

 B子とC子が嬉々(きき)とした声をあげ、その後ろに居た奈吾さんが、

 「古賀君!大丈夫ですか⁉」

 と心配そうに叫んだ。

ちなみに俺は大丈夫・・・・・・ではなかった。

 A子のパンチは俺が予想していたものよりもはるかに強力で(それでも葛姉ちゃんの方がもっと強力だが)、殴られた(ほお)が痛すぎて、今にも涙が出ちゃいそうだった。

だって、男の子だもん。

 そんな中A子は、跪く俺を仁王立ちで見下ろしながらこう言った。

 「アタイの完勝だな」

 それに対し、俺はこう返す。

 「それは、どうかな?」

 「何だと?まだ殴られたいのか?」

 俺の言葉にA子は不愉快そうに言ったが、これは決して俺の負け惜しみなどではない。

それが証拠に次の瞬間、


 A子の穿()いていたスカートが、ストンと足元に落ちた。


 「へ?」

 A子本人を始め、その場に居た全員が目を丸くした。

ちなみに男性読者の為に(しる)しておくが、A子はこの日はスカートの中に短パンを穿()いておらず、スカートの中から現れたそれは、純白のパンチィだった。

ビバ、純白パンチィ。

 「わぁあっ⁉な、何で⁉」

 余程焦(あせ)ったのか、スカートを穿()き直す事も忘れ、その場にしゃがみ込むA子。

ちなみに、彼女のスカートを落とさせたのは俺である。

A子が俺の(ほお)にストレートをめり込ませた瞬間、俺はA子の腰に右手をのばし、瞬時にそのスカートのホックを外してジッパーを下ろしたのだ。

かの剣豪、佐々(ささき)小次郎(こじろう)の必殺技は『ツバメ返し』だったそうだが、当物語の主人公、古賀矢渋(こがやしぶ)の必殺技はこれである。


 『スカート落とし』


 他にも『ブラのホック外し』や

『手を触れずしてスカートめくり』

といった技がある。

そして今回は、その中でも最も破壊力のある(言いかえると、犯罪性の高い)必殺技を使ったのだが、その効果は絶大だったようだ。

A子はもはや戦意喪失(そうしつ)といった様子で顔を真っ赤にしている。

俺は左頬(ほお)の痛みをこらえて立ち上がり、そんなA子を見下ろしながらこう言った。

 「君は、意外と清楚(せいそ)な下着を穿()いているんだな」

 その言葉が余程恥ずかしかったのか、A子は耳から首筋までを真っ赤に染め、落ちたスカートを急いで穿()き直し、捨て台詞も吐かずに走り去って行った。

 「ああっ⁉清美⁉」

 「ウキーッ!お、覚えてなさいよ!」

 B子とC子はそう言うと、A子の後を追って走り去って行った。

 それからやや間をおいて、離れた木陰で見ていた伊緒が、

 「ヤー君大丈夫⁉」

 と声を上げながら、俺の元へ走り寄って来た。

そんな伊緒に俺はこう答えた。

 「大丈夫だ。彼女の下着の色は、しかとこの目に焼き付けた」

 「誰もそんな心配してないよ!ていうかまたエッチな事して!しかも伊緒以外の女の子に!」

 そう言って(ほお)(ふく)らませる伊緒。

その事を申し訳なく思った俺は、反省の意を込め、伊緒にこう言った。

 「確かに俺が悪かった。お()びに今度伊緒にも、さっきと同じ事をしよう」

 「ダメに決まってるでしょ!」

 とかいうやりとりをしていると、奈吾さんが心配そうな顔でやって来て言った。

 「あ、あの、危ない所をありがとうございました。(なぐ)られた所、まだ痛むんじゃないですか?」

 「いや、この程度の痛み、何て事ないよ」

 本当はありまくりなのだが、俺は平静を(よそお)って言った。

すると(かたわ)らの伊緒が大層冷たい口調で呟く。

 「本当は痛いクセに」

 「こらこら、余計な事を言うんじゃないよ」

 俺がそう言って伊緒に注意していると、不意に俺の左頬(ほお)に、暖かくて柔らかい何かがそっと触れた。

何かと思って目をやると、それは奈吾さんの右手だった。

 「私なんかの為に、こんな目に・・・・・・」

 奈吾さんは申し訳なさそうにそう言いながら、その右手で優しく俺の頬をさすってくれた。

その感触はこの上なく心地よく、俺は左頬の痛みも忘れ、奈吾さんの掌の感触に酔いしれた。

するとその事が気に入らなかったのか、伊緒が俺の脇腹(わきばら)をギュッとつねってきた。

その突然の痛みに、俺は思わず、

 「イテッ!」

 と声を上げた。

それが自分のせいだと勘違(かんちが)いしたらしい奈吾さんは、

 「ご、ごめんなさい!」

 と言って(あわ)てて右手を引っ込めた。

 「あ、あの、このお礼は、今度必ずしますので!」

 奈吾さんはそう言うと、校舎の方へ向かって走って行った。

気のせいか、奈吾さんの顔が赤らんでいたように見えた。

そんな奈吾さんの後姿を(なが)めていると、何やら胸がドキドキしている事に気づいた。

すると(かたわ)らの伊緒がまた怒ったように、

 「もうっ!」

 と言いながら、再び俺の脇腹(わきばら)をつねった。

しかしその痛みさえも、今の俺には心地良いのだった。


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