プロローグ
綺麗な夕暮れ色の空だった。
ここは放課後の校舎の屋上。
当物語の主人公、俺、古賀矢渋は、俺より頭ひとつ程小さい女の子、愛瀬伊緒と向かい合って立っていた。
伊緒は俺と家が隣同士の幼なじみで、歳は俺と同じ十六歳。
目がクリッとしていて体格は小柄。
赤毛のショートヘアーを左右に分け、緑の丸い玉が付いた髪留めでその髪をくくり、ツインテールにしている。
おチチは決して大きくないが、あらゆるタイプのおチチを愛する俺にとっては、それは何のマイナス要素でもない。
性格は、恥ずかしがり屋で少々怒りっぽいだろうか。
この前も、友人から借りた×(チョメ)×(チョメ)なDVDの内容がとてもよかったので、それを詳しく伊緒に語ってあげようとしたら、伊緒は恥ずかしそうに顔を真っ赤にし、激しい怒りを露にした。
この事からも、伊緒がいかに恥ずかしがり屋で怒りっぽいかを察してもらえると思う。
そんな伊緒が、二学期が始まって間もないある日、誰も居ない校舎の屋上に、俺を呼び出したのだ。
そして俺と伊緒は、西の空に浮かぶ夕日をバックに、二人で向かい合っている。
そんな中、紅い夕陽に照らされてか、それとも何かエロい事でも考えているのか、伊緒は頬を赤く染めている。
一体どうして伊緒の奴は、俺をこんな所に呼び出したんだろう?
今の伊緒の様子からして、考えられる可能性はただひとつ。
この前教えようとした×(チョメ)×(チョメ)なDVDの内容を、改めて詳しく俺に聞こうとしている。
これだ。これしかない。
年頃の女子が、同世代の男子を放課後の校舎の屋上に呼び出し、頬を赤らめながら他にする事があるだろうか?
ズバリ言おう。
ない。
何やかんや言っておきながら、伊緒がこの前の×(チョメ)×(チョメ)なDVDの内容が気になって仕方がないのだろう。
むしろそれを俺に借りて、今晩じっくり鑑賞したいと考えているのかもしれない。
しかしそれを口に出して言うのはかなり恥ずかしいので、こうして頬を赤らめているのだろう。
う~ん、可愛い奴め。
そしてエロい奴め。
等と考えていると、伊緒がおずおずとした調子で口を開いた。
「あの、ご、ごめんね?急にこんな所に、呼び出したりして・・・・・・」
「別に構わない。人に聞かれちゃ、恥ずかしい事なんだろ?」
俺のその言葉に、伊緒は驚いたように目を見開く。
「え?もしかしてヤー君(俺の事だ)、伊緒が今から何を言おうとしているのか、分かってるの?」
「勿論だとも。でも、それは伊緒が自分の口から言わなきゃいけない。そうだろう?」
「う、うん、そうだね。こういうのは、やっぱり自分の口から言わなくちゃだよね?元々、そのつもりだったんだし」
「そうだとも。さあ聞かせてくれ。伊緒の(エロい)気持ちを」
「う、うん・・・・・・」
伊緒はそう頷くと、恥ずかしそうに顔を俯けた。
その恥じらいや良し。
やはりエロい事には恥じらいがないといけない。
恥じらいは、エロい事をよりエロくする為の七味唐辛子のようなものなのだ。
だから恥じらうがよい、乙女達よ。
さて、そんな中伊緒は、覚悟を決めたように顔を上げ、俺の顔を真っ直ぐに見据え、言った。
「ヤー君!」
「うむ」
「あ、あの、伊緒・・・・・・」
伊緒はここで、また恥ずかしそうに言葉を切り、下を向いた。
やはり『この前の×(チョメ)×(チョメ)なDVDの内容を詳しく教えて!』と申し出るのは相当恥ずかしいのだろう。
なので俺は、伊緒の次の言葉を促すべく、優しい口調でこう言った。
「恥ずかしがらずに言ってみるといい。俺は、伊緒の気持ちを快く受け入れるつもりだから」
「そ、そうなの?」
俺の言葉を聞いた伊緒は、至極驚いた様子で再び俺の顔を見上げた。
それに対して俺は、
「ああ、そうだよ」
と優しく頷いた。
すると伊緒はとても嬉しそうに、
「そう、なんだ・・・・・・」
と、瞳をキラキラ輝かせる。
「さあ聞かせてくれ。伊緒の(エロい)気持ちを」
「う、うん。あの、あのね、伊緒ね──────」
そして、伊緒は、俺に、言った。
「ヤー君の事が、好きなの!」
「・・・・・・・・・・ん?」
伊緒の言葉に、俺は眉を潜めた。
伊緒が今言ったセリフは、俺が期待したそれとは大きく違っていた。
これはどういう事だ?
伊緒はこの前の×(チョメ)×(チョメ)なDVDの内容を詳しく知りたかったんじゃないのか?
それが、『ヤー君の事が好き』とはどういう了見だ?
好きって何だ?
そもそもヤー君とは誰だ?
あ、俺か。
という事はつまり、伊緒は俺の事が好きで、今その気持ちを俺に伝えたのか。
いわゆる告白というやつか。
「あ、あの、ヤー君?」
黙り込んで考えを巡らせている俺に、伊緒が不安そうな顔で言った。
「も、もしかしてヤー君は、伊緒とは違う気持ちなの?」
その問いかけはある意味ズバリ正解だったが、俺が次に言った言葉はこれだった。
「いや、俺も伊緒に対して同じ気持ちを持っている」
てめぇホラ吹いてんじゃねぇよという声が聞こえてきそうだが、これはこれである意味本当の事だからいいのだ。
あえてこのタイミングで宣言しよう。
俺は女体が好きだ。
この事実を踏まえ、哲学でよく使われる三段論法を用いると、次の結論が導きだされる。
一、俺は女体が好きだ。
↓
二、伊緒は女体を持ち合わせている。
↓
三、よって俺は伊緒が好きだ。
いかがか?
この論法から、俺は伊緒が好きだという事が、哲学的にも証明された訳だ。
何か文句でも?
そんな俺の嘘偽りのない言葉を聞いた伊緒は、
「う、うれしい・・・・・・」
と、感動した様に瞳を潤ませた。
そしてその瞳で俺の目を真っ直ぐに見詰めた。
なので俺も、伊緒の瞳を真っ直ぐに見つめ返す。
と、同時に、その下に実る二つのおチチも見詰めた。
「ヤー君・・・・・・」
「伊緒(と、そのおチチ)・・・・・・」
互いの名を呼びあった俺と伊緒。
そして伊緒はおもむろに目を閉じ、背伸びをして俺に唇を向けた。
この伊緒の行動は言わずもがなであろう。
今俺と伊緒は、互いに好きという気持ちを伝え合った所なのだ。
となると、その次にする事といえばアレしかないだろう。
ここで遠慮する必要はまったくない。
しかし、万が一という事もあるので、俺は伊緒に確認した。
「いいのか?」
すると伊緒は目を閉じたまま、こう答えた。
「うん、ファーストキスは、ヤー君としたいって思ってたから・・・・・・」
うむ、いい答えだ。
それでは遠慮なくさせてもらう事にしよう。
俺は目を閉じ、ゆっくりと伊緒の唇に、自分のそれを近づけた。
そして俺と伊緒の唇が重なった───────と、見せかけ、俺は両手で、伊緒のおチチを触った。
「え?」
俺の行動に、伊緒は目を見開いてキョトンとした。
念の為、もう一度記そう。
俺は両手で、伊緒のおチチを触った。
「・・・・・・」
伊緒は完全に凝り固まってしまっている。ならば今度は、英語っぽくこの状況を説明しよう。
Touch the ochichi.
ちなみにここで英訳する必要は全く無いし、この英訳が正しいのかどうかも分からない。
すると次の瞬間、
「きゃぁああああっ!」
という、まるでブラジャーを引き裂くような伊緒の悲鳴が上がったかと思うと、伊緒は力一杯俺の頬を平手でひっぱたいた。
そのあまりの痛さに、俺は思わず英語で叫んだ。
「Ouch!」
しかし決して嫌な痛みではなかった。
むしろこのヒリヒリとした痛みが何ともいえない快感と言いましょうか。
まあそれはさておき、伊緒はとっても怒っていた。
顔色はさっきと同じく真っ赤だったが、その原因が恥じらいから怒りに変わっている事は、伊緒の表情を見れば容易に察しがついた。
どうしてこんな事になってしまったんだろう?
その理由がまったくもってワケワカメ、イミトロロ、ナットウネバネバな俺は、伊緒に直接問うた。
「何をそんなに怒っているんだ?」
すると伊緒は、顔を真っ赤にしたまま声を荒げた。
「ヤー君がいきなり、伊緒の、お、お、おっぱいを、触ったからだよっ!」
「な、何だって⁉」
伊緒の言葉に俺は驚きを隠せなかった。そしてこう反論した。
「ま、待ってくれ!確かに俺は伊緒のおチチに触れた!しかし、どうしてそれで怒るんだ⁉」
「女の子がいきなりそんな事されたら、怒るのは当たり前でしょっ!」
「そ、そんな・・・・・・俺は伊緒が、『ファーストおチチはヤー君としたい』と言うから・・・・・・」
「そんな事言ってないよ⁉伊緒はファーストキスって言ったの!ファーストおチチって何⁉」
「女の子が生まれて初めてエロい意味合いで他人におチチを触らせる事じゃないか」
「そんな言葉聞いた事ない!」
「ちょっと待ってくれ。という事はつまり、伊緒は俺と、キスがしたかったという事だな?」
「そうだよ!それなのにいきなり伊緒のおっぱいを触るなんて・・・・・・」
「それはすまない事をした。それでは改めてキスをしよう。その後に伊緒のおチチを揉みしだくという方向で」
「それもダメぇっ!するのはキスだけ!」
「な⁉おチチを揉みしだくのは駄目なのか⁉」
「当たり前でしょ!いきなりそんなエッチな事は絶対ダメ!」
「そ、それなら、今日はおチチに軽く触れるだけにして、揉みしだくのはまた後日という事でどうだ?」
「軽く触れるのも一緒じゃないの!」
「違う!軽く触れるのと揉んでしだく(・・・)のでは、ハクション大魔王とドンガバチョ程の違いがある!」
「例えが全然分かんないよ!ていうかヤー君は伊緒のおっぱいにしか興味がないの⁉」
「そんな事はない!俺は伊緒のおっぱいを含めた全てが好きなんだ!」
「嬉しくない事はないけど、何か言い方が嫌ぁっ!」
「これは困ったな・・・・・・。一体どうしてこんなに話がもつれてしまったんだ?」
「全部ヤー君のせいじゃないの!どうしてヤー君はいつもそんなにエッチな事ばかり考えてるの⁉」
「何を言うんだ伊緒。俺からエロさを取ってしまうという事は、うな重から重箱を取るようなものだぞ?」
「意味が分かんないし!」
「つまり俺にとってエロい事は呼吸と同じくらい必要不可欠なんだ」
「うぅ・・・・・・ヤー君はこんなにエッチな事ばっかり言わなければ、優しくてカッコイイのにぃ・・・・」
「それは違うぞ伊緒。俺はこのエロさがあるからこそ、優しくカッコイイ男でいられるんだ」
「もういい!ヤー君のスケベ!ドエロ!おっぱい馬鹿!」
伊緒は怒り任せにそう叫ぶと、踵を返して校舎入口の方へ走って行った。
う~む、どうやら完全に怒ってしまったらしい。
伊緒とは物心がつく前からの付き合いだが、彼女の心は未だによく分からない。
それだけ女性の心理は複雑という事だろうか。
まあ、何というか、この物語はこういうノリのお話である。
はてさて、この先一体、どうなる事やら。