男と男の静かな闘い
世界に幅を利かせる巨大コングロマリット「アルファレイド」の一社員、佐藤一郎は会うたびに慇懃無礼な物言いをする。
僕も、努めてバカ丁寧に訪ねてみせた。
「……ご用件は?」
こいつと紫衣里が直に口を利くなんて我慢がならない、ただ、それだけの理由だ。
だが、佐藤はわざとらしく手を叩いておどけてみせた。
「おっと、麺がのびちゃいますね」
麺をすすり始めるのを見たら、もう、返事をする気もなくなった。
そこへ、フードコートのアナウンスが入る。
「8番札をお持ちのお客様……」
麺を呑み込んだまだ怒りで固く握りしめられた僕の拳を、佐藤が箸で差した。
「呼んでますよ」
手を開いてみれば、プラスチックの札があった。
マジックインキの手書きで「8」と書いてある。
そこで、子どもみたいな口調で愚図る声が聞こえた。
「……おなかすいた」
佐藤と二人きりにしたくはないが、席を外すしかなかった。
「……黙ってろよ」
もっとも、どっちにそう言ったのかは自分でも分からない。
出来上がったハンバーガーと大盛りの中華丼を手に、慌てて戻ってきたときにはもう遅かった。
歯の浮くような殺し文句を、佐藤は囁いていた。
「このスプーンとあなたを必要としている人が、世界中にいるんです」
しかも、再び紫衣里を落としにかかる合間に、ワンタンメンを器用にすすり込む。
銀のスプーンの守護者はというと、テーブルにべったりと突っ伏していた。
「ほら、食えよ」
突慳貪に置いてやった大盛りの中華丼を、紫衣里の手はのろのろと引き寄せる。
そして。
佐藤は目を見張った。
「……え?」
その喉がごくりと動いたのは、麺と息のどちらを呑み込んだせいだろうか。
どっちにせよ、知らない人が見たらすくみ上ってしまうほど、紫衣里の食いっぷりは凄まじかった。
唖然としている佐藤の前に、僕はゆったりと腰掛ける。
「どうぞ、お話しください……たぶん、聞いちゃいませんが」
皮肉たっぷりに言ってやると、僕はハンバーガーをかじった。
貯めた12万円に手をつけるときがそろそろ来たと覚悟しながら。
佐藤はというと、丼の中のスープを一気に飲み干すや、僕に向かって用件を口にした。
「もうご存知かとは思いますが、あのスプーンを持つ女の子と、賭け事や勝負事の場で行動を共にする老人は世界中に何組もいます。その目撃情報を頼りに、私たちはその行方を追ってきました」
いつもの慇懃無礼な口調とはうって変わって、まっすぐに語りかけてくる。
だが、佐藤たちの事情なんかどうでもいい。
「……じゃあ、他を当たってください」
再び慇懃無礼な物言いが返ってくる。
「簡単にできるんなら、そうしています。それぞれの女の子が何と呼ばれているかも、リストアップされてますから」
怒りを通り越して、反吐が出そうになった。
代わりに静かな息で気持ちを抑える。
……なんて変態どもだ。
女の子の名前を調べ上げて、こそこそ世界中に追いかけ回しているなんて。
そのお先棒を担いでいる佐藤は、眉を寄せて怪訝そうな顔をする。
こんな連中の助けを借りてe-スポーツのプロになろうとしていたのが、たまらなく恥ずかしくなった。




