1,戦時の中 ガイド、辞職を考える
戦争終盤、ロンド周辺の戦況は激しく、近くの湖に新型爆弾が落ちたらしい事もあって、人の流出は止まらなかった。
湖周辺の家やビルは爆弾で巻き上げられた水と爆風から半壊状態で、核の恐れがあると言う事で一時町は騒然とした。
が、その後調査が終わり、核の恐れはないと判断されて人々にも落ち着きが徐々に戻っている。
それでも町を出る人が半数にも上って、ほとんどが前線になっている危険な荒野を渡り、近くの都市デリーに逃げる人が多いらしい。
新聞見ても、一番上は主要相手国と条約かわす話し合いで、すでに戦争は事実上終わりかけている。
終わりかけているとは、大統領の他国との駆け引きが激しく、なかなか合意に至らないのだ。
退陣要求をなかなか飲まない大統領には、国民も辟易している。
それでも彼は、長く独裁をしいて誰も逆らえない怖さがあった。
おかげでロンド周辺でも、相変わらずドンパチが終わらない。
特に国連軍とゲリラの戦闘は激しく、アメリカの無人ドローン使った爆撃や銃撃には辟易する。
いきなり頭から弾がふってきて、時にゲリラ掃討の名目で一般人まで巻き込まれた。
ロンド郵便局は、半壊になりながらも修理を繰り返し、何とか業務を続けている。
速達業務のエクスプレスは殉職やケガが続き、とうとうデリー側がアタッカーをしばらく出せないと通告してきた。
ロンド郵便局も、エクスプレスは今ではガイドとリード、たった二人でデリーへ荒野渡りに挑んでいる。
何とか1日2便を死守したいと、朝はポストアタッカー、昼は一般の輸送トラックで対応していた。
「ガイド、まだ足治ってねえんだろ?無理するなよ。」
エクスプレス班の班長リードが、申し訳なさそうにガイドの肩を叩く。
ガイドはその頃、流れ弾が当たって、太腿をケガした後遺症に酷く悩んでいた。
ケガ自体、弾は抜けてそれほど出血はなかったのだが、たちの悪い事に一時感染して酷い熱で苦しむ事になった。
おかげで療養は長引き、その間リードは毎日一人でデリー渡りをがんばってくれていた。
早く復帰したいと思いばかりで焦って、ストレスからなのか、足には激しい痛みが残っている。
医者は神経には問題ない、破片も残っていないという。
じゃあ、なぜ、と言う思いと焦りが、痛みを増強する。
「足は治ってるんだよ、ただ、気持ちがな……治ってないんだ。」
翌日早朝、早出して、荷物を積んで郵便局を出る。
白い朝靄の中を、GPSで確認しながら馬を飛ばす。
荒野に出ると、足がズキズキうずき出す。
痛い……
また、足が痛い……
痛みと闘いながら、周囲にも気を配る。
痛い……痛い……怖い……痛い……怖い、痛い、怖い、怖い、怖い、怖い
つらい
もう、駄目だ。
俺はポストアタッカーなんて続けられない。
心が折れる。
怖くて怖くて、こうして走りながら冷や汗でびっしょりだ。
駄目だ、俺はリードに言うしかない。
きっと、そうしたらこの痛みは消えると思う。
俺は、アタッカーを辞める。
その一言が、俺は、言わなきゃまた、今度はこの胸を、頭を撃ち向かれて死んじまう。
俺は…………もう………………
ふと、徐々にはれてきた靄の中に、ひょろっとした少年の姿が見えた。
馬のスピードを落とし、少年の方へと馬を向かわせる。
年は、ハイティーンか。
ローティーンくらいの女の子を連れて、荒野を歩いて渡っていた。
汚れて服はボロボロで、見るからに戦争孤児と言った様子だ。
「おはよう、どこへ行くんだい?」
良く見ると少年は、汚れているが金髪のきれいな子だ。
ただ、ずいぶん目つきが鋭い。
もやで視界が見通せなかったのか、急に現れた人馬に驚いて女の子を後ろに隠す。
無言でじっと見て、後ずさると走り去っていった。
馬を回して後ろ姿を見送るが、自分も仕事で急いでいる。
子供達がロンドの方へ走って行くのを確認して、仕方なく、先を急ぐ事にした。
無事に帰って仕事を済ませ、終業前の時間、リードを前にする。
が、やっぱり言えない。
言いたそうにして、言葉を飲み込む。
リードは、コーヒー飲みながら昨日の新聞見てる。
今日の新聞は届かなかったから、何かあったんだろう。
みんな生きていくのに命がけだ。
「郵便、速達増えてるけど、不在増えたよなあ……町がどんどんガラガラになっていく。
なあ、速達事業、しばらく休まないか?」
新聞を見ながら、顔を合わせずリードから切り出した。
「なんで?急に。郵便は増えてんだぜ?」
「そうだな、そう、お前も思ってんじゃねえかなあと思ってさ。」
無言でうつむく。
やっぱり、年下なのに、リードは班長やるだけある。俺の気持ちをわかってくれていた。
こんなヘボい年上で、申し訳ないと思う。
「ひでえストレスだよな。弾の飛び交う中を、突っ走るこっちの身にもなって欲しいよな。」
「うん」
「ガイド」
「うん」
「俺も、怖いんだ。怖くて、町出る前は足がすくんじまう。
泣きながら銃撃戦の横、突っ切った事もある。」
息を飲んで、リードの顔を見た。
「ガイド、俺も、俺だって同じさ。怖いんだ。」
目を閉じた。
ガクリと頭を垂れる。
そうだよなあ、当たり前の事なんだよなあ。
誰が弾の飛び交う場所平気で突っ切れるんだ?
そんなの、怖くて当たり前だよなあ。
涙が出て、ポタリと落ちる。
鼻すすりながら、首を振った。
「もう少し、考える。」
「うん、俺も付き合うよ。
ガイド、もう十分無理してるけどさ、自分犠牲にする必要は無いんだって、俺はそう思うんだ。人は喜んでくれるけど、俺たちそれだけが支えなんだけどな。」
「うん」
涙と鼻水すすりながら、ガイドは重い気持ちでその日職場をあとにした。
ポストアタッカー狩り本編、なぜかガイドとリッターにPVが集中しているので、ガイドとリッターの出会いを書くことにしました。
だいたい4年前頃、戦争終わりかけではありますが、まだ戦時中の頃です。
ポストアタッカー狩り1話で惨殺された、リードも健在。
サトミは目が治ってタナトスに入った頃でしょうか。
4話予定、お付き合い下さい。