~ カツアゲ現場に ~
放課後。校舎の裏、人気のない場所。
どうして不良と呼ばれる人種は、目立ちたくて怖がられたくて仕方ないはずなのに、わざわざ人気のない場所が好きなのだろう。
目立ちたいなら、校庭のど真ん中でやればいいのに。
こんな状況なのに、場違いなほど冷静な思考が頭をよぎる。
雪哉を取り囲んでいるのはクラスメートの青木、澤野、そして他のクラスの四人、計六人だ。
強さに自信があるくせに、なぜこうもつるみたがるのか…雪哉にはまったく理解できなかった。
「さーて?まずは今月の月謝を頂こうかなー?」
青木が手のひらを上に向けて差し出す。
周りの男子はニヤニヤした顔を隠そうともしない。
雪哉は、もうまな板の上の鯉にでもなった気分だった。ポケットから茶封筒を取り出し、青木に渡す。
引ったくるようにそれを受け取った青木は、さっそく中身を確認した。そして…
「…おーい、雪哉くーん?君は頭がいいくせにどーしてバカなんだ?」
「どーした青木?」
「ほれ、見てみろよ。39000円しかねーぜ」
「………」
「足し算もできねーの?足りねーよな?これじゃ」
「………ご、ごめんなさい……もう、これ以上は……むり…です………」
体が、冷える。
雪哉は場の空気が変わったことを察知した。
青木がゆっくりと近づいてくる。
「なあ?聞こえなかったぜ?もう一回言ってみろよ。…言えるもんならなあ?」
怖くて目が合わせられない。
ガシッ!胸ぐらを掴まれる。
「おい!なんか言ってみろよお!!」
怖い、怖い、怖い!!
誰か……っ!!!
「あはははははっ!!」
「「………!?」」
突然響き渡った笑い声。
どこかで聞いたことがある。
というか…その本人はいつの間にか雪哉のすぐ隣にいた。
「はははっ!ヤバい、めっちゃウケる!昭和かよってくらいクソダッセェ不良だなぁ?まだいたのかよ、カツアゲとか恐喝とかしてるこーこーせー(笑)」
今朝の、女性。
「ぅお!?…だ、誰だよてめえ!!」
「ちぃーっす、雪哉!なーにしてんだお前ー(笑)」
青木の声を完全スルーして雪哉に話しかける女性。
「まさかこんなクソダッセェやつらとオトモダチなんか?止めとけ止めとけー!こーんなヘタレとつるんてても、得することなんかねーぞー?」
「おい!シカトしてんじゃねー!」
「なんなんだよてめえはよ!!」
ザッ…
「…ん?なんだよヘタレ。私はこいつに話してんだけど?」
「ヘタレヘタレってなあ?俺はボクシングジムに通ってんだぜ?」
「だから?」
青木は雪哉の襟から手を放し、殺気を振りまきながら女性に近づいていく。しかしまるで気にならないという涼しい顔を崩さない。
「あぁ!?」
「……ぷっ…ははははっ!ぃやーマジウケるわ!」
「何がおかしいんだよ!!」
「ははっ!おかしいだろー。…でけぇ声出して、威圧感たっぷりに近寄ってくる。一人じゃなーんにもできないヘタレの常套手段だもんなぁ?」
カッ!
「ダメだ!!」
ドガッ!!
キレた青木が女性に殴りかかった。
それを見た雪哉が…青木の拳から女性をかばった。
ドサッ…
「ゆき、や?」
「……っつ……」
「ケッ!おい、誰だか知らねーけどよ、調子に乗って俺たちにケンカ売ってきたこと後悔させてやるよ。お前ら、やっちまえ!」
「っ!お姉さん、逃げて!」
「………」
ゴッ!!………ドサッ
女性を捕まえようと襲いかかった澤野が、仰向けに倒れた。にわかには信じがたいが、女性に顔面をぶん殴られたからである。
「……後悔?………するのはお前らだぜ?」
そう言った女性の声に、雪哉は強い恐怖を感じた。