5、笑い男、デッドエンドの理由(ジン対策の教え)
ああ、あの話か。
なんて、のんびり返ってきた。くそったれ、本当に気に触る。
クソ野郎、殺してやるって、また叫びたい。
俺はそれで何度降格になっただろう。
ボスは自分に牙むく奴は許さない。
なのに、俺はまだ生きている。
特別でも何でも無い俺が。
わかった。
と、ボスが告げる。
いいや、まだだ。
この言い方はまだ動かない。
サトミの口癖が浮かぶ。
『ボスというクソ野郎の言葉は、3度目でやっと信用半分だ。
1,2度の約束なんて、鼻息で吹き飛んじまうくらい軽い』
まったくだ。
さて、要求突きつけて騒いだあとはサイレントだ。
相手の言う事は、一切聞き入れない。
「じゃ、交渉決裂ということで、A倉庫破壊します。」
バンバンバンバンバン!!
ハンドガン取って、シャッター横のドアを上からドアノブに向けて壊れるまで数発撃った。
シャッターに反響して、派手な音を出す。
ああ、もちろん誘爆しても構わない。
俺が死んだらあいつヘの興味も無くなる。
このプランは、大量の爆弾の上でバンバンぶちかます勇気が必要だ。
その辺、俺は何でも無い。
ボスが、慌てたように待てと言った。
少し待てと、そう急くなと。
やっぱりだ、やはり時間を稼いでくる。
無視して相手にしない、一方的に語って切る。
「中で5分待ちます。5分後、派手な花火をお楽しみに。それでは。」
待てと聞こえたが、電話を切って、ため息をつく。
さて、これからが本番だ。
これを乗り越えるかどうかだ。
誘爆は怖くないが、俺はまだ死にたくない。
サトミが帰ってくるのをまだ待ちたい。
好きな人間と朝まで、ドロドロになるまでセックスしたい。
あー、またサトミに鼻折られる。折られたい。メチャクチャ蹴られたい。
体中が、ぞわりと鳥肌が立つ。
はー、心を静めろ、股間が面倒になる。
お前は寝てろ、立つな。
ヴヴヴヴヴヴ……
電話がかかってきた。
取って、すぐに切る。
普段は絶対にしない行動だ。
それだけに相手への影響は大きいと。
ヴヴヴ……
またかかる。
すぐ取って、すぐ切る。
サイレント、いいなあ。気に入ったぜサトミ。
ボスの苦虫噛み潰してる顔が見れたら、もっといい。
大きく息をついて中に入り、壊れた鍵のドアを閉めて見回す。
後ろを取られない場所。
考えながら、ドアの前に横にある棚を置いた。
棚の前にデスクを置き、倒されないようにするか?
デスクを持ったら意外と重い。
いや、自分の逃げ場も無い。逃げ道は必ず確保、だ。
止めとこう。
シャッターの電源も切る。
さて、あと出入りするなら天井近くの通気口か。
ここから入るならば、屋根から来るに違いない。
ぐるりと見回す。
今は先日武器商人から搬入終わったばかりなので、すべて潤沢だ。
壁側の積まれた木箱の上に登って立った。
結構高い。
最近、表の作戦で加勢を呼ばれることが多い。
国境の小競り合いが増えるのはとてもマズい。
どっからが平和なのかまだわからないこの国の状況で、それでも町へ出るとちゃんと復興している。
表向きの平和が、いつまでも続けばいい。
「と、今はそんなことより……」
とはいっても、色々小細工したって,奴が相手じゃ意味が無い。
それより、動きやすい方が万倍勝てるさ。
そうだ。
サトミの予測では、あいつが来る。
ガチャーン!ドンッ!
ガ、ガ、ガ、ガ、ギーーーー!ギッキイイイイ……
何か遠くで、派手な音が聞こえて、ギイギイ言いながら近づくと静かになった。
丁度、車をぶつけまくったような音だ。
んー,そんなに運転が下手な奴っていたっけ?
キィーィィ……
ドアが、棚の向こうで軋んだ。
お?来た。
どうする?屋根に上ってくるか?
棚を蹴倒してくるか。
奴の気配はほぼつかめない。
奴を見失うな、覚悟を決めろ。
そうだ。ボス対策のプランは、こいつとやり合う気概が無けりゃ、実行にも移せない。
ライフルを構える。
ブオオオォォォォ……
車を吹かす音がする。
「 え?まさか 」
バーーーンッ!!
大きくシャッターがゆがみ、それでも思った以上に頑丈で壊れない。
ギギギギ……ブオオオオオーーーーンッ!!
バックした。
ドカーン!
あの音は、後ろの木にぶつかったなー。
ブオオオオオーーーーンッ!!
バーーーーンッ!!
今度こそ、車が突き抜けて飛び込んでくる。
車は前後にボッコボコ、運転席にいるのはあいつだ。
あれ?こいつ、免許持ってないのに運転できるのかよ。
「ああああああああ、いってえええ!!」
叫びながら、車から降りてきた。
鼻を押さえてこっちを向きながら、思い切り叫ぶ。
「てめえのせいでっ!俺の鼻が痛い!」
あー、そりゃ痛いだろ、こいつは無駄に顔だけはいい。
めっちゃ彫りが深くて鼻が高い、顔だけジンだ。
「あんた、一応運転できるんだ。」
奴はニイッと笑って、妙に自慢げに、おう!と返す。
「俺はな、真っ直ぐ前と後ろなら進めるんだ。すっげえだろ!」
「すげくねえし、ボッコボコだし。何しに来たの?
まあ、コソコソせずに正面から来たのは評価する。車とシャッターの修理代、めっちゃかかるだろうけど」
ジンは偉そうに、反っくり返ると腰からナイフを抜いて、俺に向けた。
「あー、あんた殺しに来たぜ。
ボスがよぉ、止めろってさ。止めろって、殺していいってこった。
ヒヒヒヒ!いいねえ、俺はあんたがどのくらい強いのかしらねえんだ。
あんた、タナトスでも長い方じゃん?
副隊止まりでも,副隊にはなれる奴だ。そこそこ強えだろ?俺を失望させんなよ。
今日は天気が良すぎて、俺の機嫌はすこぶる悪い。
こう言うことでも無けりゃよぉ、やってらんねえだろ。
え、ここって火薬いっぱいだからな、ナイフで切り刻みに来たぜ。
おとなしく、刻まれろ!」
来る。
ははっ、スゲえ、一気に来やがる。
奴が木箱に足をかけたとき、ライフルの安全装置オンにして、バレル持って振りかぶり飛びかかった。
まさか、こっちから来ると思わなかったのか、ジンが目を見開く。
「逃げんなよ!ジンっ!」
「な!おあっ!!」
ライフル思い切り振り回し、避けるジンを追って軌道を変える。
そして思い切り、ストック(銃床)でジンの顔をホームランした。
ドカッ!
「ぎゃうっ!お、ぉ」
ガターン!ドカッ!ガラガラガラ!
派手に荷物崩しながら、奴が落ちて行く。
その無様な姿に、俺は久々に何故か身体が燃えた。
「く、クソ、鼻…鼻がいてええ……」
「ヒハハハハ!すっげえ無様じゃん,ジンよぉ!」
「てめえ!俺が手加減してるのわかってんだろ!」
「へえ、手加減してるんだ。」
「銃使ってないだろ」
「バーカ、お前ほんと脳みそからっケツだな!それは手加減って言わねえよ!」
腰からハンドガン取って、バンバン撃つ。
ジンが避けて、泡食って俺に叫んだ。
「バッ!馬鹿野郎!ここは爆弾が……」
「ああ、そうだよな。いいんじゃね?一緒に死んでくれよお。」
パンパンパンパン!!
「げ、げえっ!!マジか!」
奴の顔が、蒼白になる。
『ジンは死にたくない奴だ、それを逆手に取れ。』
それはサトミのノートある、彼の最大の対策法だった。
ジンは,プラン決行を承諾しましたが、協力するとは言ってません。
協力とかあり得ないけど、興味もないので自分からボスに告げ口することも無いです。
ただし、ボスに殺していいと言われると、意気揚々と出てきます。
相手が強いほどワクワクです。
そう言う奴です。




