表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/5

~ 落ちるときは ~

パタパタ…と、服についた土埃の汚れを落とす。

何が起こったのか、理解が追い付かない。

たった今、目の前で次々と男子高校生がボコボコにされて気絶させられた。

一人の、若い女性によって…。


「あーあ、学生服汚して…、母ちゃんに怒られんじゃね?」

「………ぁ、あの……」

「ん?」

「…お姉さんって……」

「あぁ、名前言ってなかった?アイだよ」


アイと名乗った女性は、ほとんど怪我らしい怪我をしていなかった。

格闘技なんて興味もないけれど、それでもその身のこなしが只者じゃないことくらいわかる。

帰り道、なぜか二人並んで歩いているときに聞いてみた。


「…アイさんは、格闘技とかやってたんですか?」

「ん~?いや、別に特に何もやってねーよ?まぁ、自分で鍛えたりはしたけどさ」

「じゃあ、なんであんなに強いんですか?」

「…強さが必要だったから」


普通に生きていくのに、こんな女性が強さを必要とするってどんな人生だったのだろう。

底抜けに明るい雰囲気の女性が、一瞬だけ見せた表情。聞いてはいけないような気がして聞くのをやめた。


「私さ~男運悪くてね(笑)結婚した男も同棲した途端に暴力すごくて。そんときもう腹ん中に子どもいたからさ~産んで別れるまでに相当応戦してたわけよ(笑)」


あ、自分で言っちゃうんですね…。

雪哉の気遣いが無駄になったことに拍子抜けしたが、内容は重いものだった。


「それは…ひどいですね…」

「フフ…お前はやさしい男に育ったな~。弱いくせに、あの瞬間私を庇うなんて思わなかった」


アイは雪哉の左頬をなでる。思い切り殴られたので、大きな痣になってしまっていた。

いつもはパッと見でわからないような腹とか背中とか太ももばかり狙われていたので、さすがにこの痣は親にどう説明しようか…。

それに、アイさんにボコられたあいつらが明日からどんな仕返しをしてくるのか…考えるだけで憂鬱だ。


「まだ、落ちたいと思うか?」


アイの言葉に、落ち込んでいた思考が浮上する。

気がつけば初めてアイと出会ったいつもの歩道橋の上にいた。


「………やっぱり、気付いてたんですね。僕がここから落ちようとしてたこと」

「すげー顔してたからなー」


アイは歩道橋の手すりに寄りかかる。

もう薄暗く、一番星が遠くで輝くのが見えた。


「…落ちたくなったらここで落ちろよ」

「……え?」


とんでもないことを言う人だ。


「他んところでは落ちんなよ。わかったか?」

「……は、はい…」


言ってる内容とは裏腹に、満面の笑みを浮かべる。

でも、もっともらしい説教をされると思っていた雪哉はその言葉がなんだかむず痒く、少しうれしかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ