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1、笑い男、デッドエンドの理由(飲み友達がスカウトされる)

嫌な奴に会った。

そいつは俺に会うといつも絡んできて、俺の微笑みを何とか崩してやろうとしてくる。

俺は、ひたすら微笑みをたたえる。


俺は、サトミにデッドエンドとコードネームをもらった。

他の奴らは、俺を笑い男と言う。

確かに俺の作り笑いしか見なかったら、俺の名は笑い男だったのだろう。

たが、サトミは見抜いてしまった。

俺が何故笑いを常に浮かべているのか。

それは、世の中の奴らへの嘲笑であり、そして……




「よう、久しぶりだな。へえ、今日は私服か、洒落てるじゃん。

最近お前の子供上司、見ないじゃねえ?やめたってマジ?」


ニイッと笑って、作業用ツナギを半分脱いで腰に袖を縛っているそいつは俺の隣に座った。

ここは、宿舎近くにあるバーだ。

宿舎近くには何軒か飲み屋があって、安いところは一般兵が数多く行くので、騒がしいのが嫌な時や彼らと顔を合わせたくない時は少し高いバーに行く。


そうだ、俺は今、人と会いたくない。一人になりたかった。


無言で無視してバーボンを傾ける。

飲み過ぎは無い。いつも高い酒の香りを楽しみながら、ゆっくり飲む一、二杯で終わる。

以前は溺れるほど飲むこともあったけど、それは無くなった。


『酒飲む大人は大嫌いだ。自分の管理も出来てねえ、理性が崩壊している。

理性がねえって事は、その辺の犬より悪い』


サトミの説教はいつも的確すぎて手厳しい。

しかし硬いばかりかと思えば、時に見逃してくれる。

怒らないのかと問うと、嫌な事があった時にはアメだと言う。

その、余裕の加減がガキのくせに妙に上手かった。

あの人がトップに立ってから、ならず者の部隊が規律のそろった正規軍のようになった。

まあ、正規軍に違いは無い。汚れ仕事ばかりだけれど。


「まあよ、やめても不思議は無いわな。あれ、どう見てもまだガキだろ。

少年兵なんてよ、普通パシリの最前線でさっさと死んで当たり前じゃん。

それが、ガラの悪い奴ばっかの隊長?笑っちまうぜ。

なんでお前んとこの上はトップにしちまったんだろうな。

しかも、きっちりまとめて仕事してんのがスゲえわ。

いっつも監視付けられて、軍に嫌気がさしたんじゃネエの?」


チラリと男を見る。


「そう言うあんた、良く見てるじゃない。

ククッ、ファンならサインもらってきてやるぜ?今度会いに行くから。」


茶化してみたら、意外と悪い顔してない。

無精ヒゲをザリザリ撫でて、そうだなあと呟いた。


「ふうん……、なあ……」


水割りの氷を揺らして、チラリと見る。


「お前らの部隊って、何やってんの?」


クククッ……


おかしくて、俺の顔がますます笑う。

それが面白く無さそうに、ため息付いた。


「気持ち悪い奴」


「なら構うな、くそったれ」


デッドの目が暗く沈み、ギロリと睨みながら口元はニイッと口まで裂けそうな笑いを浮かべる。

普通なら気味が悪いと思うだろう。

だが、この男はキョンとして、ヒヒッと笑った。


「ま、てめえらなら殺し屋だって言っても、俺は驚かないぜ?ヒヒッ」


心で舌打ち、何言っても怒らない、こいつもこいつだ。

こう言うの、友達とでも言うのかなと思う。

フフッと笑って、彼にシッと人差し指を立てた。


「それ以上言うな。死にたくなければね、俺は静かに飲みたいんだ。」


「まあそう言うな、ポカして上に散々言われて落ち込んでるんだ。」


「ボーッとしてっからだよ。」


「仕方ねえ、俺は万年下っ端だ。根っからの軍人じゃねえんだよな。」


フフと笑う男の顔が、戸惑うような、寂しい顔のような、どこか嬉しいような、複雑な顔になる。

怪訝な顔でグラスを傾けると、男がとんでもないことを言った。


「俺、俺さ、もしかして盾役かな?」


「なんの?」


「俺さ……お前の部隊に、スカウトされてんだ。」


「 え……… ! 」


俺は、雷にでも撃たれたかと思うようなショックに、めまいを覚えてグラスを落とした。






数日後、


あるテロリスト集団の情報を得て、ボスはそのトップとそこに金を流している、ある富豪の暗殺を指示した。

トップの暗殺にはセカンドが赴き、富豪の暗殺にはファーストが向かう。

どちらも難易度は高いが、富豪は表向き普通のビジネスでの成功者であり、個人で私兵も持っているだけに難易度は跳ね上がる。

軍の上層部から何度も警告しているだけに、今は密かに国外逃亡の恐れがあった。


「ジン、どうやら替え玉用意してるらしいぜ。どうする?」


「替え玉ぐらい当たり前だろ。以前暗殺した奴なんて、掃除婦に変装してたぜ?

サトミにバレて殺られたけど。」


富豪の家の近く、空き屋に拠点を置き、富豪の家に仕込んだ盗聴器で音を探り、無音ドローンで空から人の出入りを探る。

部下を張り込ませ、すでに3日。

どうも近く計画が動き出すようだと、ジンたちが赴いたが、その計画も引っかけかもしれない。

ずいぶん夜遅くまでパーティーとかして騒いでいたが、ゲストも帰り、館は次第に電気も消えて行く。

ゲストの車は離れたところで一台一台、確認させる。連絡しそうなら一旦確保だ。

今のところ逃げた連絡は無い。


「いっそあの屋敷爆撃したが早いと思うんですがねえ。」


「上の誰かがあの家欲しがってるんじゃねえの?まだ新しくてケバい家じゃねえか。

なんで家に水たまりがあるんだ?」


「あれプールって言う奴ですよ。水が貴重なこの国で、あのでっかい枠に水ためて泳ぐらしいですぜ?」


「はっ、泳ぐって?ありゃ海でやるもんだろ?

クソ無駄なことしやがって、誰かあとでワニ放り込んどけ。

あーサトミがいれば、どこいるかわかるのになあ。クソー」


サトミがいれば、隠れてもどこにいるかはわかる。

そしてどんな変装していても間違いない。


「あいつぁ、便利な奴だよなあ。…ん?通信が入った。」


「……そうか、わかった。見張ってろ。

赤外線カメラの映像送れ。


…………うん、やはりその一行は引っかけだな。引っかけだが、キル班でやれ。

タイミングは目標が出た後でいい。やり方はキルに任せる。……いい、全部だ。残さず殲滅しろ。

くそったれへの見せしめだ。


さて、目標は時間おいて出るぞ。

あいつの車は全部防弾だ、軍用車より金がかかってる。出たら発信器を付けろ。……そうだ。……任せる。

よし、俺達も出る。」


ジンの顔が、次第に生き生きとしてくる。

通信が切れると、ヘッドホンのマイクを上げてこちらを向いた。


「動きがあった、行くぞ。うーん、2時半か。まあ、車で逃げるにはいい時間だよな。」


「奴は国境近くの別の富豪の別荘に逃げ込むらしいと情報来てます。」


ジンが装備を取って立ち上がり、チームの仲間に行くぞと手を振る。

全員が立ち上がり、バタバタと車に向かう。


「殺るのは奴だけ?家族は?」


「ははっ,甘い事言うなよ。これは見せしめだぜ?

クソ野郎どもに、気まぐれで金流すとどんな事になるかのな。

他の金持ちが泡吹いて小便ちびるくらいの目には遭わせるしかねえだろ。

なあ、デッドよ。」


ジロリとジンの狂気の目がこちらを向く。


「イエス、ジン。」


「ヒヒヒ、行こうぜ。狩りのはじまりだ。」


ジンの顔が、醜悪に笑う。

こいつは殺るか殺らないか、それに向けてしか頭が働かない。

サトミならどうしただろう。

資産家なら、違うやり方で脅して手を引かせると言う事も出来たのかもしれない。

彼はそう言う駆け引きが上手い。

だから、ボスも安心して『お前に任せる』と言えていたような気がする。

今は戦後だ。

いつまでこんな事が続くのか、ここはまるで底なし沼だ。

デッドが顔半分を覆うマスクを付け、彼の後に続いた。



こんな、汚い仕事ばかりだ。

俺は、望んでこのドブの中に入った。

俺は、ギリギリでいないと生きている気がしない。


でも……


こんなドブの中に、あいつまで引きずり込まれる。

俺という魔物に近づいたせいで。

俺は、また心が死んじまう。追い詰められる。


そんな気がした。


タナトスの笑い男、デッドとサトミが呼ぶあの男です。

彼はタナトス在籍が意外と長いです。

昇進と降格を繰り返し、長生きできないと言われるこの隊で、それでも生き延びています。


タナトス自体が終戦近くに出来た部隊なので、意外と設立時からいるのかもしれません。

この部隊をボスが作った理由は主に暗殺と制裁目的で、独裁政権ではわかりやすい目的です。

ただし、設立を許した大統領自身が、これに殺されるとは思わなかったかもしれませんが。

ボスの目的は、そもそもそれだったと考えられます。


デッドエンドのお話、短編ちょっと長めです。

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