3、笑い男、デッドエンドの理由(サトミの答え)
やっと、合点がいった。
恋愛相談では無く、クソ野郎のボスについての深刻な相談だ。
「早く言え、貴様たるんでるぞ。で、ジンには相談したのか?」
「ジンは俺に聞くなだそうです。信頼できる奴に聞けと。
あそこに信頼できる奴とかいませんので。」
「あのなー……ま、いいや。
そいつが誘われた理由はわかるか?」
「恐らく俺です。
俺は接触しないように店を選ぶんですけど、ストーカーみたいに探して来やがるので。
きっと何か怪しまれたのだと思います。」
「あー、俺達はどっかで監視されてるの忘れるなって言っただろ。」
「わかってますよ〜。でも最近、近場の作戦ばかりなんです。
サトミがいなくなってからは、ほぼ毎日夜は出てるし。」
「貴様ー、俺のせいかよ!」
「だって、新聞読むの日課だったじゃないですかー、俺ヒマなんすよ〜
セックスに走らねえだけマシって言って下さいよ。」
「むう、まあいい、分かっていればいいさ。
よし。
例のノートはあるか?貴様に覚悟あるならプランNS発動しろ。
これはささやかだが、大胆な反抗だ。
ガキっぽいやり方だが、ボスのやり方も陰湿だから仕方ない。
外部に親しい友人作れば、すぐにボスは目を付ける。
秘密を漏らさないか、そいつ頼って逃げないか、ボスの頭は猜疑心に満ちる。
同じ手の上に置きたがる。
気にくわなければ簡単に消せるからな。
俺はそのやり方には反吐が出そうだった。だから俺がトップのうちは前例を作らせなかった。
それは精神的に落ち着きをもたらす。
でも今、お前らに無関心なジンの元で前例を作れば、統制が崩れる。
だから、お前らのために俺はプランを残した。
ボスは時に人の使い方を誤る。
俺達に脅しはいらない。俺達に必要なのは信頼だとお前の口から言え。
間違った時にだけ、手を貸してくれと。
ははっ、きっとボスは笑いが止まらねえだろうさ。
でもな、それはお前らには大切なことなんだ。
偽物の自由は大切だ。
ジンには俺が言ったと言え。
プランを実行することでジンに一つ借りが出来るが、それはお前のリスクだ。
自分で責任取れ。
お前がプラン決行して、お前が処分を受けても俺は知らない。
除隊した俺に相談すると言う事はそう言う事だ。
俺に責任は何も取れない。
それでもお前がそいつを守りたいと思うなら行動しろ。」
「はい。」
「それとな、そう言う奴は、友達って言うんだ。恐らくな。
俺にとって気を許せば殺られる、人をいきなり盾にしやがる、あのクソ野郎のジンだって友達なんだ。
相談できる奴もいねえのは、そう仕組まれてるからだ。
あの隊の奴らは猜疑心の塊だ。俺達は自分で判断して、自分で責任取るしかねえんだ。
それがたとえ命がけでもな。」
「はい、わかりました。サトミ、あなたに相談して良かった。
あああ、サトミー!あんたの声聞くと性感帯ざわめいて落ち着く!」
「電話切る」
「ああ!ウソです!お願い、俺捨てないで!」
大きくため息付く。
まあ、こいつもやっと正常運転だ。
「デッド、素性がバレて嫌われても殺すな、許せ。いいな。
付き合いたいなら素性がばれることを恐れるな、相手が受け入れたらラッキーくらいに思え。
軍の人間にとってあの隊は恐怖の対象だ。
ただし、そいつが突然、事故で死んだらそう言う事だ。お前はそう言う部隊にいる。」
「わかっています。それは……覚悟、します。
それでは!行動起こします!」
「おう!健闘を祈る!」
電話を切って、ため息をつく。
どうせこの電話はボスに聞かれている。
まあ、ボスがそれで、あいつをいらないと判断したら死ぬだけだ。
手練れ集めているのに、あの隊の死亡率が高いのは、そう言う事だ。
ボスは手元から離れる奴は信用しない。
俺はどうか知らねえけどな。
エンプティよこしたのも、そう言う事だと思ったが、そのうち次が来るかもしれねえな。
まあ、あの隊にいたら、常に死って奴を背中に背負って生活するしかない。
脱走は銃殺だし、上手く逃げても元は仲間だった奴に密かに殺される。
WDアタックをクリアーするか、死んでからしか出られない。それは入ったあとで聞かされるのが常だ。
電話を切って、電話代引かれたプリペイドカードを抜く。
ひどいものだ、行って話した方が安い。
それでも休暇なんて取っていたら、あいつが隊に引き込まれる方が早いだろう。
今は金の問題じゃない。
ボックスを出て、振り返る。
恐らく、今の会話はボスの耳に入るだろう。
衛星電話は軍の管轄だ。
ロンドにかかる電話はすべて監視が入っているに違いない。
サトミがどこかから、引き抜きにあうのが一番怖いはずだ。
だから、恐らく金だけは破格の退職金が行っている。
でも、それでもサトミは働き始めた。
それも軍と適度なつながりのある郵便局だ。
ベストなチョイスだ。あのひとらしい。
サトミは、辞める前に密かにボス対策のプランを3つ残した。
1度使ったプランは2度と使うなと言って。
まだ一つも使ってない。
わかってる、俺はずるい。
ずるいが、プランを使うのは命がけだ。
ボスは逆らう奴を簡単に殺す。
殺さないのはサトミとジンくらいのものだ。
彼らはボスにとって特別だ。
だから、サトミに媚びを売る奴は多かった。
みんな救いを求めて彼にすがりつく。彼はそいつらの下心を知った上で好きにさせていた。
まんざらでも無いんだろうと舐めていたが、彼は笑って言った。
『 薬だよ、人畜無害のな。安いもんだろ?金もかからねえ。
それが強力な精神安定剤になるのなら、好きにさせるさ 』
彼がそう言ったとき、自分の小ささを恥じた。
ガキのくせに、妙に人間がデカい。
でも、もういない……
いないという事実が時々辛く重い。
あんなガキ一人に寄りかかって、いい大人が何やってんだと思う。
それでも、相談すると答えが出てくる。迷いとか、うやむやが無い。
間違ってもいい、右か左か、どっちでもいいんだ。力強く、行けと言って欲しいときがある。
背中を押されると、心がスッとする。
もっとも頼りがいのあるガキだ。
早く、もっと早く年を取れ。
俺達よりもっと早く。
そして、戻ってこい。
相談に対するサトミの答え。残したプランを実行しろ。
ただし、命がけ。
死んでもしらねって事で、彼はまったく責任取りません。
それでも、そう言われるだろうと予想していても、彼に聞きたいのです。
彼の声で、やれと言われることが重要なのです。
これは一つの区切りです。
スタートダッシュのブースター、それがサトミの行動しろ!であり、健闘を祈る!であります。




