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8、笑い男、デッドエンドの理由(サトミに結果報告に行く,後編)おわり

サトミの黒蜜へのこだわりが薄れているような不安に、驚いて思わず頭を下げた。


「どうか、どうか、黒も使ってあげてください。お願いします!

俺、消耗品代半分持ってもいいです、全額でも。

お願いです、錆びてもいいなんて言わないで下さい」


頭を下げると、いいから座れとテーブルを指で叩く。

サトミは知らない。

刀を振るう自分の剣技がどれほど人を引きつけるか。

だから、みんな軍を辞めるとき、この人が刀を捨てないかが一番心配だった。


「まあさ、刀ってきれいだよな。お前らの気持ちもわかるさ。

まあ、パーツ手に入る間は使うから心配するな。

ちょっと待ってろ。家に置いてくる。」


「おまたせー!あら、何処行くの?」


「あっつ、タイミング悪ぃ、あとでいいや。姉ちゃん、さんきゅ。」


丁度、目の前に来たエッグトーストと激甘カフェオレに、立ちかけて座った。

ホッとして、一緒に食べ始める。

黒蜜使うと言ってくれてホッとした。

武器商には、材料切らさないように脅しておこう。


サトミがカフェオレ、フウフウしてちょっと飲む。可愛い。

カフェオレというか、ほぼ真っ白だ。

これだけ脂肪と糖分取って、なんで太らないのか不思議な人だ。


「そう言えば昨日ジンからさ、電話来たぜ。

お前から犯されそうになって,ゾッとしたって言ってた。

メチャクチャ笑ったら切られたけど。」


「あー、あれはですねー、ドローン飛んでたのでハッパかけたんすよ。

まあ、俺もぶっ飛んでたし。

みんな見てると思ったら妙に興奮しちゃって、やってもいいかなーってですね。」


「てめえはもう少し羞恥心知った方がいい。

まあ俺は辞めたし、どうでもいいや。少なくとも下の隊員には手を出すな。」


「イエス、サトミ。」


敬礼で返した。

今夜は食事を一緒に食べる予定だ。明日も新規導入された銃とか装備品見てもらう。

これはボスに許可もらっている。サトミに衛星電話も持ってきたが、受け取ってくれるかは不明だ。


不思議と彼だけは、仕草や表情見て喋るだけで心が満たされる。落ち着く。

でも彼に女が出来たら、嫉妬するかもしれない。


まあそれはおいといて。

俺はここに来るのが最高に楽しみで、サトミの姿を眺めて言葉を聞きに来るのが最高の最高に楽しみだった。

実は、ジミーの事なんかどうでもいい。


どうでもいい訳では無いが、まあ、だいたいどうでもいい。

あいつには何度か、俺とセックスしたいのかと聞いてみたが、自分はゲイじゃないのでそんな物考えてないという。

ただ、くだらねえ話をして、一緒に飲みたいだけだと。


セックス目的以外で親しくなりたい奴なんて初めてだ。

変な奴だが、あいつはあいつで大事にしてみようと思った。


俺がケガしたのと、タナトス入隊の話が立ち消えたのが同時期だったので、俺のせいなのかと散々聞かれたが、男襲ったらナイフで反撃されただけと返しておいた。

ゲラゲラ笑って、それで終わりだ。

その日の酒を、安月給から奢ってくれた。


それをサトミに話すと、いい奴ってのは、長生きさせた方が国のためになると語って、なるほどと感心した。

あいつは確かに、軍人以外の何かで開花しそうな,そんな気がする。



喫茶店で随分喋って、パフェ食って、サトミがカバンに何部か新聞持ってきたのでしばらく読んで、最近の情報を話して聞かせる。

軍から距離を取りたいくせに、いまだに色んなことに興味のあるサトミは可愛い。

いつ軍へ戻っても、だいたいの状況はつかめている。

そんな状況にしておきたい俺の下心もある。


日が暮れるとサトミは食事代に席代と、それにチップも加え、相当の金を置いてメシに出ようと喫茶店を出た。

場所はいつものシロイって店だ。

食事を取りながら、自分はビールを一杯飲んで、2杯目からはコーラにした。

サトミはいつもこの店の決まった物しか食べないが、店のおっさんがターキーの煮込みハンバーグ食ってみろと差し出してくる。


「えー、俺食ったこと無いんだよな−」


渋い顔のサトミに、店の婆さんが笑って声をかけた。


「サトミちゃんは食べ物の冒険しないのよねえ。いつも同じものばかり。」


「婆ちゃん、客人来てるとき、サトミちゃんはやめてくれよ。」


「あら、ごめんなさいね、サトミちゃん。」


「もう!もう、かなわねえなー」


ああああ!!はああああ!!ムウッとむくれて、超可愛い。

ああああ、俺もサトミちゃんって呼んでみたい!


サトミは舌打ちながらハンバーグをスプーンでツンツンして渋い顔だったが、一口食べてパアッと目を見開く。


「う、うめえ!!またこれ食おう。うん。うん、うっめえ!」


ガツガツ食べて、幸せそうにモグモグする姿は至高だ。

ああ、やっぱ来て良かった。


「サトミはどうして同じものしか食べないんです?」


コーラ飲みながら、焼いた肉つついてなんとなく聞いてみる。


「んー、だってよ、その方が味の変化に気がつく、ヤバいって思ったら食わない。」


「えっ」


気のよさそうな店主のおっさんや、優しそうな婆さん見てサトミを見る。

なんて人だろう。

ほんとに、マジでこんな環境でもボーッと生きてない。


「なんかイヤな経験でも?」


「大人は信用できねえだけだ。

クソみたいな経験ばかりでさ、正式入隊前、ボスにはめられたのが一番頭に来る。」


ああ……あの、山で一人で2部隊全滅した話か……


暗闇の中、暗視スコープも使わず、一人で16人だ。

翌日遺体回収に行ったが、すべて一撃必殺の即死状態だった。


「でも、あれは凄かったですよ。

あなたには最悪の出来事だったと思いますけど、俺の記憶には鮮烈に残っています。」


サトミが手を止めて、目を閉じると大きくため息をつく。

そして、少し離れた席の家族連れ見ながら、急に隊長の時の彼に変わった。


「あのことは……俺は、ずっと忘れない。死ぬまで忘れないさ。

でも、あのことがあったから、俺はそれが心にかせみたいに残って、軍でやって行けたと思うんだ。

でなきゃとっくに逃げ出してた。

それでも、あの部隊にいると心におりがどんどん貯まってっちまう。

俺は心も成長途中だ。あのままいたら腐った人間になっちまうんだ。

お前らには迷惑かける。すまねえ。」


「いえ……我々もついあなたに頼ってしまう。きっと俺達も心が成長途中なんだと思います。」


サトミと話していると、年齢を忘れる。

まるで老齢の猛者に自分の道を指し示されているような、そんな安心感に満たされる。

この人が成長すると、どんな人間になるのか、それも楽しみだ。


「デッド、人間ってのはよ、悪い事ばかりが脳に残りやすい。

脳みその、記憶のふるいの目がスゲえ荒い。

イヤな事はでっかい塊でゴロゴロ残って、気持ちのいい良かったことは繊細な砂みたいにサラサラ流れちまう。


でもな、軍に入って悪いことばかりでも無いさ。

ボスはクソでも俺は周りに恵まれた。


砂も硬く締まればふるいを抜けない。

だから、…だからよ、お前もボーッと生きてんじゃねえ。

いい事なんて、あの隊にいたらべらぼーに少ない。

いい奴だと思える奴を見つけたら、大事にしてればいいこともある。

そいつは恐らくお前がヤバい奴だとわかって、承知の上で付き合ってる。

そんな奴、滅多にいないさ。裏があれば話は変わるがな。」


「裏は…無さそうなんすよねえ……変な奴で、身体目的かと思ったんすけど。

違うんすよねえ……身体目的でもいいのに。」


サトミがきょんとした顔で、ゲラゲラ笑った。


「てめえはその、金にも得にもならねえ依存症を、性病なる前に治せ。」


「イエス、サトミ。でも、恐らく無理です。」


ぷっ


ゲラゲラ笑い合って、コーラで乾杯する。

俺は、サトミと会うときだけは自然な笑顔になる。

笑い男の顔は、いつの間にか消えていた。


デッドにとって、ガキでもサトミは最高の理解者であり、そして目標であり、至高の神です。

言葉一つ一つが心を満たし、仕草の一つ一つが視界で輝いています。

サトミが辞めたときはどん底でしたが、その後プライベートで普通に付き合ってくれるとは思いもしなかった事です。

戦闘服を着ていないサトミは、とにかく何をしても可愛く見えてしまう。あー、パンダかw

最近ちょっと危ない奴になっています。


誰も気にもしなかった、デッドエンドのお話でした。

デッドエンドの理由、おわりです。

*サトミが2部隊全滅させたお話は、

「速達配達人 ポストアタッカー 3 〜外伝 大人は全部クソ野郎、サトミ11歳〜」のことです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] サトミ可愛いしか思ってないデッドw 私も似たようなもんですが。 こいつら良いやつらですよね、ボスとの交渉?の時、ちゃんと「俺達」って言ってたもの [一言] サトミが同じものしか食べない理由…
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