2、笑い男、デッドエンドの理由(サトミに相談する)
「ちょ、何よこれ。メチャクチャ重い。
今日は…ああ、男たち休みって?ああ、グロックも外回り出たんだー
もう、力仕事要員増やしてよね!」
荷物を台車から車に積み替える作業は、どうしても人の力を要する。
ごくタマにメチャクチャ重い荷物が存在する。
この国は、若い男は一般で働くより入隊した方が稼げたりするので、職場も女性率が高い。
「こういう時の力持ちよ!サトミ呼んできて!」
「了解!」
呼ばれてサトミがやって来た。
丁度、早番の早く帰ってきてココア作ってた最中で、冷めるとマズいと言ってご機嫌ななめだ。
「どれだよ!俺急ぐの!俺の大事なココアがっ!」
「だから〜あたしがかき混ぜてあげるって言ったじゃん。これ!」
「俺は作る時の間も大事なんだよ!あーもう!イラッとする!」
「ごめんごめん、今日郵便多くて仕分けで時間遅れてるのよ、ほら、ほんとは11時出なきゃなんないのに!
なんか甘くて超美味しいお菓子献上するから。ね?」
「え?!お菓子?!あ、うん、じゃあ仕方ねえな。お菓子楽しみにしてる。超甘いの、数も頼む。」
お菓子と聞いて嬉しそうに、彼はまるで重さなど無いように、ひょいと持ってトラックの荷台の指示された場所に置く。
ついでにポイポイ荷物を車に積み込んで、作業があっという間に終わってしまう。
思わず彼女たちがサトミに手を合わせた。
「サトミ様〜!またよろしく〜!!」
「おう、今度は飲んだあと呼べ。じゃあお菓子よろしく、楽しみだなー。」
いそいそと電気コンロへ戻る彼を、今度は事務が呼び止めた。
「あっ!丁度良かった!サトミ、電話!」
「えー!今度はなんだよ〜、あー、もうアレはダメだ。
もうコーヒーぶち込んでカフェオレにする。
今日はついてねえなー」
頭バリバリ掻いて、あっさり諦めて事務室に行く。
女史が電話を差し出し、クギを刺してきた。
「外部からみたいよ。名前聞くけど、友人のDでわかるって。
電話代高いから早く出てあげなさいよ。あー、長話は禁忌、話は3分まで!」
「へいへい。ちぇっ、あいつか〜。何で俺に相談するよ、仕方ねえ出てやるか。」
ため息付いて、電話機受け取り通話ボタン押す。
聞かれたくないので、パーティションの外側に出て壁向いて廊下に座った。
「なんだ、郵便局の通常回線3本しかないんだから、さっさと話せ。」
受話器の向こうから、大きなため息が聞こえる。
誰も知らないが、こいつのメンタルは最弱だ。
「サトミ……えー、すいません。」
デッド……デッドエンドだ。来週末メシ食いに来ると言ってたのに、急ぐのだろう。
散々こいつらには衛星電話を持って欲しいと要求されているのだが、そんな物持ったら毎日かかってきそうで面倒くさい。
こいつら俺にいつまで寄っかかってんのか、俺の方が愚痴りたい。
「俺は仕事中!ここは職場だ!なんだ。仕事と金以外なら聞いてやる。」
「あの〜……こう言うこと相談できるのサトミだけで。あの、俺も良く、わからなくて。
イヤな奴なんです。とても。でも…ですね。
そいつは普通の奴なのに、ちっとも俺を怖がらない変な奴で……」
ああ、なるほど。
サトミが床に座り、ため息付く。
隊長職で、こう言う人生相談が一番困っていた。
俺はまだガキだ。
自分に言える事は、めんどくせえからぶち当たって砕けやがれって事だけだ。
それでもこいつらは俺に助言を求める。
それだけ、周りに自分の弱みをさらけ出せる奴が、相談できる奴がいないということだ。
しかし、一人、それで結婚まで行った奴がいるから、人生ってスゲえなあと思う。
あの部隊にいながら結婚だぜ?
ほとんど家にいないで、死ぬまで金を貢いで終わる悲しい奴だ。
いや、その話はいい。
「で?その女と付き合いてえって?さっさと付き合え、めんどくせえ。」
「いえ、そいつ男です。」
はあ?
「なんだ、お前ゲイかよ。」
「まあ〜、その辺、俺はどっちでもいいんですけど〜」
「どっちでもいいのかよ。
…まあ、お前はどっちでもいいよな。以前はセックス依存凄かったし。」
俺にはその辺、何がいいのか良くわからないけど。
こいつのおかげで子供隊長と馬鹿にしていた別部隊隊長から、思い切り見下されて、散々ネチネチ苦情受けて危うく黒抜くとこだった。
つまり、相手は男も女もセックスさえできれば誰でもいい奴だ。
腹立って、あとでデッド呼び出して性病で腐って死ねって殴ったら、つぶれた鼻で鼻血ダラダラたらしながら俺にまで迫ってきたので怖かった。
こいつはほんとに見境が無い。
「あー、サトミ、昔のことは忘れて下さい。いや付き合うとか、そんなんじゃなくてですね……
そんなんじゃ無いんですよ、あー、ピンと来て下さいよ。俺が言いたいのはですね!」
誰がモジモジくねくねの人の色恋沙汰をピンとくるかっ!俺はまだガキだ!
「貴様、衛星通信たけえんだぞ!俺はいいけど、無駄金だろ、切る!」
「ちょっ、待って!隊長、はっきり言います!
俺は、でもですね、そいつには、ドブの中に入って欲しくないんです。
俺のせいであいつが苦しむのは耐えられません!」
「ああ………」
やっと合点がいった。
デッドエンド。デッドって誰だろうと、思う方もいらっしゃるかも知れません。
ポストアタッカー狩りで27話、武器商人ではジンの部下、軽口叩いてジンに撃たれた弾が頬をかすめた男、55話、元隊長でフェイスマスクをサトミに切られた青年です。
衛星通信の電話の受理をサトミに拒否されましたが、彼自身、持って欲しかったのだと思います。
何しろ、上司はジンですから。
何故か、ボスもサトミに頼ることは大目に見ています。
それは、いずれ彼を引き戻す算段であることに間違いないです。




