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セーブとロードを操る王女、婚約者の勇者が死ぬと一緒に死に戻る呪いを持ってた件~クズ勇者が最高のバッファーをあの手この手で追放した後死ぬのでループ回避のため全力で食い止めます!~

作者: 鉄人じゅす

 ファブリス王国、玉座の間。


 国王に大臣、宰相、さらに彼らを守る近衛兵が見守る中、闇で世界を支配する魔王を討つため勇者達はこの場に現れた。


 勇者カッシュを含む5人の若者は国王と彼女の姿を見て膝をついて、礼をする。


「勇者様、お帰りなさいませ。わたくしはあなたたちの帰還を待ち望んでおりました」


「もったいないお言葉です。アリエヴィラール王女」


 ファブリス王国第一王女、アリエヴィラール・シウス・ファブリスは柔和な笑みを浮かべる。

 王国始まって以来の美姫と言われ、腰まで伸びた長くウェーブがかかった桃色の髪はあらゆる人物の虜にしてしまう。

 優しく絶世とも言える整った顔立ち、文武両道、才覚、血筋、ただそことなく足りない胸部を除けば……彼女は全てにおいて完璧だと言えた。


 そして勇者カッシュの婚約者でもある。

 魔王を討伐した暁には盛大な結婚式が王国で執り行われる予定なのだ。


 アリエヴィラールは天を見上げ、祈る。


 玉座の間の天井には美しく輝く剣【宝剣セーブ・ザ・クイーン】が吊されていた。

 これは王家の血を継いだ女子だけが扱える魔道具であった。


 その力こそ……セーブアンドロード。

 アリエヴィラールが祈ることで勇者カッシュの冒険の記録を宝剣に記録(セーブ)させることができる。

 もし、勇者カッシュが死んでしまっても冒険の記録をロードすればそこから始めることができる。


 アリエヴィラールと【宝剣セーブ・ザ・クイーン】がある限り勇者は死なないのだ。


「今までの冒険を記録致しました」


「ありがとうございます、王女」


「ふふ、勇者様……今日はどこへ行かれるのですか?」


「そうですね。朝早いので今日中に北の街を脅かしている魔の塔を攻略する予定です」


 アリエヴィラールの顔つきが変わる。


「そうなると魔物と戦うことになるのですね。勇者様……十分にお気をつけください」


「大丈夫ですよ。俺には頼りになる味方がいるのですから」


 勇者は5人パーティである。

 圧倒的な勇者スキルで敵を殲滅する勇者カッシュ。

 同じく前衛を担う女武道家ミナ。

 国一番の賢者の弟子である女魔法使いアリス。

 聖女とも噂された神がかりな回復力を持つカーラ。

 最後にパーティの縁の下の支援職、レンジャー男子のユート。


 街を出る頃は勇者を含め未熟な存在であったが、パーティを組んでからの勇者一行は凄まじいほどの戦果をたたき出していた。

 連戦連勝、魔王軍に奪われた都市を奪い返し、何と魔王軍四天王の1人を撃破してしまったのだ。

 勇者一行にかける期待は大きい。


「ミナ様、アリス様、カーラ様、ユート様……勇者様を……将来のわたくしの旦那様をお願い致します」


『ハイ!』


 美しい王女の声に緊張を含ませつつも4人は大きな言葉で返した。


「では行ってきます。王女様……いえ、アリエヴィラール」


 勇者一行が旅立ち、アリエヴィラールは王女としての責務を果たす。

 彼女は勇者の妻としてふさわしいように厳しい教育を受けている。


 学問から魔法の練習、歌やダンス、姫としての立ち振る舞い。王国に来たゲストはアリエヴィラールの美しさを目的とした者も多く、そのような者のために笑顔を振る舞うのも彼女の役目だった。


 アリエヴィラールが落ち着けたのは日もどっぷり沈んでしまった頃のことだった。


「ソフラ、今日の夕食は何かしら?」


「姫様、そのような言葉使いはだめですよ」


 従者のソフラとは子供の頃からの付き合いのため、自然と言葉が緩んでしまう。

 アリエヴィラールも彼女の前では1人の女の子となるのだ。


「今日はマーカ牛のサーロインステーキとなります」


「お腹ペコペコだったの! 嬉しいわ」


「喜んで頂けて何よりです。今日は運が良かったですね。他にメインに出来そうな素材が運悪く入らなかったので助かったとシェフが言っていましたよ」


「そうだったの。そんなこともあるのね」


 アリエヴィラールはディナーにサーロインステーキをたっぷり食べてお腹を満たした。

 今日の彼女の業務は全て終了。あとは自由時間である。


「今日は何をしようかしら……。何だか迷うわ!」


 アリエヴィラールはニコニコ顔であれこれ思考する。

 これにしようと立ち上がった……その時。


 世界は反転した。







 ◇◇◇


 ※1回目



「今までの冒険を記録致しました」


「ありがとうございます、王女」


「ほわっ!?」


 私はそこで我に帰ることになる。

 目の前には膝をつく、勇者カッシュ。そしてその後ろのは仲間達がいる。私はキョロキョロと当たりを見渡した。

 玉座の間から見える外の景色がさっきまで日が落ちていたはずだったのに……太陽が上がったような空へとなっていた。


 わけもわからず呆然としてしまう。


「王女様?」


 勇者は怪訝な顔を見せる。


 何だかわからないけど、王女の責務を果たさないとまずい気がする!


「な、何でもありませんわ! い、行ってらっしゃいませ」


「はぁ」


 去りゆく勇者ご一行に手を振って、魔王討伐の旅へ行かせた。


 どういうことかしら……? 何が起こったというの?


 私は幸いにも無垢な王女ではなく、頭がまわる系王女だったためすぐさま何が起こったのか調査することにした。


 そして分かったことがある。

 それは時間が遡っていることだった。


 気を失った感覚の時、確かの夜の20時頃だった。でも今は9時、日にちは変わっていない。


 目覚めた時、私は自然な言葉で「今までの冒険を記録致しました」と言っていた。

 つまり、【宝剣セーブ・ザ・クイーン】の力が発動し、記録直後の世界に飛び立ったと言っても良い。


 今まで知らなかったけど記憶を継承したまま……過去へ飛び立つことができるのか。

 なかなか便利な能力じゃないだろうか。習得したことを忘れずにそのまま行けるなんて便利すぎる。


 おそらく勇者が死んでしまったのだろう。それで私も一緒に遡ったということだ。

 今日のレッスンは失敗も多かったし、ちょうどよかった。

 失敗を帳消しにできる。ふふ、今日の私はひと味違うぞ!


 私は……まだ気付いていなかったのだ。

 この恐ろしいカラクリに。


 2日連続で晩メシがサーロインステーキだったことくらいしか不満はなかった。

 勇者が死んだのもたまたまと思い込んでいた。






 ※2回目



「今までの冒険を記録致しました」


「ありがとうございます、王女」


「……」


「王女様?」


 2回目である。

 また同じ時間に遡ってしまった。


 そもそもどういうこと? 【宝剣セーブ・ザ・クイーン】の力って勇者の冒険を記録してるんでしょ?

 何で私まで一緒に遡ってんの!?

 そりゃ確かに勇者が旅に出る直前にこの宝剣の力を使うために儀式みたいなのをやったけど……それがもしかしてダメだったの!?



 あの後勇者にそこと無く聞いてみたら遡っていることをまったく知らなかった。

 私と違い勇者はただ死に戻っているだけなのだ。


「王女様、今日のレッスンは……」


 侍女のソフラに言われ私はげんなりしてしまう。

 何で3回も同じレッスンを受けなきゃいけないのか。


 もう完璧だ。先読みして指導係の上をいってやった。


 さすがにもう遡ることはないはず、死に戻りなんてそう何度も起こるはずがない。


「あのソフラ……ステーキはちょっと」


「申し訳ありません。今日は他の食材が手に入らなかったんです。でも珍しいですね、王女様が大好きな肉を拒否するなんて」


 3日連続サーロインステーキは無理だっつーの。

 こちらはうら若き王国始まって以来の最高の美姫だぞ! 3日連続ニンニクたっぷりのサーロインなんて食べちゃダメでしょ!

 まぁ遡ったら少なくとも満腹は持ち越せないんだけど……。



 そして今日も遡った。



 ※3回目



 これは……呪いだ。

【宝剣セーブ・ザ・クイーン】が発する呪いなのである。



 死に戻り3回目。


 まずは勇者達がなぜ死ぬのかを探ることにした。

 しかし、私は王国始まって以来の最高の美姫、不用意に外へ出られない。

 となると……死に戻った瞬間に勇者にアドバイスをするしかないのだ。


 そしてもう一つ気付いたことがある。


 私は死に戻ることを他の人に伝えられないという枷が存在していた。。

 伝えようとすると声はかき消され、文字は書けない。勘の良い人にまわりくどく伝えるとその矢先その人の記憶は消去されてしまった。


 やっぱ呪いでしょ!?


 というわけで王城の書物庫へ行った私。

 幸いにも特別な血統のため感覚が鋭いこともあり、【猿でも分かる千里眼の習得の仕方】で千里眼を習得しようと思う。

 これがあれば勇者達の様子を千里眼で見ることができる。


 私は最速でレッスンを終わらせて、夜までに千里眼を覚えることができた。


 さっそく目を見開いて千里眼を使用する。こんな姿を誰にも見せられりゃしない。




「……見えてきた」


 千里眼の弱点は声が聞こえないことだ。だけど見さえすれば状況は分かるに違いない。

 ……連戦連勝だった勇者パーティが突如敗北したのだ。

 大きな原因があったのだろう


「追い出しちゃった……」


 千里眼で勇者パーティの様子をじーっと見ていた所、勇者カッシュは同じパーティであるレンジャーの少年を追い出してしまったのだ。

 確か……ユートって名前だったわね。前髪が長くて目が隠れている印象しかなかったけど……。

 随分と怒った様子の勇者の後ろで女3人がバカみたいに笑っている。そして……追い出されたユートは泣きながら立ち去ってしまった。


 私にはいつも笑顔ばっかりなのに勇者にも裏の顔があるのね。


 それから5人パーティが4人となり、北の街を脅かす魔の塔へ入っていく。


 その後はひどいものだった。4人になった勇者パーティは嘘かと思うくらいボロボロにされ……殺されてしまったのだ。


 そして死に戻る。



 ※4回目


 さて傾向が見えてきた。

 うぇ……4日連続で夜にサーロインステーキは正直きつい。

 もうしばらく肉は食いたくないんだけど……。


 千里眼を習得した私はなぜ勇者がユートを追い出したことであそこまで弱体化したか調べる必要があった。

 再び私は書物庫の中に入る。


 幸いにも血統のおかげでの生まれつき魔力が異常に高いこともあり【猿でも分かる観察眼の習得の仕方】で観察眼を習得しようと思う。

 これがあればユートの潜在スキルを見抜くことができる。


 今回も恐らくユートは追い出され、死に戻ってしまうだろう。

 次に死に戻った時が勝負である。習得した観察眼で見抜いてくれるわ!


 さて5日連続のサーロインステーキをどう処理するか。

 それだけが私の心残りである。




 ※5回目



「今までの冒険を記録致しました」


「ありがとうございます、王女」


「……じぃーーーーーーーーー」


「ぴくっ!」


 ユートは勇者カッシュと比べたら背も小さく、細い。

 戦闘向きではない体つきだ。

 私がじっと見つめたら顔を真っ赤にさせててしまった。


「あ、あの王女様。ユートに何かありましたか?」


「いえ……何でもありません」


 何でもないことはない。

 ユートの所持スキルはとんでもなかった。


 ※全てのユニットの成長率アップ大

 ※全てのユニットの全能力を大幅アップ

 ※全てのユニットのレベルを20上げる

 ※全てのユニットのレベルアップボーナスが3倍となる

 ※全てのユニットのクリティカル率を極大


 こりゃすごいバッファー。パーティにいるだけで貢献できるタイプだった。

 恐らく戦闘などではあまり役に立たないのだろう。それで追放されて、勇者パーティは戦闘力が大幅に激減、勝てなくなったということね。


「勇者様……」


「なんでしょう」


 ここで個人的にユートの名を出すのは悪策かもしれない。

 勇者は私の婚約者なのだから。あんま顔の好みじゃないけど。

 私がユートを評価するとますます追放する可能性があるかも。


 私は両手を組んで、上目遣いで勇者を見た。



「わたくしは仲間を大切にするお方が好みです。勇者様にそのようなお方であってほしいです」


 王国始まって以来の最高の美姫の上目遣い。

 これで落ちない男はいないはず。


「俺は……仲間を大切にする男ですよ」


 勇者はゆっくりと微笑んだ。


 これなら大丈夫だろう。


 正直千里眼も疲れるし、王国始まって以来の最高の美姫の私が白目むいて窓をじっと見つめるってのは可能ならやりたくない。

 4回目の時に見られてソフラに泣かれちゃったし。


 私はこれで死に戻りがなくなると信じて6日連続のサーロインステーキを無心で食べることにした。


 さて……これで今日の夜安静に過ごせれば……もう。



 ※6回目



「今までの冒険を記録致しました」


「ありがとうございます、王女」


「何で追い出しちゃったのおおおおお!?」


「お、王女!?」


 勇者カッシュの首根っこ捕まえて上下に思いっきり揺さぶってみた。


 父親の国王や大臣、近衛兵までざわつくが知ったことか。

 私に6日連続でサーロインステーキを食わせやがって、嘗めてると言わんばかりだ。


 こうなれば……。


「ごほん、取り乱し失礼しました」


「い、いえ……」


 かなり強い力で振ったため勇者にも若干の怯えが見える。

 品行方正で美しい私がこんなマネするなんて、自戒しなければ……。


「わたくし……神のお告げを受けたのです」


「か、神ですか? カーラ、そういうことあるのか?」


「ありますよね? 聖女カーラ様」


「ひっ!」


 目力強めで脅してみる。

 聖女カーラは気弱な性格なのでこれで大丈夫。


「どうやら……勇者様のお仲間のユート様には特別の力があるそうです」


「なっ!」


 全員がユートの方に視線を向けたせいで彼はたじろぐがこれもこの死のループを逃れるため。

 これで彼が特別な人間であるという認識が出来たでしょう。


「だから決して、決して、決して……追放などしてはいけませんよ」


「は……はぁ」


 ここまで言えば……よっぽどのバカでない限り追放はしないはず。

 これで追放しようものならもう……本当のバカだ。


 私は恐る恐る夜を迎える……。そして……。



 ※7回目



「今までの冒険を記録致しました」


「ありがとうございます、王女」


「勇者ァァァァァァァ! あなたバカなんですかああ!?」


「ひょえ!?」


「1週間連続でサーロインステーキ食わせてぇ、もう牛肉なんて見たくありません!」


 この勇者はもう信用してはいけない。

 私は勇者を手招きした。

 怒りを沈め、笑顔になれ。私は王国始まって……もうどうでもよくなってきた。


「次に謁見する時も5人で来なさい。5人で出ないと牛に縛り付けて市中引きずり回して処罰致します」


「何でそんな横暴な!?」


 いくら怒りを沈めたといっても心の中ではこの男に対する怒りが溢れんばかりだった。

 全力で脅したので……これで何とかなるはずだ。


 私は今日一日気が気でないままに……過ごすハメになる。


 8日連続でサーロインステーキを食し、千里眼を使いながら……勇者一行の姿を眺め続けた。


 そして……ようやくユートが追放されることなく魔の塔を攻略した。



 翌朝。


「ひっく……ひっく……パン、美味しい」


「王女様、普通のどこにでも売っているパンですよ。あ、昼は昨日残ったステーキでも」


「も、もうステーキはこりごり!! いやあああああ!」





 ◇◇◇



「今までの冒険を記録致しました」


「あ、ありがとうございます。あの……なぜそんなに不機嫌なのですか」


「ぷいっ!」


 7回のループを経て、新しい時を刻むことになる。

 魔の塔を無事クリアしたため勇者達はセーブのため玉座の間を訪れた。



「さすが勇者。連戦連勝だな」

「これなら魔王軍も余裕だな」

「この勇者倒せるやついるのかよ」


 7回も死んだくせに何を言っているんだ近衛兵達は……。

 私はそのせいで牛肉が見れなくなってしまった。

 これだったら私も記憶を消して欲しかった。何で私だけ全てを受け継いで遡るの!?


 あれから宝剣セーブ・ザ・クイーンの呪いを解こうと調べたが、調べれば調べるほどその呪いが強固であることに気付く。

 今は勇者を気持ち良く旅へ行かせるしかない。


「ごほん、では勇者様。5人……仲良く旅を続け下さい。決して追い出したりせぬよう……! ねっ!」


「は、はぁ」


 それからも勇者の同行を千里眼で確認しつつ、私は気が気でない生活を過ごすことになる。

 いつまたは……ループをするか。不安でいっぱいだったのだ。

 勇者達が死なないように旅立つ支援金を募ったりとまわりから見れば婚約者を甲斐甲斐しく想う良き姫で褒められまくった。

 おそらく魔王が死ねばループの呪いが解けるはず。絶対に勇者を死なせない。




 ※8回目



「今までの冒険を記録致しました」


「ありがとうございます、王女」


「ああああああ、戻ったぁぁぁぁぁ。戻っちゃったよおおおお!」


「王女様!?」


 いつだ……いつだっけ。

 前セーブしてからあれして、これして、どうして、4日!

 4日遡ってしまったのだ。今回は1日じゃないのでサーロインステーキ地獄が起こることはないが……この4日やってきたことが全てパーになったのは痛い。


 悔いている暇はない。


「勇者様、これからどちらへ向かわれるのですか?」


「あはは、王女様、心配されているのでしょうか? 俺達を信じてください」


「言え」


「は、はい。南国の港街の近くに海底遺跡があるという情報を得たのでそこへ行こうかと」


 南国の港街。そう遠い所ではない。ここから1日もかからない距離だ。

 でもその海底遺跡で殺されてしまうのか。

 まずは千里眼で情報収集しないと……ユートを追放するかどうか。それも大事なことだ。


 これからセーブするたびにループしちゃうの? 私の精神イカれてしまいそう。


「勇者様、必ず5人。5人揃って帰ってきてくださいね! 誰一人として欠けていけませんよ!」


「暖かいお言葉……。王女様、前のセーブの時より随分疲れているように見えます。何かあったのですか? 俺は勇者です。王女様の悩みを晴らしてあげたい」


「じゃあ死なないでください」


「え」


「ほんと、わたくしが望んでるのはそれだけなので! ほんとですよ!」


「当然です。ですが……魔王討伐は過酷な旅。魔王を倒すために命を落とす可能性もあるでしょう。でもその時は魂を王女」


「だから死ぬなって言ってんでしょうーがぁぁ!」


「アッハイ」





 ※9回目



「今までの冒険を記録致しました」


「ありがとうございます、王女」


「やっぱ死んだじゃないですか、ヤダーーーーッ!」


「な、何の話ですか!?」


 驚いた顔を見せる勇者達。前回の会話を蒸し返す気にもならない。

 これ以上勇者達と会話しても無駄なのでさっさと旅に行かせることにした。


 だけど……1つだけ条件をつけたの。


 海底遺跡に行く前に城へ寄ってセーブしてから行けとお願いした。

 やはり4日のループは長すぎる。

 そのために1日のループに変更するため、勇者を呼ぶことにした。


 我ながらナイス案だ。


「王女様、ただいま参りました。勇者カッシュ、武道家ミナ、魔法使いアリス、聖女カーラ、レンジャースミレの5名です」


「メンバー変わってるじゃないですか!?」


 ユートがいない!?

 レンジャーのスミレさんって誰だよ!

 私は困惑したまま勇者に問いかける。


「ユ、ユート様はどこへ行ったのですか」


「ユートは俺が置いてきました。修行はしたがハッキリ言ってこの戦いについてこれそうにありません」


 何言ってんだコイツ。

 ユート無しだと死にまくるくせに何をイキっているのか。


「では王女様、セーブをお願いします」


「はぁ……勇者様お願いがあります」


「はい」


「死んでください」


「この前は死ぬなって言ったのに!?」


 セーブすると詰みそうだったのでこのまま追い出すことにした。

 案の定海底遺跡に向かった5人はそのまま死んでしまい、ループした。



 ※10回目



「ユート様、ちょっとわたくしとお話しませんか?」


「えっ!? ぼぼぼぼ僕とですか!」


 もはや手段を選んではいられない。


 勇者達がセーブ後1日は王国内で休暇を取るという話を聞いたのでメイド使って呼び出した。


 邪魔が入らないよう私室で私とユート、側にはメイドのソフラを待機させる。

 外がよく見えるテラスに美味しいお茶を用意する。


 緊張して震えているユートに笑顔で話しかける。


「ふふ、緊張なさらなくてもいいですよ。今日は将来の夫である勇者様のことについてお聞きしたかったのです」


「か、カッシュのことですか? 本人に聞けば……」


「そんな本人に聞くだなんてはしたないことできません。ですので同性で仲間であるユート様にお話を聞きたいと思い、お呼びしました」


「そそそ、そういうことですか」


 これでいい。

 ユートは手をもじもじとさせ、顔を紅くし、両目を髪で隠している。

 まったく王国始まって以来の最高の美姫の私相手に照れちゃって……、仕方ないわね。


「ユート様と勇者様の関係はいかがですか? 仲は良いのですか?」


「はい! 僕とカッシュは幼馴染で同じ村で生まれ、育ちました。何というか心が通じ合っているっていうんですよね。魔王討伐する最後まで一緒に戦い抜くと思います。仲良いので追放されることも絶対無いですしね!」


 そんなこと言うユートはすでに10回は追放されているという事実。

 あまりに純真に言うから拍子抜けしてしまった。


「ほんとに、本当に追放されることないんですか? 何か最近不穏なことを言うとか」


「いや、ないですよ。まぁ、旅始まってからあ~! ハーレムパーティ作りてぇ! ユート追い出して女レンジャー欲しいって冗談を言いまくってたくらいです」


「答え出てんじゃねーですか」


「えっ」


 ごほん、言葉が悪くなってしまいました。

 なるほど……勇者はハーレムを作りたいがためにユートを追い出したということね。


 あの勇者バカか。


「わたくしがいるのにハーレムだなんて」


「王女様もハーレム要員にカウントしてるみたいです」


 勝手にするんじゃない!!

 度重なる死とループで勇者に対する愛情が目減りし、憎しみに変わろうとしてるというのに。


 そんな裏側の話を聞かされて……でも次の対策の案は浮かんだわ。

 でも……気になることがある。


「わたくし……勇者様に避けられている気がするのですよね」


 私自身も避けているが勇者も避けている気がする。

 王国始まって以来の最高の美姫の私にもっとがっついてもいいと思うんだけど。


「あはは……」


 ユートはその理由が分かるようで苦笑いをしている。


「理由が分かるのであれば教えて頂けると嬉しいです。夫のことですし……」


「でも、さすがに失礼ですし……」


「ふふ、わたくしは王女ですから。言ってくださいな! 絶対怒らないですから」


「……カッシュはその……巨乳好きなんです」


 怒らないけど殺すか。


 王国始まって以来の最高の美姫の私の唯一の弱点、亡くなった母はそこそこあったのに……なぜ私にはまったくない!

 思えば勇者パーティの3人の女は皆巨乳だったわ。


 私が巨乳でないから愛す気がないっていうの!? あの勇者殺した方がいいか。


「で、でも僕は……王女様がとても魅力的だと思います」


「へぇ、あなた貧乳好きなんですね」


「ち、違います! そういうことじゃなくてぇ」


 ユートはまたもじもじし始めた。

 まったくどいつもこいつも胸で人を判断して……。

 この人だって前髪で目を隠そうとするからいつまで経っても陰湿な感じがするのよ。


 私はテーブルを乗り出し、ユートに近づいた。


「ユート様こそもっと男らしくあるべきです。こう!」


 ユートの前髪をくいっと上へ向けた。


「これっ!?」


 そう……ユートの翠色の瞳はとてもキラキラしていて、大きかった。

 前髪を上げていると幼さを残しつつもとても顔立ちが整っている。


 これは……つまり。


 私好みの美少年だった。


「ユート様の瞳……キラキラして綺麗……。結構好きかも」


「えっ!?」



 ちょっときゅんとしちゃっかも。



 そして時は遡る。



 ※11回目


「今までの冒険を記録致しました」


「ありがとうございます、王女」


「さて、勇者様。お願いがあります」


「何でしょう。俺に出来る事があれば……何でも言ってください」


「ハーレムパーティなぞ作らず今の男女比を保ったまま旅に出てください。女をこれ以上増やしたら浮気と取ります」


「ぶほっ!!」


 勇者カッシュは勢いよく咳き込んだ。


「王女様! お、俺は! 妻であるあなたを差し置いてそんなこと思ったこと……1度もありません!」


「うるさい巨乳好き」


「!?」


 これでユートを追い出さずに旅が出来るはずだ。


 4日目、千里眼で勇者パーティの動向を覗いていた。

 ユートは追い出されていない。ハーレム禁止令が思いのほか効いたようだ。


 おかげで無事に海底遺跡を攻略したようだ。


 翌日、セーブをするために勇者様ご一行が王城へ現れた。


 いつも通り、私の前で膝をつく勇者カッシュだが……なぜか顔を引きつらせていた。


「どうしたのですか、勇者様」


「い、いえ……最近の王女様は威圧感が凄いので……」


 誰のせいだと思っているのか。

 勇者がユートを追放しなければ私も怒る気はない。

 1回や2回の遡りは仕方ないと思っているが10回も20回もされてはたまったものじゃない。


 しかも理由がハーレムパーティを作りたいとかおバカなの!?


「今までの冒険を記録致しました」


 セーブを行い、さっさと旅に出させる。はよ、魔王倒してこい。


 そんな時パーティの後ろを歩くユートの存在に気付いた。


「ユート様」


「は、はい!」


 ユートはびっくり、仰天声が裏返る。

 とても可愛らしくて意地悪したくなるものだ。


 他の面々に聞こえないようにそっと囁く。


「……髪切った方がわたくしの好みかもしれませんよ」


「……!」


 顔を真っ赤にさせたユートは急いで走って……勇者パーティに追いついた。


「からかいすぎてしまったかも」


 ちょっと陽気になった私は今日も王女としての責務を果たす。

 これだけ気持ちの良い気分なら……積極的に楽しくやれるだろう。


 私は陽気に歌いながらレッスンも視察も行う。


 そしてセーブをしてから2日目の15時。


「昨日はとても頑張ってくださったので、今日は王女様の好きなチェリーパイを焼かせて頂きました」


「わーい、チェリーパイ大好き!」


 メイドのソフラの焼くパイは絶品だ。

 特にチェリーパイは最高級に美味しい。


「いただきまーす」


 チェリーパイを掴み、大口を開けた。


 その時……視界がぐにゃりと歪む。



 ※12回目


「今までの冒険を記録致しました」


「あ、ありがとうございます、王女」


「私のチェリーパァァァァァイ!?」


「えぇ!?」


 せめて食べてから戻してほしかった!


 アツアツでサクサクでアマアマなパイを味わいたかったのに……また勇者、キサマかぁぁぁ!


「きょ、今日の王女様は体調が悪いようなので……行きますね」


 ううぅ!

 確か前回セーブしたのは2日前、また千里眼でパーティの様子を見ないといけないのね……。


 今回は状況を見極めるためにさっさと旅に行かせる。


 あ……そうだ。


「ユート様」


「は、はい?」


「あなたは髪切った方がベリーベリーグッド!」


 親指を立てて褒めてやった。


 正直同じやりとりを繰り返すのは面倒くさいのである。


 同じ展開を経て、私は1人部屋にこもり千里眼を使用する。

 本来であればソフラがこの時間チェリーパイを作ってきてくれるというのに……私は何やってるんだろうか。


 千里眼で勇者カッシュ達の様子を見る。


 えーと勇者カッシュのまわりに女共がいて、ユートが追い出され……。


「あれ? チガウ?」


 今回はユートのまわりにパーティの女達がくっついており、鬼のような形相の勇者カッシュが何かを訴えていた。

 ユートの顔を見えるように千里眼の力を強める。


「あらっ……」


 前髪を切って現れたそれは絶世の美青年であった。


 あらステキ。 思わず私も見惚れてしまいそうなほどユートの顔は整っている。

 なるほど、この顔に釣られてパーティの女達はユートについてしまったわけね。


 そしてハーレム願望持ちの勇者カッシュが怒り狂うと……。


「まったくユートを追放しまくる罰よ。ほんとざまぁないわね!」


 勇者の泣きべそ顔が笑えてくる。

 あんなにバカにして追放してきた男に女を奪われた今、どんな気持ちって聞いてみたい。


 そんで勇者カッシュが剣を抜いちゃった。敵対しちゃうとユートのバフ効果は得られないからきっと……。


 勇者カッシュがユートに斬りかかるが、仲間の女に振り払われ、飛んだ剣が勇者の頭に突き刺さる。


「アハハ、返り討ちにあって死んでやんの! バカみたい!」



 ※13回目


「今までの冒険を記録致しました」


「あ、ありがとうございます、王女」


「追放され返されたからって死ぬな!!」


「何の話ですか!?」


 勇者は言い返すがまともにやり合う気もない。

 今回の正解ルートは恐らくこれだ。


 私は旅に出ようと去りゆくユートに声をかけた。


「あなたは髪伸ばした方がベリーベリーグッド!」


「ええ!?」


 言わなくてもよかった気がするが……まぁいいでしょう。


 このおかげでユートに惚れなかったパーティの女達はそのままで……何の追放もおきずに旅は進むのであった。







 それから幾多の時が過ぎる。


 やっぱりしょうもない理由でユートが追放されることが何度もあり、そのたび私は頭を悩ませることになる。


 最速1時間半で死に戻りした時は詰みを覚悟した。あれは本当に大変だったと思う。

 他にも14日分遡った時はやる気が激減してしまった。あれも大変だった。


 現実の時間ではほんの数ヶ月だというのに私は年以上生きている感覚に陥る。

 年は取らずに心の年が増えていく感じだ。



 だけど……忙しくも楽しかったと今でも思う。

 勇者への恋心は完全に消え失せ、いかにして婚約破棄に持って行くか最近の課題だと思っている。



 そんな時、予想もできない事件が起きた。





「ファブリス王国が……燃えている」


 魔王軍の侵攻による、大軍がファブリス王国に押し寄せてしまったのだ。


 すでに市街地は魔物で溢れており、罪の無い市民達は犠牲になっていく。


 父である国王が率いる王国軍が魔王軍に対抗しているが劣勢だと聞く。


 ……聞きたくない言葉が耳に入ってくる。


「どうやら国王様は戦死されたそうだ」

「ファブリス王国は終わりだな」


「バカ、王女様の前で言うな!」


 ……父が死んだ?

 優しくて格好良くて……子煩悩なお父様が……?

 信じられない言葉に私は自室で引きこもってしまう。


 大丈夫……勇者がくれば敵を倒せる。未だ連戦全勝なのだから。この前も魔王四天王の1人を討伐したのだ。

 例え、もし敗れたとしてもセーブした5日前に戻ることができる。

 戻りさえすればお父様も復活する。そうすればその5日間で魔王軍の強襲を防ぐ準備をすることができる。


「王女様! お逃げ下さい!」


 部屋の中に入ってきたのは侍女のソフラだった。

 頭から血を流し、こちらにやってくる。

 私は思わず飛び出し彼女に触れる。背中をばっさりと斬られていて……誰が見ても致命傷だと分かった。


「ソフラ! あなた……ケガを!」


「すみません、私はもう助かりません」


「いやよ! 子供の頃から一緒に育ったじゃない! お父様もソフラもいなくなるなんていやぁ!」


「玉座の間は手薄です……もしかしたら逃げ切れるかもしれません。王女様さえいれば……いつかファブリス王国を……」


「ソフラ……? お願い、目を覚ましてよ!!」


 いつも私の味方になってくれた最愛の侍女を失い、私は涙ながらも最期の言葉を信じ、玉座の間へ向かう。

 さっきまでは人の声でうるさかった城内も次第に……声が静まっていく。


 かすかな希望を抱いて……私は玉座の間へと来た。


【宝剣セーブ・ザ・クイーン】は天井より吊され、輝いている。



「お願いセーブ・ザ・クイーン! 私を5日前に帰して! 今戻れば……全部、全部……復活させることができる」


 だが……無情にも宝剣は反応しない。

 それでも私は訴えた。


「だったら……あの男を勇者にここに呼んでよ! 魔王の大群に恐れを成して逃げてしまったあの勇者を!」


 勇者はファブリス王国に到着していたらしい。

 だが、魔王軍のあまりの物量に助けることをせず逃げ帰ってしまったのだ。

 まわりの兵士がその光景を見ており、私自身も千里眼でその様子を見ていた。


 許せなかった。あれだけ王国に世話になっておきながら……全てを捨て去ったあの男を。


 私は願う……全ての回帰を。


「おやぁ……ここにいるには誰かなぁ」


 ばっと後ろを振り向く……。その姿には見覚えがあった。魔王軍四天王の1人であり、この大軍の大将であった。

 紳士の姿をした人型の魔物なのに顔だけが醜悪で、とてつもない魔力を持っている。


「これはアリエヴィラール王女ではありませんか。王は死に、勇者が逃げた今、こんなところで何をしているですか」


「うぅ……」


 怖い……。

 私は玉座の間の奥へと走る。

 だけど……それもつかの間、魔物は一歩一歩近づいてきた。


「抵抗するのであれば人質とするのもありなのですが、もう滅ぶ間際ですからね。一思いに死なせて差し上げましょう」


 魔物の腕が鋭い刃へと姿を変える。

 私は恐怖で足がすくみ……逃げることすらもできない。

 勇者が死ねば……私は宝剣の力で過去へ遡る。では私が死ねばどうなる? 恐らく何も変わらない。私の死はセーブ・ザ・クイーンの力に影響されないのだ。

 だから私が死ねばセーブ・ザ・クイーンは力を発揮できない。今までのセーブも関係ない、全て現実となる。


 全て終わりだ。


 私は思わず両手を頭に添え、目を強く瞑った。


 ……いつまで経っても痛みは発生しない。おそるおそる目を開くと……必死な形相で魔物の刃をダガーで食い止める少年の姿があった。


「ユート……」


「すいません、お待たせしました……!」


 勇者パーティの一人、ユートがギリギリの所で駆けつけてくれたのだ。


「ユート……どうして」


「逃げるカッシュを説得したのですが……力及ばず……せめて僕だけでも、僕だけでも王女様を助けたい。そう思ったのです」


 ユートは私の方へ顔を向け、にこりと笑った。

 そのまま強くダガーを振り切り、魔物を一時的に奥へと押しやる。

 ユートは私に背を向けて守るように魔物に立ち塞がった。


「どうして……どうしてそうまでして私を……」


「……初めて会った時から僕は王女様が好きでした。微笑んでくれる姿が本当に魅力的で……カッシュに嫉妬してたんですよ。あなたの夫になることが我慢できないくらい」


「あ……」


「……僕の瞳キラキラして綺麗と言ってくれたこと……僕は例え……()()()()()()()って忘れやしません」


 ユートは大きな声で叫ぶ。


「あなたを守りたい!」




「勇者パーティの腰巾着が嘗めたマネをしてくれるなぁ!」



 魔王軍の四天王である魔物がユートに攻撃を加える。

 ユートは支援職であり、単独戦闘は得意ではない。徐々に追い詰められていく。


 それでも決して私の後ろへ下がらなかった。


 私の前に立ち、私を守ろうと立ってくれた。



 ……私は守られているだけ?


 お父様やソフラやユートが守ってくれて……私はただ見ているだけなの。


 私には……あの血が流れているのに、何もできないの?


 無敵の()()を持つのに……ただ手をこまねいてしまっているの?


 気付けば私は観察眼を使用していた。ユートのスキルをもう一度確認したかった。


 前に見た時にはなかった……スキルが追加されていた。



 ※全てのユニットの成長率アップ大

 ※全てのユニットの全能力を大幅アップ

 ※全てのユニットのレベルを20上げる

 ※全てのユニットのレベルアップボーナスが3倍となる

 ※全てのユニットのクリティカル率を極大


 ※愛した者の潜在能力が解放される




「ユート、私とパーティを組んで!」


「え?」


「早く!」


 この時、ユートと私がパーティを組んだことでユートが持つバッファーとしての力が私の体の中に入り込んでくる。


 今までの自分とは違うような強固な力が溢れ出てくるようだ。


 私は右腕を上げた。


「来い! 【宝剣セーブ・ザ・クイーン】」


 玉座の間の天井に吊された宝剣は私の願いを聞き受け、光輝いた。

 ゆっくりと楔が解かれ、降りていく。私は宝剣を掴む。


「お、王女様……?」


「あなたはいったい……」


 その神々しさに虚を突かれたように後ずさる魔王軍の総大将に剣を突き付けた。


「私の名はアリエヴィラール。父からは王家の血を引き継ぎ、母からは最強の戦闘民族サラダ人の血を引き継いだ……最強で最高の血統!」


 私は5歳の時、1度のその力を解放したことがある。


 その結果は悲惨たるもので、母を失った私は恐れ、その力を心の奥底に封印してしまった。

 父が私を城から外へ出そうとしなかったのもこれが要因の1つである。

 だが今、ユートのバフによりのその枷は解かれて……私の体に力が溢れに溢れてくる。


 5歳の時に評された私の二つ名は……。


「バーサク・プリンセス」


 全ての力を宝剣に込め、私は魔物相手に振り切った。


「吹き飛べぇぇぇ、プリンセスセイバーァァァァァァ!」


 潜在能力全て解放した私の一撃は……ファブリス王国に巣くう魔物全てを吹き飛ばしてしまった。




 それから……1ヶ月の時が過ぎた。








 私はかりそめの玉座に座り、冷めた目でそれを見下ろした。


 生き残ったファブリス王国の国民全てを集めて……屋外にあるかりそめの玉座で一大ショーがこれから開催されるのだ。



 私の隣には信頼できる元勇者パーティの1人、ユートが側にいてくれる。

 苦しい時も支えてくれ、本当にこの1ヶ月嬉しかった。


 ただそれももう終わりだ。


 兵に引っ張られ、一人の囚人服を着た男が連れ出される。


 その男の名はカッシュ。


 そう勇者カッシュその人であった。


 勇者の責務から逃げ、各地を転々としていたが私の千里眼から逃れることができるはずもなく、草の根分けとっ捕まえた。

 ユートのいない勇者など造作も無い。

 他にも勇者を慕う女共もいたが……必要ないので放置してやった。


「お久しぶりですわね。勇者様」


「あ……うぅ……」


 罪悪感があるのか私の目をみようとしない。

 元婚約者だというのに冷たい人よね。


 私は兵士に指示して勇者をギロチンにかけることにした。

 勇者は抵抗をするが容赦なく柱の間にくくりつけた。


「お、俺が悪かった! だから命は……命だけは!」


「やれやれ、困ったさんですわね。わたくし……憎いあなたですらも救おうと思っているというのに……」



【宝剣セーブ・ザ・クイーン】によるセーブはあの日以来行われていない。


 勇者が死ねば……過去は遡る。

 私と【宝剣セーブ・ザ・クイーン】がある限りそのルールが破られることはない。


 ここで勇者が死ねば……全てはありえなかった未来として消し去ることができるのだ。


「ユート、あなたには謝らないといけませんね」


「いいのです。カッシュは許されないことをしました。我が友として思う所はありますが……」



 違うのですよ、ユート。


 私が謝りたいのは……あなたの想いを踏みにじることなのです。


 魔王軍の大軍をくぐりぬけて、ボロボロになりながらも助けに来てくれた勇敢だったあなたの姿を消し去ってしまうのです。


 私のことを好きだと言ってくれたあの想いも消してしまうのです。


 あなたを守りたいと覚悟を決めてくれたあの力強い意志も消してしまうのです。


 この1ヶ月本当に楽しかった。


 あなたが側にいてくれて……本当に良かった。


「さようなら……」


 その言葉を捧ぐのは……勇者ではなく……あなた(ユート)


 そしてギロチンによる死刑は執行された。



 時は遡る。


 ねぇ、ユート。


「……僕の瞳キラキラして綺麗と言ってくれたこと……僕は例え……何度繰り返したって忘れやしません」


 って言ってくれたじゃない。

 あの言葉は遡りの彼方へ消えてしまったはずよね?


 どうしてあなたは覚えていたの?


 もし……次に遡った時、覚えていたら……覚えていたら。









 ※X回目



「今までの冒険を記録致しました」


「ありがとうございます、王女」


 戻ってきた。


 周囲を見渡す。

 あの未来では死んでしまった人達が皆、私を笑顔で見てくれている。


 父もソフラも生きている。


 今や憎しみしかない勇者も罪を犯す前として生きている。


 そして……ユートもそこにいる。


「では俺達は先へ行きます」


「勇者様」


「はい? ごふっ!」


 私は右ストレートで思いっきり勇者の腹をぶん殴った。


 本気での一撃は無事意識を失わせることに成功する。

 さて、5日後には魔王軍がやってくるのだ。さっそく準備を進めないと……。


「アリエヴィラールいったい何を……」


 父である国王が驚いた形相で私に問いかける。


 私の回答は1つだ。


「来い!【宝剣セーブ・ザ・クイーン】」


 天に吊された宝剣は楔を解かれ、再び降りてくる。

 ふふ、未来でやったことと同じことをしただけだ。


 消え去った未来で解放された潜在能力は健在。私は【宝剣セーブ・ザ・クイーン】の力を自由自在に扱えるようになったのだ。



「私が魔王倒します。大事な者を失った世界には絶対しません」


 勇者などに任せる必要なんてない。

 私自身が立ち上がり、敵を滅ぼせばいいのだ。

 勇者はもう……必要ない。


 小間使いにしするか、棺桶に閉じ込めるなどして生かしさえすればいい。


 私は……たじろぐ勇者パーティに近づき……彼を見る。


「ねぇユート様、……いえ、ユート。私を支えてくれますか?」


 前髪で閉じた目が大きく開いたように見えた。

 ユートは一歩近づく。


「はい、喜んで!!」




 ねぇ……ユート。


 あの消え去った世界で1つだけ……1つだけ残っていることがあるんだよ。


 あなたが助けてくれた、守ってくれた時に生じたこの気持ち。


 今のあなたではないけど……きっといつか……あの時のように。


 あなたを好きになれるよね。



 だからこの恋心はいつまでも、いつまでも……心にしまい続けます。


 いつか……両想いとなり結ばれるその時まで……。



 「あなたとループを断ち切ります!」


読了ありがとうございました!


ブックマークや広告の下の☆☆☆☆☆から応援頂けると嬉しいです。



ハイファンで出すか異世界恋愛で出すか迷った作品ですがいかがだったでしょうか。

もし連載するのであればもうちょっと勇者パーティを深掘りして、コミカルな死に戻りを何度もやっていきたいですね~。


気分転換の作品となりました! これからも宜しくお願いします。


普段はこんなの書いてます。

ちょうど1章が終わって区切りがいいのでいかがでしょうか。


https://ncode.syosetu.com/n2900ge/


追放されたアイテム係、ポーションの真の使い方を理解する ~S級ドラゴンの首の骨を折るぐらいの速さで投げれば最強になれるって分かりました!~

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