7 矢渋(やしぶ)、悟りを開く
その日の昼休み、俺は裏庭にあるベンチで、伊緒と一緒に弁当を食べていた。
「それにしても奈吾さん、男子達に凄い人気だね」
伊緒は、タコ型ウィンナーをパクつきながら言った。
「まあ、あれだけのルックスとプロポーションがあれば、どんな男子でも夢中になるだろう」
俺がそう返すと、伊緒は箸をくわえたまま、ジトッとした目で俺を見た。
「何だ?何か言いたそうな目だな」
「ヤー君もやっぱり、奈吾さんの事が気になるの?」
「そんな事はない」
俺は即答して続けた。
「俺は伊緒の事もちゃんと好きだぞ」
「も(・)って何よ!も(・)って!」
「モザイクのモ(・)」
「今はモザイク関係ないし!」
「俺もテキトウに言っただけだし!」
「ねぇヤー君、伊緒が昨日ヤー君に好きって言った時、ヤー君も同じ気持ちだって言ってくれたよね?あれって嘘じゃないよね?」
「すこぶる本当の事だ」
「じゃ、じゃあ、ちゃんと証拠を見せてほしいな・・・・・・」
伊緒はそう言うと、急に顔を赤らめてモジモジしだした。
そんな伊緒に俺は訊いた。
「証拠を見せるとは、どうすればいいんだ?」
「だ、だから、昨日ちゃんと出来なかったアレを、今ここでちゃんとしてほしいの!」
そして伊緒は目を閉じて口をつぐみ、その唇を俺の方に向けた。
昨日ちゃんと出来なかったアレとは、言うまでもない。
おチチ──────ではなく、キスだ。
キスですね、ハイ。
ここは一発ムチュッと決めなければならないな。
俺が伊緒の全てを好き(そりゃもう、脳天から足の先まで)なのは紛れもない事実なのだから。
よし、やるぞ。覚悟を決めた俺は、伊緒の両肩にそっと手を乗せた。
この場には俺達以外に人は居ない。
キスをするなら今。英語で言うならDo!Kiss!Now!だ。
それではいただきます。
俺は伊緒のプニッと柔らかそうな唇を頂くべく、自分の顔を近づけた。
が、唇と唇が触れ合うまであと数センチという所で、俺はピタリと体が動かなくなった。
一体何があったのかというと、自分でも信じられないのだが、緊張しているのだ。
俺が、この状況に。
ぬぅっ、このキスという行為は、想像以上にドキドキするじゃないか。
このドキドキ感は、昨日伊緒のおチチを触った時のそれよりも、はるかに大きなものだった。
これはどういう事だ?
まさか、掌でおチチをモミモミする事よりも、唇と唇でムチュッとやる事の方が、エロい事だとでもいうのか?
だから俺の心臓は、こんなにもドキドキしているのか?
しかしこのドキドキは、ただ単にエロい感情だけでなく、
キュンと胸を締めつけるというか(それはまるで、血圧計のように)、
何とも言えず甘酸っぱいというか(それはまるで、酢豚に入ったパイナップルのように)、
そういうものが混じりこんでいる。
そうか、キスという行為は、イヤラシイとかエロイとか、そういう概念を超越した、とても神聖なものなのかもしれない。
以上の事をまとめると、次の結論が導き出される。
オッパイモミモミはキスに如かず
そうだったのか。
俺は悟りを開いた(サソリをシバいたのではない)そしてその悟りを胸に、厳かな気持ちで伊緒とのキスに臨むことにした。
と、その時だった。
この裏庭は、数十メートル行くと体育館裏にたどり着くのだが、その体育館裏に、奈吾さんが居るのが見
えた。
そしてその奈吾さんを取り囲むように、ウチのクラスの女子が三人居るのも見えた。
ちなみにその三人は、クラスの中でもひと際不良な娘達だった。
学校で隠れてタバコは吸うわ、夜遅くまで遊びまわるわ、スカートの下に短パンを穿くわ(これが一番けしからん)で、先生達も手を焼く程の不良娘達だ。
その不良娘達が、今日転校してきたばかりの奈吾さんを体育館裏に呼び出し、一体どうしようというのだろう?考えられる可能性はひとつだ。
転校してきていきなり男子達にモテモテな奈吾さんを、ちょっくらこらしめてやろうとしている。
間違いない。
しかし一体どんな風にこらしめるつもりだろう?
まさか、嫌がる奈吾さんの制服を三人がかりで××して、奈吾さんを××にし、その後××を××して××する気では⁉
そして更には××や××を使って××した挙句、奈吾さんを××状態にするつもりじゃあ⁉
もしそうだとすれば、すぐに見学・・・・・いやいや!
すぐに助けに行かなくては!
そう考えた俺は、伊緒の両肩から手を放し、ガバッと立ち上がった。
「ど、どうしたのヤー君?」
俺の突然の行動に、目を丸くする伊緒。
その伊緒に、俺は至って真剣な眼差しで言った。
「奈吾さんの操が、危ないんだ!」
「へ?」
俺の言葉が理解出来なかったのか、伊緒は更に目を丸くする。
しかしここで詳しく事情を説明している暇はないので、俺はそのまま体育館裏に向かって駆け出した。
「え?ど、どこ行くのヤー君⁉待ってよぅ!」
慌てた声を上げて伊緒も後に続く。
そんな中奈吾さんは、三人の不良娘達に、体育館裏の奥の方へと連れて行かれようとしていた。
俺は急いで奈吾さん達の元へ向かった。