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6、笑い男、デッドエンドの理由(デッドエンドのワケ)

脱兎のように逃げ出すジンを、追いかけて飛びつく。

ぶんっと風を切ってナイフが目の前を通り過ぎた。

と思ったら頬から血が流れる。

こいつの腕は、避けると伸びやがる。

こう言うテクニックだけは長けている。


流れてくる血をべろりとなめた。

メチャクチャ振り回すナイフを避ける。

避けてもだいたい皮膚を切られる。

そう言う相手だ仕方ない。

まあ、戦闘服は防刃だ、切られるのは顔と腕くらいの物だ。

だから執拗に顔や首を狙ってくる。

切られても、切られても俺は笑って奴に向かう。


避けながら銃のマガジンを変えていると、奴がいきなり俺の足をすくってシャッターの隙間から外に逃げ出した。

とっさに地面に手をついて舌打ち、歪みまくったシャッターを出て、奴を撃ちまくる。

ああ、本当にムカつく。

奴の青ざめた顔を見ると、おかしくておかしくてたまらねえ。


「いいぜ、いいぜ、その顔。ああ、いいぜ、ジンよお!ヒャハハッ!!!」


「なんで!!なんで!怖くねえんだっ?!死ぬのがよ!!」


ジンが信じられないと声を上げる。


「馬鹿だなあ、怖いってのは生きたい奴が感じるもんだぜ、ジン。

俺の名を忘れたか?俺はどん詰まりのデッドエンドだぜ!!」


「この!ナッツ野郎!」


ジンが、左右の手にナイフを握って一気に俺の懐に踏み込んでくる。

横から刺そうとするナイフを避け、銃で奴の背中を殴る。

倒れそうになりながら、ナイフを下から突いてくる。

顔を上げて避けると、アゴをかすりながら、防刃手袋でそのナイフの刃を握り、銃身で奴の頭を押さえて顔を膝で3,4回蹴った。


鼻から血を流しながら、奴がよろめいて顔を上げる。


「て…めえ……この、鼻ばかり狙いやがって……」


「ヒヒッ、なかなか潰れねえなあ、高えわりに丈夫じゃん!」


とどめに、銃で殴ろうと思い切り振りかぶる。

瞬時に奴が右手で脇から刺そうとするナイフを避ける、その一瞬のすきに左手のナイフで顔を狙って来た。

とっさに左手で顔を庇い、その左前腕を奴のナイフが刺し貫く。


「あっつっ」


痛みにきょんと見ていると、刺した瞬間、奴がニイッと笑った。


「ヒヒッ!やったぜ!」


「あーあ」


銃を戻し、奴が抜く前に刺したナイフを持つ手首を、力任せにギュッと握った。


「い、いてえっ!」


奴がたまらず手を離す。その瞬間、反射的に蹴り倒し、そのまま足で踏み付けた。


「あー、刺さった。おお、上手いこと骨と神経避けたか。すっげえ痛えけど動く。」


ナイフが刺さったまま、ジンをうつ伏せに地面に踏んで押しつけ、奴の手を蹴って残ったナイフを遠くに放る。


「いって!重っ!てめえ降りろ!げええ!!」


背中に膝で乗ったまま手を後ろから地面に押さえつけて、奴の耳元をクンクン嗅いだ。


「あー、ん〜、趣味範囲に遠いなー、お前の臭いはただ臭え。ダメだ、俺の趣味じゃねえわ。」


「この、クソ離せ!趣味ってなんだよ!」


「あー、セックス。」


そう言って、ジンの耳をべろんとなめて、ケツの割れ目をを膝でぐりぐり押してやる。

するとジンが、聞いたことも無い悲鳴を上げた。


「ギャアアアアアアア!!!やっ!やだ!ひい!俺は男とやりたくねえ!!」


「だからさー、お前は趣味じゃねえってば。」


ふと、空を見ると、ドローンが飛んでいる。

ニイッと笑って、聞こえるようにデカい声を上げた。


「そ〜だ!ここで公開セックスしようぜ!

タナトスの隊長と副隊でここで公開セックス、ボスは目も当てられねえよなあ。ヒャハハ!!」


「ギャアアアアアア!!やだ!イヤだああ!!」


「脱げ!そら、ケツ出せ!やろやろ、やろうぜ!俺張り切っちゃう!」


「やだやだ!!!変な物張り切るなあああ!」


戦闘服のズボンに手を伸ばし、後ろからボタン外してファスナー降ろし、引きずり下ろそうとする。

ジンが慌ててズボンを上げる。降ろす、上げる。

その時、電話が鳴った。


「あーいい雰囲気なのに。ちぇっ」


「誰がいい雰囲気だよ!早く出ろ!」


ジンは急いでズボンを上げて、デッドから離れて様子見る。

舌打ちながら、ニイッと笑って電話の通話ボタンを押した。


「あーなんすかー?今いいとこなんだけど。」


わかった、手を引くから戻れと言う。


「まだA倉庫、ハッパかけてないんすよ〜。

そうだなー、俺たちの公開セックスでも見ててくださいよ〜。

やったあと花火上げて終了しますんで〜。」


ひときわ大きな声になる。

わかった、もう2度と声をかけない。それで良かろうと。


ニイッと笑った。

もう一押ししろとマニュアルにはある。

だが、敵の方もタダでは折れない。


手を引く代わりに、サトミの作ったマニュアルを渡せ。

と出た。

やっぱりロンドへの電話は盗聴されている。

こいつに人権とか教えてやりたい。

しかし、寝耳に水だったんだろう。


ぷっ


「ヒャハハハ、はっ、ひっ、ヒャーハハハハハハ!!


ひっでえクソだ!クソ野郎だ!

そこまで腐ってると思わなかった!」


ヒイヒイ笑ってると、そんな物を残しているとは聞いていないという。


「当ったり前じゃん!だって、あんたの対策プランだぜ?

あんた,自分がどんなクソ野郎か少しは考えろよ!

人一人、かけらも信じてねえ。

ひでえもんだ。


だから!


だから


だから……   こんな事が出来たんだ。




自分のガキを、殺し屋に仕立てるなんて。」




電話の向こうで、大きく息をついて俺の本当の名前を囁く。


そんな物聞きたくない。反吐が出る。


俺はあんたを親だと思っていない。


俺の笑い顔の本当の意味を、わかってくれたのはサトミだけだった。


『お前の笑いは自分に向けた嘲笑だ。

なんでそれほど自分に絶望してるんだ。』


そう言って、貴様はどん詰まりのデッドエンドだと俺に名前を付けた。

俺の事情を知ってるのは彼だけだ。


隊での呼び名はあいつが勝手に付けた偽名からコードネームに変わり、俺は気持ちがとてもラクになった。




「信じないのは自由さ、


だったらさ、


だったら、俺達もあんたを信じない。


これっぽっちも信用しない。」



真顔でドローンを見る。

ドローンのカメラが、デッドの笑わない顔を映す。

デッドが、腰から銃を取り、ドローンに向けて数発放った。


ドローンは、壊れて落ちて行く。


電話から、大きなため息が聞こえる。

そして、俺の聞き間違いで無ければこう聞こえた。



すまなかった



ゴクンと息を呑んだ。

何故か知らないが、俺の目から水が一筋流れる。


「サトミのプランは渡さない。

あれは、俺達、あんたの下にいる者にとって、心の砦で財産だ。

やるなら命をかけなければならない。

それでも、その存在が俺達の背中を支えてくれる。


サトミを引き入れたのはあんただ。

俺は礼を言うよ、サトミと会わせてくれてありがとう。」


電話から、フフッと笑い声が聞こえた。


腕を早く治療しろ、休暇は2週間だ、2週間で治せと。


「わかった………   承知、しました。


はい、   はい。   それでは、失礼します。」



電話を切ると、その場に座り込む。

目を閉じて、前髪を掴む。


「クソ野郎、いつか殺してやる。」


本心かどうかわからない。

その言葉は、俺の口癖になっていた。


信用できない、信頼できない、猜疑心の塊のボスにとって、無心で慕ってくる子供は良いコマの一つでした。

政敵の暗殺、昇進の為の殺人、すべてを自分のために、秘匿を守り、自由に思ったように動かせるコマ。

しかし、コマにされた方はどんどん心が蝕まれます。

デッドは自分の在り方を見失い、暗い道へとはまって規律正しい軍にいて、自らはドブの中へズブズブと入っていきました。

自分に絶望し、自分を笑って常に笑いを浮かべる彼を、その意味も知らず周りは笑い男と呼びます。

しかし、新兵で入った一人のガキが、彼を変えます。

クソ野郎の子供は大変です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] あかん、ジンの貞操の危機なのに笑ってしまった 隊長職(面倒事)やる気ないから巻き込まれたんだよ あと2つプランがあるから、あと2回巻き込まれる(笑) [気になる点] プランを決行してジンに…
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