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~とりあえず~

さすがにあれだけボコボコにされた連中がすぐに回復するとは思っていなかったが、三日間は休みを取った。次は何をされるか分からない。そんな不安は残っていたが、雪哉は学校に行った。

ザワザワ…。

教室のざわめきの中に彼らの姿はなかった。

無意識に力が入っていた肩の力が少しだけ抜ける。

だが、机に鞄をおきながら耳に入ってきたクラスメートの話に驚く。


「ねーねー聞いた?青木くんたち、部屋から出てこないらしいよー?」

「えー?なにそれ」

「何か隣のクラスの子が話してたんだけどさ、プリント渡しに家に行った人が親に聞いたんだって!三日間ずーっと部屋に籠りっぱなしだって」


雪哉は少し疑問がわいた。

たしかにアイにボコボコにされた連中だったが、普段ボクシングジムで鍛えていて見るからに頑丈そうな高校生男子が、強いとは言え女性の力でそこまで寝込むほどの重傷を負うだろうか?

確かめてはいないが、少なくとも打撲や切り傷すり傷…完治はしないまでも、三日も経てば学校に来るくらいなんでもなさそうだったが。


「でさ、ずーっと何かに怯えてる感じなんだって」

「何かって、何よ?」

「分かんないけど、何か〝ごめんなさい!もうしませんから!〝って叫んだりしてるらしいよ」

「何それ?ちょっとホラーじゃね?」

「だよねー?しかも青木くんと澤野くんと、仲のいいちがうクラスの四人、全員がそんな感じみたい!」

「ヤバくない?ガチじゃーん!!」


ドクンッ…ドクンッ…

動悸が高鳴る。なぜ?あのときの六人が?

一体何が起きているのか、言い知れぬ恐怖に雪哉は背筋に冷たいものを感じた。


結局、あの六人は一週間学校に来なかった。

おかげで雪哉は平和に学校生活を送ることができたのだが、日に日に広がる彼らの噂は嫌でも耳に入ってくる。

全く関係ないとは言い切れない立場だけに、心のどこかで不安は拭えなかった。

彼女に会いたい。

唐突にそんな気持ちが浮かんできたのもムリはない。そこは、初めて会ったあの歩道橋の上だったのだから。


「よぉ、雪哉?元気そうだな?」

「っ!!うわあぁっ!?」

突然真横から聞こえた声に、大袈裟なほど体がビクリと跳ねる。

「ブハッ!ビビりすぎだろー!(笑)」

「ー…っ!きゅっ、急に現れるの止めてください!

「ワリーワリー(笑)…で?学校はちっとは平和になったか?」

「っ!?……それはどういう…」

あの六人のこと?何か知ってるのか?

「……クスッ。たぶんもうお前に手は出してこねーと思うよ?力一杯脅しておいたし♪」

「脅して…って、やっぱりあなたの仕業だったんですか?」

「仕業ぁ?は?何だよその言い方ー」

「ごっ、ごめんなさい…」

「……クスッ。まぁいーや」

アイは歩道橋の手摺に寄りかかり、遠くを見つめた。

どうして、この人は助けてくれたんだろう。

どこかで見たことがあるような…そんな気がするのに、記憶が霞んで思い出せない。

「今は世界が狭いだろ」

「…え?」

「学生んときってさ、家と学校、それと塾とか?そんくれーしか見えないじゃん?それも、嫌なことがあっても容易には自分から逃げられない世界だ」

たしかにそうだ。

家は親に頼るしかない。高校は辞められるとは言え、その後の人生の選択肢を狭めることにしかならない。必然的に、どこにも逃げ場なんてない。

「親に与えられる環境しか手に入らない。たまたま生まれ育った地域。たまたま同じ年に生まれたやつらを詰め込んだクラス。死ぬほどツライ思いをしても、どこにも逃げ場はない。文字どおり、死ぬ意外に道はないと…そう思ってしまっても仕方がない」

「…………」

「…なんで、敷かれたレールからはみ出したらダメなんだろーなぁ…」

この人も、ツライ思いを経験したのだろうか。

きっとそうなんだろう。だから、あんな強さを手に入れた。そうしなければ生きて行けないほどに。

言葉が見つからない。

でも何か言おうとして、顔を上げるとー

「…っ?ア…イさん…?」

アイは忽然と姿を消した。

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